カテゴリー「映画 は行」の89件の記事

2020年3月29日 (日)

パラサイト 半地下の家族

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劇場で鑑賞。殺人の追憶グエムルー漢江の怪物ー 母なる証明でおなじみの、韓国映画の鬼才ポン・ジュノ監督の最新作にして最高傑作。第92回アカデミー賞の作品賞・監督賞・外国語映画賞をはじめ、カンヌでもパルムドール賞など、栄えある各賞を総なめにした作品だ。

あらすじ;半地下住宅に住むキム一家は家族全員が失業中で、ピザ屋の箱を組み立てる内職で日々の暮らしを何とかしのいでいた。ある日、長男のギウ(チェ・ウシク)がひょんないきさつからIT企業のCEOを務める大富豪パク氏の娘の家庭教師として雇われることになった。パク氏の豪邸と家族構成を知ったギウは、パク氏の一人息子の絵の教師として妹のギジョンを推薦する。味をしめた兄妹は、次いで父のギテク(ソン・ガンホ)をパク氏のお抱え運転手に、母親の チュンスクを家政婦に推薦しようと計画し、それぞれ前任者が解雇されるように仕向ける。こうして一家全員が富豪のパク氏の家庭に雇われることに成功するのだが・・・。

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  前半はコメディタッチでの展開。キム一家の半地下住宅での生活の様子がコミカルに描かれ、他家のWi-Fiの無断使用や雇い主の宅配ピザ店とのやりとりからは、一家の貧窮ぶりやしたたかさが窺える。長男のギウがパク家と繋がりを持ち、一家が素性を偽って次々にパク家に潜入?する過程はこの作品中もっともコミカルで、言っては何だが痛快にすら感じるところかもしれない。パク家の夫人ヨンギョ(チョ・ヨジュン)は美形だが世間知らずで、簡単にギウたちに騙されてしまう。事業では敏腕でも家庭のことはすべて夫人にまかせきりのパク氏もまた、家庭教師や運転手や家政婦に関しては深く詮索することもない。
 
 苦労知らずの富裕層の鷹揚さと、それとは対照的な貧困層の雑草のようなしたたかさ。どちらかに肩入れしているのでもなくどちらかを非難しているのでもない描き方で、ただ二つの階層では「こんなにも生きる世界と価値観が違うんだ」ということを感じる。韓国の富裕層と貧困層の間には日本では想像もつかないほどの「深くて暗い川」があり、両者の住む世界をはっきりと隔てている。こちらからあちらへと移ることは至難の業。そんな中、キム一家はパク家の「幸せをほんの少しおすそ分け」してもらおうとしたのだろう。やり方は詐欺ではあるし、前任者を追い出す方法は卑劣ではあるけれど。
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物語の中盤にさしかかり、(ここからが一気に佳境になるのだが)パク一家が息子の誕生日祝いにキャンプ旅行へと出発した夜、キム一家は留守の豪邸で一堂に会し、傍若無人の宴会を繰り広げる。この後を詳しく書けばネタバレになるので控えるが、宴会の最中にキム家が策略を使って追い出した前任の家政婦が邸を訪ねてくる。その後の急展開の凄まじさと面白さ。なんと、パク家にパラサイト(寄生)していたのは実は彼らだけではなかった・・・!邸の地下には、パク家の家族すらその存在を知らない地下室があり、何年もの間、そこに身を潜めて生きている人物がいたのだ!
 
 物語はブラックコメディ→ホラー&サスペンスと息つく間もなく様相を変えながら、終盤にはさらに仰天の展開となり、ラストは切ない希望とやり切れない諦念が交じり合った強烈な余韻を残して幕を閉じる。日本も、かつての「一億総中流」という時代に比べればじわじわと貧富の差が広がりつつある。それでも韓国の「階層移動はほぼ不可能」なほどの深刻な格差社会に比べれば、日本はまだ「努力や才能や運で豊かな生活が手に入る」チャンスに恵まれている。キム家の家族はみなそれぞれ能力的には決して劣っていない。むしろ娘と息子は優秀なのではないかと思えるのに、学業を頑張っても大学に進学しても、就職すらままならないのが韓国の実情だとしたら、「あちらの世界」に移る努力が報われないならば、彼らに寄生して生きていく方法を選びたくなる気持ちも理解できる。

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 ラストシーンのギウの願い。失ったものの大きさを考えつつも、今はまだ会うことが叶わない父ギテクに思いを馳せる。いつか、いつの日か・・・パラサイトという手段ではなく正々堂々と彼が「格差の壁」を超える日が来るのだろうか。それは実現可能な夢なのか、それとも哀しい妄想にすぎないのだろうか。

2020年2月 3日 (月)

