カテゴリー「映画 ら行」の46件の記事

2023年8月22日 (火)

リボルバー・リリー

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素晴らしく気に入って二度も劇場で鑑賞。ストーリー、映像、俳優、音楽、アクションどれもがハイレベルで、邦画やるじゃん、と嬉しくなった。

時は大正時代。関東大震災後の復興中の東京を舞台に、凄腕諜報員として訓練された女性と、家族を惨殺され陸軍に追われる少年がともに繰り広げる逃避行と謎解きの道中。強い大人と子供の取り合わせという点では、かつての名作洋画のグロリアレオンと似た設定で、二人の心の交流や絆が深まっていく様と息つく間もない過激なアクション、そして国家規模の壮大な陰謀などなど、すべてがぞくぞくする面白さで見どころ満載だ。

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大正時代のファッションって、男性も女性もとてもきれいでカッコいい。女性は洋装も和装も素敵だし、綾瀬はるかの演じる百合は戦闘シーンでも一部の隙もないモダンガールのファッションをキメている。彼女だけでなく登場する女性たちはみんな強くて美しい。

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男性もスーツにハットでとてもダンディ。長谷川博己さんは特にスタイルがいいのでキマること、キマること。綾瀬はるかさんの身体能力の高さ、羽村仁成くんの繊細な表情の演技力も必見だ。邦画のアクションものとしては本当によくできているのでお勧めです。

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2023年3月26日 (日)

ロストケア

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今日、劇場で鑑賞。原作は読了済。

これは「救い」なのか、それとも「殺人」なのか。

ワンオペで働きながら90歳前後の両親二人を自宅で介護してきた身としては、松山ケンイチ演じる斯波にやはり共感してしまった。殺人には違いないし、裁かれなくてはいけない。しかし、地獄の中にいる介護者と被介護者にとってはやはり紛れもなく「救い」ともなったのは事実だと思った。

この社会には介護地獄という穴が空いていて、安全地帯にいる者たちはそれが見えなかったり見ようとしなかったりしている・・・。落ちた者にしかわからない絶望と孤独と苦しみがそこにはある。介護体験者だからわかるけれど、何が辛いって介護は終わりが見えないことだ。そして終わりというのはすなわち親の死を意味し、それをいつの間にか「待つ」自分に罪悪感を覚えたり、目の前でどんどん弱っていき変貌していく親の姿を見るのもまた辛い。心身ともにすり減っていき、共倒れになる。

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松山ケンイチさんの目の演技が凄かった。取り調べの時、時々ふっとその目に狂気が宿ったように見える瞬間があり、そんな彼は「殺人者」に見えたけれど、同じその目に涙と共に言いようのないくらいの悲しみや煩悶が宿った時の彼は「救世主」にも見えた。あれほどの壮絶な介護地獄を通り、最愛の父親を手にかけるしかなかった彼だからこそ許される行為なのでは、とさえ感じた。もちろん他者の命を奪う権利を持った人間などいないと頭の中ではよく承知していても。

それに比べると長澤まさみ演じる大友検事の正論には苛立ちを覚えたが、よく考えてみれば彼女は「安全地帯にいる世間一般や社会の代弁者」なのだから、介護体験のある私は「何も知らないくせに」としか思えなかったのかもしれない。介護地獄を終わらせるのは被介護者の死によるしかない。そして最後まで持ちこたえられるならいいけれど、介護者の方がその人生を崩壊させてしまうまで終わらないことも多いのだから。

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我が家は、この春ようやく両親を施設に入所させることが決まった。骨折を繰り返す母とパーキンソン病の父を長く一人で看てきたが、父が脳梗塞で半身不随になり、いよいよもう限界がきたからだ。仕事以外の時間をすべて介護にあて、二人分の通院や買い物の付き添いをこなし、何度も救急車を呼び・・・そんな日々はいくら親を愛していても、心と体が勝手に疲弊していく毎日だったと思う。親との別れは切ないし、これからも全力で看ようと思うけれど、施設に入所後はぐっと楽になるし、親の死に関しては、悲しみだけではなく明らかに「安堵」も感じるだろうと思う。それだけ、介護は辛いものだから。人生の終わりに、親子が苦しみを与えあうなんて、そんな悲しいことが起きちゃいけないはずなのに。

