カテゴリー「映画 さ行」の44件の記事

3時10分、決断のとき

_11873815769406
アメリカ本国では,2007年に公開された傑作西部劇。第80回のアカデミー賞2部門(作曲賞、音響賞)にもノミネートされている。主演は,まだ太る前のラッセル・クロウと,めずらしく地味なキャラのクリスチャン・ベイル。これは観なくっちゃ!

ときは南北戦争後のアメリカアリゾナ州。借金苦の農場主ダン(ベイル)が,強盗団の親分ベン・ウェイド(クロウ)を護送する道中,さまざまな出来事を通して,二人の間に不思議な絆が生まれるという物語。全く正反対の,むしろ敵対するタイプの二人が意に反してバディを組む物語,という点では,マイケル・マン監督のコラテラルを思い出したりして。
10
邦題は「3時10分、決断のとき」だが,原題は「ユマ行き3時10分発」。つまり,3時10分とは,ウェイドをユマの刑務所に護送する汽車の発車時刻のこと。南北戦争で片足を負傷しているダンは,農場の経営に行き詰まり,地主からも嫌がらせを受けて,妻や息子からの信頼も薄れつつあった。ウェイドの護送を引き受けたのは,賞金目当てと,少しでも息子に誇れる仕事がしたかったためだった。

ダン一行は,逮捕されたウェイドを,3日後のユマ行きの列車に乗せるために駅を目指して出発するが,途中,護送の一行の一人をウェイドが殺したり,アパッチ族に襲撃されたり,ウェイドが脱走を図ったりと,さまざまな事件が起こる。
310toyuma553341limagine
この作品のベイルは,バットマンで見せた強さや華やかさは見られず,どちらかというと,うらさびれたキャラである。(しかし,どんなに落ちぶれた風体をしていてもやはりカッコいいのではあるが) 彼の特徴は何と言っても善良で,家族を思うよき父親,という点だ。そして家族を守れない現状を恥じ,家長としてのプライドを賭けて,ウェイドの護送を無事に勤めあげたいと願っている。それが息子に対して,唯一面目を施すことだとも思っている。
310toyumapubm_3
そして,クロウの演じた強盗団のボス,ベン・ウェイド。
その罪状は,強盗,殺人など数限りなく,間違いなく筋金入りの悪党である。クロウの悪役って,珍しい(ずるがしこい上司の役はあったが)んじゃないか?

しかし何と言うカッコよさ!グラディエーター以来のカッコよさかもしれない。彼のハスキーな超低音ボイスは,悪役を演じるときにもピッタリとハマる。悪党のボスとしての凄みや風格は半端じゃない。しかし,同時に彼の風貌(=タレ目)からは,悪役と言えども,どこか憎みきれない愛嬌や哀愁も 感じるのだけれど。
16_2
記事の冒頭に書いた二人の絆は,どちらかというと,ウェイドの心の変化が生んだものだったと思う。

ウェイドがダンの善き家庭人としての生き方を揶揄するそぶりを見せ,ダンの妻に秋波を送ったり,ダンの息子の気をひいたりしたのは,実は彼に嫉妬していたのではないか?と思う。ダンの不器用さ,善良さ,そして善人ゆえの何ものにも冒されない誇りを,自分が手に入れられなかったものとして,羨ましく思う気持ちがあったのではないだろうか?
310toyuma133055limagine
そしてそんなダンへの,そしてダンたち親子への思い入れが,彼にラストの感動的な行動を取らせたのだろう。男泣きする感動のラスト・・・・という宣伝だが,女である私は涙腺こそ緩まなかったものの,ラッセルの行動のカッコよさに痺れ,そして同時に切なさに胸がいっぱいになった。彼の速撃ちのシーンの鮮やかさは必見である。
27
ストーリーは結構シンプルで,話のオチも予想がつくため,この作品の魅力を左右するのは,やはり役者の演技や醸し出すオーラによるところが大きいと思うが,そんな点でも,カッコいい(太ってない)ラッセルや,哀愁の漂うベイルを観れる,というだけでもお勧めの一本である。

| | コメント (6) | トラックバック (2)

重力ピエロ

Poster
なんだか凄い物語らしい,ということだけ小耳にはさんでのDVD鑑賞。あとで原作を流し読みした。重すぎるとも言えるショッキングなテーマを,透明感と軽妙さあふれるタッチで綴った,おそらく他にはない魅力に溢れた作品。原作小説も・・・映画も。

私が好きなのは,断然,映画の方。
原作はちょっと蘊蓄(うんちく)がしつこいというか,私にはすっと入りきれない部分もあって,消化の悪い食べもののような扱いにくさも感じたけれど,映画はそんなこともなく作者の世界に自然に入り込める親しみやすさがあり,それでいて原作の風味やよさはちゃんと活かされていて。とにかく,冒頭の「春が二階から落ちてきた」というシーンからもう画面から目が離せなくなった。
Cast_photo01
なにより演じた俳優さんたちが,みな素晴らしかった。原作だけではイメージが十分でなかった登場人物たちが,映画の中でそれぞれとても魅力的に息づいていた。兄の泉水を演じた加瀬亮さんの地味で飄々とした雰囲気も,弟の春を演じた岡田将生くんから感じる,ガラスのように危うい透明感も,そしてこの二人が一緒に揃った時に生まれる,ほのぼのとした雰囲気も,ほんとにいい感じ。

