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  • 自分の中の感情に・・・
    ブロークバックマウンテンの名シーンの数々です。

カテゴリー「映画 あ行」の86件の記事

2017年6月18日 (日)

アスファルト

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フランス発の、少し風変わりでハートウォーミングな「団地映画」。イザベル・ユペールが好きなのでDVDをレンタルしたのだが、意外にもとてもよかった。心がじんわりあたたかくなった。

とある老朽化した団地に住む3組の男女の物語。それぞれ世代も職業も背景もバラバラな組み合わせであり、普通ならありえない出会いかもしれない。

車いすの中年男×夜勤の看護師
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団地の2階に住む独身の中年男性スタンコヴィッチ。(名前からしてスラヴ系?)彼は老朽化したエレベーターの修理の費用の相持ちを、「自分は使う必要がないから。」という理由で拒む。彼だけ新しいエレベーターを使わない、という条件で住民は納得。ところが皮肉なことに、スタンコヴィッチはその後脳梗塞(?)か何かで車いす生活になり、エレベーターを使わないと外に出られない羽目に。住民の目を盗んで深夜にこっそりエレベーターを使って病院の自販機でスナックを買うのが日課になった彼は、そこで休憩中の夜勤の看護婦と知り合い、彼女に恋心を抱いた彼は、「写真家」だと偽って彼女との会話を楽しみにするようになるが・・・・。

失礼ながら何ともサエない中年男性。「自分は使わないから」という理由で共有のエレベーターの修理費用も出さないなど、性格的にも変人のにおいがプンプンするが、看護師に会いたいばかりに、まるで初めて恋をした中学生のような言動を取るところは、なぜかほほえましくも思えてくるから不思議だ。

鍵っ子ティーンエイジャー×落ちぶれた元人気女優
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年の差は親子よりも開いているかもしれないこの二人。母子家庭で母親は働いているのか常に不在の青年シャルリと、今はすっかり落ちぶれて団地に最近越してきた元人気女優のジャンヌ。現実に疎いジャンヌに対して、若いのにしっかりしているシャルリは、ジャンヌにオーディションの役柄や演技に対してアドヴァイスをしたり酔いつぶれた彼女の介抱をしたり。普通は仲よくなるはずのない違いすぎる世代と生活背景の二人の間に芽生える、年齢を超えた親しさは、母と息子のようでもあり、ほんのり恋愛めいた色合いもあり・・・・。

この、シャルリを演じた19歳のジュール・ベンシェトリ君
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色気と透明感を併せ持つ美青年なのだが、サミュエル・ベンシェトリ監督の息子さんであり、なんと「男と女」の名優ジャン=ルイ・トランティニャンのお孫さんだそうな。今後の映画界での活躍が楽しみだ。

不時着したNASAの宇宙飛行士とアルジェリア系移民の女性。
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この二人のお話が一番あり得ない出会い方で、かつ一番面白く、心にも残った。団地の屋上に間違って降り立った宇宙飛行士と、すぐに迎えにこないNASAってどうよ?と思いつつ、最初は言葉も通じない二人のズレたやり取りの可笑しさと、次第に疑似親子のように心を通わせていくところがとてもいい。宇宙飛行士を演じたマイケル・ピットを観たのは、ファニーゲームUSA以来だけど、こういう役の彼もいいなぁ。劇中のクスクス、とっても美味しそうだった・・・。

淡々と並行して進むストーリー。3組の男女のお話は、共通点は「団地」というだけで特に接点もなく終わるし、唯一どのストーリーでも触れられていた謎の「音」についても、ラストに種明かしの場面を見ると「な~んだ」となるのだけど、なぜか登場人物すべてが愛おしくなってくる不思議な心地よさがある。

この心地よさの正体は・・・・なんだろう。それまで全く違う世界で生きていた人と人が触れあい、わかり合っていく過程をじっくりと繊細に、そして爽やかに描いてくれているからかな。

2017年4月15日 (土)

怒り

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凄い作品を観てしまった・・・・・。
原作は未読でDVDで鑑賞。一筋縄ではいかない重いものをそれぞれ抱えた登場人物たちのストーリーから、「愛する人を信じ通すことができるのか?」というテーマをじっくりと問いかけてくる物語。