斯波の介護地獄の最中での親子シーンは壮絶だった。誰一人助けてくれない深い穴の底の、柄本明の名演技に泣かされた。脳梗塞の父親と重なった。介護地獄の穴はふさがるどころか、これからも大きく深くなっていく可能性があることにも戦慄する。世の政治家よ、全員この映画を観て、そして現実を直視してほしい。

2023年1月31日 (火)

ラーゲリより愛を込めて

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映画館で鑑賞。いつも新作は何の予備知識も入れずに観に行く。この作品もそうしたのだけど、なんと中盤から後半にかけて、慌ててバッグからハンカチを引っ張り出すはめに。涙腺が固いのか、滅多に泣かない私が、十数年ぶりに映画で泣いた。・・・・いや、これもう反則だろ。絶対泣くよこのシーン、と心でつぶやいたのはもちろん、山本さんの遺書を家族の前で涙ながらそらんじる仲間たちのシーンだ。特に、母を喪った無念さと悲しみを抱えた松田(松坂桃李)が、自分の母と山本さんの母(市毛良枝)を重ね合わせて涙する場面は心の中で号泣した。実話なんですね、これ。
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↑ 山本幡男さんご本人

終戦後にソ連に抑留された人たちのこんなにも長い理不尽な苦しみ。
希望を捨てずに待ち続ける家族の想い。
絶望と怒りと苦難しかない収容所生活の中で
山本さんが仲間たちに与え続けた希望と生きる力。

まさに暗闇の中に灯を灯し続けた山本幡男さん。なぜ彼にそんなことができたのか、たとえばナチの収容所でも同じように愛と希望を説き、しまいには自分の命までも仲間に与えた人物としてコルベ神父が有名だけど、山本さんは宗教による希望や博愛精神を持っていたわけではなかった。彼を支え、仲間たちに生きる意欲をもたらしたものは、彼の思想や人柄や深い教養から来たものであり、映画にはくわしく描かれてなかったけれど、彼は自暴自棄になりがちな仲間たちのために、「故国を忘れないように」と日本語の素晴らしさを伝える句会や文芸誌発行を収容所内で行ったという。

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山本さん以外で主要な役割を占める4人の捕虜たち。松田研三(松坂桃李)、相沢光男(桐谷健太)、原幸彦(安田顕)、新谷健雄(中島健人)は皆、実は映画オリジナルのキャラクターだという。しかし全くのフィクションかというとそうではなく、多くの捕虜たちのさまざまなエピソードの集合体としてこの4人は存在するのだそうだ。祖国に老いた母を残してきた者や身重の妻を残してきた者。捕虜になる前は上官だったものや一兵卒だった者。それどころか兵士ですらなかった不運な者など、実際に様々な事情やトラウマを抱えた捕虜たちがいたことだろう。

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今年は日本でも大寒波の冬。零下数度でも寒くてたまらないと感じるのに、酷寒のソ連での収容所生活は暖房どころか窓ガラスすら破れた小屋での生活で、多くの捕虜が寒さと飢えで命を落としたことだろう。いつ帰れるか…果たして本当に帰れるのか・・・それまで生きることができるのか。帰国の望みが絶たれるたびに、彼らの心は絶望の中に沈んでいったに違いない。そんな中で山本さんが仲間たちに与え続けた優しさと希望への不屈の精神。「心の中の想いや記憶は奪えない。」という信念は、のちに山本さんの遺書を仲間たちが遺族に届ける手段として、まさに発揮されることになる。

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終息の見込めない疫病と蔓延る犯罪。深刻化する貧困。重税。年々ひどくなる災害。今の日本はどんどん暗くなっていくばかりに感じられ、未来に希望が見えないと感じる理由が多いけれど、この映画を観て少し心が晴れた。どんな境遇に置かれたとしても、人は心の持ちようや信念で、こんなにも強く優しくなれるんだと知ることができたから。

仲間を励まし続けた山本さんは家族のもとへ帰ることができなくて、どんなに無念だったかと思うけど、彼の勇気や愛が没後70年もの歳月を経て映画となり、現代の私たちのもとに届いたことに感謝したい。

2022年6月19日 (日)