二人の子ども時代を演じた子役の子供が,また加瀬さんたちにそっくりで。そしてあの「最強の」お父さんを演じた小日向さんと,天使のようなお母さんを演じた鈴木京香さんも素晴らしかった。

ストーリーは非現実的だ。こんな設定も,そしてこんな家族も,実際にはあり得ないと思う。そしてとても重く,辛いテーマを扱っている物語でもある。
Product_note_img01
だけどこの物語の語り口は,あくまでも軽やかで爽やかだ。そう,劇中に出てくる春の名セリフ,「本当に深刻なことは陽気に伝えた方がいいんだよ」をそのまま実行している感じだ。この語り口の爽やかさがあるから,普通の倫理観や常識を,軽く飛び越えた世界を見せられても,違和感は感じなかったのかもしれない。

ありえない話・・・・そう確かに。突然降りかかった悲劇を見事に乗り越えてゆく家族の愛の力は,とても美しいものではあるけれど,実際には不可能じゃないかと思ってしまうし,春の取った行動が正しかったのかどうかもわからない。またこれからの春の人生も何より気がかりで。
090121_piero_sub10
解決しない問題,答えの出ない問題は,依然として残されているわけだけど,ラストシーンに再び「二階から美しく落ちてくる」春を見上げる,泉水の優しい表情を見ると,ああ,この兄がそばにいるかぎり,春は大丈夫だ,と思った。

愛は遺伝子を超える・・・いい言葉だと思う。そして,楽しそうに笑っている限り,重力は働かない,という言葉も。そんな発想が素晴らしいと思う。
Bf_info_img01
辛い現実を変えることができないのなら,どうしてもそれを背負って生きていかねばならない運命なら,せめてその重荷の重力を笑顔によって消してしまおう。そうすれば重荷に潰されずに軽やかに生きていくことができる。「最強の家族」の生きる知恵を,自分も少しでも見習いたい,と素直に思った。

| | コメント (12) | トラックバック (4)

沈まぬ太陽

Smt_ma_large
今日,日曜の繰り替え休日だったので朝から劇場へ。別にファーストディでもレディスディでもない,ただの平日の朝なので空いてると思いきや,チケット売り場には中高年の長蛇の列が!それも全員,映画慣れしていない感じのオジサンやオバサンばかり。・・・・そう,ほとんどがこの,沈まぬ太陽めあてのお客さんだったのだ。並んでいる間に聞こえてくる会話からすると,「徳島ロケがあったそうじゃけん」それを観に来た,という方々も多かった。(徳島ロケ?なんじゃそりゃ)

あんまり混んでるので,これの朝の回は観るのをやめて,午後からの回のチケットを買った。そのかわりに午前中は「きみがぼくを見つけた日」を鑑賞。驚いたことにこちら,お客さんは私ひとりだった!「沈まぬ~」とはえらい違い。なんか貸切状態で贅沢に見せていただきました。
333831view005
前置きが長くなってしまったが・・・・。
午後からの回も超満員だったこの「沈まぬ太陽」,途中の休憩をはさんだ3時間を超える長尺ものだが,全く退屈することなく,最後まで観客を惹きつけてやまないパワーに溢れた作品だった。

いつものごとく事前の下調べも原作も読まずに鑑賞した私は,予告を観た地点で何となく,日航機墜落事故の衝撃の事実を暴こうと奔走した日航社員のお話かしら?と予想していたが,そうではなくて,労働組合の委員長だった主人公が,航空会社から不当な扱いを受けつつも,不屈の精神で自らの信念を貫く姿を通して,腐敗した航空会社の内情を暴く社会派ドラマだった。
007
主人公の恩地元には,小倉貫太郎さんというモデルがいるそうだ。小倉さんは劇中の恩地と同じく,1960年代に,社員の待遇改善と「空の安全」の確立を求めて日航初のストライキを起こした人だ。それがもとで,カラチ,テヘラン,ナイロビと10年間も海外僻地勤務を強いられ,123便墜落事故後は映画と同様,会長室部長として社内改革に力を注いだが,さまざまな圧力によって再びアフリカへ左遷されたそうである。

一人の人間の力では太刀打ちできない巨大な組織悪というものに,立ち向かう人間もいれば,それを利用してのし上がろうとする人間もいる。また,巻き込まれ,潰されていく人間もいる。それらの様々な立場や事情や思惑を抱えた登場人物たちが,互いに絡み合い,せめぎ合うさまは,ずっしりと見ごたえがあった。
005
恩地の30年間にも渡る闘いと試練の日々。彼の背後で,ともに傷ついたり苦しんだりする彼の妻子の思いや,スタート地点は同じだったはずなのに,恩地とは全く正反対の道を歩む親友の行天(三浦友和)の生きざまもまたいろいろと考えさせられた。三浦友和がまた憎々しい役を上手く演じていた。

