カテゴリー「藍宇」の5件の記事

2009年10月 9日 (金)

藍色宇宙(メイキング)

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藍宇のDVDに特典として入っているメイキング。「藍色宇宙」という題名もロマンチックな響きで素敵だけど,内容がまた素晴らしい。ある意味,本編より感動ものだ。

まず最初に驚いたのが,撮影風景や作品中の印象的なシーンに被さるように,挿入される胡軍(フージュン)さんと劉燁(リウ・イエ)のコメンタリー。普通のメイキングの場合,撮影秘話や演技上の苦労や役作りの工夫など,役者本人の気持ちが語られるものだけど,このメイキングは違う。胡軍さんも劉燁も,役の中の人物になりきって,物語のその折々の場面で藍宇として,また捍東として感じたことを語っているのだ。これは嬉しかった。
Cap128
台詞の少ない本編だけでは推察しきれなかった二人の気持ちが言葉で表現されると,「ああ,あのときの藍宇はこう感じていたんだ」「捍東の気持ちはこんな風に変わっていったのか」と,主人公たちへの理解が深まり,二人への愛しさも増す。

特に劉燁が演じた藍宇の気持ちがわかると,この物語ってなんて切なさが増すんだろう!捍東と初めて出会ったとき・・・・・彼に捨てられたとき・・・・そして,偶然の再会から愛が再燃するとき・・・・それぞれのシーン,劉燁の言葉で綴られる藍宇の心の声。

特に好きなのは,藍宇の部屋で酔いつぶれた捍東を起こすシーンの藍宇の気持ち。彼の捍東への深い愛情が,たまらなく切なく心に沁みてくる。・・・しかし,このような心境がサラリと口を突いて出てくる劉燁という俳優の感性にも,空恐ろしいほどのものを感じるけれど。
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いったいこの懐かしさは何だろう。愛する人と過ごしたあの頃の感覚が戻ってくる。あの頃と同じ寝顔,僕が何年も思い続けた人だ。・・・・彼に抱きしめられた。一瞬で昔に戻ってしまった。一緒に過ごした頃に感じていた空気。声もまなざしもすべて昔のまま。だから,昔に戻るのに言葉はいらなかった。気持ちを確かめる必要もない。熱い誓いも甘い囁きも何もいらない。必要なのは心だけ。


ジョニー・キャッシュの曲「Spiritual」(歌っているのはジョシュ・ヘイデン)のシンブルで美しい調べを背景に,捍東が回想するさまざまな藍宇のシーンが連続して流れる場面に来ると,私はいつも号泣モードに心地よく突入。

それにしても胡軍さんも劉燁も,スクリーンの中では完全に捍東と藍宇として生きていたんだ,とあらためて脱帽。そうでないと絶対に出てこない迫真の泣かせるコメントばかり。
Cap168
スタンリー・クワン監督の演技指導
にも驚いた。とにかく細かいと言うか,ねちっこいと言うか。(←褒めてます) 特にラブシーンを指導するときの,監督のこだわりといったら!手の動きの順番まで細かくダメ出しする監督の指導に,比較的柔軟に対応している(ように見える)劉燁に比べると,ちょっと困惑した(ようにも見える)生真面目な表情の胡軍さんの様子がまたツボで。

カットされた二人のシーンも随所に入っていて,二人が絡むシーンは,とにかく全部観たかったのに~!と,悶々とすることしきり。
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私は本編と,このメイキングをいつもセットで観て,そして毎回メイキングの方で泣いてしまう。本編で飽和状態になった涙が,メイキングで一気に溢れる感じだ。今まで出会った作品のメイキングと言われるものの中で,最も愛してやまないメイキング・・・それが「藍色宇宙」。・・・・画質がイマイチなのだけが,唯一残念だけど。

2009年10月 3日 (土)

好きなシーン-胡軍-

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考えてみれば,胡軍さんの演じる捍東って,藍宇に比べると,人間的な欠点や弱さもちゃんと表に出ているキャラだ。捍東の言動や表情から,時折にじみ出る男の狡さやエゴ,金持ちの青年事業家ならではの傲慢さや不遜さ。

「リアルの世界には存在しないでしょ~,こんなひと。」と言いたくなるような純情キャラの藍宇に比べると,捍東は等身大のキャラだと言えるかもしれない。

Cap170
そして,そんな彼(=普通のおっさん)が,藍宇のような純朴な青年に愛されたとき,自分の意志とは関係なく,次第にどうしようもなく相手にのめりこんでゆくその過程が,これまたこの物語の大きな魅力なわけで。己のそれまでの価値観をひっくりかえされて葛藤したり,悶々としたり・・・藍宇を愛してしまった自分自身に振り回されてオタオタする捍東を,私は藍宇に負けず劣らず愛おしく感じたりするわけで。

