カテゴリー「映画 な行」の15件の記事

2023年10月16日 (月)

何曜日に生まれたの

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ドラマはあまり観ない私が、あの「VIVANT」よりハマッてしまったドラマ。昨日最終回を観て、まだ余韻にひたっている。このドラマ、スタート時は「VIVANT」の陰に隠れちゃってなかなか話題に登らなかったけど、じわじわと人気が出てきて、最終回が終わったときには視聴者から「名作!」「今期最高のドラマ!」というコメントがネットで続々と出ている状況だ。

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私は日曜の「ナニコレ珍百景」と「ポツンと一軒家」にゲスト出演した飯豊まりえさんがドラマの番宣をされたのを観て、そのタイトルに惹かれて最初から観始めたのだけど、予告編の印象からは何となく「ミステリかしら?」と期待していた(ミステリ好きだし)。それに脚本があの「高校教師」の野島伸司さんだというではないか!私はリアルタイムでドキドキヒリヒリしながら観ていた世代だからね、「高校教師」「人間・失格」も。だから不穏で不道徳な社会問題をテーマにした物語かもしれないとちょっと身構えていたのだけど・・・。ちなみにざっくりとしたあらすじは以下の通り。

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高校時代、バイク事故をきっかけに引きこもりになった黒目すい(飯豊まりえ)。ある日、売れない漫画家であるすいの父・丈治(陣内孝則)は、人気ラノベ作家・公文竜炎(溝端淳平)とのコラボ漫画を描くことになる。そして、その主人公のモデルに指名されたのがすいであった。この依頼を受けることにしたすいは、高校の同窓会をきっかけに、元サッカー部の旧友たちと再会する。そして、10年前の事故の真相が明らかになっていく…(ウェキペディアより引用)

このドラマの魅力のひとつは何といっても、冒頭とラストの印象が180度変わり、驚きと何とも言えない爽やかな感動に包まれたこと。最初は不穏で重苦しい雰囲気満載で始まった。ひきこもりのヒロイン黒目すいは、締め切った暗い部屋でボサボサの頭とくたびれたスウェット姿で、とりつかれたようにゲームをしているし、売れない漫画家の父に毒舌美人編集長(シシド・カフカ)が持ちかける人気ラノベ作家とのコラボが、ひきこもりの娘をモデルにピュアなラブストーリーを描こうという・・・なんじゃそれ?のストーリー設定にはいささか違和感があったのだが、すいが引きこもる原因となった10年前のバイクの事故の映像が、思わせぶりなモノクロで挿入されたりするものだから、真相を知りたいという誘惑に逆らえず、2話目も観てしまった・・・・そして、見事にハマった。

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さすが野島さんだなって思ったのは、毎回「ええっ?」と声をあげたくなるような驚きの場面を仕掛けてエンディング曲に繋げること。いやでも次回が気になって仕方なくなるし、それまで思い込んでいたストーリーや登場人物の印象が、がらっと変わったりするので、展開から目が離せなくなる。毎回、プチ衝撃のラストで終わってくれるこの感じ、あの「高校教師」と同じで、もちろんあちらは「プチ」ではなくまさに「衝撃」の連続だったけど。

ドラマの前半は主な登場人物がそれぞれ闇を抱えていて、自己中な行為で傷つけあっているように思え、登場人物みんなに共感できなかった。元サッカー部員たちがすいにした仕打ちは残酷だったし、再会してからも親友の瑞貴の態度も悪女そのものだったし。すいをモデルに小説を書こうとする公文竜炎も盗聴や監禁なども平気でして、相手の心理の痛いところにもどんどん土足で踏み込んでいく「ヤバい人」に見えたし・・・。

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印象がガラリと変わったのは、10年前のバイク事故のときにすいと純平を病院に運んでくれたのが、実は公文だったことが明らかになった回あたりから。え?これってすいちゃんが引きこもりから救われるだけじゃなく、陰の主役は公文センセだったの?というあたりから面白さが加速。それからの二転三転ぶりからの、本物の純愛ストーリーへの着地は見事だった。

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曲者だらけに見えた登場人物たちが、みんな力を合わせてそれまでの「恩返し」とばかりに公文を救うトラップを仕掛ける。結局みんな善人で、みんな幸せになり、そしてこの上なく素敵で愛おしいカップルが誕生するラストは、深夜にもかかわらず一人で大拍手。不穏で暗いスタートだっただけに、大団円のラストはそのギャップからか感動もひとしおだった。伏線の見事な回収といい、良く練られたストーリーといい、毎回ラストに驚きの仕掛けが用意されていることといい、ほんとにこれはあっぱれな脚本!終わってみるとただただ唸ってしまった。

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主要登場人物たちはみんな素敵でいい演技。特にこのイケメン三人組。それぞれの個性が立っていて、それぞれ抱えているものもあって、それでもラストの回ではみんな素晴らしかった。他人を思いやる余裕などなかった思春期を超えてみんな素敵な大人になって、相手を想いやることや力を合わせることの大切さに気付いたのかな。