闘って,闘い続けて,最後には吹っ切れたのか,諦めとはまた違う清々しさを纏うようになった恩地の表情が素晴らしい。「波に逆らってばかりきた自分に比べると,波に振り落とされまいと必死でしがみついている奴の方が大変なのかもしれない」と息子に語る台詞が心に残った。ラストに映し出されるアフリカの壮大な夕日の映像は圧巻だ。人間の愚かしさや醜さなど,すべて忘れさせてくれるような大自然の荘厳さに癒される。

追記; お目当ての「徳島ロケ」って,最後の方のお遍路さんの場面でしたね~。1分もなかったかな。その場面で急に場内がどよめいたのが可笑しかったです。

| | コメント (20) | トラックバック (12)

三国志

Cap014
レッドクリフじゃなくて,アンディ・ラウの三国志です。三国志というよりは「新説・趙雲伝」と呼んだほうがいいような・・・・。DVDで鑑賞!

蜀の五虎大将軍の中でも,常勝将軍と呼ばれた趙雲が,まだ無名の一兵士だった時代からその晩年までを描き,人間「趙雲」の生きざまや魅力を堪能できる作品。前半は彼が名を挙げた長坂の戦いをメインにし,後半は晩年の鳳鳴山の戦いにスポットを当てている。
Cap001
この物語の語り部をつとめるのは,趙雲と同郷の兵士で,趙雲から兄のように慕われていた平安(サモ・ハン)。最初は兄貴分として何かと趙雲の面倒を見ていた平安が,次第に名を挙げてゆく趙雲を嫉妬の混じった複雑な思いで見守るようになり,最後には・・・・という展開を見せるのだが,この平安という人物は三国志演義には存在せず,この作品用に作られたオリジナルキャラだそうだ。
Cap041
オリジナルキャラといえば,
晩年の趙雲の宿敵となる曹嬰(マギー・Q)。

曹操の孫娘
という設定だが,もちろんこの映画用に作られたキャラクター。映画を華やかに面白くするために,あえて女性の司令官を持ってきたのだろう。三国志ファンの方なら,このアレンジには,もしかしたら眉をひそめるかもしれないが,三国志に思い入れのないものとしては,なかなか楽しめた。

マギー・Qは美しく強く,男と互角に渡り合う役がほんとによく似合う。彼女とアンディの一騎打ちも,「ありえん」ようなワイヤーアクションもあったが,エンタメとして楽しめた。
Cap002
趙雲と言えば何といっても,
阿斗救出で有名な長坂の戦い!

レッドクリフの胡軍さんの活躍も素敵だったが,この作品の趙雲の戦いぶりはもっとエンタメ性を追及し,ほとんどありえないような一騎当千ぶりを見せつけてくれている。趙雲だけでなく,馬の活躍ぶりも天晴れだ!(↑の画像を見よ!)

Story_photo01
しかし,後に映る,阿斗の成人した姿(=劉禅)にはちょっとショック。だってとっても無能そうなんだもん・・・。中国では,「阿斗」とは,「小さい頃は優秀だったが、成長すると凡人となった人」とか「無能な跡取り」という意味で使われるとか・・・。

それにしても
アンディ・ラウは美しいshine・・・凛々しい・・・。ほんの少しのシーンだけど,若き日の故郷の恋人とのエピソードも心あたたまるものがある。
Cap008
彼女とはその後どうなったのか,ちょっと気になるところだか・・・・。波乱万丈な趙雲が,ちゃんと平穏な家庭が持てた・・・とは思えないよね,やっぱり。

アンディが演じる若いころの趙雲は,もちろんとっても精悍で素敵だが,年老いた白髪の趙雲もまた,超渋くって素敵だ。(白髪も皺もよく似合うのよ~~,このひと)

老いてますます増し加わる品格と,鳳鳴山の戦いで見せた悲壮感
に圧倒された。
Cap057
矢傷を負いながらも「皆の士気が下がる」 と
鎧を脱がなかった趙雲の心意気。

わずかの部下とたてこもる陣営の前には10万もの曹嬰の大軍。目の前で次々と倒れていく部下と打ち明けられる友の裏切り・・・・。
最期のときを覚悟しながらも,誇り高く馬を駆って,敵陣に単身で乗り込んでゆくラストの彼の姿は最高だった。これ,アンディ・ファンにはたまらん映画だろうなぁ・・・。
Cap027
↑部下を演じたこの方も,なかなかheart04・・・

お題が「三国志」ってのはちょっと詐欺じゃない?という感じもするが,そしておそらく原作の三国志を,都合のいいようにかなり変えてるんだろうが・・・(どこ変えてるかわかんない~)これはこれで,とても楽しめた作品だった。

あ,諸葛孔明は,レッドクリフの金城さんがずっと好み~です。

| | コメント (12) | トラックバック (5)

G.I.ジョー

Gijoeposternew
impactこの戦い,かなり刺激的thunder

あまり好きなジャンルの作品ではなかったが・・・。
はい,そうです。お察しの通り
ビョンホンさん目当ての観賞です。
しかし…始まってみると…
何なんだ~!
こ,この突き抜けた面白さはっ!