東京の八王子で起きた、残虐な殺人事件から一年後、千葉、東京、沖縄という三つの場所に、それぞれ前歴不詳の男が現れる。三人の男は、それぞれが犯人と何らかの共通点を持ち、誰が犯人であるのか、観客にも後半までは明かされないサスペンスフルな展開だ。

俳優陣が凄い名優揃い。
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渡辺謙を筆頭に、森山未來、松山ケンイチ、広瀬すず、綾野剛、宮崎あおい、妻夫木聡・・・・。それも、殺人犯や、ゲイのカップルや、米軍基地で性犯罪の被害者になる少女や、障害を持った女性という難しい役ばかり。

誰が犯人かは途中からは判明してくる。しかし、普通のサスペンスなら、犯人像や犯行の理由や背景などに焦点を当てるのだろうが、この物語はそこらはあまり詳しく語らない。なぜあのような残虐な犯行ができたのか、犯人の抱えている心の闇については、推測するしかない描かれ方だ。
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それよりはむしろ「犯人ではないけど何らかの事情で過去から逃げている」他の二人の男性と深く関わった登場人物たちの心の葛藤に焦点が当てられていた。

信じたい、でも信じられない。
信じられなくてもそばにいたい・・・でも・・・・。

愛情と猜疑心と愛おしさと恐怖と。そして、犯人かもしれない男たちの醸し出す何とも言えない暗さと哀しさ、繊細さ。天涯孤独で不治の病を持っていたり、親の作った借金から逃げていたり。
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個人的には、東京編のふたりの物語の切なさに泣けた。綾野剛の演じた直人のキャラクター。彼の抱えていた哀しみと、そんな彼を愛しながらも疑いに負けて手離してしまった優馬(妻夫木聡)。ゲイカップルを演じたこのお二人、まるでブロークバックマウンテンのように魅力的だった。いや…脱帽です。千葉編に登場した松山ケンイチさんの、いかにも「人生の裏街道をひっそりと生きてきました」的な雰囲気も、すごく上手いと思った。(こういう雰囲気、なぜか好き)

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タイトルにもなっている「怒り」。

それは、社会の底辺で生きるものが衝動的に抱く理不尽な怒りだったり、今も続く沖縄の米軍基地問題への怒りだったり、愛する人を信じられない自分に対する慟哭だったり。

愛する相手を疑う方も辛いだろうけれど、疑われた方の思いはどんなだろう。黙って姿を消した直人。「違うよ」とはっきり否定して抗議するのが普通だけど、それすらしないほど傷ついたのか、それとも、あまりにもたやすく身を引く癖がついている彼の哀しい生き方のせいなのか?

重く、苦しみに満ちた物語だけど、千葉編や沖縄編からは、一筋の光にも似た救いも感じられる。人間の業のようなものを感じるのは「悪人」と同じかな。

2017年3月31日 (金)

エゴン・シーレ 死と乙女

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スキャンダラスな逸話と、挑発的な作品を残し、28歳という若さでこの世を去った20世紀初頭の天才画家エゴン・シーレ。彼を取り巻く女性たちと、その作品「死と乙女」にまつわるエピソードを描いた伝記映画。

映画の前後にいろいろシーレについてググってみたが、映画はほぼ彼の人生と女性たちとの関係を正しく描いていた。淡々と・・・といってもいいかもしれない。淡々となぞるだけでも面白いストーリーになるくらい、シーレの人生は奔放で非常識でスキャンダラスなものだったのだ。

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演じたノア・サーベトラの、まあ美しいこと!