そしてまた,うまいんだ,こんな捍東を演じた胡軍さんが。

特に物語前半の,捍東の藍宇に対する表情・・・自分勝手さと優しさが,場に応じて入れ替わり立ち替わり現れる,そんな複雑な表情の変化をうまく演じていた。

その中でも一番好きなのは・・・・
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↑やっぱりこのシーンかなぁ。

捍東の結婚が理由で二人が別れる,その日の朝のシーン。

北欧を去るというその朝,哀しみのあまり藍宇の口からは,彼には珍しく恨みごとらしき台詞がこぼれる。捍東はそんな藍宇に,「恩知らず!」と居丈高に怒って見せるが,次の瞬間には,藍宇の「ご主人様,どんな体位がお望み?」という辛辣な捨て台詞に,思わず言葉を失う。気を取り直して「病気の時は医者にかかれ」とか年上らしいアドバイスもしてみるが,藍宇の諦めと哀しみのこもった「・・・・二度と傷つく恋はしない。」という言葉の前に,黙ってその横顔を見守るしかなくなる。

この時の捍東の表情がねぇ。

捨てた方のアンタが,そんな顔することないだろう!とつっこみたくなるくらい,傷ついた顔で,藍宇の哀しい台詞を聞いているのだ。でも,だからといって藍宇を引きとめるわけでもなく・・・・。この矛盾のかたまりのような捍東の表情,けっこうツボである。あくまでも自分の都合を優先しながらも,藍宇から愛想尽かしを言われるのは傷つく・・・・その勝手さというか,愚かしさというか,捍東のそんな弱さが愛おしい。

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この別れのシーンは,劉燁にとっても一番好きなシーンだとか。「あの場面を見たら泣いてしまいそう」とインタビューで言っていた。(素直だなぁ)

それにひきかえ,胡軍さんの一番好きなシーンって・・・エンドロールのあの歌と一緒に背景がザーッと動いていくシーンだそうな・・・ええええ?ほんとにあそこが一番好きなの?胡軍さん・・・・(ちょっとびっくり)

それと,シーンとは関係ないけど,胡軍さんの筋肉が何気に好き しなやかで,セクシー。
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↑こんな感じ。

2009年9月30日 (水)

好きなシーン−劉燁−

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藍宇の映画の中でも特に好きなシーンについて
劉燁(リウ・イエ)と胡軍(フー・ジュン)さんのお二人それぞれについて,一つずつあげるとすれば・・・。(なぜか兄貴キャラの胡軍さんにだけ「さん」づけになっちゃう癖が・・・)

まず劉燁のシーンから。一番好きで,この人上手いなあとつくづく感心したのは・・・
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↑このシーン。

再会後にアパートで捍東に手料理をふるまった後,台所で洗い物をする藍宇。彼に向って,懐かしげに昔の思い出を語る捍東。

「今住んでる貸家の裏庭に花を植えた」と言う藍宇に捍東は,「今も花が好きなのか。覚えてるか?ある年の俺の誕生日に,部屋中を花で飾って,オレの花粉症を悪化させただろう?」と言う。そして,その台詞に対する藍宇の反応が,すごくデリケートなのだ。

この時の二人は,再会はしても,まだ元の恋人関係に立ち戻ってはおらず,肉体的なヨリが戻るのはこのすぐ後。捍東は自分が捨てた藍宇に対して,どこか後ろめたそうで,機嫌を取ってるような雰囲気も感じる。一方,藍宇の方には,やや身構えているような他人行儀な硬さがある。
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笑顔で思い出を話す捍東と違って,鏡に映る藍宇の顔は真顔だ。顔を上げ,捍東の顔をいっとき何か言いたげに凝視する。この時の劉燁の表情がいい。まるで古傷に不用意に触れた捍東を咎めるかのような,ちょっと微妙な表情をするのだ。

そして一拍遅れて「・・・そう?」と答え,捍東から視線をそらして,ようやくうっすらと微笑み,「そうだった・・・」と言葉を続ける。
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藍宇が昔のことをすっかり忘れてしまったのかと思った捍東は,「何もかも忘れているようだな。俺の会社の電話番号も(忘れてたし。)」とからかうが,「忘れた方がいいこともあるから。」と藍宇に返されて,ちょっと気まずそうな顔になる。