それにしても、主演の飯豊まりえさん、陰の主演の溝端淳平さん、このお二人の演技が特に素晴らしかった。まりえさんは前半と後半では真逆のキャラに変貌しなくてはならないし、溝端さんは繊細で脆い三島公平というキャラの上に冷徹?な公文竜炎の仮面を被っているわけだから、いわば二重人格のようなもの。まりえさんが暗くていじけた雰囲気としゃべり方からどんどん本来の明るく素直な女の子に戻っていくのが見事だったし、溝端さん演じる物に動じない冷静な公文が、意に反して三島公平の素の顔をのぞかせる瞬間の演じ分けも素晴らしかったと思う。

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まりえさんと溝端さんはかつて、「祈りの幕が下りるとき」でも共演している。二人の絡みはなかったけど、その時から心に残っている俳優さんたちだった。今作の二人は本当にすごく魅力的で、これからもずっと応援していきたいなと思った。

ブルーレイの円盤が発売されると知って、お高いけど予約しちゃいましたよ!何度でも観直したい神ドラマ決定です。

2015年12月25日 (金)

ナイトクローラー

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やっと観れました〜〜 最高におぞましいと評判のジェイクの演技!

いや〜〜〜素晴らしかった。
視聴率至上主義のテレビ業界に少しでも高く売れる衝撃映像を撮るために,夜な夜な警察無線を傍受し,猛スピードで事故や事件現場に駆け付ける映像パパラッチたち。ナイトクローラーと呼ばれる彼らに視点を当てた物語という点が,とても新鮮だし内容も驚きの連続。(もっとも現実は,ここまで酷い関係性はないと,アメリカのニュースビジネス関係者は言っているそうだ。)

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ジェイクの演じるルイス・ブルームが,人としての倫理を踏み外してでも映像を入手していく様を観ていると,彼は明らかに正常な人間性の一部がすっぽりと欠落してしまっているのではないかとさえ思えてしまう。それは生まれつきなのか,それとも,現代の格差社会の歪みが,彼のような人間を生んでしまったのか・・・・・とにかくルイスという特異なキャラクターそのものが,この作品の見どころであり,恐ろしさでもあり,同時に面白さにもなっていた。
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とにかく彼の行動から目が離せないのである。次はどんなことをやらかすのか?と。怖いものみたさから生まれる高揚感なんだろうか,もちろん応援はできないけれど,彼の出方を固唾をのんで見守らずにはいられない・・・・そんな感じ。

ルイスの行為は,物語が進むにつれてどんどんエスカレートしていく。現場に一番乗りして遺体を動かしたり,不法侵入まがいのことをしたりするのはまだ序の口で、最後には邪魔になった部下を陥れて命を落とさせることまでやってのける。そしてどんな時も,彼にとって罪の意識は皆無だ。
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道徳心が欠如しているのか,他者を尊重する気持ちが皆無なのか…そして運も彼に味方して、警察に睨まれながらも、最後までなんの制裁も受けない。まことに後味の悪いサクセスストーリーなのに,ぞくぞくするほど刺激的だった

こんないやらしい主人公を演じきったジェイクの演技と役作りにはあらためて脱帽。何でも9㎏も体重を落とし(痩せるとまるで顔中が目だけになったみたいだった),生活も完全夜型にして臨んだという。彼にとっては初の悪役だっけ?時折見せる酷薄な表情やキレっぷりは見事だった。
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ルイスのようなパパラッチが実際に存在するとしたら怖すぎる話だが,そこまで野放しではないにしても,手段を選ばず成功をつかむことが美徳であるという価値観は、結構世の中に浸透してきているのかもしれないと改めて思った。

ブロークバック・マウンテンと並んで、この作品はジェイクの代表作になると思う。そして私も,彼の演じた役の中では,ジャックに勝るとも劣らないくらい,この役の彼が好きかもしれない。それはもちろんルイスのキャラが好きなのではなく,ジェイクの演技力や才能に惚れたんだけど。

2014年6月22日 (日)

ノア 約束の舟

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旧約聖書の中でも有名な「ノアの箱船」(聖書では『はこぶね』の『はこ』は,こちらの漢字を使っている)の映画化,そして主演はラッセル・クロウ。ノアの物語の絵画化としては1966年製作の「天地創造」も観たが,こちらはひたすら聖書に忠実な映画だったと記憶している。今回はかなりハリウッド的な味付けがなされていると聞いてそれも楽しみに鑑賞した。監督さんは,ブラック・スワンで有名なダーレン・アロノフスキーだと聞き,どちらにしても一筋縄ではいかない作品になってるだろうなぁと期待を高めつつ。


ノアの物語は,地味に聖書に忠実に再現したとしても,十分面白いストーリーだと思う。箱舟建設のスケールや,ひとつがいずつの動物たちを避難させるところや,洪水のシーンやあれこれ・・・・どれもダイナミックだし絵になるし・・・・聖書通りにファンタジー作品として作っても,見ごたえのあるストーリーなのだ。しかしそこはさすがアロノフスキー監督。聖書にはない、ノア一家の争い(特にノア対妻と子供たち)や,トバルカインというノアの宿敵の存在を付け加え,暗くドロドロした人間味の濃い物語に仕上げていた。

そう,これはノアの苦悩の物語。
そして戦うノアの物語。


神に選ばれ,従った信仰の偉人ノアの物語ではなく,神から重い使命を与えられたゆえに迷いや孤独に苦しんだ人間ノアの生々しい物語だったように思う。聖書の記述とこの作品のストーリー設定の違いはいくつもあるが,特にノアの家族についてと,敵役のトバル・カインに関してはかなり違っていたので,以下,参考までに相違点をあげてみる。