これだけ美しくて天才ならば、なにをしても許されるだろうと思えるくらい。しかしそれにしてもシーレという男性の、エゴイストぶりとナルシストぶりは、友人なら即座に縁を切りたいレベル。

中産階級の家庭に生まれるも、梅毒で死んだ父親が証券を錯乱して燃やしてしまったために財を失い、16で美術アカデミーに入学するも、師事したい教師がいないと退学。妹のゲルティとの絆は近親相姦の香りが濃厚で、奔放な創作行動ゆえに近隣から白い目で見られ何度か引っ越しを余儀なくされる。

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彼の絵は名声を博し、個展も成功を収めるが、一方ではポルノだという批判も受け、未成年に対する誘拐と猥褻の容疑で逮捕されたことも。彼を支え続けた同棲相手のヴァリをあっさり捨てて、中産階級の娘エディットと結婚した時も、ヴァリとは一年に一度は会いたいと、愛人契約を結ぼうとする。なんと妻の姉アデーレとも、結婚前に関係があり、結婚相手もシーレは姉妹のどちらでもよかったみたいだし。

いや、こう書き出してみると、シーレはまさしく筋金入りのゲスだ。いったん関わったら最後、愛してしまったりしたら運のつきとしか言いようがない。シーレ自身はその折々は真剣に愛しているつもりでも、結果的には女性を利用し食い物にし、犠牲にしていることは間違いない。

劇中に登場するシーレと深く関わった女性は五人。

妹ゲルティ
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少女の時にシーレのヌードモデルをつとめる。シーレとは兄妹以上の絆がある。シーレの絵描き仲間と結婚して家庭を持つが、死の床の兄を最後まで看取る。

褐色のヌードモデル、モナ
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ストリップ劇場出身のモデル。シーレと恋人関係になるが、彼女自身も奔放だった。

彼のミューズ、ヴァリ
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クリムトのアトリエでシーレと出会う。シーレと4年間同棲し、モデルや助手をつとめ、シーレが逮捕拘留されたときも、傍を離れず支え続けたが、結婚相手には選ばれなかった。シーレからの愛人契約の話を断り、従軍看護婦に志願して猩紅熱で亡くなる。

妻のエディット
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シーレのアトリエの向かいに住んでいたことからシーレと知り合う。結婚後はヴァリとの仲を清算するよう夫に約束させ、結婚後も嫉妬に苦しめられる。シーレの子供を宿したままスペイン風邪で亡くなる。

妻の姉アデーレ
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シーレが妹エディットと結婚する以前にシーレと関係あり。絵のモデルにもなっている。しかしエディットが死んだ際に「彼は多くの女性を犠牲にした」とシーレに対する苦々しい思いを口にする。

28歳で死ぬまでの間に、こんなに多くの女性を虜にしたシーレ。しかし、彼が一番愛していたのは、自分自身と芸術だけであり、創作活動のために必要な役割を、彼女たちが分担させられたのではないかとすら思える。

彼は、妹ゲルティには、肉親ゆえに時には母のような包容力を求め、ヴァリにはモデルや助手や心の支えを求め、素姓のわからないヴァリではなく中産階級のエディットを妻にすることで、絵を描くための資金や世間からの信用を得ようとした。計算してやっているのではなく、ただ自分のことだけ考えて生きていた結果、こんな選択になってしまったのではないかしら。相手から奪うばかりで、相手の幸せは考えていないし。

死と乙女の中に描かれているのはヴァリ。
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これはシーレがヴァりを描いた最後の作品である。
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別れを告げられた彼女が、か細い腕ですがりついているのは、シーレ自身でもあるし、その後の彼女の運命を思えば、まさに死神にしがみついて共に冥府に堕ちていくようにも見える。体の線も表情もデフォルメされ、陰鬱で複雑な色調で彩られているにも関わらず、抱き合う両者が抱いている愛情が、見るものに伝わってくる。そして、その関係は祝福ではなく破滅に向かうものであることも。心をえぐられるような切なさと恐ろしさに満ちている絵だ。

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スペイン風邪で亡くなるときに、「君が必要なんだ」と囁いたシーレの脳裏に浮かんでいたのは、もうすでにこの世にいないヴァリだったのだろうか。

黒井千次氏より「永遠なる子供」と表されたエゴン・シーレ。彼が28歳という若さで世を去らなかったら、どれほど多くの名作がさらに生まれていただろうと惜しまれる。しかし彼に振り回され傷つけられた女性もきっと増えていただろうな・・・・。複雑な思いだ。

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シーレの風景画。彼は風景も多く描いているが、やはり暗い深みのある色調が見事で素晴らしい。
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この作品ではじめて知ったエゴン・シーレ。
彼の生き様はともかく、彼の絵は好きになった。

