カテゴリー「映画 ま行」の7件の記事

モーテル

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殺人現場を盗撮して楽しむ,サイコな殺人鬼の経営するモーテルに泊まってしまった夫婦の,死に物狂いの脱出劇

近年,やたらグロさや痛さを売りにしたホラーやサスペンスが氾濫する中で,これは珍しく,凝ったトリックや特殊メイクや,異常なシチュエイションなどに頼らずに,地味でレトロながらも,シンプルかつ直球勝負のサスペンスだった。・・・・こういうの,かなり,好きかも。

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デヴィッド(ルーク・ウィルソン)とエミリー(ケイト・ベッキンセール)は,離婚を決意した夫婦。どうやら愛息子の死が,彼らの不和の原因らしいが,妻の実家から帰るとちゅう,車の調子が悪くなり,ふたりはさびれたモーテルに泊まるはめになる。

薄気味の悪い雰囲気に,躊躇する妻と,彼女の忠告にわざと逆らっているとしか見えない,意固地な態度の夫。なるほど,冒頭からこの夫婦の間には険悪なムードが漂いまくっている。(夫が妻の直感を信じてこんなホテルに泊まらなければ,そのあとの災難は起こらなかったと思うけど・・・・。)

で,通されたお粗末な部屋にいくつも置いてあったビデオテープを,無聊を紛らすために再生してみた夫は,その中に収録されていた,生々しい殺人シーンを見ているうちに,それが自分たちが今いる部屋の出来事であることに気づく・・・・。

この殺人ビデオが,何とも素人くさくて,それゆえに,余計リアルで恐ろしい代物となっている。映し出される人たちは美形でもなんでもないごく普通の外見のひとたちで,彼らが覆面した3人組になぶり殺しにされるシーンは,実際にあったことの映像のような錯覚を起こさせるのだ。
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モーテルの真の目的がわかって戦慄を覚えるデヴィッドとエミリー。
この,盗撮に気づいたあたりが,一番怖かったかも。
それからは,いよいよ命がけの鬼ごっことかくれんぼが開始する。

部屋の中だけでなく,モーテルの建物全部を使って(地下道や天井裏まで)犯人たちから逃げ惑う二人。このあたりの展開は,シンプルではあるけれど,手を替え品を替え,息つく暇もないスピーディな展開で,はらはらドキドキした。

絶望的な状況でも,決してあきらめない夫がいきなり頼もしい奴に見えてきたから不思議だ。(もっともこのモーテルに泊まる原因を作ったのは彼なんだから,そのくらい頑張らないと,ヨメに申し訳ないというものだけどね)
Cap001
犯人たちは3人。その中でも親玉は,フロントにいたこいつ
一見ごく普通の,しょぼいおじさんのような外見なのに,うちに狂気をタップリ秘めているのが怖い。被害者たちに盗撮にわざと気づかせて,恐怖のどん底に陥れるのが楽しくてたまらない,といった異常者だ。被害者が怖がるのを見て興奮するのかもしれない。

彼ら犯人のくわしい人間像や背景,犯罪の動機などは一切説明なしだが,この作品は純粋に「異常な殺人からの脱出」だけに絞って描かれていたので,そんなものがなくても十分面白かった。
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やっと呼ぶことができた警官も,あっさり犯人たちに殺されてしまうし,(この手の作品では警察が頼りにならない,というのはお約束だけど)ついに夫がやられたときには,ハネケ監督の超後味の悪い作品「ファニーゲーム」を思い出したりもしたのだが・・・・。

夫が殺された(と,見えた)後の,ヨメがいきなり強い,強い!
それまでパワーを隠してたんちゃうんか?と思うくらい。(ケイト・ベッキンセール,何たって,もとヴァンパイアだもん・・・・

このひとは,女性らしい繊細な美しさもあるのに,やはりアクション女優の貫録もある。犯人たちから逃げるために,庭を全力疾走するシーンは,いっしょにいた夫よりも足が速かったような・・・。
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ま,最後は,息も絶え絶えのハッピーエンド,という感じだが,自分も全力疾走したあとのような,「疲労感」と「達成感」がじわじわと・・・・。爽快感はないけれどね。

それにしても,ダンナの生命力,強すぎるように思いません?
あれは,ふつうは死んでるよ・・・ぜったい。だって一晩たってるんだよ?
ヨメが抱き起した時に,まさか息を吹き返すとは~~wobbly う,嘘やぁ~~。
でも,あそこで死なれても,中途半端に後味が悪かっただろうし・・・・。