ボーダー 二つの世界

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「ぼくのエリ 200歳の少女」の原作者が描く、現代のファンタジーともSFともいえる摩訶不思議な魅力に満ちた物語。公開からかなり遅れてそれでも劇場で鑑賞できた。これは原作を先に読んでいた。原作と少し異なる展開もあったが、主要キャストのイメージや、その不思議な世界観は見事に映像化されていたと感じた。

ヒロインは税関職員のティーナ。違法物を持ち込む人間を本能的にかぎ分ける能力を持つ。そしてその「醜い」ともいえる一種独特の風貌から社会の中では孤独や疎外感を感じている。(同居している男性と老人ホームに入っている父親はいたが)そんなティーナの前に、自分と似通った風貌を持つヴォーレという男性が現れる。不思議な親近感から、ティーナはヴォーレに自分から接触を試みるのだが・・・・。

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この作品の題になっている「ボーダー」は「境界」のこと。文字通り二つの世界の境目だ。そしてこの物語で描かれる「二つの世界」とは、「人間世界」と北欧神話ではおなじみの「トロールの世界」。実はティーナは人間ではなくトロールで、赤ん坊のときに実の親から引き離されて人間世界で育てられたのだった。ティーナはヴォーレによってその事実を知らされ、それまでこの「人間世界」で彼女が感じていた違和感や生きにくさの理由に思い当たる。そして自分たちの「種」の特性に目覚めたティーナはヴォーレの導きによって「境界」を越え、本来の自分を取り戻していく。しかしそこには当然様々な葛藤も生じてくるのだが・・・。
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これね~~~、サスペンスタッチで始まるので、何の予備知識もなく観た場合は途中で、え?トロール?それって神話の中の生き物じゃん、これってファンタジーなの?とまずそこで驚く。トロールって我々にはムーミンのイメージが強くって、可愛くほっこりとした印象なのに、この物語では、人間たちはトロールを捕獲したり生体実験したり、人間として生かすために尾を切ったり・・・といろいろ非道なことをしていた・・・つまり人間とトロールは友好的に共存しているのではなく、敵対する存在のように描かれている。

そんな設定の世界で、自分が実はトロールだと知らないまま成人したティーナがヴォーレによって「自分が何者か」知らされ、本来の自分を取り戻していく過程は驚きの連続だった。虫を食べ、雷を恐れ、そして生殖の仕方も出産も人間とは男女の役割が反対になる彼らの生態。見た目は人間に似ていても全然違う面があるのだ。

人間世界からトロールの世界へとボーダーを超えるティーナの驚きや葛藤を通して、鑑賞するこちらもそれまで持っていた美醜や男女や善悪の価値観が揺すぶられるように感じた。
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今まで観たどの作品とも違う不思議な世界に強烈な印象を受けるこの作品、見どころのひとつとして、トロールを演じたこのおふたりの特殊メイクの凄さが挙げられると思う。実際の素顔とメイク後のお二人を比べてみるとよくわかるが、特にティーナを演じた女優さんの変身ぶり!役作りのために20キロ増量し、分厚い特殊メイクであえて醜い容姿に変身。それが全くメイクにみえないくらい高い技術だ。(メイクに3時間かかったそうだ・・・。)

2019年11月 4日 (月)

ホテル・ムンバイ

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彼らは信念だけで銃に立ち向かった。

2008年にムンバイで起きた同時多発テロ事件。テロリストに占拠されたタージマハル・ホテルで、従業員たちが命をかけて宿泊客を守った実話に基づく作品。主演はスラムドック$ミリオネアLION/ライオン~25年目のただいま~デヴ・パデル。この人が出てる作品は間違いないクオリティだと信じて鑑賞。

客たちの皆殺しをもくろむ訓練を受けたテロリストに対して、戦闘に関しては全く何のスキルもないホテルマンたち。5つ星ホテルの矜持にかけて彼らが守り抜こうとしたものは「お客様は神様」という信念。ホテル内を知り尽くしている彼らは、必死で客たちをテロリストから隠し、脱出させようと試みる。陣頭指揮を執ったヘマント・オベロイ料理長は実在の人物で、世界中のVIPを顧客に持つ超一流の有名シェフ。一方、パデルの演じた従業員アルジュンは、実在した複数の従業員を合わせて作られた架空のキャラクターらしい。
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この作品はサスペンスとアクションとヒューマンドラマの性質を持つ。いきなり響き渡る銃声や、情け容赦なく虫けらのように瞬殺される人々。どこから敵が現れるかわからない中を、手探り状態で客を誘導する従業員たち。観ているこちらもその場にいるような気持に襲われ、閉塞感や恐怖感が半端ない。また、有名俳優さんが重要な役で出演していて、いくらなんでもこの人は殺されないだろう、と思っていたのに、まさかの処刑シーンとか、救いのない場面には戦慄と衝撃を禁じえなかった。しかし、立ち去ることもできたのに、あえてホテル内に留まる決断をしたホテルマンたちの決意のシーンや、最終戦で銃撃の中でもしんがりに踏みとどまって客たちを誘導するアルジュンたちの勇気ある行動には胸が熱くなった。
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テロ殲滅部隊が到着するまでの数日間を持ちこたえ、500人以上もの人が巻き込まれ、命を危険にさらされながらも、32人しか死者が出なかったタージマハル・ホテル。それは、アルジュンたちホテルマンたちの勇敢で機転の利いた命がけの誘導によって成し遂げられた奇跡だった。絶望や恐怖をたっぷり味わいながら、その中で人種や職業を超えて団結し最後まで希望を捨てない人々の姿から希望を感じることができた。同じような状況に置かれたとき、自分だったらどう行動するのか、問いかけながら映画館を後にした。