流浪の月

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女児誘拐事件。
その真実は二人だけのもの。

こんな愛の形があるなんて・・・。
観終わった後、切ない余韻に満たされた。

家内更紗伯母の家での性的虐待を誰にも話せない孤児の少女。
佐伯文。異性を愛せない身体的な欠陥を抱えて生きてきた孤独な大学生。
この二人が出会い、一緒に過ごす日々そのものが、互いの癒しとなり救いとなる。家族でも友人でもなく恋人でもない、男女を超えた絆がそこに生まれる。それはある意味、ソウルメイトともいえる絆かもしれない。それでも世間の目に映る二人は、ロリコン誘拐犯と被害女児でしかなく、刻まれたデジタルタトゥーは消えることはない。事件後、別々の人生を送っていた二人が再会し、世間の無理解や攻撃にさらされながらも、「それでも一緒にいる。離れない。」と決断するまでの物語だ。そして、二人がこれから対峙する世界は、決して平坦な道ではなく、世間の冷たさから逃げ続けるものとなるかもしれない・・・そんな覚悟の中にも、互いが「やっと居場所を見つけた」というささやかな幸せを感じるラストが、なんとも切ない作品だった。
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松坂桃李さんは原作でイメージしていた文(ふみ)そのもの。過酷な減量で痛ましいほど痩せた身体からは、まるで植物のような中性的な静謐さがただよう。寡黙で悲しげで、時にじっと相手に注がれる漆黒の瞳から、彼の抱えてきた秘密の重さとやるせなさがにじみ出る。彼は、ほんのわずかな声音やまなざしの変化だけで演技できる素晴らしい俳優さんだと感嘆した。

あまりにも辛いことは誰にも言えない。理解や慰めを得る前に、そんな秘密や悩みがある自分そのものを人に悟られたくないからだ。文の身体の秘密と養家で更紗の受けた性暴力は、どちらもそれほど深い闇だった。他人には言えない傷を抱えた二人だからこそ、その愛は、家族愛とも異性愛とも違う唯一無二のものだったのかもしれない。
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明るい役も暗い役もとても上手にこなす広瀬すずさん。可愛らしさと美しさ、どちらも兼ね備えた彼女だけど、DVを受け続けながらも、明るさと芯の強さを内に秘めて、自分の道を選び取っていく更紗をこのうえなく見事に演じていた。

 

 

2017年10月16日 (月)

LION/ライオン ~25年目のただいま~

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DVDで観賞。今年のアカデミー賞で、作品賞を含む6部門にノミネートされた作品。
25年間迷子だった男が、Google Earthを使って故郷を見つけたという驚きの実話を映画化した感動作品。その昔、ティモシー・ハットン主演の、ロングウェイホームという、生き別れた弟と妹を探す兄描いた映画をちょっと思い出したが、「ライオン~」の物語の方がよりアメイジングで、あり得ない実話かもしれない。
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なにしろ、主人公は、故郷の町の名前すらあやふやな5歳のときの記憶だけを頼りに、Google Earthからの風景を根気強く検索し続けて、遠く海を隔てた異国から生家にたどり着いたのだから。

インドの貧しい農村に生まれたサルー

5歳の時、兄グドゥの夜の仕事についていった彼は、兄の帰りを待つうちに間違って乗った回送列車の中で眠ってしまい、目覚めると1600キロも離れた都市コルカタに運ばれてしまっていた・・・・。そこでは故郷の言葉は通じず、駅で住んでいる町の名前「ガネストレイ」を伝えてみても、誰も反応もしてくれない。途方に暮れたサルーは、やむなく路上生活へ。
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人買いから、からくも逃げ出すという試練も体験しながら、保護されて劣悪な環境の孤児院へ。そこで彼は幸運にも慈善団体の世話で、オーストラリアの里親ブライアリー夫妻の家庭へと貰われていく。夫妻はまるで我が子に対するようにサルーに愛情を注ぐ。

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養父母のもとで幸せに暮らし、ホテルマンを目指して勉強に励むサルー。しかし、幼いころ兄にねだった「揚げ菓子」の記憶が蘇ったことから、彼は自分が25年間迷子だったことを思い出す。本当の家族を探したいという思いに突き動かされるサルー。兄とはぐれた駅はどこだったのか。記憶にある故郷の町「ガネストレイ」ははたして実在しているのか?