B級なんだけど,主演の二人の演技のうまさが,この作品の格を上げていたような・・・・。特にケイト・ベッキンセールはよかった。

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迷子の警察音楽隊

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迷子の警察」という,あってはならない取り合わせ。おまけに「音楽隊」という何やら愉快げな言葉までくっついた題名に,とっても興味をそそられて鑑賞。頭の中には,なぜか「ブレーメンの音楽隊note」のラブリーな映像が浮かんだりして。そのあらすじは・・・

文化交流のため、イスラエルにやって来たエジプトのアレキサンドリア警察音楽隊のメンバー8人。しかし、空港には迎えもなく、団長(サッソン・ガーベイ)は自力で目的地を目指すが、なぜか別の街に到着してしまう。途方に暮れる彼らを、カフェの店主ディナ(ロニ・エルカベッツ)がホームステイさせてくれることになり……。(シネマトゥデイ)

全員が,鮮やかなセルリアン・ブルーの制服を着こんだ音楽隊のメンバー。
だだっ広い異国の地で,楽器とともにぽつんと取り残されて,それでも生真面目に整列している彼らの姿からは,冒頭から,哀愁の混じった可笑しさが漂う。
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対立する宗教と、異なる文化や風習をもつ,エジプトとイスラエル。
ホテル一つない僻地の町で,見ず知らずの異国の家庭に一晩やっかいになるなんて,泊まる方も泊める方も,最初はさぞ居心地が悪かったに違いない。

音楽が彼らの心をつなぐ架け橋となって,ほのぼのと心あたたまるひとときが訪れる・・・と言うような展開になるのかなと思ったら,
いや,別にそこまでの展開にはならなかった・・・sweat01
えっ?そんなハナシじゃないのか・・・wobbly

彼らと,投宿先の家族との間に流れる,ぎこちない空気と,すれちがう会話。
いっしょに知っている歌を口ずさんだりして,一応うちとけようと努力を試みるが,劇的な盛り上がりもないまま,気まずい夜は更けてゆく・・・・。あ~あ。

しかし,中には控えめだけど,心のあたたまるエピソードもある。
イケメン警官が,オクテのイスラエル青年のダブルデートに同行し,彼に恋の手ほどきを教えるシーンは,とても微笑ましく,優しさとユーモアが込められた場面だった。

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また,頑なで感情を見せない隊長が,慣れない英語でディナと会話を重ねるうちに,自分のもっとも触れてほしくない「家族の死という封印した哀しみ」を告白するシーンは,じーんとした。

見ず知らずの相手だから・・・別世界の住人だから・・・
かえってプライドも捨てて弱みをさらけ出すことができたのだろうか。

国が違っても,生きてきた歴史が違っても,信じる神様が違っても・・・・
だれもがみんな,それぞれの痛みや幸せを抱えて,懸命に生きていて・・・・。
そして,同じ人間だからこそ,国籍を越えて互いに癒し合うこともできて・・・。

彼らのささやかな人生が,ほんの少しだけ交錯した不思議な夜が明けて,
無事に行き先にたどり着き,演奏をする彼らの映像で,物語は幕を閉じる。
誇らしげに指揮をとる隊長のもと,彼らの国の音楽が高らかに響く。
彼らの奏でる音楽の調べは,きっと昨夜の交流のおかげで,より美しく冴え渡ったのではないだろうか・・・・。

淡々としたストーリーにもかかわらず,鑑賞後に,じわじわと心が満たされる作品
カンヌで審査員を魅了し,「一目惚れ賞」を獲っただけのことはある。

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魔法にかけられて

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ディズニーだしぃ,お子様向けだしぃ~gawk と,鑑賞を後回しにしていたこの作品
世間の評判がすこぶるよろしいのを耳にして,本日鑑賞してきた。そしたら・・・

これがまた,お見事!のひとことに尽きる 素晴らしい作品だったcrown
楽しくて,可笑しくて,可愛くて,ちょこっとほろりとして・・・・
子供だけではなく,大人もみんな文句なく楽しめる,そして鑑賞後は素直に幸せな気分になれる,そんな愛すべき作品。