2019年5月 4日 (土)

運び屋

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 つい先日、87歳の父がついに運転免許の返納を決めた。田舎住まいなのでできるだけ長く頑張ってきたけれど、さすがにもう限界ということで・・・。高齢者の運転ミスからの痛ましい事故も多発するようになった今日この頃、娘としては内心安堵するものもあった。そんな時に鑑賞したのが、巨匠イーストウッド監督の最新作「運び屋」である。実在した90歳の麻薬カルテルの運び屋をモデルにした作品で、なんと88歳のイーストウッドが主人公のアールを演じた。父とほぼ同年代、米寿を迎えるイーストウッドがどこまでも続く道路を鼻歌を歌いながら運転する映像に「なんて元気なんだ!」とまず最初に驚いた。
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 この物語は、高齢の両親を持つわたしにとっては、しみじみと心に響く「終活映画」だった。そして88歳を迎えたイーストウッド監督にとっても集大成ともいえる最高傑作だと思った。麻薬カルテルの運び屋が主人公なのだから、もちろん緊迫したシーンもあり、主人公アールのものに動じない飄々とした個性と周囲とのやり取りはコミカルでもあったが、それでも観終わったあとにはあたたかく満ち足りた思いが迫ってきた。

 家族も大切・・・。仕事もまた大切。それに加えて、好きなように生きる選択や自由も、時には必要なのかもしれない。人生の黄昏時、振り返って悔いのないようにバランスよく生きたいと願い、先に逝く運命の親たちにも、「いい人生だった」という思いを持たせてあげたいなと感じた。イーストウッド監督の作品には毎回唸らされるが、特にこの作品は、ストーリー、彼の演技、訴えてくるテーマすべてが素晴らしい。
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2018年12月28日 (金)

ボヘミアン・ラプソディ

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 遅ればせながら劇場で鑑賞。すごく評判がいいので、「クイーン」のクの字も実は知らなかった(いや、ほんとです。ロックバンドに興味がなかったので)私も、そんなに素晴らしいならと観に行った。もともと「アマデウス」や「不滅の恋 ベートーヴェン」のような音楽関係の伝記映画は好き。ただし、クラシック限定だっただけで。クイーンの曲で知ってるのはなんと「ウィー・ウィル・ロック・ユー」だけだった。運動会の綱引きのBGMだったのでこれだけは聞き覚えがあったのだ。お恥ずかしい。

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  クイーンのメンバーの中でも、リード・ボーカルをつとめ、奇跡の歌唱力と独自のマイク・パフォーマンスで有名なフレディ・マーキュリーを主役に据えた今作。前半は、偉大なるクイーンがいかにして誕生したか、数々の名曲がどのようにして生まれたかが描かれ、後半はフレディ個人の孤独や葛藤が描かれる。
  他のメンバーとは異なる国籍やセクシュアリティを持ち、突出した才能ゆえの驕りも手伝って、メンバーと反目し、ソロ活動を始めるフレディ。しかし「僕らは家族」というブライアン・メイの言葉通り、自分にとってクイーンのメンバーがどれだけ大切な存在だったか思い知った後に、フレディはメンバーのもとに帰る。そしてラストのクライマックスは、嵐のような興奮と感動を呼ぶ「ライブエイド」のシーン。
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  全編に流れるクイーンの名曲の数々。確かに「知ってる」と胸を張れるのはやはり「ウィー・ウィル・ロック・ユー」だけだったけど、彼らがなぜここまで有名で、後世にも影響を与えるほど偉大なロックバンドと呼ばれたかがよ~~~~~~く理解できた。フレディの伝記としても感動したが、私個人としては、この映画は「偉大なるクイーン」と初めて出会えたことが何よりも大きい。この映画を観てなかったら、私は一生、彼らの音楽と出会うことがなかったかもしれない。
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  クイーンの魅力は、彼らが作り演奏する音楽が、ハードロックからオペラまで多彩で、一つのジャンルに定義できないところだ。メンバーが全員それぞれ作風の違う曲を作っているし、常に新しいことに挑戦し続けた彼らの姿勢のゆえだろう。どの曲も、歌詞も旋律も素晴らしいが、サウンドの華やかさと美しさもまた群を抜いている。エレクトリックギターをダビングして作る「ギター・オーケストレーション」の手法や、フレディとロジャーとブライアンの3人の声を重ねて作るコーラスの美しさが、他のロックバンドでは真似のできない重厚なサウンドを生み出している。