Newgijoeriseofcobra12
もともとはアニメというか,アメリカの男子向けのリカちゃん人形みたいなもんが生みの親らしい?そうでしょうね~,なるほど,あり得ないほど,馬鹿カッコいいヒーローぞろいなわけだ。動くフィギュアの実写版?これ,男の子は好きだろうなぁ~~~。

もちろん,お話は薄いです。
観た後に「あ~,面白かったぁ」以外のものは残らないかも。しかし,これはストーリーや世界観よりも,映像やキャラの実写を純粋に楽しめればそれでよい作品なのだろうと思う。2時間の間,「うぉぉぉ」と画面に意識を集中し,日ごろのチマチマしたストレスをスカッと吹き飛ばせればそれでハッピーnoteという作品だった。私にとっては。
_12494180619503
悪役(コブラ)と
正義の役(G.I. ジョー)の見分けがはっきりついて,
悪役の狙いはお約束どおり世界制覇で,
切り札となる最強の兵器ナノマイトの威力は絶大で,
主人公の兵士と敵の女戦士の間には
ほどよくロマンスもあって・・・・

シンプルですっごくわかりやすい!
おかげで思う存分映像に集中できた。

地上最強のエキスパートチームであるG.I.ジョーの不死身ぶりは凄い。わたしゃ,爆発や衝突満載の戦闘シーンっていつも爆睡する癖があるのだけど,この作品に限っては,変わった武器や闘い方がこれでもかと出てくるので,まったく退屈しなかった。特にあのロボットスーツみたいなもんは楽しかった~~~!お気に入り。
Gijoerisecobramovie8 ←これcatface

で,お目当てのビョン様は・・・・あれれ?悪役なんだぁ。
でもカッコいいから,許す。ぞくぞくするほどカッコよかったから。でもあの怪傑黒頭巾の白バージョンみたいなコスチューム・・・武器も手裏剣って・・・・一応,彼は日本人の設定なのか?日本の回想シーンなんて,日本も中国も韓国もみーんなごちゃまぜのヘンなアジアになってたけど・・・ま,あれも御愛嬌かな。
Gijoeleebyunghunstormshadowsiennami
忍者スタイルでない時も白ずくめの衣装で,私は今までは黒を着たビョンホンさんが一番好きだったけど,白もなかなか・・・いいじゃん!

血も涙もない冷酷キャラなのだが,「君に触れたら殺すと言っただろう?グサッ!)」 なんて台詞,ちょっと言われてみたかったりして。彼とスネークアイズとの死闘シーンは,わかっちゃいるけど,どうしても彼の方を応援してしまったわ。
Newgijoeriseofcobra14_2
Newgijoeriseofcobra13
ラストはもちろん,これからシリーズ化されることが予想できる終わり方だったけど・・・・(あの大統領,不気味~~)でもビョンホンさんはもう次回作には出ないだろうから,(生き返らしてくれないかしら?)きっと続編は観ないかも・・・・・えへへ。なんか壊れたレビューですみません。

| | コメント (14) | トラックバック (6)

スラムドッグ$ミリオネア

Sdm_ma_large
観て来ましたよ!
本年度アカデミー賞作品賞を獲得した本作!

あらすじ: テレビ番組「クイズ$ミリオネア」に出演し、賞金を獲得したジャマール(デヴ・パテル)だったが、インドのスラム街で育った少年が正解を知るはずがないと不正を疑われ逮捕される。(シネマトゥデイ)

満足な教育も受けていないジャマールが,こんな途方もない快挙を成し遂げたのはなぜか?警察で尋問された時,ジャマールは言う。「僕は答を知っていたんだ。」・・・そう,出される問題の答はすべて,彼が辿ってきた人生の中にヒントがあるものばかりだったのだ。
Sdm_sb3_large
・・・・そんな都合のよすぎる偶然!と思わなくもないけれど,とにかくクイズの合間に挿入されるジャマールの人生があまりにも壮絶で波乱万丈で・・・・目が離せない。

ムンバイのスラム街での貧しい生活。
暴徒によって殴り殺される母。
兄サリームと,少女ラティカとの生活。
孤児たちを食い物にしている悪党ママンからの決死の逃避。
ラティカの救出とサリームの裏切り・・・・そして再会。

332328view003
ジャマールの人生・・・それは確かに悲惨で薄幸で,ともすれば死と隣り合わせの危険なものには違いないけれど,同時に力強さや,生き生きとした情熱に満ちている。逆境でも決して諦めないまっすぐな彼の気性と,インドという国の持つエネルギッシュなパワーのせいだろうか?