2017年1月29日 (日)

ある天文学者の恋文

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年末に駆け込みで観ることができた。ジュゼッペ・トルナトーレ監督のラブ・サスペンス?ストーリー。音楽はもちろんエンリコ・モリコーネ。そして主演はオルガ・キュリレンコジェレミー・アイアンズ。

あらすじ
天文学者エド(ジェレミー・アイアンズ)と、教え子のエイミー(オルガ・キュリレンコ)は、愛し合っていた。だが、エイミーのもとにエドが亡くなったという知らせが飛び込む。悲しみと混乱の中、死んだはずのエドからのメール、手紙、プレゼントが次々と届く。不思議に思ったエイミーは、その謎を解くためにエドの暮らしていたエディンバラや、二人の思い出の地サン・ジュリオ島などを訪れる。やがて、エドが彼女の秘めた過去を秘密裏に調べていたことがわかり……。 (シネマトゥディ)

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親子ほどの年の差のある,秘められた不倫の恋。

初老の天文学の教授エドと,若くて美しい彼の教え子エイミー。しかし,物語のほぼ全編を占めるのは,彼の死後の物語だ。突然別れも告げずに病でこの世を去った恋人。それなのに彼から届き続けるメールと手紙の数々。そして導かれる異国の別荘やDVDから語りかけてくる彼の映像。

本人がこの世にもういないのに,次々と指示が出される「謎解き宝探しのゲーム」みたいなこんなことが,いったいどうやって出来たのだろう。周到な準備のためには,財力や人脈はもちろんのこと,恋人の気質についての深い理解と,,彼女の反応や行動を先読みする力が必要だ。なんとめんどくさく,手の込んだことを考え付き,実行に移したのか,エドには半ばあきれつつも感心する。

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エイミーは恋人の死によるショックに浸る間もなく,エドの仕掛けた道すじ通りに,時間差で届く彼からの手紙やメールを頼りに,彼の故郷や思い出の別荘へと足を運び,彼からのメッセージを受け取り続ける。受け取るばかりで返信のできないやり取りに悲しみや痛みやもどかしさを感じながら。

次はどんなメッセージに導かれるのか,最終的にはどこに着地するのか,けっこうハラハラする点はミステリーの味わいもあり,そして何より,ヒロインのオルガが美しく魅力的だ。トルナトーレ監督の作品は,けっこうさらりとさりげなくヒロインが脱ぐシーンがあるが,この作品も例外ではなく,それもラブシーンではない箇所で,オルガが美しい肢体を披露してくれている・・・・。

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また,若い愛人を持つ教授という役柄に,ジェレミー・アイアンズはまさにハマり役。(ダメージとかもそうだっけ。あの作品の彼は教授ではなく,政治家だったけど。)いくつになってもダンディでセクシーだ。

いつまで続けるのか?
これは彼からの究極の愛なのか?それとも執着なのか?
エドが死後も彼女に求めているのは,束縛なのかそれとも・・・・・・

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物語がすすむにつれて,自分の余命を熟知していたエドが,「自分の亡き後に最愛のエイミーに贈りたかったもの」が次第に見えてくる。それは,時間のない彼がやり残したこと。エイミーが抱えている重いトラウマから彼女を解放し,癒すこと・・・だった。エイミーに対する切ないまでの包容力は,やはり彼が父親のような年齢だからこそなのか。

あの星はもう存在しないが,光は君に届いている。

いかにも天文学者のエドらしい思い。しかし,存在が消滅したあとも届き続ける星の光も,いつかは完全に届かなくなる日が来る。その時,残された恋人は新たな道へと確かな足取りで踏み出していってほしい・・・・どこまでも行き届いた愛の姿。最後のビデオメッセージは,画面に背を向けたエドの姿だった。そしてラストは,エイミーに新しい恋が芽生えるような予感も感じさせるほのぼのとした終わり方。

感じ方は人さまざまだろうけれど、こんなふうに愛されたら,どんなにか女冥利に尽きるだろう・・・と思わされる一作。実際にはなかなかあり得ない設定やキャラなので,おとぎ話に近いのかもしれないけれど。