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サルーは当時の回送列車の速度と運行時間を手掛かりに、コルカタから自分が列車に乗った駅までの距離を割り出し、駅の近くには大きな給水塔があったという記憶だけを頼りに、該当する距離の駅をしらみつぶしにGoogle Earthでチェックしていく。養父母、特に養母に対する気遣いや葛藤などもあり、何度も諦めかけながら、ついにサルーは故郷の町の名を見つけ出すのだ。

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故郷へ向かう道すがら、フラッシュバックする思い出の数々。母や兄の笑顔や懐かしい風景。クライマックスのサルーの帰郷シーンは、まさに感無量としか言いようがなかった。老いた母カムラがずっと希望を捨てずに待っていたことも。なんていいお話!文句のつけようがないほど素直に感動が押し寄せてくる。兄のグドゥがもうこの世にいなかったことだけが残念だけど。

いや、この作品から感じるものは、再会を果たした家族に対する感動だけではない。光の陰には必ず闇が存在するように、治安の不安定な国で、迷子や行方不明になる子供の多さや、ストリートチルドレンの苛酷な現状も知ることができる作品である。そして、それを助けたいと願って実際に行動している里親の存在なども。
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サルーにとって第二の母となった養母のスー・ブライアリーを、ニコール・キッドマンが好演している。スー本人のヘアスタイルやファッションに似せていても、やはり美しいキッドマンだけど、さすがオスカー女優だけあって、内面的な演技も光る。恋人役にはルーニー・マーラ。そしてサルー役はスラムドッグ$ミリオネアデヴ・パテル

なんで作品の題が「ライオン」なんだろうとずっと思っていたら、エンドロールでその謎がとけてまた少し感動した。

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々な事情で生き別れになっている親子や兄弟・・・・
この広い地球の上で、いったいどれだけの家族が、涙と祈りの中で、今も再会の日を待ち続けているのだろうか。どうか一人でも多く、このような奇跡が起こりますように。そしてなにより、愛する家族から引き離されるような悲しい出来事そのものが、この地球上から少しでも減りますように・・・・・。そんなことを切に願ってやまない。

2017年2月 3日 (金)

ロスト・バケーション

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世間でやたら高評価だったのでDVDで鑑賞した。まさに掘り出し物とはこの作品!ジョーズ以来のサメ映画の傑作が誕生したという宣伝に偽りなし!だった。

サーフィン中に負傷し満潮時には海に沈む岩場に取り残されたヒロインが、危険な人食いサメに狙われるパニックサスペンス。サメの恐怖や、時間とともに上昇する海面という悪夢のような状況で繰り広げられる決死のサバイバルを、『ラン・オールナイト』などのジャウマ・コレット=セラ監督が緊張感たっぷりに活写する。周りに誰もいない海で絶体絶命の窮地に陥ったヒロインを、ファッションアイコンとしても注目を浴びているブレイク・ライヴリーが熱演。 (シネマトゥディ)

時間は90分未満というコンパクトな作品。そしてヒロイン以外の登場人物も必要最小限,サメも一体だけ・・・・なのに内容はなかなか濃くて無駄がない。恐怖もスリルほんの少しの人間ドラマもほどよい具合に盛り込まれている。
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この作品のユニークなところは,人食いザメVS美女という点かも。人に知られていない「秘密のビーチ」,連れの友達のドタキャン,などの出来事が重なって,ヒロインは夕暮れ近く一人残った海でサメに遭遇する。

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岸はすぐそこ。なのに,ヒロインは。サメがまわりを旋回している岩礁から動くことができない。そしてその岩礁も,満潮時には沈んでしまうという恐怖のタイムリミットつき!おまけにヒロインはサメに足を噛まれて負傷していて,体力も刻々と落ちてきている。そのうえ無残にもサメの餌食になる人間を3人も目の当たりにするし・・・・。

はたしてヒロインはサバイバルできるのか?
おそらく最後は生き延びるのだろうと予想していても,ハラハラドキドキは止まらない。サメも全容をなかなか見せなかったりして,「いつ現れるかわからない」という恐怖心を煽るのがこれまた上手いのだ。
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ヒロインが体力・知力・運動能力ともに,人並みより優れていた女性だったこと,特に彼女が医学生で,怪我の応急処置のスキルを身につけていたことが,生き延びるための重要なポイントになっている。