その中でも,ジャマールのラティカへの一途な愛は,彼の人生の原動力そのものだ。彼女を守ること,彼女を取り戻すこと・・・ジャマールの人生の目的はすべてそこに集約される。そんな彼の強い強い想いが,奇跡を生んだのかもしれない。
Subsubd_large_2
幼い時に家も家族も失くし,寄り添って生き抜いてきたジャマールたちの絆。ジャマールと違って野心や打算も備えていた兄のサリーム。しかしいつだって土壇場では弟を守ろうと行動したサリームの最期もまた印象的だ。

とにかく,前向きというか,
正のオーラがパワフルに満ち満ちている
作品。

ダニー・ボイル監督らしい疾走感やアップテンポの心地よいBGMも,作品の爽快感を最高に盛り上げる。おとぎ話のようにも思えても,この暗澹とした時代のさなかに,このようなサクセスストーリーって,万人に愛されるのではないだろうか。
081209_millionaire_sub1
エンドロールの駅の構内でのダンスに痺れた!
この作品中,もっとも好きなシーンかも。
インド風のストリートダンス?を華麗に踊るジャマールって,すごく足が長くって素敵。

| | コメント (48) | トラックバック (22)

スケアクロウ

Cap065_3   
解説;男同士の深い友情を描いたアメリカン・ニューシネマの傑作。出所したばかりのマックスは、南カリフォルニアの道路で、同じくヒッチハイクをしていたライオンと知り合う。ライオンは5年ぶりに帰ってきた船員で、自分の居ない間に生まれた子供に会うため、妻のもとに向かう途中だという。意気投合した二人は、共に行動することにしたが……。次第に深まっていく友情を、ロード・ムービー風に描く。ラストの、ライオンに対するマックスの友情が素晴らしい余韻を残す。パチーノ、ハックマンの好演は言うまでもない。(allcinema)

スケアクロウとは案山子(かかし)のこと。
「やせっぽち」「みすぼらしい人」という意味もあるらしい。

ルックスも信条も性格も正反対の,マックス(ハックマン)ライオン(パチーノ)が,冒頭,南カリフォルニアの乾いた風が吹きすさぶ道路で出会う。・・・・もう,この出会いのシーンからして,とても粋で,惹きつけられるのだ。
Cap029_2
むさくるしく無愛想な大男のマックスは,人懐っこく話しかけてくるライオンに,はじめは返事もしない。
ライオンがマックスに近寄ろうとすると,彼は相手からすかざず離れ,ライオンもそのうち諦める。ふたりは長い時間,ヒッチハイクの車をつかまえるために道路をはさんで相対する。

やがて煙草の火を切らしたマックスに,マッチの火を貸そうとライオンが近づく。それはライオンの持っている最後のマッチだった。二人の男は,強風で火が消えないように,自然と無言のうちに体を寄せ合う・・・。そして意気投合した二人の旅が始まった。

30年前の作品なのに,ジーン・ハックマンはほとんど雰囲気が変わらない。
Cap028_2
そしてなんとも可愛らしい,アル・パチーノ・・・
ゴッドファーザーでの,哀愁と威厳に満ちたマイケルとは全くの別人の,くるくると変わるおどけた表情のアル。大男のハックマンと連れ立つと,いかにも小柄で華奢だ。

正反対のように見える二人だが,マックスもライオンも,
どちらも不器用で,傷つきやすい繊細さを持っている。

俺はひねくれ者でな,誰も信用できないんだ」と言い,人とのかかわりをできるだけ拒み,自分のルールにこだわり,喧嘩っ早いマックス。そんなマックスはピッツバーグで洗車屋を営むのが夢。「ピッツバーグの銀行に貯金しているんだ,一緒に一儲けしようぜ。」というのが彼の口癖だ。
Cap054
一方ライオンのほうは,5年前に捨てた妻子をデトロイトに訪ねたいという。仕送りはしてきたけれど,生まれた子供が男か女かも知らないライオン。彼は,心の中では妻子が自分を受け入れてくれるかどうか心配でたまらない。

ライオンが語るカラスと案山子の関係
カラスは案山子を怖がっちゃいない。笑ってるんだ。そして,こんな面白い奴の畑だから荒らさずにいようって思うのさ。」という持論は,いかにも気楽で優しいライオンらしい独特の考え方だ。笑いの果たす役割の大切さを,身をもって知っていたライオン。もっとも,ライオンにとって「相手を笑わせること」は,すなわち自衛手段になっているのかもしれないが。
Cap058
トラックの荷台にねそべり,列車に飛び乗り,バーでの喧嘩がもとで刑務所で労働もさせられ・・・・それでも,二人の旅は続いていく。

人付き合いが超苦手で短気なマックスが,いつのまにかライオンの影響を受けて,バーで喧嘩になりそうな一歩手前で踏みとどまり,ストリップを披露してその場の空気を和やかなものに変えるシーンは圧巻だ。マックスの厚着ぶりも笑える。

Cap056
やがて到着したデトロイトで,妻に電話をかけるライオン。直前に床屋へ行き,身なりもととのえ,子供へのプレゼントを抱えて。・・・しかし,捨てられた妻の応答は,彼にとって残酷なものとなる・・・。「子供は流産したわ。洗礼も受けられないで死んだのよ。」と妻はライオンに嘘をつく。

受けたショックをマックスには隠し,ことさら明るくふるまうライオン。通りすがりの子供たちを集めて面白おかしい話を演じて見せ,いつも以上に道化師ぶりを発揮した彼が,その後に,唐突に壊れてしまう噴水のシーンは痛ましい。
Cap085
病院で昏睡するライオンに,とりすがるマックスのセリフが泣ける。「俺たちは一心同体だろ」「俺一人じゃ駄目だ。これから誰を信用すればいいんだ」