2016年2月25日 (木)

あの日のように抱きしめて

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アウシュヴィッツから生還した妻と, 変貌した妻に気づかない夫。
奇しくも再会を果たしたふたりは, 再び愛を取り戻すことができるのか――。

これは,めっちゃ好きな設定の物語・・・・。ということでDVDリリースとともに鑑賞。

1945年6月ベルリン。顔に大怪我を負いながらも,強制収容所から奇跡的な生還を果たした元歌手のネリー。資産家の彼女の一族はホロコーストにより全滅し,彼女は親友のレネの庇護を受けながら,顔の再建手術を受ける。「違う顔にしたら身元を隠せますよ。」という医師の勧めを断って,ネリーは元の顔に戻してほしいと希望する。ピアニストだった夫のジョニーを探し出すことだけが彼女の願いだったから。

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レネは「ジョニーはあなたを裏切ったのよ」と告げるが,ネリーは夫がいそうな酒場を捜し歩き,ついにジョニーと再会するが,彼は妻だと気づいてくれない。それどころか,「死んだ妻に似ているから」という理由で,「収容所で亡くなった妻になりすましてくれ。妻の遺産を山分けしよう。」と持ちかける。「夫は本当に自分を愛していたのか、それとも裏切ったのか?」その答えを知りたいがために彼の提案を受け入れ,ネリーは自分自身の偽物を演じるが・・・。

監督は『東ベルリンから来た女』でベルリン国際映画祭銀熊賞(監督賞)に輝いたクリスティアン・ペッツォルト。主演のニーナ・ホスも,相手役のロナルト・ツェアフェルも「東ベルリン~」の主演コンビだ。物語のキーとなる歌に,亡命作曲家クルト・ヴァイルの名曲「スピーク・ロウ」が使われ,「収容所のその後」を舞台にしたサスペンスフルな物語だ。
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ストーリーは少し無理がある。たとえば,一番変なのは,顔を再建したネリーに,夫以外の知り合いはみんなすぐにネリーだと気付くのに,なぜ一番親密だった夫がまったく気付かないのか?一番先に気づきそうなものだが,普通なら。それに,ネリーのほうも,夫が自分を密告していないと信じたいのはわかるとしても,「死んだ妻になりすまして遺産をだまし取ろう」なんて持ち掛けられた地点で,夫に愛想が尽きると思うけれど。

しかし,(後でわかるように)実際にユダヤ人である妻を密告した夫にとっては,生還した本物の妻とは会いたくなかったのだと思う。だって,自分が死の収容所に送り込んだ相手に会わす顔など,今さら無いに決まっているから。妻がまだ自分のことを愛して信じていればなおさらのこと。「妻は死んだ」と信じ込みたい彼の潜在意識が,実際のネリーを前にしても「これはネリーであるはずがない」と思わせたのかもしれない。
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計画の準備を着々と進めながらも,彼がネリーに対して不機嫌だったり苦々しい態度を取ったりしたのは,「妻に似ている」彼女を見たり思い出を探られたりするたびに,自分の罪を思い起こさせられて嫌だったのだろう。

戦争が起こる前,夫は妻を愛していたかもしれないけど・・・・
でもユダヤ人の妻を自分の命と引き換えにしてまで守り抜くことはできなかったのだ。
それは同情に値する。しかし,妻に似た女性が目の前に現れたら,遺産を狙う道具に使おうなどと考えつくところは全く同情の余地がない。本当に妻を愛していたけれど仕方なく裏切ってしまったのなら,絶対にそんな発想にはならないと思うから。こういう話を持ちかけられた地点で夫の不誠実さに気づけよ~と思うのだが,ネリーは夫との再会だけを生きがいに収容所生活も耐え抜いたわけで・・・・恋は盲目とはこのことだ。

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自分に気づいてほしい,それが無理ならせめて新しく愛してほしいと,縋るような思いで彼の申し出をすべて実行しようとするネリーが歯がゆい。友人たちの前での生還シーンを演出するために,夫は新しい赤いドレスとパリの靴を用意する。「収容所帰りの服装じゃないわ」と異を唱えるネリー。収容所の体験がどんなに苛酷なものだったか,少しも想像しようとしてくれない彼に苛立ったのだと思う。(ここでも,夫の愛のなさに気づけよ~と思った)