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  フレディの美声のセクシーさとパワフルさは確かに唯一無二だが、聖歌隊経験のあるロジャーの高音(特にボヘミアン・ラプソディのオペラ部分で発揮される)や、ブライアンの魅力的な声がフレディの声に重なるとき、えも言われぬ完璧なハーモニーが生まれる。「キラー・クイーン」や「ボヘミアン・ラプソディ」や、「Don't Stop Me Now」[Somebody To Love」などのコーラスのハーモニーは本当に美しい。そもそもフレディの他にもハイクオリティの実力を持つヴォーカルが二人もメンバー内に存在していたことがすでに奇跡。そしてそれを言うなら、メンバーの誰もが、歌も複数の楽器も作曲もこなせる「マルチ奏者」だったということも、彼らの曲のクオリティの高さに繋がっているのだろう。

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 4人のメンバーを演じた俳優陣は、みんな本人に似ている。ブライアンなんてまさに本人!としか思えないそっくりぶり。しかし彼らが役作りで一番苦労したのは演奏とパフォーマンスの練習だったろう。一日何時間も実際に楽器や振り付けを練習したらしいが、4人とも見事だった。特にライブエイドの場面は実際の舞台と服装も動きも完コピできているから素晴らしい。これにはクイーン本人(音楽監修したブライアンとロジャー)も絶賛したという。
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 個人的には、4人の中で謙虚で温厚な性格でメンバーの間の衝突時の調整役を果たすことも多かったという、ベースのジョン・ディーコンのルックスや人柄が好きだ。彼を演じたのは子役の時に「ジュラシック・パーク」で少年ティムを演じたジョゼフ・マゼロ。あの忘れられない名演技をした恐竜少年が、こんなに素敵に成長していたのね。
 田舎なので応援上映はやっていなかった。残念。みんな静かに鑑賞する中、せめて膝や足でこっそり拍子をとって彼らの演奏を堪能しました。これ、何度も何度も観に行くファンが増えているの、よくわかる。ライブエイドの場面は絶対、大画面と大音響でエキサイトするべき作品だから。

2018年9月29日 (土)

ボストンストロング ダメな僕だから英雄になれた

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劇場で観ていたのだけど,、今頃のアップになりました。

2013年のボストンマラソン爆弾テロ事件に巻き込まれ、両脚を失ったジェフ・ボーマンの実話の映画化で、ジェフ・ボーマン役は名優ジェイク・ギレンホール。ボストンマラソン事件を扱った作品としては「パトリオット・デイ」があるが、この「ボストンストロング~」は、傍題に「ダメな僕でも・・・」とあるように、単なる美談ではなく、ジェフ・ボーマンの葛藤や苦しみや挫折などを生々しく描いているヒューマンドラマだ。

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ジェフを演じたジェイクは、作品ごとに様々なキャラを演じ分けることが出来るけど、今作の彼の演技はことのほか見事だったと思う。何が凄いって、「ちょっとダメダメな普通の青年」を全く違和感なく演じているところ。事故に合うまでのジェフ・ボーマンは、コストコに勤める平凡な青年で、仕事をさぼるのも平気だったりと、情けない一面も持っている。そして彼の家族や親戚は、ワイワイと賑やかで結束力のある一族ではあるものの、豊かさや知性はあまり感じられず(←失礼)、粗野でデリカシーに欠ける印象を受ける。

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それは、ジェフの事故に対する反応や行動にも表れていて、彼らはもちろん力になろうと奮闘するのだけど、肝心のジェフの複雑な心境に真に寄り添える繊細さは、誰も持ち合わせていないし、ジェフの母親パティ(ミランダ・リチャードソン)に至っては、息子が失った脚と引き換えに英雄として世間から脚光を浴びることに関して、ハイテンションになっているかのようにも見える。もちろん彼女が母親として至らないというわけではなく、息子の本心を察する能力が足らないせいだと思う。ジェフがまた、なんでも思ったことを口にするタイプではなく、本心を言わずに抱え込んだり問題を先送りしたり相手に合わせたりするタイプらしいのでなおさら。

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そんなジェフの心の支えとなったのは、恋人のエリン(タチアナ・マズラニー)の存在。彼女と母親との軽い反目や、彼女が妊娠したことでジェフが見せた弱気など、乗り越えるべき困難さは他のカップルよりもたくさんあった二人だけど、最終的には「添い遂げる」方向へ向かって本当に良かったと思う。