マックスとライオンの絆の強さ・・・特にマックスにとって,ライオンがどれほど大切な存在になっていたか・・・・。相棒としての彼を失いそうになって,身も世もあらずうろたえるマックスの姿がいとおしい。

ラスト,有り金をはたいて往復切符を買い,ピッツバークに貯金をおろしにゆくマックスの姿から,「彼はお金をライオンの治療費に使うんだろうな,もうこの二人は一生離れないだろうな・・・」という温かい思いが込み上げてきた。

この時代の映画はいい。
CGも巨額の製作費も使わなくっても,いい役者と監督と脚本が揃えば,どんな傑作だって撮れるんだって,映画の原点に帰れる気がするから。

| | コメント (8) | トラックバック (2)

シンドラーのリスト

Shindora
これは命のリスト。この外は死の淵です・・・・

第66回アカデミー賞
作品賞他7部門を制覇したこの作品,ホロコーストを題材にした作品の中でも,金字塔と言われる。・・・・たしかにここまでナチスの蛮行を容赦なく映像化した作品は,これ以前もこれ以後もなかったような気がする。
Cap203
この年のアカデミーの授賞式は,私としては珍しくTVで観る機会があった。
受賞式でのインタビュー場面,実際にホロコーストの体験者であるスタッフの一人(たしか腕に焼きつけられた囚人番号があった)のコメントが今も心に残っている。それは,「同胞たちが,収容所で息を引き取る間際,自分に対して『われわれがどのように殺されていったか,後世に伝えてほしい』と言い残した」という内容だった。
Cap163
この作品にはスピルバーグのオスカー狙いのための作品であるとか,現代のパレスチナ紛争を考えろ,とか否定的な意見もあるらしい。しかしこの作品が,ナチスのユダヤ民族に対する非道な迫害の数々や,そんな時代に大きな「善」を為した,シンドラーという「普通の」人間がいたことを世に知らしめた功績は,やはり称えられるべきだと思うのだ。

オスカー・シンドラー。
Cap146
彼は別にイデオロギーを持っていたわけでもなく,ただの「金儲け主義」から,賃金の安いユダヤ人を雇い始める。酒と女をこよなく愛する快楽主義者で,目的達成のためには賄賂を湯水のように使うシンドラー。彼にとってこの戦争は,一儲けするための道具でしかすぎなかった。・・・・・最初は。

しかし,そんな「俗物」の彼が,物語が終わるころには,儲けた金をすべて投げうってまでユダヤ人の命を救う男に変貌していた。

彼はいつから,そして何故変わっていったのか?
成金主義の男から,
かくも人間愛にあふれ,勇気ある行動を為す人物へと。

Cap170
クラクフのゲットーが閉鎖されるとき,ユダヤ人たちが殺戮される光景を丘の上から見ていたシンドラー。モノクロの画面の中に突如として現れるくすんだ赤い服の少女。彼女を追うシンドラーの表情が痛ましさにゆがむ。彼の心の最初の変換期はこのときだろう。

そしてまた,社交性とPR能力の才はあっても,経営能力はなかったシンドラーが,片腕として雇ったユダヤ人の会計士イザーク・シュターンがシンドラーに与えた影響も,大きなものがあると思う。
Cap160
シュターンは,余計なことはひと言も言わず,黙々と完璧にシンドラーの工場の一切を取り仕切るかたわらで,事あるごとに,役立たずの烙印を押されて殺されるのが確定的になったユダヤ人にも,工場で働く機会を与えるようにした。

最初はそれに対して苦言も呈していたシンドラーだが,次第にシュターンの無言の訴えに動かされ,意識が変わってくる。すなわち「新たな人材を雇う=ひとつの命が助かる」という考え方に。
Cap201_2
最初はシンドラーに対して,心を開かなかったシュターンが,次第にシンドラーとの間の信頼と友情を深めていく過程も感動的だ。はじめはシンドラーが差し出す手も握りかえさず,彼の杯も受けなかったシュターンが,リストを作成する頃にはシンドラーと涙にうるむ目を見かわしながら乾杯をする。ベン・キングスレーの繊細で確かな表情の演技が光る場面だ。

Cap164
そして,この作品でひときわ強烈な印象を残したのが,プワショフの強制収容所の所長アーモン・ゲートを演じたレイフ・ファインズ

アーモン・ゲートは「プワショフの屠殺人」というあだ名を持つ,サディスト傾向もある人間で,戦後には,プワショフ収容所での8000人殺害と,クラクフ・ゲットーでの2000人の虐殺,その他にもいくつかの収容所での数百人の処刑に対する責任を問われて絞首刑になっている。また,レイフ・ファインズが演じたゲートのキャラクターは、2003年にアメリカ映画100年の悪役ベスト50で15位に選ばれたそうである。
Cap185
しかしこの作品の中でレイフが演じるゲートは,無慈悲で残酷な中にも,小心者という複雑な一面も覗かせている。彼が気に入ってメイドとして手元に置いていた,ユダヤ娘ヘレンへの屈折した愛情には,切なささえ感じる。また,シンドラーの勧めに従って「赦す」ことを実行しようとした彼の姿からも,囚人の命を自由にできる権力を持ちながらも,強いストレスのせいか,より大きな不動のパワーを欲していた臆病者の彼の姿が見えるのだ。