ノアの家族について
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聖書では,箱船に乗り込んだ時は,すでにノアの三人の息子セム・ハム・ヤペテは成人してそれぞれ妻帯していた。大洪水のあと,新しい天地で,この三組の夫婦から生まれ出た子孫が全世界に広がっていった。セムの子孫はアジアの,ハムはアフリカの,そしてヤペテの子孫は現在のヨーロッパの国々の民族の始祖となった。

映画の中でセムの妻となった養女イラが船内で双子の女の子を出産し,その子がノアに殺されそうになる・・・という映画の一番の見せ場のシーンは,映画オリジナルのエピソード。神に従い使命を全うするか,人情と家族愛を選ぶか・・・そういう葛藤を見せたかったのだろうか。(聖書では,神はもともと,ノアの子孫まで絶滅させようとは目論んでいなかったのだが。)
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また,映画では,ノアに反抗しトバルカインを匿った二男のハムだが,もちろん聖書の中では彼はそんなことはしていない。しかし,洪水後にワインで泥酔して醜態をさらしたノアの姿を見つけたハムが正しくない振る舞いをしたため,ノアにその子孫を呪われるという出来事は聖書に記されている。(ハムの子孫カナン人はのちにセムの子孫イスラエルの部族に征服されるという歴史を持つ。ちなみの長男セムの子孫からは,アブラハムやダビデ王やイエス・キリストが生まれている。)どちらにせよ,二男のハムは,ノアの息子の中ではもともと異端児でアウトローの役割を担っていたようだ。

トバルカインについて
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聖書では,トバルカインという人物は,弟アベルを殺したカインの子孫で,武具を鋳造する鍛冶屋を生業とする部族の始祖という記述しかない。映画でレイ・ウィンストンが演じたトバルカインは悪や罪の象徴として,ノアを脅かし挑んでくる存在として描かれ,箱船の中にまでしぶとく乗り込んで,ハムの心に芽生えた父への反抗や復讐心につけ入ろうとする。彼は,まさに神の陣営にまで隠れ潜んで誘惑するサタンの化身のような役どころなのかもしれない。

ノアについて
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ノアといえば,聖書の「ノアは正しい人であって,その時代にあっても全き人であった。ノアは神とともに歩んだ。」(創世記6-9)とか「ノアはすべて神に命じられたとおりにし,そのように行った。」(創世記6-22)という記述から,不動の信仰を持った穏やかなお爺さん・・・というキャラクターが私たちの間では定着していて,「天地創造」の映画のノアもそんな風貌のキャラだった。

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しかし,この映画のラッセルの演じるノア
悩みまくるし暗いし,何よりめっちゃ戦いが強い。
ラッセルが演じたから特に,ノアでなくて老いたグラディエーターに見えてしまう。なので動きやすいことも考慮してかどうなのか,その時代ではありえないような衣装(みなさんジーンズみたいなボトムを穿いてらっしゃる)で,背景もなんとなく旧約聖書の時代というよりは近未来のようで。CGを駆使した大迫力の映像はSFスペクタクル映画みたいで,それはそれで斬新で楽しかった。

シェムハザをリーダーにしたウォッチャーという堕天使たちは,トランスフォーマーの泥バージョンみたいでなかなかよかった。彼らについては,聖書ではなく旧約聖書の偽典「エノク書」に書かれているそうだ。

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旧約聖書の神は新約聖書の神と違ってよく語り,人間に干渉した神である。目に見えるスケールの大きい奇跡も行った神なのだ。
そして旧約聖書で神に選ばれ使命を果たした人物は,誰もが使命を果たすにあたって辛酸を舐め,孤独を味わい,忍耐の月日を背負い,そして時には自分の行いの是非を自問し信仰が揺らぐ危機も味わう。彼らもまた弱さや愚かさも持った人間だから。アブラハムも,モーセも,ダビデ王も預言者たちも。ノアもかなり大変だったと思うけれど,個人的には忍耐の歳月の長さや率いる人間の多さなどから一番大変だったのは出エジプトのモーセだったと思う・・・・。

聖書に忠実な映画ではない。
だから,信者でない方でキリスト教に関心のある方には,この映画のストーリーを鵜呑みにしてもらいたくはない。しかしそんなことはどうでもよくて,単純にドキドキハラハラの骨太な冒険映画を楽しむつもりで鑑賞するなら,とても面白いお勧めの作品である。私はクリスチャンなので,どうしても聖書と比較しながら鑑賞してしまうが,宗教のメッセージはあまり考えなくてもいい作品だ。私は,「人間は誰もが罪人であって,救済の陣営であるはずの箱船の中までも,悪魔の誘惑や諍いは忍び込んでくる」というメッセージを個人的に受け取った。

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それにしても・・・なんど滅ぼされようがリセットされようが,地に悪の満ちるのの早いこと・・・・。しかし神が人間を意のままに操れるロボットのような存在には作らず,自由意思と選択権を与えたのもまた神の愛のなせるわざだと・・・クリスチャンは思っている。

重めのヒューマンドラマとしても見ごたえはあるが,何よりグラディエーターやスター・ウォーズやキング・アーサーやタイタンの戦いなどがお好きな方はおおいに楽しめると思う。