あのね,捍東。
藍宇があなたとの思い出や,
会社の電話番号を忘れるわけがない。


でも,楽しかった過去を思い出すのが辛い気持ちもあったから,忘れたふりをしたんだと思うよ。あなたを諦めるのがあまりにも辛かった藍宇は,あなたを忘れようと,思い出を封印して生きてきたのかもね・・・・と,私はこのシーンを観るたびに捍東に言いたくなる。
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この地点ではまだ藍宇を運命の相手だと自覚してなかった捍東と,捍東だけを深く愛している藍宇。これは,そんな二人の気持ちの温度差がよく表れているシーンだと思う。そしてまた,捍東に捨てられたことが,藍宇をどれほど傷つけたか,というのもよくわかるシーンだ。

鏡を使った演出も,風情があって心憎い。
それにしても劉燁!なんて深くて,それでいて自然な演技。特にこのシーンの彼は,ほんのわずかな表情や声音の変化だけで,藍宇の心情をよく表現していた。考えたり計算して演技してるのではなく,もはや藍宇が憑依しているとしか言いようがない。このシーンを観るたびに,藍宇のいじらしさに萌える・・・。
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2009年9月18日 (金)

北京故事-藍宇-

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映画藍宇(ランユー)の原作となった,中国のインターネット小説。もともとは過激な描写も満載だったらしいが,後に出版される際には「藍宇」と改題,加筆修正され,過激な描写は一部割愛されたそうで。

映画の記事にも書いたが,
原作の文章から匂い立つ藍宇の魅力は格別。

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握手した瞬間,彼が目を上げて俺を見た。その目を俺は一生忘れることができない。大きなひとみに憂鬱と不安と懐疑が満ちていた。(原作より)

初めて藍宇と会った捍東が,一目で彼を気に入る場面の描写だ。

原作は,捍東が藍宇と出会ってから死別するまでの紆余曲折の過程が,捍東の一人称で語られる。映画では大胆にすっ飛ばされていた歳月やその背景の事情も,原作には詳しく書かれていて,特に捍東の藍宇への心情の変化は丁寧に綴られている。

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純粋で,繊細,そして同時に
誇り高く,頑固なところもある藍宇。


彼の愛し方は,脇目もふらずに全身全霊を注ぐ愛しかた。まるで生まれて初めてひとを愛したかのように。(いや,ほんとにこれが正真正銘の初恋だったんだよな・・・)その,あまりにもまっすぐな一途さと真摯さに,ブレイボーイの捍東は,たじろいだり,驚いたり・・・・。

藍宇の情は限りなく細やかで深い。 

そのうえ彼は,そんなにも一途なたちであるにもかかわらず,必要とあらば自分の中にじっと思いを秘めることもできるのだ。伝えることで相手の負担になると判断したとき,また,あまりにも大切な思いなので,他の誰とも共有したくないと願うとき,そんなとき藍宇は,痛みや哀しみや恋慕の情を,自分の奥深くに抱え込む。

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幸せだった家庭が少年時代に崩壊し,苦労してきた藍宇は,辛い運命でもじっと受け止めてやり過ごす強さも持っている。捍東の妻の卑劣な中傷が原因で,職場を追われる羽目になったとき,藍宇が後に振り返って言う台詞が印象的だった。

「大丈夫。ものごとって,そのときはすごくこわくても,歯をくいしばっているうちに時間は過ぎるんだ。」依然としてテレビを見ながら彼は静かに言った。「本当言うと,別れた時の絶望に比べればたいしたことなかった。」 (原作より)


藍宇はどんなときも,
自分というものを決して失わない。


捍東との関係も自分のセクシャリティも,罪悪感は持っていても,決して恥じず,後悔もしなかった。捍東との関係のスタートに金が介在したことには,わだかまりがあり,彼の経済力に頼りたがらなかった。捍東を愛しながらも,あくまでも自立した存在を貫こうとする藍宇の生き方は,時には捍東をいらだたせる。
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捍東にとっては,遊びのつもりで始めたはずの情事なのに,いつしかどっぶりと本気になり,時には驚くほど予想に反した愛し方を返してくる藍宇に,気がつけば捍東の方が振り回され,どうしようもなく恋焦がれている始末。

だから,言葉では決して「愛してる」と言わない藍宇とは対照的に,捍東の方は,(行いは時には薄情だが)愛の言葉をまるで確かめるように,何度も激しく藍宇にぶつける。

愛ゆえに繰り返される,小さないさかいの数々や,捍東の結婚による別離と再会,捍東の逮捕と服役,藍宇のあの「献身」と釈放,二度目の同棲・・・・。
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様々な経緯を経た彼らの絆が,もはや揺るぎのないものとなった頃,捍東はようやく,藍宇こそが運命の相手だという確信に辿り着く。