・・・・とはいえ,せっかくの善行もあほらしくなって長続きしなかったり,ヘレンへの気持ちも賄賂の力にはかなわなかった・・・という点もいかにもゲートらしいのだが。
Cap191_2
ゲートを演じたレイフ・ファインズは,ユダヤ人を虐殺するときの冷酷極まりない表情や,ときおりシンドラーに見せる気弱な表情,ヘレンへの思いを押し殺す複雑な表情など,なんとも・・・・素晴らしかった。

実際に120キロあったゲートに合わせて太ったのか,この作品ではメタボ気味のお腹だったレイフだが,その数年後のオスカーとルシンダを観た時に「この人って美形!」と驚いたっけ・・・・。
Cap207
シンドラーもゲートも,平穏な環境の中ならば,英雄になることも極悪人になることもなく,普通の人間として生きたかもしれない。しかし,「戦争」「ナチスの台頭」という非常時に置かれた時に,片方は「善」の道を選び,片方は「悪」の道を選んだ・・・・そんな気がしてならない。

ナチス・ドイツの時代・・・・それは,人間の持つ究極の悪の面が現れた時代。
それと同時に,対極にある人間の崇高さもまた,現れた時代だったのだろうか。

物語のラスト,それまでのモノクロ場面に色がついたとき,・・・・「ああ,これはフィクションではなくまぎれもなく実話なのだ」と思い知るとともに,感動の涙が込み上げてくる。

Cap215_2
思えば神に選ばれ,愛された民族であるユダヤの人々は,はるか昔から,迫害と漂流,時には民族絶滅の危機にさらされ続けてきた。それでも彼らはどんなに世界中に散らされても,迫害されても殺されても,消滅することなく,共通の言語や神への強靭な信仰と掟を守り続けて,民族の火を灯し続けてきた。その陰にはオスカー・シンドラーや日本の杉原千畝さんら・・・・外国人の,彼らへの愛の行為があったことを,思い返さずにはいられない。良心に従って行動した彼らに祝福あれ!

一人を救うものは世界を救う・・・・名言である。
・・・・・人間として,一度は観ておくべき作品だと思う。

| | コメント (12) | トラックバック (2)

ジェネラル・ルージュの凱旋

Main
原作の小説も読んでないし,映画「チームバチスタ」も未見の状態で鑑賞。・・・・・理由は堺雅人さんが出てるから。

感想は・・・始まってすぐに感じたことは,「ん?これって真面目な医療サスペンスかと思ったら,コメディみたいな雰囲気もあるのねー」・・・・ということ。
332616view001
阿倍寛,竹内結子,堺雅人・・・
主要キャストの3人のキャラがとにかく面白い!

美人なのに,表情がポカンと弛緩してるような竹内結子。
やけにアクの強い,濃いキャラ(暑苦しい)の阿倍寛。
謎めいた微笑みと厭味ったらしいセリフが冴える堺雅人。

・・・・三人とも,もっと颯爽とした素敵な人物設定かと勝手に思ってたので,慣れるのにちょっと時間を要した。いやいやいや,なかなか三人ともヘンな人たちだ。
332616view003_2
しかし観終わったときには,「この作品って,謎解きサスペンスあり,医療問題(救命救急医療の受け入れ拒否問題とか)あり,合間に主人公たちの掛け合い漫才的な笑えるシーンありで,いろんな楽しさがバランスよくブレンドされた,なかなか小粋な作品だなぁ」と感心した。

サスペンスの方は,匿名の告発文の謎と,癒着が疑われていたメディカルアーツの外交員の殺害事件。(殺害事件の犯人はものすごく意外な人だった。)・・・・・そして医療問題の方は救命センターに費用も人員も投入しようとしない,大病院の金儲け主義について,考えさせられるものだった。

なぜ速水センター長は,いかなることがあっても,救急センターに運び込まれてくる患者たちを断らないのか?彼の別名ジェネラル・ルージュのルージュの意味は?・・・・・これらの謎が解けたとき,ちょっとほろりとしてしまった。
332616view006
あちこちに散りばめられた伏線も絶妙なタイミングで解明されるし,最初から最後まで小技の効いたストーリー展開だ。竹内結子と阿倍寛の,ボケとツッコミそのもののようなやりとりも面白い。

しかし,チュッパチャプスheart・・・・懐かしいお菓子だなぁ。堺雅人とチュッパチャプスってよく似合う。それと,あのルージュrougeは,資生堂のクレ・ド゙・ポーだったような気がしたけど違うのかしら・・・?

| | コメント (14) | トラックバック (6)

JSA

Cvxbvcb
1999年10月28日午前2時16分。
11発の銃声,二つの死体。
共同警備区域(JSA)で何が起こったのか?