2013年8月22日 (木)

嘆きのピエタ

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キム・ギドク作品は,観るのにいつも相当な覚悟が要る・・・・。

人の心の中の,またはこの世の中の,醜悪なものや罪深いものや,やりきれないほどの哀しみを,目を覆いたくなるほどに生々しく,同時に切なく描いてくれるから。その後味は強烈過ぎて,できれば観たくはないのだが,対峙したくもないのだが,それでも鑑賞後はやっぱり観てよかったと思える・・・そんな作品を撮る監督さんなのだ,私にとっては。

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ピエタとは,十字架から降ろされたキリストを抱く聖母マリアの姿。母の愛の象徴である。しかしこの作品のポスターの中で,腕に抱かれている主人公ガンドは,キリストとは似ても似つかぬ極悪な人間・・・・血も涙もない借金取りで,多くの人間を自殺に追い込み「悪魔」と憎まれ罵られてきた男である。また彼を抱いている母ミソンもまた,ネタバレになるが実は彼の母ではない。

生まれたときから天涯孤独で,肉親からの愛を知らないガンド。高利貸しの取り立て屋をしている彼は,到底返すことのできない債務者たちを事故に見せかけて障害者にし,その保険金で,膨れ上がった借金をチャラにする。手や足を失った債務者は,借金はチャラになっても,その後の生活が成り立たなくなって自殺するものも・・・・。
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債務者は皆,自転車操業を余儀なくされているに違いない零細家内工業の経営者たち。彼らは,ひと月で利子が10倍にも膨れ上がる借金を,返せないとわかっていても借りないわけにはいかないほどの貧困にあえぐ最下層の労務者たちだ。そんな彼らの弱みに付け込み,「どうか1週間待ってくれ」という彼らの必死の懇願にも眉ひとつ動かすことなく,彼らの手を工場の機械に巻き込ませたり屋上から突き落としたりするガンド。

鶏を一羽をまるごと捌いて煮る彼の夕食。トイレには鶏の内臓が片づけられるないまま散らばっている殺伐とした暮らし。ガンドの表情からは痛みも,憐みも,怖れも,何も感じ取ることはできない。時折浮かぶのは,債務者に向けた怒りや侮蔑の表情のみ。あたたかい人間らしい感情がすっぽり抜け落ちてしまったような,いや,もともと持ち合わせていないかのような,そんなガンドは確かに「悪魔」と」よばれるにふさわしい人間だった。
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そんなガンドの元に「あなたを捨ててごめんなさい。」と名乗る中年女性が突如姿を現し,執拗につきまとう。最初は相手にしなかったり,彼女を試すために残酷な仕打ちをしかけるガンドだが,やがてその女性,ミソンを実母として受け入れるようになる・・・・。

はじめて目にするガンドの微笑み。ミソンが涙ながらに歌う子守唄。まるで赤子の様にミソンに寄り添って眠ろうとするガンド。彼の心が少しずつ変わってくるさまは,取り立てに行った時の債務者に対する態度にも微妙に表れ始め,やがて彼はこの仕事から足を洗おうと決心するまでになる。そして彼は言うのだ。「もう一人では生きられない・・・・」と。
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ガンドがそれまでの30年の生涯で,ただの一度も味わったことのなかったもの。それは自分がどんなことをしても,そのまま受け入れ愛してくれる母親の存在初めて手にした「母の存在」が彼に与えた影響は強烈であり,ミソンを失うことはもはやガンドには耐え難いものとなっていく。ひとが母親を慕い,母親から庇護されたいと思う願いはまことに本能的なものであり,理屈抜きに誰もが生まれつき備えているのだと思わされる。たとえ「悪魔」に成長した男の心にさえも,その本能はあったのだ。

愛する者,守りたい者ができたガンドにとって,債務者からの恨みを買って当たり前の稼業を続けることはもうできなかった。彼は,ミソンに危害が及ぶのではないかと怖れるようになるのだが・・・・・。しかし,ミソンがガンドに近づいてきたのは,ある重大な理由があった。
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ミソンは実はガンドの母親ではなく,彼女がガンドの前で流す涙も,編んでいるセーターもガンドのためではなかった。二転三転するストーリー展開の中で,常識では考えられないような驚愕の復讐劇が着実に進められていく。

しかし,ミステリアスで残酷な物語の,あらすじそのものから片時も目が離せないのは勿論だけど,観終わってみると,これはやはり,まぎれもなく,母の愛と贖罪の物語だった。ミソンがまさに目的を達成しようとしたとき気づいた,ガンドに対する憐みの感情。芽生えるはずのない相手,受ける値打ちのない相手にすら生じる母性の不思議と底知れぬ可能性。
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そしてガンドもまた,ミソンが彼の母ではなく,何のために彼に近づいてきたのか理解したあとでも,彼女を母と慕う気持ちを変えることができなかったのだ。ガンドのために編まれたのではなかったセーターを奪い,ミソンの亡骸に添い寝をし,さらにそのセーターを己の死に装束にするガンド。

このセーターは,赤と白の二色で編まれているけれど,キリスト教では「赤」は贖罪のためにイエスが流した血の色を表し,「白」はその血によって罪が洗い清められ雪のように真っ白になった状態を表す。赦されるべき罪人のガンドにこそ,このセーターはふさわしかったのかもしれない。