彼女を支えてきた親友のレネの自殺。そりゃ,同じユダヤ人のレネにとってはやりきれなかっただろう。彼女の自殺は,ホロコーストに対する怒りや祖国の再建よりも,裏切り者のドイツ人の夫との愛を取り戻すことを選んだネリーに対する抗議だったのか。レネが残した遺書によって,逮捕時には夫にすでに離婚されていた事実を知ったネリーは,初めて目がさめたのかもしれない。

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計画通りにうまく運んだ友人たちを交えての駅での生還シーン。
妻の生還を友人たちにうまく立証できて安堵の表情を浮かべる夫とは裏腹に,ネリーの顔には笑顔はない。そしてささやかな祝宴の後,彼女は夫に「伴奏して」と頼む。「スピーク・ロウを」・・・・・。戸惑いを隠せないままピアノに向かう夫。そりゃそうだろう。彼は自分が妻に仕立て上げた(と思っている)女が,まさか歌まで元歌手の妻と同じように歌えるとは思っていなかったのだと思う。

ここからが圧巻だ。
ネリーの歌声は最初はおずおずと弱々しく始まる。まるで独り言のつぶやきのように。夫の顔はますます心配そうになる。偽物であることが友人たちにバレるのでは,と思ったのかもしれない。ところが中盤にさしかかると,彼女の歌声は豹変する。力がみなぎり,高音が美しく響く。本来の歌声を取り戻したかのように。同時に表情までが,がらりと変わる。自信に満ち,もはやおどおどと,夫の心を探っていた彼女ではない。そしてドレスの腕を少したくし上げて,伴奏している夫の目に自分の収容所番号が触れるようにする。「私はネリー自身なのよ。」と彼女は歌声とその行動で告げたのだ。

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妻が生きていたこと,そして自分の裏切りも卑劣さも,すでに妻に露呈していることに気づいた夫は茫然自失の表情で固まる。妻は歌い終わると無言で立ち去る。今度こそ,永久に彼の元を去るために・・・だろう。切ないけれどカタルシスも感じるシーンだ。そうそう,こんな男のことは忘れて,人生を強く生きていってほしい。戦争さえなければ,壊れることのない愛だったかもしれないけれど,もはや元には戻るはずもない。

邦題がテーマと合ってない・・・「あの日のように抱きしめて」だなんて,そんなセンチな物語ではなかった。原題は「フェニックス」つまり「不死鳥」だ。これはネリーが夫を見つけた酒場の名前でもあるが,ラストシーン,裏切り者の夫から決然と去っていくネリー自身が「不死鳥」なのではないかと感じた。

2015年7月28日 (火)

あの日の声を探して

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第84回アカデミー賞受賞作アーティストミシェル・アザナビシウス監督が、チェチェンの紛争で両親と声を失った少年とEU職員の女性との交流を通して,戦争の悲惨さや人間の絆を描いたヒューマンドラマ。劇場で鑑賞。

チェチェン紛争とは,ロシア連邦内の一つの共和国チェチェンの分離独立運動のこと。独立を求めるチェチェンと,認めまいと鎮圧しようとするロシア側の紛争はチェチェン武装グループのテロ活動やロシアによるチェチェンへの空爆や民間人の虐殺を生み凄惨を極めた。この作品は1999年の第二次チェチェン紛争のさなかの物語である。

O05000223133200435451999年のチェチェン。ロシア兵に両親が銃殺される場面を目撃したショックで声を失った9歳の少年ハジ。彼は逃げる途中に赤ん坊の弟を見知らぬ人の家の前に捨て,放浪するうちにフランスから調査に来たEU職員のキャロルに拾われる。 キャロルは、EUの人権委員会の仕事で,チェチェンの悲惨な実態を調査しているが,どのように声をあげて訴えようとも,彼女の努力は事態の実際の解決には結びつかない。
Sub5_large_2はじめは心を開かないハジに手を焼くキャロル。しかし,紛争の中で自身の無力さを痛感するキャロルは,自分にできることを模索するうちに,せめて自分に託されたハジだけでも守ろうと決意し,ハジもそんなキャロルに少しずつ心を開いていく。