メンタルの点でも,母を病気から救えなかった傷心を抱えていた彼女が,サメからのサバイバル体験によって,「闘って生き抜く」強さを取り戻す・・・というところがさりげなく描かれていて前向きになれる。サメなんかに遭遇する機会はまずなさそうだけど,サメ以外でもこれからはどんな災難に巻き込まれるかわからない世の中・・・・・「最後まで諦めるな!」というメッセージはどんなものでもありがたい。
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ヒロインを演じたブレイク・ライヴリーは,収録中は一日最大12時間もスタジオ内の水槽で過ごしたこともあったとか。サーフィン以外はほぼ全編スタント無しで演じたという彼女の運動能力と見事な肢体。もちろんジムでのワークアウトもしていたそうだけど,苛酷な長時間の撮影そのものが何より効果的なワークアウトになったそうだ。
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あと,印象に残る脇役が,羽を怪我してヒロインと一緒に岩礁に滞在するこのカモメ。ヒロインと心が通じ合うようにも思える仕草がなんとも可愛らしい。CGではなく実写のカモメだそうで。カモメの表情ってそんなにじっくりと見る機会はないけれど,なかなかかわいいもんだな~と思った。

面白すぎて,連続して2回もDVD観てしまった。

これ,昨年内に観ていたら,2016年のベスト10に入れてたかもな~~。   

2016年10月29日 (土)

ルーム

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はじめまして、【世界】

歳の男の子、ジャックはママと一緒に「部屋」で暮らしていた。体操をして、TVを見て、ケーキを焼いて、楽しい時間が過ぎていく。しかしこの扉のない「部屋」が、ふたりの全世界だった。 ジャックが5歳になったとき、ママは何も知らないジャックに打ち明ける。「ママの名前はジョイ、この「部屋」の外には本当の世界があるの」と。(ウィキペディアより引用)

第88回アカデミー賞主演女優賞のほか,たくさんの賞を受賞した本作。
ほっこりするキャッチコピーや,DVDジャケットの写真とは裏腹に,この物語のモデルとなった実際の監禁事件(フリッツル事件)そのものは,すごく恐ろしく残酷である。

フリッツル事件の被害者の女性は,実の父親によって,何と24年間も実家の地下室に監禁され,彼女が性的虐待によって生んだ父親との子供は,流産した子も含めると7人にも!及んだというから凄まじい。
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こんなにも酷い事件がモデルになって書かれた物語の映画化なのに,なぜこんなにハートフルな感動を呼んだのか・・・・それは,これが,被害者である母親の視点ではなく息子のジャックの幼い目を通して捉えられた物語であるからかもしれない。

生まれた時から彼の世界は「ルーム」がすべて。

友達はいないけど家具やおもちゃに語りかけ,大好きなママと過ごす時間。ママはいつも明るくいろんな遊びや勉強も教えてくれて,ジャックは寂しさや不自由さは感じずに来た。TVの中で繰り広げられる出来事は,全部ホンモノではないと思ってきた。だから今の状況にも不満やストレスは感じていない。

こんな悲惨な状況でも,いや,悲惨な状況だからこそ,息子の心だけは,誕生以来ずっと守り続けたママ,ジョイの愛情の深さがまず凄い。
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物語の前半は,ルームからの決死の覚悟の脱出劇が山場になっている。

外の世界の存在を実感したことのないジャックが,ママの言うことに忠実に従って命がけの脱出を試みる・・・その健気さに胸があつくなりつつも,上手くいくのかどうかドキドキハラハラ・・・・そしてなんといっても,ジャックを演じた天才子役のジェイコブ・トレンブリー君の,あの瞳の演技!初めて自分の目で,外界を見た時の,無垢な驚きの表情が素晴らしい。
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ジャックがまず警察に保護され,続いて「ルーム」が発見され,ママの救出。そこで涙ながらに抱き合う母子・・・・めでたしめでたし・・・で普通は終わるところだけど,この物語はそこで終わらない。もとの「世界」へ戻れたママと,初めて「世界」を体験するジャック。それは二人にとって新たな試練の始まりでもあったのだ。