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偽りだったとはいえ,ガンドに与えられた母の愛は,彼にはじめて自分の罪を悔いる感情を呼び覚ました。また,彼は,ミソンを探してかつて痛めつけた債務者のもとを回る度に彼らから凄まじい怨念のこもった憎悪を投げかけられ,自分のしたことを思い知る。ミソンを失った彼はもはや生きる望みもなく,その絶望と贖罪の気持ちは,彼にラストの壮絶な行動を取らせる。

彼を贖罪に導いた母の愛。キリスト教では,神が罪人を赦す愛は,無償という点で,母の愛にもたとえられることがある。ラストの夜明けのトラックのシーンは,残酷で心が痛むのだが,それでもそこに静謐さや美しさが漂っているのはなぜだろう。彼の贖罪する姿を静かに俯瞰している神の視点を私が感じるからだろうか。 

2010年10月18日 (月)

ナイト&デイ

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予告の面白さに惹かれて久々の劇場鑑賞。コメディタッチのスパイ・アクションに,爽やかなラブストーリーを絡めた,面白くて観ていて嬉しくなる作品だった。

素敵な男性との出会いを求めていた,ごく普通の女性ジューン(キャメロン・ディアス)が,空港で出会った謎の男性ロイ(トム・クルーズ)は,実は組織から追われる身のスパイで,ジューンはその後,否応なしに彼との逃亡劇を繰り広げることになる,というお話。

何と言ってもヒーローのトムのカッコよさと,ヒロインのキャメロン・ディアスのキュートさが際立っている。お二人とも,もう決して若くはないのだろうけど,ベテラン名優同士の息の合い方がピッタリで,安心して観ていられる感じだ。

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ジューンが危険なときには必ず目にも止まらぬ早業で助けてくれ,空海陸のあらゆる乗り物を自在に操ることのできる無敵の男,ロイ。おまけに冒険の合間には,邪気のない笑顔で見つめたり,さりげない優しさを示したりしてくれるんだもの,たとえどんなにリスクが大きくても,私も彼に地獄の底までもついていきたくなっちゃうわ…。

同じスパイものでも,ミッション・インポッシブルのイーサン・ハント役より,このロイ役のトムの方が好きかも~~~。

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お相手のキャメロンも,序盤のパニクる様子も可愛いし,中盤からの腹の据わりぶりもお見事。とりわけ,バイクを運転するトムの前に後ろ向きに乗っかって銃を撃ちまくるシーンは惚れ惚れする。真実薬を飲まされた彼女が,敵とのバトルシーンの最中に,トムにうっとりと秋波を送るシーンもお気に入り。

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アクションは「そんなの,アリ~?」というものだらけだけど,楽しいし,コミカルでテンポのいい会話も可笑しい。恋人や家族と一緒に楽しく観れる,おすすめの作品だと思う。

2010年5月27日 (木)

ニック・オブ・タイム

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ジョニー・デップ主演作品なのに,この作品の存在,今まで知らなかった。ツタヤの「旧作・傑作シリーズ」の欄で見つけてためしにレンタル。

1995年製作なので15年前のジョニー。若いには若いが,なんと地味な灰色のサラリーマンスーツ姿にメガネのシングルファーザー。(黒いスーツ姿のジョニーは,とてもカッコいいのだけど,灰色だと途端に平凡になってしまうから不思議)彼が演じるニック・ワトソンは,駅で,いきなり見知らぬ男女に娘を人質に取られ,「今から90分以内に女性知事を射殺しないと娘を殺す」と脅されるはめに。

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知事暗殺という重大任務を,会ったばかりの素人に無理やりやらせるという設定にはかなり無理があるのだが,この設定だからこそ,先の見えない展開という面白さがあるのかもしれない。誘拐犯がタイムリミットに指定した90分。映画はまさにそれから90分間,リアルタイムでニックが巻き込まれた災難と矢継ぎ早に起こるアクシデントを描いているので,観客もまたニックと同じスリルとジレンマをリアルに味わうことになるのだ。

悪役を演じたクリストファー・ウォーケンが,執念深さとちょっと「アブナイ」怖さを醸し出していて,存在感たっぷり。

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まるで背後霊のようにニックについて離れず,ニックが一般人に助けを求めようとするたびに姿を現しては脅しまくる・・・・それでも隙あらば誰かにSOSを発信せずにはいられないニックなのだが,悲しいかな,その試みはいつも,監視のウォーケンに阻止されたり,助けを求めた相手がグルだったりして,失敗の連続。

最後まで諦めずに突破口を開こうとあがくニックに,
果たして助けの手はさしのべられるのか?

