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4分間のピアニスト

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なんとも,洒落た・・・というか意味ありげな,センスのよい邦題だ。加えて,手錠につながれたヒロインの後姿のポスターに,ひどく興味をそそられる。

あらすじ: 80歳になるトラウデ(モニカ・ブライブトロイ)は、60年以上女子刑務所でピアノを教えている。彼女は何年も貯金して新しいピアノを購入するが運送に失敗し、その責任を追及される。早急に彼女のピアノレッスンを受ける生徒を探す必要に迫られたトラウデは、刑務所内でジェニー(ハンナー・ヘルツシュプルング)という逸材と出会う。(シネマトゥデイ)

これは,二人の女性トラウデ・クリューガー先生と女囚ジェニーの,音楽をめぐる,闘いと絆の物語だ。
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たぐいまれなピアノの才能を持ちながら,,殺人の罪で服役中のジェニー。
過去に,同性の恋人をナチに処刑された,重い秘密をもつクリューガー先生。

閉ざされた塀の中で出会った二人の女性は,
どちらも一筋縄ではいかない過去を持ち,
他人と妥協も打ち解けもせず,最初から激しく反発しあう。

この二人に共通するものは音楽に対する情熱のみ。
幼少のときからコンクールに数多く出場した経験のあるジェニー。
しかし,彼女は,自分のなかに,激しく躍動する音楽をもっていた。
「低俗な音楽はやめて」と,クラシックしか認めないクリューガー先生。
「低俗?でもこれは私の音楽よ。」

二人の心は近づいたと思うと,すぐまた離れることを繰り返す。
内にためこんだ怒りを,ときに驚くほど激しく爆発させるジェニー。それは他者に対する自暴自棄な暴力となり,そんな彼女に戸惑いや怒りも感じるクリューガー先生。
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いつも自分の周囲に目に見えないバリヤーをはって,心の中に他人を入り込ませないように生きているようにみえる,クリューガー先生。前かがみの足取りや,深く刻まれた皺や時にその口を衝いて出る,他者への痛烈な皮肉・・・。顔の皺と同じように,彼女の人生に深く刻まれた傷跡とはどんなものだったのか・・・・。

それでも,二人をつなぐ,一見もろそうに見える絆は切れることはない。
誰も理解してくれなくても,たとえ塀の中に囚われていても,自分の内に溢れだす「音楽」から逃げることができないジェニーと,そんなジェニーに「あなたの使命は演奏することよ」という確固たる信念で臨む先生との絆。

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先生の言いつけを守って,練習に励み,クラシックを見事に演奏してコンクールを勝ち抜くジェニー。でも,そんな彼女に刑務所内の女囚や看守からの嫌がらせや妨害は繰り返され・・・

いろんな難関を超えて,ついにジェニーは4分間だけ,オペラ座のコンクールで演奏することを許される。演奏を終えると,再び手錠が彼女を待っている。

そして,いよいよ運命の4分間,彼女が弾いた曲は・・・・・。

出だしだけは,それまで彼女が練習を積んできたメロディーが美しく流れたが,その後,ジェニーは仰天するような,激しい即興曲を弾き始めたのだ!抑え込まれていた彼女の心,彼女の人生に対する怒りを,根こそぎぶつけるような演奏法で。
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この4分間の演奏は圧巻!だった。
まさにおきて破りの演奏の仕方とパフォーマンス。しかし,その中にたぎる嵐のような情熱が,聴衆の心を強く揺さぶり,演奏終了後は,会場は一瞬の沈黙ののちに,割れるような拍手に包まれる。

ジェニーの眼は,まっさきに恩師クリューガー先生の顔を探していた。
「クラシックしか認めない」点では決して譲らなかった師が,今の自分の演奏を聴いて,どういう感想を持ったか,きっと彼女は知りたかったのだと思う。

そしてジェニーの目に映ったのは・・・涙ぐみながら,心からの拍手を送っている先生の姿だった。先生は,きっとこのとき悟ったのだろう。ジェニーの天賦の才は,楽譜通りに巧みに演奏することではなく,「創り出す」才能なのだと
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恩師の目に浮かぶ涙と賞賛の表情を目にして,ジェニーはやっと自分がほんとうに理解してもらえたことを確信したのか・・・彼女もまた,先生に向って,うっすらと満足げな微笑みを浮かべる。

二人の女の心がまさに本当に繋がったこの瞬間・・・・
ジェニーの手には,かちりと手錠がかけられ,物語は幕を閉じた。

二人の女性の過去や抱えているトラウマをもっとわかりやすく描いてほしかった気もするが・・・この作品の主演ふたりの女優の火花を散らすような真剣勝負は見ごたえがあり,特に新人のハンナー・ヘルツシュプルングの,追い詰められた手負いの獣のような演技は,素晴らしかった。