両脚を失った痛みからの回復だけでも、どんなに大変だったことだろうかと思う。ある日突然そうなったわけだから、どんな葛藤や苦しみがあったか、想像もつかない。それも単なる自動車事故などではなく、彼は「テロ事件」の犠牲者であり、犯人の目撃通報者でもあるので、当然その後は「英雄」として世間に姿を見せ、「悲劇に負けない、テロに屈しない」というイメージを演じることも期待される。誰もがこれを笑って易々とクリアできるわけがないのは当然のことだと思う。
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そんなジェフ・ボーマンが、どのような心境の変化をたどり、時には落ち込み時には自暴自棄になり、トラウマとも闘いながら再生して、人々を勇気づける「英雄」になっていったか、その成長ぶりを全身で体現して見せたジェイクの素晴らしい演技。彼の主演作品からはこれからも目が離せない。

2018年1月16日 (火)

光をくれた人

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DVDで鑑賞。テーマは夫婦愛というよりは、罪の償いや赦しなのかなと思った。そういう意味でとても心に残った作品となった。

オーストラリアの孤島ヤヌス・ロックに灯台守として赴任した帰還兵トム・シェアボーン(マイケル・ファスベンダー)と、彼の若く美しい妻イザベル(アリシア・ヴィキャンデル)の犯した罪。それは、島に流れ着いた赤ん坊を、自分たちの子供と偽って育てたことだった。ボートには父親と思しき男性の遺体。ちょうど自分たちの子供を死産で失っていたばかりのイザベルに懇願され、トムは事実を報告することを断念し、男性の遺体を密かに葬り、赤子を自分たちの実子と世間に偽って育て始める。

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よく考えたら、これは途方もない罪である。その場限りで消えてしまうような嘘だとか意地悪だとかに比べると、けた違いに重い行為だ。赤子の母親や、その他の身寄りの家族は健在で、赤子を探しているかもしれないのに。人ひとりをそっくり盗み取るような行為であり、生涯、偽り続けていく覚悟もいる罪だ。

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思慮深く真面目な夫のトムは、その罪の重大さを十分理解していたと思う。だからこそ彼は逡巡し葛藤する。

それでも彼が妻の懇願を受け入れのは、ひとえに彼女を深く愛していたから。彼のそれまでの寂しい色褪せた人生を、愛で豊かに彩ってくれたのがイザベルだったから。イザベルの天真爛漫さや明るさは、彼にとって本当に喜びだったのだろう。

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良心の呵責を感じ続けたトムに比べて、母になりたい願いに執りつかれていたとしか思えないイザベルの行為は、身勝手で幼くも思えたけど、孤島に夫と二人きりで過ごす生活や、二度の流産、死産が彼女の理性や判断力を失わせたのも無理はない。トムはそこにも自分の責任を感じ、なんとかして妻の笑顔を取り戻したかったのかもしれない。孤島での暮らしは、世界に存在しているのはただ二人だけのような錯覚を生んでしまうものだから。

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実子と偽って四歳まで育てたルーシーの愛らしさ。トムとイザベルはこの娘によって無上の喜びを得る。しかし、トムは本土に帰ったときに、自分たちの幸せは、ルーシーの実母ハナ(レイチェル・ワイズ)から取り上げたものであることに気づかされ打ちのめされる。良心の呵責に耐えきれず、トムは ハナに匿名で手紙を送り、娘の生存を告げてしまう。それは妻のイザベルにとっては裏切り行為だったのだけれど・・・。

この物語は、さまざまな赦しと愛に満ちている。
トム夫婦がお互いに抱いた愛と赦し。被害者であるハナが、亡き夫を想いつつ、トムたちに差し出す赦し。そして、真実を告白し、罪を償うことでトムとイザベルが得た神の赦しと平安。

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善人も罪を犯す。その動機は様々で、とても切ないものもある。責めたくても責められない罪もある。しかし、それが法的にも裁かれるほどの重さを持った罪である場合、やはり贖罪や赦しを経ないと平安は得られない。善人であるならなおさらのこと。

トムの晩年が穏やかだったことも、成長したルーシーが会いに来てくれたことも、イザベルが書き残した手紙をルーシーに読んでもらえたことも・・・・本当によかったと思った。

マイケル・ファスベンダーの、内面の苦悩や細やかな愛情を表現した演技が素晴らしい。アクション映画でも活躍する彼だが、こういうヒューマンドラマを演じても素晴らしいのね。

2017年11月 7日 (火)

ハクソー・リッジ

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第二次世界大戦の激戦地ハクソー・リッジで、武器を持たずにたった一人で75人の命を救った兵士の実話から生まれた感動作。