それは観てのお楽しみ。予測のできない展開からは,ありえないことはわかっていても目が離せない。

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90分強という長さもダレなくてちょうどいい。この手の作品はスピードが命だから。そして,この作品の主人公ニックを演じるのがジョニーである必然性は別に感じないのだけど,(彼が輝くジャンルではないような気も)でもだからこそ,おなじみの作品では見られない彼の魅力が味わえる希少な1本かもしれない。映画の中では,子連れジョニーというのも珍しいし。(なかなか素敵なパパでしたよ。)

2010年3月 8日 (月)

ノッキン・オン・ヘブンズ・ドア

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1997年公開のドイツ映画。日本ではたしか「ヘブンズ・ドア」という題で2009年にリメイクされているが,こちらは評が賛否両論に分かれたらしい。今回,オリジナルを観て,その魅力にノックアウトされた。

いや〜どうしよう,この作品,
愛してしまったじゃないの〜〜!(絶叫)
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脳腫瘍と末期がんで,余命いくばくもないと診断された二人の男が,「死ぬ前にひとめ海を見たい」と,病院を抜け出し,盗んだ車で逃避行を開始する。どうせ明日にも死ぬんだから,と怖いものなしの二人が起こす強盗事件や,車に積まれていたギャングの金をめぐって,警察やギャングは二人を追うが・・・・。

そう,これはロード・ムービーでもあるが同時に,最高のバディ(相棒)・ムービーでもある。余命いくばくもない,という共通点を持った二人の中年男,マーチンとルディ。正反対のタイプの取り合わせが絶妙だ。
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行動的でアウトローなマーチンを演じたティル・シュヴァイガー。どっかで観た役者さんだと思っていたら,キング・アーサーで,アーサーの敵の首領の息子(スキンヘッドで顎鬚だったっけ?)を演じたひとだった。この人がもともとこの作品の脚本を気に入ってスポンサーを探しまわって製作にまで漕ぎつけたそうな。いやなかなかどうして,セクシーでワイルドで,素敵なドイツの殿方だ。このひとのハスキーなドイツ語の声,大好き。
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そして彼の女房役のような,まじめで内向的なルディ。マーチンと出会わなかったら,そして「余命があとわずか」という,特殊な状況でなかったら,おそらくこんな大胆な行動は起こさないだろうな~と思われるタイプ。演じるのはヤン・ヨーゼフ・リーファイスというドイツの俳優さんだが,ちょっとロバート・ダウニー・Jrに似てる。
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夕陽の沈む海を見に,フランスへと向かう二人。
ドイツのような国に住んでいると,本当にまだ海を見たことがない大人っているんだね。途中,一文無しの二人はガソリンスタンドや銀行を襲うが,車の中にギャングの大金を見つけると,それを使って,自分たちもささやかな散財をし,道中お世話になった人たちにも大金を惜しげもなくバラまいてゆく。
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道中に出会う脇役たちがみんな味のあるいい人ばかりで,反応もそれぞれちょっとボケていて,だから,強盗だの車泥棒だのという無法行為も,そんなに迷惑をかけたようにも見えず,かえって余命わずかの二人を,みんなが見逃してあげているかのような,あたたかい雰囲気も。特にあの腹の据わった銀行員の態度は最高!

それに彼らを追っかけるギャング二人組の抜け具合がこれまた最高で。二人の会話のやり取りは,漫才のボケと突っ込みそのままだし。
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そういえば警察の上司と部下のコンビも可笑しかった。二人を見逃してくれたギャングのボスもいい。(大物俳優のルトガー・ハウアーがギャラに関係なく出演してくれたそうだ)

とにかく,主役の二人も含めて,登場人物全員が好感度の高いキャラクター。シリアスな状況を描いているにも関わらず,この作品がなんとも心地よいのは,そのせいもあるのかもしれない。
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マーチンとルディの絆の堅さ。
これはもうやはり,同じ運命に見舞われた者同士ならではの絆だろう。死期が迫った者の心境は,そうでないものにはわかりっこない。同じ境遇であると知った途端に意気投合し,後はまるで生まれたときから親友だったみたいに,以心伝心,阿吽の呼吸で,互いにいたわり合いながら突っ走る二人が微笑ましくもあり,切なくもあり。

好きなシーンはいくつもあるが,ギャングに「金を返せば命だけは助けてやる」と言われ,二人が顔を見合わせて笑いだすシーンや,その後,あわや殺されそうになった瞬間に互いの手をギュッと握り合うシーン,そしてそれまで銃を撃ったことのないルディが,たった一度だけマーチンのために銃を撃つシーンや,救急車の中で視線を合わせて微笑み合うシーンが特に好きだ。
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いったい,彼らが病院を抜け出してから海にたどり着くまで,何日かかったのだろう?人生が終わる前のわずか数日間に,家族よりも深い絆で結ばれた親友を得て,あのような破格の冒険をした二人。それまでの彼らの人生がどのようなものだったにせよ,その幕切れは確かに幸せだったのかもしれないと思った。

旅の終着点である海岸で,荒々しく雄大な海を眺めながら,先に逝くマーチンの心境を察したルディが,マーチンに贈るはなむけの言葉。それがまた,すごくシンプルだけど,すごくいい台詞。それに力づけられて旅立ったマーチンの傍らに,静かに座るルディの後ろ姿のラストシーン。ものすごく切ないのだけど,不思議な爽快感にも満たされる。すべてをやり終えて,悔いもなく死を受け入れる彼らと,母なる海の咆哮・・・・哀しみと癒しとがそこにはあり,これはまぎれもなくハッピーエンドなのだろう。
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テンポのいい面白さ。
ちょっとトボけた洒落たセリフ。
魅力的な登場人物たち。
そして根底に流れる人間愛。

これは間違いなく,隠れた名作のひとつなので,未見の人はぜひ!