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ユナイテッド93

Cap091 この作品は、アメリカ同時多発テロでハイジャックされた4機のうち
唯一目標に達しなかったユナイテッド航空93便の離陸から墜落までの機内の様子を
残された資料や証言などにより可能な限り再現、製作されたドキュメンタリードラマだ。

これは,是非,特典映像と合わせて観るべき映画だと思う。

乗務員と40人の乗客を演じた俳優たちは,年齢,外見,雰囲気などが
できるだけ本人に似ているように配慮されている。
また,俳優たちは,事前に自分が演じる人物の遺族に会いに行き,
故人の人柄や,遺族の思いを聞いて役作りに励んでいる

その様子を収めた特典映像を観てから,再度本編を鑑賞すると,
涙が溢れて止まらなかった。
Cap059_2 監督は,有名俳優を一人も使わないことで
この作品に息詰まるようなリアリティを持たせた。
そして,終始一貫して 事実と思われることのみを
ドキュメンタリー風に淡々と描き,客観性を徹底させた。

テロリストの若者の描写も,主観を交えずに 全くの中立の立場で描いているので,
宗教や信念に殉じる彼らの運命が,乗客同様に 痛々しく見えてしまうほど。
死を覚悟し,蒼白な顔で 自分たちの神に祈りを捧げながら,
家族に「愛している」とメッセージを残して決行に及ぶ彼らは,
ごく普通の青年たちにしか見えない。
Cap076 もし,テロリストたちの遺族がこの映画を観たら,はたしてどんな感想を持つだろう。
もしかしたら,乗客の遺族と同じように,
純粋な悲しみの涙を流す遺族もいるのではないか。

上映前の試写会には,遺族たちだけが招待された。観賞後の遺族たちの殆どが,
あの日の出来事を,過剰な脚色や主観を交えずに,
忠実に再現してみせてくれた監督の誠意
に,感謝の言葉を発していた。
Cap075 あの惨劇から5年の歳月を経て,「時」がようやく 彼らの心の傷を癒しはじめた今
この映画を観て,「あの日の出来事」を再度直視するのは,
遺族にとって,どれほどの痛みをともなう体験だろう。

しかし,「辛かったけど感動した。この映画は,私たちの(彼らの)遺産です。
大勢の人に観てもらいたい。」
という,ある遺族のコメントを聞いて,
この映画は彼らに,哀しみだけでなく、大きな慰めをも与えたことを知った。

この映画は 厳密な意味では 事実とは違うかもしれないとか,
メッセージ性に欠けるとか,何の救いもなくてひたすら痛すぎる映画だとか
いろいろな見方はあると思うし,それはそのとおりだと思う。

しかし、監督は テロ批判を殊更に声高に叫んだり,
乗客を過剰に英雄視するような 余分な脚色をあえて避けた。
遺族たちが この映画製作に期待したこと,それは,

英雄は要らない。
ましてやエンタメ性などこれっぽっちも欲しくない。
ただ,真実を語ってほしいだけ。


あの日,理不尽にも 突然命を奪われた 愛するひとは
その死の瞬間まで,どのように感じ,どのように行動したのか・・・・。

Cap104 テロリストから,飛行機を奪い返そうと
必死の覚悟で立ち上がる人。
死を覚悟して それぞれの家族に 
最後のメッセージを伝える人。
「ああ,きっと実際に
この通りだったに違いない」という言葉が,

ある遺族の口から漏れたのが 印象的だった。
そう、この映画を観ることによって,
やっと心の整理をつけることができた遺族もいただろう。

これは、純粋に,遺族たちのために作られた鎮魂の映画だ。
911を扱った映画は他にもあるし、これからも製作されるかもしれないが
Cap088 私はやはり この作品が 一番心に残る。
なぜなら この映画からは 
何よりも遺族たちへの敬意を感じるからだ。

試写会の後,感想を聞かれて「平和を得たわ」
微笑んだ遺族の美しい笑顔が
今も心に焼き付いている・・・・。

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善き人のためのソナタ

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張りつめた糸のような,緊張感を全編に漂わせながらも,
ひそやかな静けさが満ちている
物語だった。
物語の背景は暗く,重く,絶望的で,暴力的でさえあるのに,決してそれを声高に主張することなく,淡々と進んでゆくストーリーをたどってゆくと・・・・・。
ラストシーンで,思いがけなく,ふいに涙が溢れた。
エンドロールの間中,絶え間なく涙がこみあげてきて,止まらなかった。
物語の舞台は,ベルリンの壁の崩壊前夜の1984年の東ドイツ。
今からわずか20年ほど前の出来事なのに,とてもそうは見えなかった。