彼は俺の腕の中で眠っていた。深い眠り。俺は自分の人生を思い,事業のことを思い,母を思い,獄中の日々を思った。そして自らに誓った。藍宇がこうした暮らしに飽きない限り,俺はずっとそのそばにいると。(原作より)

 
その先に待ち構えていた悲劇は,この手の物語では,お約束の匂いもして,やはり,片方が唐突に旅立ってしまうブロークバックマウンテンや,トーチソング・トリロジーを思い浮かべてしまうが……。
Cap289
藍宇。・・・・漢字から受けるイメージも,
ランユーという音の響きも,どちらもなんと美しいことか。

愛する能力にかけては,
おそらく天賦のものを授かっていた藍宇。


その魅力を文章で堪能できるのが原作だと思う。

読み返す度に,捍東と同じ目線でひたすら藍宇を追いかけ,彼のデリケートでミステリアスな内面の魅力に溺れていく自分がいる。これほどいじらしく,愛おしく思えるキャラは,これまでに読んだ,どんな小説にも存在しなかった。(←「耐える」キャラに萌えるわたくし)
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最後に,原作の中で特に好きな文をいくつか。

藍宇は過去を語らない。未来は,なおさら語らない・・・・。彼は未来を信じていなかった。そして,俺たちは今このときが幸福だった。

彼の笑顔。彼の話。俺はなんとも言いようのない気持ちだった。彼はちっとも俺を信用していない。それなのに,こうと決めたら,もう後ろを振り向くことなく俺とともにいる・・・・。
(どちらも原作より)
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映画のファンの方は,ぜひ原作も機会があれば読んでみてほしい。(ただし,男性同士の過激な性描写は苦手,と言う方にはお勧めしないが。)
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2008年9月21日 (日)

藍宇(ラン・ユー)情熱の嵐

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この愛は,神様にも裁けない・・・・。

ひょんなことからサイトでその存在を知り,DVDを注文し,観る前から恋い焦がれていたこの作品。2001年に製作され,台湾で数々の賞を受賞した,香港映画史上に残る愛の物語だ。日本で公開されたときの題は「情熱の嵐」だが,原題は主人公の恋人の名前である「藍宇(ラン・ユー)」。原作はインターネット小説「北京故事」

これは,激しくも美しい,男同士の10年に渡るラブストーリーだ。その点では,ブロークバックマウンテンの切なさと同じものを感じる物語と言えるかもしれない。
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捍東(ハントン)と藍宇(ランユー)とのなれそめは,金が介在した肉体関係。捍東はバイセクシャルの青年実業家。藍宇は女の子とキスすらしたことのない,田舎出身の純朴な苦学生。二人の間には10歳ほどの年齢の開きがある。・・・・・一夜限りになるはずだったのに,二人は,4ヶ月後の街中での再会をきっかけに,関係を続けることになる。
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原題にもなっている「藍宇」のいじらしさや,情の深さに泣けた。彼は、初めての性の相手である捍東を,心から愛してしまう。

「縁あってこういうことになったが,一生続くものではない。互いのことを知りすぎて飽きた時に別れる。」と最初に釘をさす捍東に,藍宇は不安そうにおずおずと,「もう・・知りすぎた?」と尋ねる。
その一途でピュアな想いのこもったまなざしは,時には狂おしく,また時にはやるせなく,まるで従順な子犬のように捍東を見つめる。

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彼らの10年は,紆余曲折を経たものだった。
些細ないさかいを繰り返しながらも,その都度,新たな絆で結び直されるかのように,二人の心は互いから,離れることができなかった。

そう,バイである捍東が,世間体と,「子孫を残す」ためもあって,女性との結婚を決意し,一度は藍宇を無情にも捨てた時も。・・・・数年後に再び彼らは,互いのふところに戻っていた。「どうしてお前を手放したんだろう・・・」という,捍東の懺悔にも似たつぶやきとともに。最初は,遊びと割り切っていた捍東の心は,次第に藍宇の虜になってゆく。
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ひたむきな藍宇,無理を言わない藍宇。
従順なようでいて,芯に強いものを秘めている藍宇。

劇中の,藍宇のセリフにまた泣かされた。結婚する捍東と別れる場面で,彼が泣きながら言う「別れは覚悟してたから,気をつけてた。愛しすぎないようにと。そうすれば,最後の傷も浅い。」という台詞や,ラストの悲劇が彼に降りかかる直前に,背後から抱きしめる捍東に向かって「変なのかな,こんなに好きだなんて。」とつぶやく台詞。
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捍東を演じたフー・ジュンと,藍宇を演じたリウ・イエ。実際はもちろんノンケである二人の俳優の演技は,大胆かつ繊細