2010年3月 4日 (木)

南極料理人

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面白いとは噂に聞いていたけど,ほんとにね~,これとってもいい作品。そう,さりげなく癒し系というか。

究極の単身赴任,行き先は南極。
ペンギンもアザラシもいない,ウイルスさえ生息できない,平均気温マイナス57度の地。そこに派遣されたチームのメンバーは,無論,生え抜きのエリートで,使命感に燃えた人々かと思っていたら,これがけっこうみんなかなりの「ゆるキャラ」で。作品全体をこの「ゆる~~~~い」雰囲気が最初から最後まで支配していて,「これでいいのか?」と思いつつも,なんだかほっとするこの心地よさ。

南極でのお仕事の様子や,単身赴任特有の悩みは,そんなに深刻に描かれていない。そう,焦点はあくまで調理担当の吉村さん(堺雅人)の作る,「おいしいごはん」

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のっけから,食卓に並ぶ料理の豪華さに目を見張る。和洋中華,何でもござれの腕利き料理人の西村さんが,丹精込めて作る食事を食べる隊員たちが羨ましい。いや,別に南極へは行きたくないけど…。

男ばかりの食卓の風景は,食材や調理法や味付けについてのおしゃべりに花が咲くこともなく,食器のたてる音がせわしなく響くばかりだが,それでも誰もが,西村さんの作る食事をとても楽しみにしているのが伝わってくる。
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ワルキューレの騎行
の曲をバックに,「皆さ~ん,今日のお昼は,おにぎりと豚汁ですよ~」という,西村さんのアナウンスが雪原に響くと,我先にと転がるように帰ってくる隊員たちが可愛い。

だからこの後で,別の隊員が「皆さん,一時半になりました。ぞうすいの時間です。」というアナウンスをしたシーンでは,「え,さっきお握りたらふく食べたのに,また雑炊食べるのかよ?」と突っ込んでしまったが,ぞうすいって雪を集めて生活水を造る「造水」のことだったのね。自分の勘違いに大笑い。
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とにかく全編を通して出てくる豊かな食事,そしてそれをめぐる,ちょっとしたアクシデントや南極ならではの工夫や苦労が面白い。それも爆笑する面白さではなく,ちょっとトボケたゆるい面白さ。

ストレスで,夜中にバター丸かじりとか,やっと完成した手作りラーメンを食べたいばかりに,オーロラ観測を全員がサボっちゃうとか。折々の,隊員たちの名台詞がなんともまた笑えるのだ。

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南極氷のオンザロック

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西村くん,僕ら,気分は海老フライだからっ!!!

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西村くん,どうしよう~,これ,面白いよ~~

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西村くん,僕の身体はね~,ラーメンでできているんだよ。(泣)

とりたてて大事件や盛り上がりがあるわけでもなく,こんな感じで隊員たちの日常と食事の物語が淡々と,ゆったりと続くのだけど,なんだかこれをいつまでも観ていたいような,終わってほしくないような気持ちになった。 

食は生きる源。
食は癒しとコミュニケーションを担うもの。
そして食とは,作り手の創意工夫と愛情の賜物。

そんなあたりまえのことを教えてもらえる作品。
大好きな堺雅人さんの癒し顔を思い浮かべながら,私も家族のために,美味しいごはんを作りたくなった。

2009年12月14日 (月)

2012

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パブリック・エネミーズ目当てに劇場へ行き,空いた時間にもう一本観たのがこれ。時間の関係で吹き替え版を。エメリッヒ監督のディザスター・ムービー集大成なら,できれば劇場の大スクリーンで観るに限るから。まあ,いつものことでこの監督には映像以外はそんなに求めていないので,DVDで再見することはないと思って。

ほんとにそれで正解だった。この作品の見どころって,1に映像,2に映像,3.4がなくて,5に映像だったから。
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主人公は売れない中年作家で,離婚した妻との間の二人の子どもとはあまりうまくいってない,という,この手のお話にはお決まりの設定で物語は始まる。今回の地球滅亡の原因は,大規模な地殻変動によるもので,大地震,火山の大噴火,大津波・・・と,まるで地球が爆発するかのような騒ぎである。・・・・そりゃ,これでは誰も助かるまい。逃げようという気力すら凍りつくほどの崩壊力・・・あれよあれよという間に足元の地面が崩れ,空からは火や硫黄が襲いかかる。

そしてその中を,車で,あるいはにわか操縦士の操る飛行機で,間一髪に逃げ切ってゆく主人公の一行。あれはいくらなんでも無理だろ~~~~!!!!(と,つっこんではおそらくいけないのだろう) しかし,破壊映像のすさまじさと,主人公たちの運のよさがあまりにも非現実的で,かえってちっとも怖くない。
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しかし前半はこんなふうになかなか見ごたえがあって,地球がみるみるうちに派手に壊れてゆき,人がまるでゴミのようにあっけなく死んでゆく映像に呆気に取られているうちに時間が過ぎたが,後半,よせばいいのに説得力のないヒューマニズムが出張ってきたあたりから,もうどうでもよくなった。感動させようという気持ちはありがたいが,残念ながら主人公たちに感情移入できないのでちっとも感動できない。綺麗事としか聞こえないのだ。