主人公は、良心的兵役拒否者としてはアメリカ史上初めて名誉勲章(メダル・オブ・オナー)を授けられたデズモンド・トーマス・ドス
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ドスを演じるのは、沈黙ーサイレンスーといい、この作品といい、信心深い役がここのところ続いているアンドリュー・ガーフィールド。監督は、パッションでイエス・キリストの壮絶な十字架刑を描いたメル・ギブソン。

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再臨派の敬虔なクリスチャンのドスは、「殺人は罪である。」という信念のもと、衛生兵として陸軍に志願し、文字通り「一人も殺さなかった」が、自らの命を掛けて多くの仲間の命を救った。彼の勇気と功績を称えた名誉勲章は、米軍の勲章の中では最高のものである。

映画の前半は、ドスがなぜ「武器を持たない」という信念を持つに至ったか、彼の生い立ちや家族との関係が描かれる。
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少年の日に喧嘩のはずみで、兄を殴り殺しそうになった体験。敬虔な再臨派の信者の母と、第一次大戦で心に深い傷を負った父親。母に暴力を振るう父親に銃口を向けたこと。「絶対に殺さない」という信念で戦場に赴いたドスが、本当に癒したかったのは、戦場で仲間を殺された父の心の傷だったのかもしれない。

ドスが異色だったのは、良心的兵役拒否者なのに志願し、入隊したこと。そして入隊したにも関わらず、ライフルの訓練で「触れません。」上官の命令を拒否し、除隊の勧めも断って、非武装での従軍というスタイルを貫いたことだ。実際、入隊したなら武器を持って戦えよ、と同じ仲間なら彼にドン引きして当然だと思う。場違いもいいところだ。全体の士気も下がる。
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しかし、ドスは、仲間から軟弱者、臆病者と蔑まれて嫌がらせやリンチを受けても、軍法会議にかけられても、決して信念を曲げることはなかった。彼は、自らを「良心的協力者」と称し、「皆は殺すが、僕は助けたい。人と人が殺し合う中で、一人くらい助ける者がいてもいい。」と主張し、軍隊を去らなかった。

しかし、そんなドスへの仲間の評価は、軽蔑から尊敬へ、足手まといから、「お前なしでは戦えない」と指揮官に言わしめるほど頼れる存在へと180度変容する。それは、熾烈を極めた「ハクソー・リッジの戦い」で、ドスが「殺さずに助ける」という信念を実際に行動で示したからだ。
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ハクソー・リッジとは、沖縄の浦添城跡一帯にある丘陵地帯の断崖絶壁前田断崖の別名。ここで米軍と日本軍は、前後11回にわたる激しい争奪戦、攻防戦を約3週間の間繰り広げた。

仲間が崖の下に退却した後も断崖の上に残り、傷ついた兵士の手当をしてロープで断崖の下に降ろす作業を繰り返すドス。一人救う度に「主よ、あと一人救わせてください。」と祈り続け・・・・なんと75人もの仲間を救いだしたのだ。敵の日本兵の手当てすら彼は行った。
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キリスト者がみな、ドスのように戦場で「殺さない」という信念を持っているわけではないし、持たねばならないとも思わない。「汝、殺すなかれ。」という教えは確かに重要な掟だけど、旧約の時代から、「聖戦」というものはしょっちゅうだったし、それに「敵を倒す」ことで味方を守る信念もまた正しい。現に、フューリーで登場した信仰篤い兵士バイブルは、信仰と戦闘で敵を殺すことは別物と、きっちりと割り切っていた。

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「何を信じ、どう行動するか」は人それぞれだ。「敵を殺さずに助けるだけ」の戦い方が、普通の戦い方より素晴らしいというわけではない。「愛する者を守るために武器を取って戦う。」者も無くてはならない存在だ。多くの兵士たちが捨て身で戦ったからこそ守られた祖国がある。ドス本人も、熾烈な戦闘の最中では、「武器で敵を殺す」仲間たちの援護を受け、命を助けられているのだから。

ただ、ドスの凄さは、困難にも迫害にも負けず、自分の信念を貫き、不可能な状況でそれを実行してみせたことだと思う。

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百戦錬磨の兵士でも身のすくむようなあの戦場で、丸腰で仲間を救い続ける・・・それはとてつもなく勇敢な行為であり、助け出した人数が75人もに登ったことを思えば、やはり信念を貫き通す人間の崇高さと、それが他者に与える希望や力に、感動を覚えずにはいられない。特に普段の彼が、控えめで謙虚で争いを好まない人物であったからこそ。「信念」と「信仰」と、それと「彼の信ずる神」の力によって、彼はあれほどの行動を取ることができたのだ。