童話の国のお姫様ジゼルは,婚約者のエドワード王子の継母に,深い井戸の底へ落とされる。そこはなんと現代のニューヨークにつながっていた・・・!
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もしも,童話の中のプリンセスやプリンスが実写となって現代に現れたら・・・・?
童話キャラと現代人。互いの価値観はまったく違い,かみ合わない会話やトンデモなリアクションが引き起こす大騒動が,なんとも可笑しい。

心優しく,動物に囲まれて,歌とダンスと,恋への憧れで生きているようなお姫様のジゼルと,白馬を颯爽と乗りこなし,同じく愛する女性に忠誠を誓うエドワード王子。
童話の世界ではとても素敵に見える彼らも,現代社会に放り込まれると,
ただの「イカレたコスプレ人間」にしか見えない。
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ひょんなことから,ジゼルを居候させる羽目になったロバート とのやりとりを通して,ジゼルは現実社会のあれやこれやを体験する。童話の世界でしか通用しない彼女の風変わりな言動は,あるときはみんなを困惑させ,またあるときは反対にハッピーにさせる。

出会いとともに恋に落ち,「いつまでも幸せに暮らす」ことのできる童話の世界。
それに比べて互いを知り合う期間が存在し,
「いつまでも幸せに暮らす」ことができるとは限らない現実の世界。
童話の世界では感じたことのない,怒りや哀しみといった複雑な感情。


歌い,踊り,夢見るだけのお姫様だった彼女が,次第に現実世界の感覚を身につけていき,ロバートに抱く感情もまた変わってゆく・・・・・。
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童話キャラを演じた役者さん,みんな素晴らしかった。

ジゼルを演じたエイミー・アダムス。もともと愛くるしい女優さんだけど,彼女の身ごなしが,まさにディズニーアニメの,お姫様の動きそのものなのだ。(絶えず踊っているような軽やかな歩き方とか,両手の指を優雅に反り返らせてしゃべる癖とか,可愛らしく見開いた瞳とか)

エドワード王子(ジェームス・マースデン)もまた,非の打ち所の無い,ながーい足とか,能天気に見えるほどのお人よしスマイルとか,「いるいる,こんな王子様」と膝を叩いて納得。このエドワード王子の,底抜けにいいヤツなんだけど,ヌケてるキャラというのがとってもよかった。

歴史に残る王子様などは,もっとしっかりした御仁でないと務まらないだろうが,お姫様に求婚するためにだけ登場する童話の王子様って,きっとこんな風に,
単純にいいヤツなんだろうなぁ

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ナサニエルを演じたティモシー・スポールに至っては,演技なんかしなくても,もともとのお顔が,童話の世界の住人のようだ。

そして何といっても一番のヒットは,役者ではないが,ジゼルを助けようと奔走する,リスのピップ。現代ではしゃべれなくなってしまい,懸命にパントマイムで意志を伝えようとする,その仕草の可愛らしさと可笑しさに,笑った,笑った!
そしてまた,そんな必死のパントマイムが,察しの悪い王子に全く伝わらないので,また笑えた。笑いを噛み殺しながらの爆笑だったので,最後は涙が出て悶絶しそうだった。

ラストはちょっと意外な展開(でも,なんとなく予想はできたけど)が待っていて,スーザン・サランドン演じる魔女とのバトルシーンもあって,結局はみーんなが幸せになって・・・・。
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冒頭とラストを飾る「飛び出す絵本」の仕掛けも素晴らしかった。ここらへんの完成度の高さは,さすがディズニーだ。

オーケストラ仕様の華やかなテーマ曲に包まれるエンドロールの間,なかなか立ち上がる気になれず,沸き起こってくる「幸福感」にしばらく身をゆだねておりました・・・heart02

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マイティ・ハート/愛と絆

010 2002年にパキスタンで実際に起こった,テロリストによる
アメリカ人のジャーナリスト誘拐,殺害の事件の映画化。
夫を誘拐される妻,マリアンヌ・パールを,アンジーが演じると聞いて
とても楽しみに劇場に行ったのだけど・・・。