キャロルを演じるのは「アーティスト」のヒロイン,ベレニス・ベジョ。ハジを演じたアブドゥル・カリム・ママツイエフと彼と生き別れた姉ライッサを演じたズフラ・ドゥイシュヴィリは,オーディションで選ばれた、撮影当時10歳と17歳のチェチェンの素人の子供たちだという。O0550036613287169194彼らの飾り気のない自然な演技,特にアマツイエフ少年の,悲しみをいっぱいたたえた素朴な表情には,何度も涙を誘われた。

想像を絶する残虐な行いが,幼い子供の運命までも翻弄するチェチェン紛争。やりきれない怒りや悲しみと共に,そんななかでもあきらめることなく肉親を捜し続ける子どもたちや,手を差し伸べる人とのあたたかい絆に救いを見いだそうとする人々の強さ。地上から,このような非道な行いが無くなることはないにしても,そんな中でもハジのように懸命に生きている命があり,非力であっても自分にできる精一杯のことをしようとするキャロルのような存在もいる・・・。
News_header_anohino_20150426_01_2この作品が秀逸なのは、チェチェン側のストーリーだけを描くのではなく、サイドストーリーに,ロシアの若者コーリャが,強制入隊によって冷酷な兵士に変えられていく悲劇をも並行して描いていることだ。

軽犯罪で警察に逮捕されたコーリャは,強制的に軍隊に送り込まれ,最初は辛い遺体処理の仕事をさせられる。先輩兵士や上官による暴力やいじめを受けるうち,ごくごく普通の若者にすぎなかった彼は良心や感性が麻痺していき,他の兵士同様に次第に「狂気の兵士」に変貌する。犯罪者を起用したロシアの傭兵たちの,チェチェンの民間人への行いは特に非道を極めたそうだが,そんな傭兵たちの残虐さがどのようにして作られていったのか,コーリャの物語を観ていると納得できてしまう。なんとも恐ろしいことだ。
D0098286_19473590コーリャを演じたマキシム・エメリヤノフは,どこにでもいるようなありふれた風貌の,どちらかというと内気な雰囲気の若者。その彼が殺伐として暴力的な軍隊生活の中で,徐々に殺人マシーンへと変貌していく過程を,新人とは思えない演技で力強く演じている。

ラストでは,なぜコーリャの物語がハジやキャロルの物語と並行して語られているのか,その理由が明らかになる衝撃のシーンが用意されており,それまで親しみや共感を覚えながら見守っていたコーリャに対して,一気に冷水を浴びせられたような気持ちになった。いやはや,感動もさることながら,計算しつくされたすごい作品でもある。 

2013年11月 5日 (火)

王になった男

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大好きなイ・ビョンホン主演の韓国時代劇映画!やっとDVDで鑑賞~~heart02

若いころから大好きだったビョン様が,少しも劣化せずあいかわらず若いままで,一人二役の王様を演じているのだもの,作品の出来不出来に関わらず絶対観ようと思っていたが,観てみるとなんとも素晴らしい作品だった。彼のファンでなくとも十分に楽しめ,かつ感動もドキドキもできる見事なエンタメ作品だった。

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暴君と言われた朝鮮王朝第15代王,光海君と,彼の影武者を務めた道化師ハソンの物語。どちらもビョンホンが演じているし,どちらの役の時も王様の衣装のことが多かったので,王様かハソンか見分けがつくかな~と案じたが,そこはやはりビョンホンの演技力。クーデターや暗殺を恐れて疑心暗鬼になっている陰鬱な王様と,優しくて剽軽な道化師ハソンのキャラの違いを雰囲気や表情で,とても上手く演じ分けてくれていた。
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とにかく,王様の身代わりを務めているハソンを演じる時のビョンホンの表情がお茶目で可愛らしくって・・・・・