・・・知らなかった。社会主義の国家で生きる,ということが,こんなにも殺伐で暗澹とした生活を強いられるものだったとは。国家保安省シュタージは,個人の生活をガラス張りにし,反体制であると目をつけられたら最後,プライバシーは微塵も存在しなくなる。常に監視と脅迫まがいの牽制にさらされる生活。人々は常に国家の思惑を伺って,息をひそめて生きるしかない。ちょうどそのころ,バブル絶頂期で浮かれていた私たちには,想像を絶する世界だ。
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主人公はそんなシュタージの高官であるヴィースラー
人生の多くを,国家に捧げて来た寡黙で孤独な男である。
冒頭,彼が尋問の心得を後輩に講義するシーンからは,何ものにも揺るがされない,シュタージとしてのプロ意識と,冷徹さが感じ取れた。だのに・・・。
彼の心の中で,何かが少しずつ変わり始めたのは ,劇作家のドライマンの私生活を盗聴する任務についてからだった。芸術家たちにとって,半分死んでいるも同然の状態を強いる国家体制の中で,それでも懸命に誠実に生きようとするドライマン。彼と同棲している美しい女優のクリスタ

ある晩,盗聴器から流れてきたのは,ドライマンの奏でる美しいピアノの調べだった。体制の圧力に屈して自殺した友イェルスカが,ドライマンに残した「善き人のためのソナタ」・・・・じっと聞き入るヴィースラーの頬に,やがて一筋の涙が伝う・・・。
そして彼はその後,冷徹なシュタージの任務を無感情に遂行することができなくなる。彼の取った言動は,結果としてドライマンの命を救うが,自らは左遷され,屈辱的な閑職へと追いやられてしまう。
23sonata01_2 劇中に流れたソナタは,ほんの短いフレーズだけで,ヴィースラーの心情の変化も,時間をかけて描かれていないため,彼の感動や涙が唐突に感じられ,その理由もわかりにくいかもしれない。しかし,監督はあえて,時間をかけた過剰な説明的な演出を避けたように思う。

・・・・・観客が想像するしかないのだろう。このときの彼の心境。
そして私はじっくりと考えれば考えるほど,切なさが増してきて困った。
あの曲を聴いた時に彼に訪れた感動は,
決して彼にとって,唐突なものではなかったと思うから。

ドライマン監視の任務についてから,彼が目にしたり耳にしたりした,様々なこと。
それは,氷のような国家体制の中で,彼を初めとする大多数の人々が失ってしまったもの。
愛し合い信頼できることの喜び,自由へのあこがれ,そして良心の大切さ。
それらが,彼の心の一番奥深いところを,日ごとにそっと揺り動かし続けていたのではないか。・・・・彼自身も気がつかないほどそっと密やかに。そして,あの曲を聴いたときに,封印していた心が一気に堰を切って溢れだしたのではないか。

ヴィースラーはいったいそれまでどんな人生を辿ってきたのだろう。
友も,家族もいない人生。国家体制の僕として,彼はどんな感情を封印して生きてきたのだろうか。映画では何も語られていないが,曲を聴いて涙する彼の姿に,それまでの彼の人生の語られなかった哀しみの大きさを見たような気がした。20070322_230147

この物語でもう一つ感動したことは,ヴィースラーがドライマンの命を救った後の彼の生き方と,後に真実を知ったドライマンがヴィースラーに伝えた感謝のかたち。

ヴィースラーは,共産主義が崩壊した後,ドライマンに命の恩人として名乗りをあげ,見返りを期待するようなことはしなかった。彼のそれまでの性格や行動パターンからしても,そんなことはできない人柄だったとは思うけど,彼の場合は,「彼を救ったのはこの私」という自意識すらなかったのではないか。いやむしろ,ドライマンのおかげで,密かに人間性を取り戻せたことを思うと,「恩を売る」なんて到底なれなかったのかもしれない。

ドライマンもまた。
せっかく命の恩人が誰かを突き止めたのに,落ちぶれたヴィースラーの姿を物陰から見守るだけで,声をかけることはできない。ヴィースラーの姿から発せられる「何か」が彼をためらわせたのかもしれない。その代わりに,ドライマンは,「善き人のためのソナタ」という本を,ヴィースラーのために書く。見開きには彼にしか分からない感謝の言葉を記し,いつの日かヴィースラーその人が手に取ってくれることを祈りながら。

見返りを求めない善き行いと,祈りにも似た感謝のかたち.Cap028_2 どんなときも感情を表に出さないヴィースラーが,ドライマンの感謝を受け取ったとき,「これは私の本だ」と一瞬輝くような笑みを見せる。イントロのように静かに,あの「ソナタ」が蘇り,ここでも監督は多くを語りすぎずに,さっとカメラは動きを止めた。その余韻の持たせ方がすばらしかったと思う。

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