台詞が少なく,時間経過の説明なしに唐突に場面が切り替わる
,という不親切ともいえるストーリー展開にもかかわらず,二人の俳優の細やかな表情(特にその視線)の演技は,全編に一貫して流れる激しい純愛,観る側にひしひしと伝えてくれる。

やや傲慢で,自信たっぷりの捍東を演じたフー・ジュンが,時折見せる藍宇への包み込むような優しげな表情。最初から最後まで,どこかあか抜けない雰囲気がかえってたまらなく愛おしく思えるリウ・イエ。
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フー・ジュンは理詰めで,リウ・イエは直感で役作りをするタイプらしいが,二人とも苦労は多々あったと思う。ゲイであるスタンリー・クワン監督は,彼ら二人に,役同様に相手を心底愛するように,と要求し,彼の妥協を許さない演技指導のもと,まさに「役になりきった」二人の俳優(演劇学院の先輩と後輩らしい)は,クランクアップ後も,周囲が心配するほどなかなか役から抜け出せず,そのため,半年以上もお互いに会わないようにしたそうだ。

原作の日本語版「藍宇」も取り寄せて読んだ。原作には,藍宇の得難い魅力が,映画以上に詳しく描かれていた。

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彼が薄幸な生い立ちだったこと。その善良さ,聡明さ,柔軟さ,そして奥ゆかしさ。けっして捍東の財力に寄り掛かろうとしない,頑ななまでの意志の強さや,「もう後戻りできない」という,秘めた思いの深さなど。こんなに深くて,無償の愛し方ができる人間がほんとうにいるのだろうか?と,その愛の純粋さに,ただただ心を打たれた。

そしてまた,原作には「映画には描かれてなかったこと」がたくさんあった。
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この物語の頃の中国では,同性愛は犯罪だったこと。捍東は,無垢な藍宇を堕落させた,と後ろめたく思っていたこと。捍東の母親が,二人の関係を知って藍宇を激しく非難し,捍東の妻は,藍宇にこっそりひどい仕打ちをしたこと。バイである捍東は,自分を同性愛者だとは認めてなかったけれど,藍宇を心から愛するようになって,意識が変わってきたこと・・・・・。

これもまた,哀しいソウルメイトの物語のひとつ。・・・そう思う。性別が同じであっても,出会いがどのような形であっても,運命の絆は断ち切れるものではない。それなのに。ようやく「藍宇,お前は,運命の相手だ」と悟った捍東のもとからあまりにも唐突に旅立ってしまう藍宇・・・・。深い慟哭の果てに,捍東は,藍宇の面影を抱いて生きていく。

原作のラスト,捍東が神に祈ることばが好きだ。長いけれど引用したい。
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「・・・彼を天国に受け入れてください。彼はこの世にいたとき,誰ひとりとして人を傷つけたことがありません。あんなに善良で,正直な人間でした。唯一,彼がすべきでなかったことは,愛してはならない者を愛したということです。この世にいたとき,世間から野蛮で恥知らずで堕落した愛情だとみられていました。でも,その気持ちは純潔で,無辜で,永遠でした。もう一つ,お願いです。必ず聞き届けてください。あなたが彼をどこへ送り込んでも,私がこの世を離れる時には,どうか彼と一緒にしてください。彼が天国にいるなら,私たちに心ゆくまでそこで楽しませてください。天国で私たちは,この世の恋愛を語り合いたい。そうして私に,借りを返させてください。
もし彼が地獄にいるなら,私もそこへ送ってください。彼の近くに,彼の後ろに立って,両手でしっかり肩を抱き,背中に寄り添います。共に地獄の責苦と業火を受けさせてください。私は恨みません。後悔しません。」           
(『北京故事・藍宇』 講談社 より引用)


DVDに収録されているメイキング「藍色宇宙」も必見だ。本編では語られなかった,二人の切ない心情の独白や,カットされた貴重な映像が詰まっていて,それだけでひとつの短編映画のよう。「
僕の心はどんどんあなたで一杯になる」という藍宇のセリフと「お前が好きだ。不思議なほどに」という捍東のセリフ・・・・。しあわせそうに微笑みを交わす,恋人達のシーン・・・・。「いつまでもいっしょに生きてほしい」と,願わずにはいられなかったのに。
このメイキングだけでまた泣けた。

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↑おまけ画像
  プライベートでも仲良しの二人?
・・・・でも胡軍さん,緊張してません?( ̄▽ ̄)

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