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この作品での、ガーフィールドの演技は素晴らしい。ドスって本当にこんな若者だったんだろうな、と思わせる爽やかなオーラを醸し出し、その瞳からはピュアな精神がのぞいでいるかのようだ。「沈黙~」のロドリゴ神父の時に比べると、この作品の彼は、繊細で柔和な表情が清々しい。彼はとても知的な俳優さんで、しっかりとリサーチし、役作りを徹底してから撮影に臨んだそうだ。

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そして、この作品のもう一つの大きな見どころは、9割が実写という戦闘シーンのリアルさ。戦争映画はわりと好きでたくさん観ているけれど、これは今までに観た数々の戦闘シーンの中でも、群を抜いて恐ろしい戦場シーンだった。硝煙の中、どこにいるかわからない敵から浴びせられる砲弾の雨。火炎放射器で焼き払われる敵兵たち。足元にはネズミが群がる死骸の山。千切れた四肢やまき散らされたはらわたなどなど・・・。まさに地獄の光景。

箱爆弾とかいう、60㎝の至近距離で爆発しても危険のない爆弾を使った撮影で、ワイヤーやスタントマンは使っているけれど、CGはほとんどなしというこだわりの実写。そのせいで臨場感が半端ない迫力のある戦闘シーンに仕上がっている。戦闘シーンはメル・ギブソン監督は得意だけれど、この作品は本当に素晴らしい。おぞましく恐ろしい場面であるばずなのに、ハクソーが陥落する間際のスローモーションを多用した映像は、美しさすら感じる。

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この地獄のような戦場で、一人残って救出活動を続けたドス。強靭な意志とともに、体力も気力も、運も、すべて必要だったろう。ゆるぎない信念に支えられ、人はここまで強く優しくなれるものなのか、とただただ感動。救出を終えて崖を降りてきた彼を迎える仲間たちの驚きと称賛と畏怖すら混じったまなざし。誰もできないことを彼はやり遂げたのだ。

若者も疲れ、たゆみ、
若い男もつまずき倒れる。
しかし、主を待ち望むものは新しく力を得、
鷲のように翼をかって上ることができる。
走ってもたゆまず、歩いても疲れない。 (イザヤ書 40章30・31節)

2017年3月 9日 (木)

ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ

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1920年代のニューヨーク。敏腕編集者パーキンズ(コリン・ファース)は、F・スコット・フィッツジェラルドやアーネスト・ヘミングウェイらの名著を世に送り出してきた。あるとき、彼は偶然手にした無名の作家トマス・ウルフ(ジュード・ロウ)の原稿を読んでいち早くその才能に気付く。パーキンズはウルフの陰になり日向になり支え続け……。(シネマ・トゥディ)

キングスマンではキレッキレの英国スパイを演じたコリン・ファースが,実在した名編集者を演じる。実話に基づくこの作品の見どころは,コリンの演じるマックス・パーキンズの人柄の魅力と,天才作家ウルフとの親子にも似たあたたかな絆。地味だけど,しみじみと心に残る良い作品だった。

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1920年というアナログな時代,出版社の編集者の仕事って,持ち込まれた作家の原稿(もちろん紙媒体)に目を通し,筆記で添削するという手間のかかるもの(当たり前だが)。パーキンズは,まだ世に出る前の小説家の才能を見抜く目をもち,それまでの編集者とは違って,作品を丁寧に読み込んで助言をする編集者だった。

ジュード・ロウが演じたトマス・ウルフは,自伝的作家で,独創性に富んだ叙情的な文章で綴られた彼の作品は,1920年代後半から1940年代当時のアメリカ文化や風俗を鮮やかに反映している。現在では日本ではあまり知名度は高くないが、存命中は広く知られた作家だったらしい。

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めちゃくちゃな構成と膨大な量ゆえに,出版社をたらいまわしにされていた彼の原稿に天才のひらめきを感じたパーキンズは,大胆な削除も含めた編集作業を行い,処女作「天使よ故郷を見よ」を世に送り出す。ウルフは,登場人物の心情や動作を全て文章にするので,(つまり推敲が出来ないタイプ?)記述の分量などバランス感覚を,パーキンズの編集が補い、ウルフはその点を非常に感謝していたという。

ウルフ自身は周囲に理解されにくく,人を振り回すタイプだったようだ。パーキンズは家族ぐるみで彼を受け入れ,息子を持たないパーキンズと,父を亡くしたウルフの間には,父子にも似た絆が生まれていた。

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「パーキンズなしでは書けない」と言われるのが嫌で,一度はパーキンズの元を去るウルフと,引き留めることはせずに見守るパーキンズ。ウルフが脳腫瘍であんなにはやく命を落とさなかったら,彼は果たしてパーキンズの編集なしでも傑作を生み出し続けることができたのだろうか。