ジャックの生物学的な意味での父親が,ジョイを拉致監禁した犯人であるという事実。「親とは子供に愛情を注ぐ存在」だという理由で「ジャックの親は私だけ」とインタビューで言いきるジョイ。でも,ジャックが生まれたいきさつは,彼がこれから成長していく過程で,乗り越えなくてはならない大きな障害になるということは誰もが思っていることで・・・実際に,行方不明だった娘の生還を喜びつつも,ジョイの父親(ウィリアム・H・メイシー)は,犯人の子でもあるジャックを孫として受け入れることができなかった。やはり父親としては無理もないのだろうか。
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その点,やはり母親は違うというか,ジャックのばあば(ジョアン・アレン)は,娘のジョイも孫のジャックのことも自然に受け入れることができる。いろいろな思いはあったにしても。ばあばの今の恋人(夫?)のさりげない優しさも救いとなって,自殺未遂までしたジョイの心もゆっくりと再生へと向かっていく・・・・。

ラスト近く,ジャックとママが,監禁されていた「ルーム」を訪ねる場面が印象的だった。ジョイにとっては地獄のような思い出もあっただろうこの部屋。でもジャックにとっては,生まれ育った懐かしい場所。かつて自分の全世界だった空間。ジャックは「さようなら」と思い出の家具の一つ一つに別れを告げる。まるで幼友達に話しかけるように。半ばパニック状態でここを脱出したあの日には,ゆっくりと告げることのできなかった別れの言葉を。

ジャックの「世界」での生活はやっと軌道に乗り始めたばかり。

この先には,楽しいことと同じくらい,生い立ちゆえの辛いことや理不尽な試練が待っているに違いない。でもママと一緒に乗り越えていってほしい。100万回のエールを贈りたい・・・と思った。

2016年10月22日 (土)

リリーのすべて

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劇場で観たかったのだけど,叶わず,DVD鑑賞となった本作。いろいろと見所はたくさん。
まず,実話であるということ。モデルは,世界初の性転換手術を受けたデンマークの画家エイナル・モーゲンス・ヴェゲネル 。ウィキで調べると,偏見に支配されていた1930年代に,妻のゲルダが夫の性別移行を支援したのは事実らしい。また,実際のリリーは手術後わずか3か月後に拒絶反応による死を迎えている。

その他にも主演のエディ・レッドメインの女装した演技にびっくり!
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優美なドレスをまとって,はにかみながら微笑む彼の表情は,まさに女性そのもの。鑑賞中は「でも,この人(エディ・レッドメイン)はもともと線が細くて,こんな女性っぽい雰囲気の男性だったよな。」という思いもよぎったのだけど,特典映像のインタビューで,普通の男性の服装でしゃべっている彼を見たら,やっぱり役を離れた本人はどうみても男性だった。(あたりまえか)

これね~,オンナの服着て化粧すればみんな女性に見えるというもんでもないと思うの。服装だけでなく,しぐさや表情が女に見えるというのが凄い。そういえば同じ感動をプルートで朝食をキリアン・マーフィーにも感じたっけ。あの作品の中の彼も,女性にしか見えなかったものね。
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愛する夫が,もしくは恋人が自分と同じ性になりたいという願いをもったらどうするか・・・・。これは,グザヴィエ・ドラン監督の名作わたしはロランス」でも描かれていたテーマで,だれしも混乱と苦悩を体験するはず。相手はもう引き返すことのできないところまで行ってしまっていて,受け入れるか別れるかどちらかの選択しかない・・・・。

相手が同性になっても愛せるというのは,本当に相手の存在そのものを愛しているのだろうと思う。性別を超えた愛?愛するがゆえに,相手がより自分らしく生きることを願う?
でも異性としてもう愛してもらえないことへの寂しさや鬱憤もまたかなりのものだと思う。想像するしかないけど…大抵の人ならやっぱりお別れしちゃうだろうなあ。
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ヒロインのゲルダも,やはり寂しさのあまり,「アイナー(男性だったころの夫の名)に会いたい。」と訴える場面もあるが,夫からは無残にも「無理・・・」と言われてしまう。まあ,そりゃ正直なところそのとおりかもしれないけど,残酷だ。普通ならそこで愛想が尽きて別れるところだろうが,ゲルダは夫を見捨てず,支え続ける。