ごめんなさぁぁい・・・寝てしまいました。途中の一部分。
でも,これは映画が退屈だったのではなく,きっと私の体調のせいだ。
風邪気味,微熱あり,おまけに仕事帰りの夜の鑑賞だったから(←馬鹿)
夫の捜索が開始されてからの展開が やや平坦に感じられて
気がついたら 時々意識が薄れていって・・・・
夫の死を知ったアンジーの号泣(←ほとんど咆吼)ではっと我に返り
再度ウトウトしかかった時に,出産シーンの絶叫で またもや我に返った私。002 ウィンターボトム監督,ドキュメンタリー風に撮っていて
音楽もほとんど使ってないから
まるで実際の記録映画を観ているような,
生々しさと緊迫感
があった。(←だったら寝るな!)
アンジーの演技は,絶賛されていただけあって,素晴らしかったと思う。
色を使わず,ほとんど素顔に近いメイクの彼女は
夫への深い愛や,今にも崩れ落ちそうな精神状態でいながらも
気丈に夫を待ち続ける妻の役を,完璧に演じていたと思う。
夫の死を告げられるシーンの演技は,確かに圧巻だった。012 ただ,一つ不満に思ったのが,彼女の心境の変化の描写
あれだけの苦しみを乗り越えて,冷静かつ公平なコメントを発言できるなんて
嘘っぽいとまでは言わないけど,
そこに至るまでは,相当な葛藤や,苦悩があったはず。
夫をあのように殺されて,犯人を憎まない妻なんていないでしょ!
立ち直るまで,しばらくかかりますよね。それが自然よー。
憎しみや悲しみをどうやって克服できたのか,そこんところを
もっと丁寧に描いてほしかった。(実はそこが一番知りたかったもんで)


・・・なんて,やや辛口になってしまいましたが,
DVDになったら,もう一度体調を整えてじっくり鑑賞してみたいです。
確かに,この時代にマッチしたタイムリーな作品ではありますね。

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マッチポイント

324444_003 人生の勝ち負けは運のよしあしで決まる。 

なんてシンプルで 人のやる気を削ぐメッセージだろうか。

しかし悔しいけど、ある意味人生の真実をついているのかもしれないと,このマッチポイントを観た後、しばし憮然として考え込んでしまった。お洒落で洗練された英国の上流社会を舞台に繰り広げられる,一見火曜サスペンスドラマのような物語なのだが,ラストにさり気なく込められた毒に、ウッディ・アレン監督らしいとため息。まあ、何を基準にして人生の勝ち負けを決めるのか,人それぞれ違うだろうけれど。
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この物語の主人公のクリスにとって,人生の勝ち負けを決める重要なポイントは,家柄や裕福な生活だったらしい。彼は職業のテニスのコーチがきっかけで,上流階級のトムの一家と懇意になり,トムの妹クロエとの結婚にこぎつける。

彼女の両親にも気に入られ,舅の経営する一流会社で,有能なスタッフとして活躍する場を手に入れる。野心あふれるクリスには,まさに願ったり叶ったりの人生が展開してゆくわけだが,トムの婚約者でセクシーなノラと密かに情事を持つようになってから,彼の人生は破滅の危機が訪れそうになり…。

クリスを演じるジョナサン・リース・マイヤーズは,ハンサムなんだけど,どことなく影を感じさせる飄々としたたたずまいの俳優さんで,これまでの出演作では、ややアクのある役柄が多かった。(今回もアクがないわけではない)
その幸福とは言えない生い立ちゆえか,折に触れて暗くかげるまなざしは,クリス役にぴったりはまっていたようだ。
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クリスの情事の相手の妖艶なノラ役に,今が旬の女優スカーレット・ヨハンソン。真珠の耳飾りの少女とはまたうってかわって,男心を虜にせずにはおかないような ファム・ファタールの役で,これぞ彼女の本領発揮。

しかし、この物語の彼女は,中盤まではクリスに対し,ヒステリックに離婚を迫ったりして振り回すが,最終的には彼に騙されて,殺されてしまうという お人よしで哀れな役まわりになってしまっているのが妙に新鮮だった。

ひとたび手にした成功の座を,一人の女との情事と引き替えにはできないと,悶々としたクリスが下した決断と,その実行。
まさに三面記事に載りそうな,ありがちな物語である。
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しかしこの物語が決してありきたりでないのは,ひとえにラストの意外性。いかにもウッディ・アレンらしいあのラスト。運さえ良ければ,たとえ犯罪を犯しても見逃されるという,倫理もへったくれもない展開。