死の床でウルフはパーキンズに宛てて感謝の手紙を書く。彼の死後にそれをオフィスで読むパーキンズが,室内でも脱ぐことがなかった帽子を取る場面は胸があつくなった。

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コリンが演じたパーキンズの,公私に渡って作家の面倒も見る懐の深さと思慮深さがいい。穏やかで,それでいて信念も持っていて。彼を慕い,恩人と思う作家はたくさんいたのではないだろうか。彼がいなかったら,フィッツジェラルドの「グレート・ギヤツビー」や,ヘミングウェイの「日はまた昇る」「誰がために鐘は鳴る」などの名作は,おそらく世に出てなかったことだろう。そう思うと,偉大な業績をなした編集者だったんだなと改めて思った。

2015年1月28日 (水)

フューリー

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今年の1本目はこれ!年明けに,毎年恒例のリフレッシュ旅行先の新宿ピカデリーで鑑賞。

1945年,第二次世界大戦は終結前夜を迎えていた。
死に物狂いで最後の抵抗を繰り広げるドイツ軍を相手に,フューリー”(=激しい怒り)と命名された戦車で死を覚悟で戦った5人の米軍兵士たちがいた。
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フューリーの隊員は,ブラピが演じる指揮官のドンを筆頭に,それぞれ癖のある4人の部下たち。18歳の新米兵士ノーマンの戦場での成長物語も交えながら,彼らの間の熱い絆と,常に死と隣り合わせの戦場の緊迫感がリアルに描き出されている。

監督は,元軍人という異色の経歴を持つデヴィッド・エアー。それだけに,米軍のM4中戦車シャーマンとドイツ軍の最強戦車ティーガーが激突する戦車戦の圧倒的な臨場感や迫力はさすがだ。劇場の大画面で観て大正解だった。

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戦争ものはいくつも観てきたけれど,戦車戦を中心にしたものは初めてで,とても興味深かった。この時代,ドイツ軍保有の重戦車ティーガーは火力がすぐれた88mm砲搭載の頑強なもので,対する米軍のM4中戦車シャーマンは,機動力が自慢だったそうな。撮影に当たって監督は,なんとヨーロッパ中のコレクターから本物の戦車を借り受け,さらに英国ポービントン戦車博物館に所蔵されている世界で唯一走行するティーガー戦車を撮影に使用したというから驚きだ。

極限状態をともに生き抜く5人の乗員たち。車長のドン(ブラピ)は歴戦の勇者であり,部下からの信頼も篤い理想的なリーダーだ。
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戦車乗りとして,これまでいったいどれほどの修羅場をくぐり抜けてきたのか,彼の背中には一面にケロイド状になった火傷の跡がある。彼はどんな戦況でも,その燃えるような闘志と,冷静で的確かつ大胆な指示によって,これまで部下たちを守ってきた。

新兵のノーマンに対しても,ドンは厳しさと優しさを示す。「敵を殺したくない」と泣きべそをかいていたノーマン(戦場で,敵を殺したくないって,いったいアンタ何しに来たの?って誰でも思うけど)を,ある時は手厳しく叱責し教育もするが,その反面彼の心情をひそかに思いやることも忘れない。部下の前で決して弱みは見せないが,実は繊細で複雑な内面も抱えもっている・・・・・。
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シャイア・ラブーフが演じるのは,冷静沈着な砲手のボイド(通称バイブル)。信仰心が篤く,聖書の言葉を引用して,仲間の心を癒し,特に死を迎えた同胞を看取るときに,まるで牧師のような役割を果たす。しかし,クリスチャンとしての信念と戦士としての義務とは別物ときっちり割り切っているので,敵を「殺す」必要のあるときにはためらいがない。

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とにかく,フューリーの乗組員たちがそれぞれ強烈で魅力的なキャラが立っていて,彼らの間に生まれる緊迫感や信頼関係や,絆も色濃く描かれているので,戦闘シーンだけでなく様々な意味で見ごたえがあった。

見ているこちらまで閉所恐怖症になりそうなくらいリアルな戦車内部の映像。劇場ならではの大迫力の砲撃シーン。鑑賞中は,何度も何度も手に汗を握りっぱなしだった。

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フューリーが,なぜ勝ち目もないのに単独で,敵の精鋭部隊300人をたった5人で迎え撃つという暴挙に出てしまったのか・・・・・そこに戦う価値はあったのか?とつい思ってしまうのだけど,・・・・ラストシーン,動かなくなったフューリーの周囲のドイツ兵の死骸の山が,ゆっくりと俯瞰しながら映し出されたとき,彼らは確かに命を失ったかもしれないけれど,彼らが倒した敵の数の膨大さに言葉もなく,無条件で敬意を表したくなった。あのラストシーンは秀逸だと思う。戦車戦の迫力、、そしてそこに生きる兵士たちの思いや体験を,またひとつ知ることができてよかった。こういう良質な戦争映画は,戦争の悲惨さや悲しみも伝えてくれるので,ある意味,反戦映画なのかなとも思った。

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