強い女性だと思う。中盤からは,彼女の愛と献身ぶりは妻というより母のそれに近かったようにも思えた。相手のすべてをありのままに受け入れ,どこまでも見捨てないところなんかが。

主人公は・・・・リリーかもしれないけど,これはむしろ「ゲルダの物語」でもあるんだろうね。

2015年8月31日 (月)

リスボンに誘われて

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ページをめくるたび,人生が色鮮やかに輝いていく・・・・

パスカル・メルシエのベストセラー「リスボンへの夜行列車」を,ジェレミー・アイアンズ主演,ビレ・アウグスト監督により映画化した作品。他にもメラニー・ロラン、シャーロット・ランプリング,ブルーノ・ガンツ、クリストファー・リーら豪華キャストが出演。DVDで鑑賞。

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妻と別れて以来,単調な一人暮らしを送っていたスイスの大学教授ライムント・グレゴリウス(アイアンズ)。彼は,ある雨の日の朝,通勤途上で橋の上から身を投げようとした若い女性を助けるが,彼女の持っていた一冊のポルトガルの古書に魅了される。その中には,彼自身の心境を代弁するかのような言葉が綴られていた。「人生の一部しか生き得ないなら,残りはどうなるのだ?」・・・・・。心を掴まれたライムントは,著者であるアマデウ・デ・プラドについて知るため,衝動的にポルトガルのリスボンへの夜行列車に飛び乗るのだが・・・・。
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身投げを図った女性が持っていたリスボン行きの夜行列車の切符。心を激しく揺さぶられた本との出会いと謎の筆者への興味に惹かれて・・・とはいえ,そんな唐突で思い切った衝動的な行動がよく取れたな~と,まずそこに感心した。仕事とか,家族とかいろんなしがらみを考えたら,無計画に身一つで外国に旅立つなんてこと,行動的な人間でもなかなかできるものではない。ましてやライムントは行動的で衝動的なキャラクターとは正反対にしか見えなかったから。逆に言えば,彼にとって,それほど運命の出会いだったのか。その本とは。
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舞台はベルンから,陽光あふれるリスボンへ。

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ライムントが巡るリスボンの,石畳の坂道や,18世紀のリスボン地震後に復興された,整然とした石造りの町並みが美しい。

彼は著者のアマデウの家を訪ね,彼の妹である老婦人と出会う。アマデウがすでに故人になっていることを知ったライムントは,彼の友人や知人を訪ねてまわり,1974年に起こったカーネーション革命の時代に,反体制派として生きたアマデウの人生を辿っていく。そこで彼が見つけた若き日のアマデウとその仲間たちの人生は,これまでのライムントの生き様とはまさに正反対の,活力に溢れたスリリングなものだった。
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自らを「退屈な」人間だと評価してきたライムント。5年半前に彼の元から去った妻。単調ではあったが何の疑問も不満もなく続けてきた大学教授の仕事と,変哲もない孤独な日常生活の繰り返し。おそらく残りの人生も同じような日々が続くものと,彼自身その日まで疑いもしなかったろう。

そんな彼が,アマデウの本と出合うなり,仕事を放りだして執りつかれたかのように異国へ「自分探し」の旅に出た。彼が授業中に女性の後を追って出ていったということを生徒から聞いた校長は「ありえない(impossible)」とつぶやいた。それほど,ライムントの取りそうにない行動だったのだろう。
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アマデウと親友ジョルジェ,二人の恋人だったエステファニアの物語は,劇中劇のように語られ,その中には恋愛もサスペンスも散りばめられてはいるものの,最終的には,これは人生における決断を表した映画だと思った。

ライムントは小説の中の設定では57歳。定年間際の,初老にさしかかった男である。日本であれば,老後の備えとか,人生の集大成とか,仕舞い支度や守りの体制に入る年齢だと思う。でも,同時に,人生が残り少なくなったからこそ,これまで自分が生きてきた道を振り返りたくなる年齢でもある。
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人生の一部しか生き得ないなら,残りはどうなるのだ?・・・・
あと少ししか残されていないから,諦めて生きるのか?
それとも,あと少ししか残されていないからこそ,「生き直す」道を選ぶのか?