・・・私は正直,開いた口がふさがらなかった。

たしかに,このラストのおかげで,この作品はとてもインパクトの強いものとなったけれど,こんな寒々しいことの主張のために,監督はこの映画を撮ったのだろうか?しかし,このラストは,それまでフィクションに思えたこのラブ・サスペンスを,急に一転して生々しく現実味を帯びたリアルな物語に変えた。

クリスのようなケースって,世間に明るみに出てないだけで,
実は結構存在してるんじゃないかと思えてきたのだ。つまり,

運がよければ犯罪者も捕まらないこともあり,
運が悪ければ,被害者が浮かばれないことだってある。
正しい行いをすれば必ずしも報われるわけではなく,
悪いことをしても必ずしも罰せられるわけではない。


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「運命」などという重厚なものじゃない。
「運」というのはサイコロの一振りのような,もっと軽い感じだ。

人生の吉兆を決めるのは,その人の行いでなく,人知の預かり知らぬところで振られるサイコロの目だとしたら,誠実とか正義とか,愛や希望さえも,何と虚しい砂上の楼閣と化すことだろう。
しかし,エンドロール直前のクリスの底知れぬ暗いまなざしの中に,私は一抹の救いを見たような気がした。

・・・人間には良心というものがある。


たとえ今は運のよさで断罪を免れたとしても,彼はこの先,絶え間ない良心の呵責と,罪の発覚に苦しむのではないか。
所詮,人生の勝ち負けを決めるのは,
当人がどう感じるかにかかってくる
わけだから。
彼は人生の勝ち組に入れたわけではなかったのかもしれない。
何も知らない妻のクロエや,生まれたばかりの息子もまたしかり。
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それにしても,ただの火サスに思わせておいて,観賞後は,観客を哲学的な思索の深淵に引きずり込むなんぞ,やはりアレン監督らしい,緻密に考えられた人の悪い作品である。

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麦の穂をゆらす風

Cap050 アイルランドの抗争の歴史にあまり詳しくはないけれど、
この国が,長年イギリスの圧政に苦しんで来たこと,
自治を勝ち取ってからも,条約批准賛成と反対を巡って,内戦が勃発したこと
IRAというテロ組織の存在。・・・・その程度はうすうす知っていた。
アイルランド問題を扱った映画は,その貧困偏狭な宗教観による悲劇
そして今作のような この国の悲史を描いたものなどたくさん観てきたが
この作品が一番心に痛かった。 

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この「麦の穂~」は,
アイルランドの抗争について,マイケル・コリンズのような英雄の目線からでなく,徹底的に庶民の目線から描いている。
どこにでもいる,傷つきやすい柔らかな心をもった青年たちが,最初は同じ思想のもとに
独立のために立ち上がり,後に路線対立を起こして,内部抗争の悲劇に否応なく突入していく様子を,美しい映像ながらも,ドキュメンタリーのような押さえたタッチで,淡々と綴っている。

1920年,アイルランド南部のコーク。
主人公は,医者を目指す秀才ミアン
彼が幼いときから,尊敬し,慕っていた兄のテディは,義勇軍のリーダー。
医者の勉強のために,抗争に背を向けてロンドンに旅立つ予定だった彼は,駅で 英軍の暴挙に敢然と立ち向かう運転手のダンの姿に心を動かされ,義勇軍に入隊。以後は祖国の自由と独立のために,血で血を洗うような苛酷な戦いに 身も心も捧げることになる。
Cap041_2 やがて多くの犠牲と苦しみが実を結び,一応英国との講和条約が結ばれる事になったが,その条約の批准を受け入れるか,それとも完全な独立を目指すかで,かつて共に闘ってきた同胞たちは,激しい論争を繰り広げ,今度はアイルランド自由国軍と共和派とに敵対して,新たな武力抗争がスタートする

観ている最中ずっと,息もできないくらい辛かった。
過剰な演出もないのに,涙と嘆息と苦悩のうめきが全編にあふれていて,心が安まるシーンは一つもなかったような気がする。それでも,スクリーンから目をそらすことができなかった。
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キリアン・マーフィ
の美しいセルリアンブルーの瞳。
抗争前は,医者を志す若者として,知的で穏やかな表情をたたえていた彼の瞳が,革命家として活動するうちに,次第に剛胆で冷静な輝きを帯びるようになる。