朝鮮の南北分断の悲劇を描いた作品の中でも,とりわけ重い余韻を残す傑作だ。監督は,オールドボーイなどの復讐三部作でも有名なパク・チャヌク監督。

Cap005

この作品,もちろん初見ではない。
久しぶりに観てみたわけだけど,事件の真相をあらかじめ知っていて観ると,4人の南北兵士たちの屈託のない交流シーンが切なくて,哀しくて・・・・。それがあんな惨劇につながると知っているだけに余計に,彼らの邪気のない笑顔を観るのが辛かった。
Cap024
禁断の38度線を越えて,
許されざる友情を結んだ4人の兵士たち。

人情味のあふれる頼もしい士官ギョンピル(ソン・ガンホ)と,お人好しで小心者のウジン兵士(シン・ハギョン)は北の朝鮮人民軍の所属。そして除隊を目の前にしたスヒョク兵長(イ・ビョンホン)と,気弱でさびしがり屋のソンシク兵士は,南の国連軍の兵士だ。
Cap006
4人が親しくなったきっかけは,ある夜,スヒョクが誤って38度線を越えてしまい,おまけに地雷を踏んで窮地に陥っていたところを,ギョンピルに助けられたから。

敵でありながら命の恩人という秘密の関係。ギョンピルのあたたかい人柄に惹かれたスヒョクは,彼を「兄貴」と呼んで慕い,石に結びつけた手紙を,境界の川越しにやりとりするようになる。そしてある晩ついにスヒョクは,「帰らざる橋」の38度線を越えて,北の歩哨所の扉を叩く。
Cap028
ギョンピル,ウジン,スヒョク,それにスヒョクの弟分のソンシクも加わって,互いに言葉を交わすだけでも重罪になる4人の兵士たちは,秘かに他愛無い遊びや雑談に花を咲かすようになる。

彼らが心から楽しそうに談笑している場面を見ると,やはり同じ民族なんだよなぁ,と思う。もともとは同じ歴史や心意気を持っていた同胞であり・・・憎みあい,殺し合うような関係であるのは間違っている,ということを感じずにはおれない。
Cap046
とは言っても,ひとたび事が起これば,やはり彼らの関係は
一転して一触即発のものとなる。

あの事件当夜の出来事・・・・
4人が一緒にいるところを北朝鮮軍の上尉に見つかった瞬間に,それまで和気あいあいと楽しかった歩哨所内の空気は,「殺るか殺られるか」という緊迫したものに変わる。本能的に銃をつきつけ合う兵士たち。「所詮は敵なんだ・・・」というスヒョクのつぶやき。
Cap052
4人の兵士のそれぞれの個性と,この事件が彼らに与えたダメージや影響は,はっきりと描き分けられている。

取り乱して引き金を引き,精神のバランスを崩してしまったソンシク。秘密を守ろうと気丈に努力はしたものの,最後は良心の呵責に耐えきれなかったスヒョクの悲劇的は決断。あんなにも親しかったウジンに向けて引き金を引いたという事実は,彼にとって背負いきれないほどの重荷だったのだろうか。
Cap033
そして,ただひとり,事件の最中も,そして事件後も冷静さを保ちづつけたのは,やはりギョンピルだった。常日頃から「実戦で大切なのはいかに速く引き金を引けるかではなくて,冷静さを保つことだ」と言っていたことを,見事に実践してみせた。

彼は事件の直後に,スヒョクとソンシクを逃がす。同志のウジンを無残に射殺したソンシクと,自分に向けて至近距離で引き金を何度もひいたスヒョク(弾切れでなかったら殺されていただろう)なのに。その後は一貫して嘘の供述を述べ,尋問で追い詰められたスヒョクの前ではとっさに渾身の芝居を打って,彼を自供から救う。

日頃は温厚な彼が,事件で受けた心の傷や衝撃は,他の3人に勝るとも劣らなかったと思うのに,いざという時は感情に流されない鋼のような意志の強さは流石だった。
Jsa5
ラストシーン,哀切な曲とともに,この写真が映し出されたとき,いきなり怒涛のように涙が込み上げてきた。板門店を訪れた観光客が撮った一枚の写真の中に,偶然4人が映っている。

北朝鮮側の歩哨に立っているギョンピル。
はるか背後を,こちらに笑顔を向けて行進していくウジン。
南側の歩哨に立っているソンシク。
そして,撮影を防ごうとカメラの前に立ちはだかるスヒョク。

何の罪もない4人に,この後降りかかる悲劇をおもって,エンドロールの間,しばし号泣してしまった・・・・。南北分断の悲劇を描いた作品では,シュリももちろん名作だが,このJSAは,シュリのようなラブストーリーの味付けがないゆえに,一層リアルで重く,やりきれない悲哀を感じる。
Cap041
・・・・この作品が出世作となったイ・ビョンホン
名優ソン・ガンホを前にして気おくれすることなく,堂々たる演技を見せている。トレードマークのキラー・スマイルはあまりないが,精悍さと苦渋に満ちた表情が魅力的だ。

| | コメント (10) | トラックバック (1)