ライムントにとっては,それまでは体験したことがなかった大きなターニングポイントが,人生の終盤でいきなり訪れたようなものだろう。考えてみれば,誰の人生も選択の連続で,どちらを選ぶかで道は全く変わってくる。あのとき本当は選びたかった道を進んでいたら,どこへたどり着いていたのか,遅まきながら今からでも辿ってみたくなる・・・そんな心境になったことって,誰でもあるかもしれない。

ライムントは,最後に駅でどんな決断をしたのだろう。きっと,彼は元の生活にはもう戻らず,マリアナのいるリスボンにとどまることだろう。彼の残りの人生は,その後どのような輝きを増すのだろうか。優しく幸せな余韻の残るラストシーンが素敵だった。
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私たちはこれまでの自分の人生に本当に納得しているだろうか。
もしやり直すチャンスがあれば,行動に移すことができるだろうか。
それとも実現できなかった別の人生に,心の中で思いを馳せるしかないのだろうか。
もはや冒険を避けたい年代であるにもかかわらず,それまで築いてきたものをすべて捨てて,別の人生を生きることができるだろうか。

本当にやりたかったことや手に入れたかったもの,そして自分の別の能力を発揮できる道と,もしかしたらそこでしか出会えない人たちとの関係とか・・・いろいろと自分の人生の来し方と将来を考えさせてもらえる哲学的な物語だった。原作も読んでみたい。こちらは映画よりもっと哲学的で難しいらしいけど。
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ジェレミー・アンアンズはやはり素敵だった。この作品ではわざと少し背を丸めたり,オロオロした仕草を演じたりして,ライムントのキャラクターを見事に演じていたけれど,枯れてもなおセクシーな俳優さんの一人で大好き。彼の作品ではミッションのガブリエル神父と,ダメージのスティーブンがとりわけ好きな役だったけど,この作品の彼が一番になったかもしれない。それにしてもこの作品でも感じたが,欧州の由緒ある美しい街並みがとてもよく似合う俳優さんだ。

2013年8月21日 (水)

ローン・レンジャー

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これ,めっちゃものすごく楽しかった〜〜!!!!!

特にラストの列車でのアクションシーンは,BGMのウィリアムテル序曲に合わせて,客席で踊りたくなるくらいテンションが上がりまくりだったよ・・・・いい年して恥ずかしい・・・けど。
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ローンレンジャーって,大昔から(どれくらい昔?)有名なドラマシリーズで何度も映画化もされたお話なんだって知らなかったが,この作品が由来という「インディアン,嘘つかない」という言葉はよく耳にしたことがある・・・そうか,あれはトントの台詞やキャラから来ていたのか。

法を遵守することに命をかけていたお固い検事だった主人公ジョン・リードが,札付きの悪党たちに,敬愛するレンジャーの兄を殺され,思いをよせていた義姉と甥をさらわれ,孤高のインディアン戦士トントとバディを組んで,追跡と復讐の旅に出る・・・ローン・レンジャー誕生のお話だ。

ジョニーは最初から最後までトントの扮装で,すてきな素顔は拝めなかったけど,やはりこういう仮装キャラの彼も素晴らしい! トントの,信用していいのかどうかわからなくなる胡散臭さや,いざというときの胸のすくような活躍ぶりや,内心に抱えた孤独なトラウマなどなど・・・・一筋縄ではいかない魅力が一杯で。
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義足からズドーン!の、ヘレナ・ボナム・カーターのあり得ないキャラも楽しかったし,お馬のシドニーがの人を食ったようなとぼけぶりも,もう可愛くって!長身のヒーロー,アーミー・ハマーの スーツ姿にテンガロンハット,マスクもとっても素敵だ。

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息が合ってるのかいないのか,信頼しているのかいないのか・・・・トントとジョンのコンビの珍道中は,面白すぎて目が離せない。「キモサベ」の本当の意味をジョンに素直に教えないトントの天邪鬼ぶりも可笑しくて。

映画史上に残りそうな列車でのアクションシーンは、敵も味方も入り乱れて、命懸けで戦っているはずなのに双方みんな楽しそう…まるで壮大な障害物競走のようで。だいたいBGMが運動会でおなじみの曲だから。ドキドキハラハラワクワク!このシーンは何度でも観たい!
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もちろん、このキャストで続編作ってくれるんでしょうね~。
すっかりトントのにわかファンになりました

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