思うんだが,ここまで大規模な崩壊劇を見せるのなら,そして今までのように宇宙人の侵略や異常気象による災害レベルの話ではなく,「地球滅亡」のスケールの物語だと銘打つのなら ,いっそ腹をくくって誰も助からないようにした方がよかったんじゃないか?
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わたしは聖書の預言する「この世の終わり」を信じているけど,それが実際に始まったら,もはやじっとやり過ごすことなんて不可能だと思っている。方舟に乗ろうが,大金持ちだろうが,運がよかろうが,どんな手を使っても誰も助からないのがほんとうの世の終わりだ。時間さえたてば収まるのなら,それはただの地殻変動であって滅亡ではない。

ま,そんな誰も助からない物語よりはハッピーエンドの方がいいのかもしれないが,この作品のハッピーエンドって,あまり手放しでは受け入れられなかったなぁ。・・・・だって,死んでいった人々の方が潔く見え,生き残ろうとあらゆる手を尽くしている主人公たちの方が見苦しく見えた物語って初めてだった。

監督が心血を注いだ映像を観るだけでも十分値打ちのある作品ではあるが。しかし,主人公の元妻の恋人,可哀そうだったなぁ。あんなに頑張ったのに・・・・。

2009年7月22日 (水)

ノウイング

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地球消滅
・・・その時,人類は何を残せるのだろうか。

あらすじ: 50年前の小学生たちが埋めたタイムカプセルから、数字が羅列されたメモを持ち帰った小学生ケイレブ(チャンドラー・カンタベリー)。彼の父親で宇宙物理学の大学教授ジョン(ニコラス・ケイジ)は、その数列を解析し、激しく動揺する。その数列は、実際に起きてきた過去の惨事と、これから先の未来に起こる災難を予知するものだった。(シネマトゥデイ)

観終わったときに,「あれ~,これってテーマはもしかしてアレかなぁ?」と・・・・。
・・・・以下,独断と偏見とちょっとネタばれのレビューを展開しますので,よろしく。

人類や地球の滅亡の危機とその回避を描いた作品は数多くあれど,これはラストほんとに●●してしまうので,聖書に預言されている神の手によるこの世の終わりを描いたものなのだと思う。だとすれば,誰もそれを止めることはできないのは当たり前で。(厳密に言うと,日時までは誰も預言すらできないハズだが)
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聖書には,神は火と硫黄でこの世を滅ぼす・・・とあるので ,太陽が原因で滅亡する,という設定は理にかなっている。そして,この物語が一番描きたかったことって,「その時,選ばれた者が天に引き上げられる」ということなのかなぁと。・・・・キリスト教用語ではこれを携挙(=けいきょ=Rapture)と言うのだけど。

※この世の終わりに先だってやってくる大艱難(かんなん)時代の前にキリストの再臨が起こり,その時地上にいたキリスト者は,復活したクリスチャンたちと共に天に引き上げられ,「空中で主と会う」。これをクリスチャンは携挙(携え挙げられる)と呼ぶ。(携挙は大艱難時代の後という説もある。)
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↑再臨のイメージ

50年前にタイムカプセルに封印された予言の数々を紐解いてゆく主人公の宇宙物理学教授。従来の滅亡ものなら,彼が何とか滅亡を食い止めてくれるはずなのだが,ラスト近くまでいろいろ奔走するわりには,やはりそれは無理だった・・・・(この展開にがっかりした人も多いはず)

抗えない力によって滅んでいく地球,そして
救われるものと,残されるもの。

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うーん,これはやっぱり,パニックやSFの味付けをされた宗教映画なんじゃないかな?特に現代は,いつ何どき世界が滅んでもおかしくないと,キリスト教圏の人たちは内心思ってるはず。

ただ,滅亡と携挙だけを描いたって抹香臭くって面白くないから,予言の解読やら迫力ある災害シーンやらを組み入れて前半をサスペンスフルに盛り上げ,天使を登場させるとドン引きされる怖れがあるから宇宙人っぽくアレンジし,信者だけが救われるというストーリーにするとまったくの伝道映画になっちゃうから,信仰は関係なく予言を聴くことができた人間」が引き上げられたというふうにアレンジしたんじゃないかしら?・・・深読みしすぎ?
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あの,子供たちが空中に昇っていくシーン・・・・宇宙船のようにも見えたが,漂う神々しいまでの荘厳なムードは,やはりこれは携挙だわ・・・と,きっと白けて観ていたに違いない周囲の観客(そんな雰囲気だった)のなかで,私はちょっと感動して祈りたい気分になった。

ニコラス・ケイジが息子と別れるときに言った「今にわかるよ・・」という台詞も,最後を迎えるシーンで牧師の父が「これが終わりではないよ」と言った台詞も,クリスチャンなら腑に落ちる。なぜなら,残されて滅ぼされたかのように見える者にも,セカンドチャンスという救いの道が用意されていることを知っているから。(ややこしいのでこれの説明は省略)
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そんなわけで,キリスト教圏以外では,ラストの展開は???と思われても仕方ない作品かもしれない。

でも,中盤までの展開はなかなか斬新で面白く,また,航空機や地下鉄の事故の映像の迫力と臨場感はすごい!人々の苦悶する様子や音声も,とてもリアルでそれだけに恐ろしさが伝わってきた。これはやはり大画面で観るべき。

ただ,ラストのラストのあのエデンの園みたいな映像は・・・あれは要らんかったかな。
付け足しすぎ!あのシーンで終わられると脱力する人多かったのでは?

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おまけ。びみょ~に似合わないツーショット。   

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