幼なじみのクリスを,裏切り者として処刑するときの
彼の身を裂かれるような苦悩の表情。
そして 内部抗争で敵になってしまった兄テディの尋問のシーンで, 「仲間は売れない」と静かに宣言したときの死を覚悟したあの静謐なまなざし。
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血をわけた兄弟の絆さえも,後回しにさせてしまう思想や,
憎んでいない相手と,殺し合わなくてはいけない国って
いったい何なのだろう。

初めは本意でなかった抗争に身を投じ,その青春を血なまぐさい戦いに捧げて,兄の命により処刑されるデミアンと,弟の遺体を前に泣き崩れるテディ。

処刑を命じた兄も,それを拒むことをしなかったキリアンも,
ともに哀れでならない。
彼らの壮絶な生き様や悲しみを目の当たりにして,
そのあまりの痛々しさに涙すら出なかった。

Cap077
彼らが流した,数え切れないほど多くの血と涙のすべてを,
静かに見守ってきた美しいアイルランドの緑の大地
草の葉を揺らして,音たてて吹き抜けてゆく風の音と
哀しみにみちたあの老婆の歌声
がいつまでも心から離れない。

追記;キリアン・マーフィ,「プルートで朝食を」のキトゥンとは全く別人で,ひっくり返るほど驚いた。
(「プルート~」を先に観たものだから余計に)

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ミス・ポター

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ピーターラビット。
それはおそらく世界一有名で愛されているウサギだろう
とくにマニアでなくとも,家中を探してみれば,たとえば進物の食器とかタオルとか,どこかには彼の愛らしい姿を見つけることができると思う。

これはそんな誰もが知っているピーターラビットの生みの親
ビアトリクス・ポター
のお話。生みの親は,「英国の女性」ということしか知らなかったし,レニー・ゼルウィガー主演聞いて興味津々で鑑賞。
今から100年も前の英国では女性は結婚以外の道は用意されてはなかったんだなあ,とつくづく実感。

そんな時代に,しかも上流階級に属しながら,親の勧める縁談をことごとく断りTop_bg01
「私はこれがやりたいの!」と,自分で道を切り開いていったビアトリクスは,確かに当時としてはとても進歩的な女性だったと思う。
彼女の母は典型的なこの時代の女性で,娘の気持ちを理解してくれなかったけど,父親は彼女の夢を尊重し,彼女の生き方を誇りに思ってくれた。この父の精神的なサポートがなかったら,もしかしたらピーターラビットは世に出てなかったかもしれないな。

当時の英国の上流階級のしきたりも なかなか興味深かった。
30歳過ぎても独身のビアトリクスには,外出先もどこにでも「お目付役」のような老女(かつての乳母?)が影のようにお供をする。
「世話をする」というよりは,「一人にさせてくれない」と言う感じ。
・・・なるほどこれじゃ,女性の自立なんて,無理な相談だね。
しかしながら このお付きのお婆さんを演じる女優さんが,またなんとも哀愁のある,それでいて温かい いい味を出していた。
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レニー・ゼルウィガーは,彼女の持ち味である可愛らしさや気丈さを存分に生かした余裕の演技で,はまり役だ。彼女は「ブリジット・ジョーンズ」のヒロインに抜擢されてからというもの太ったり痩せたりを繰り返すことを運命づけられているが,今作の彼女は,ちょっとぽっちゃりしていたかな。
彼女の婚約者ノーマンを演じたユアン・マクレガー。
ぴったり撫でつけた髪型とお髭で登場し,「誰よ,コレ?」と最初は思ったが,彼が演じるノーマンは 不器用で誠実で善良で,ビアトリクスとの恋も「がんばれ!」とつい応援したくなった。(結局,応援の甲斐はなかったが。)
彼が彼女にプロポーズする時に,オルゴールに合わせて歌うシーン。
「ムーラン・ルージュ」で聴かせてくれたあの甘い歌声にうっとりした。

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そしてこの物語のもう一人の主役とも言える,ピーターラビットをはじめとする可愛いキャラクターたち。
ベアトリクスの想像の中で彼らが生き生きと躍動するさまは何とも愛らしく,ついつい劇場で
「かっわいい~」
と叫びたくなって困った。

全体的に見て,ややパンチに欠ける印象は受けるが,何とも,優しくかわいらしい 素敵な映画でしたね。でも女性の自立うんぬんというよりは,私は
際だった才能は,
どんなことをしても 道を切り開いてゆくものだなぁ
 という
ちょっと変わった感想をも抱きました。

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