そう,この作品,王朝ものだというからもっとシリアスな大河ドラマ風なものかと思っていたら,案外コミカルで笑えるシーンがたっぷりなのだ。暗殺されかかって身を隠した王の代わりに,図らずも影武者を務めることになったハソンは賤しい身分の道化師であり,王に瓜ふたつだという理由だけで有無を言わさず宮廷に連れて来られた立場だ。王が入れ替わったことを知っているのは大臣のような立場の都承旨ホギョンと,王の身辺に仕える宦官のチョ内官の二人だけ。
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他の宮廷の誰ひとりとして真実を知らされていない中で,初めての宮廷生活・・・それも王としての・・・を演じなければならないハソンの,クスクス笑えるエピソードやじーんと心に来るエピソードの数々に笑ったり涙ぐんだりハラハラしたり。本来温かい心を持ち,人を笑わせることを生業としているハソンの優しさや,一般人民ゆえの民や使用人への,勇気と温情ある判断には,やがて真のリーダーとしての風格までもが身についてきて・・・・
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ハソンが演じる王が痛快で愛おしく,彼の突飛で型破りにも思える行動に驚いたり癒されたり慰められたりする宮廷の人々を観るのも楽しくて・・・・いつまでも彼がこのまま王位に就いて,本当に入れ替わってくれたらなぁ・・・いやいや,とにかくこの物語,面白すぎていつまでも終わってほしくないなぁ・・・と思いつつ,やっぱりいつかはハソン退場の時は来るよね,一体どんなふうにこの物語は締めくくられるのだろう,と気になって気になって。
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そうこうしているうちに,政治の改革を始めたハソンを苦々しく思う逆臣たちの手によって,王が偽物であることが露見しそうになり,本物の王も快復して王宮に戻れそうになる・・・賤しい身分で王座に座ったハソンは,「お役御免」とばかりに暗殺されそうになる。このとき,身代わりのハソンを慕う宮廷の人々の取った行動に泣かされた。ハソンから,本物の王には無い「情け」をかけてもらった毒見役の少女サウォルや,身辺警護のト武将は,命を捨ててもハソンを守ろうとする。この二つのシーンは感動ものだ。
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ラストはどうなって,ハソンの運命はどうなったかは触れないが,とにかく爽やかな感動に包まれた・・・。笑って,泣いて,すがすがしく温かい前向きな気持ちになれる,そんなとても素敵な作品だ。観てない方には大声でお勧めしたい。韓国映画嫌いの方もぜひ食わず嫌いをせずに観ていただきたいな。

2013年6月15日 (土)

オブリビオン

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トム・クルーズ
主演のSFアクション大作。
監督は,トロン:レガシージョセフ・コジンスキー監督

舞台は2070年代の地球。
攻撃してきたエイリアンとの戦いには勝利したものの,地球は放射能汚染により壊滅状態になり,生き残った人類は,土星の衛星タイタンへと移住を余儀なくされていた。そんななか,ジャック・ハーパー(トム・クルーズ)は,相棒で恋人でもあるヴィクトリア(アンドレア・ライズボロー)と地球に残って,監視任務に就いていた。
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ある日,ジャックは,墜落した謎の宇宙船の中で眠っている女性ジュリア(オルガ・キュリレンコ)を発見し,彼女を助けて監視基地に連れ帰る。ジャックはなぜが夢の中で彼女を何度も見た覚えがあり,目覚めたジュリアも彼を「ジャック」と呼ぶ。

大破した飛行船のフライトレコーダー回収のためにジュリアを伴って墜落地点に行ったジャックは,ビーチ(モーガン・フリーマン)と名乗る男に捕らわれてしまう。ビーチからジャックに告げられた事実は驚くべきものだった・・・・・。

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なかなか面白かった!すっかり更新をサボってたわたしが久々に感想をアップしようと思ったくらいだから。物語中盤に大きなどんでん返しがあり,そこから一気に面白くなるし,ストーリーも加速する。ネタバレになるから書かないけど,つまりジャックはとある壮大な嘘をつかれていたわけで,謎の女性ジュリアや敵のように思えたビーチの正体もわかり,ジャックはそれまでと一転して「本当に」地球を救うためのミッションに取り掛かる・・・というお話だ。

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アクションだけでなく,ミステリーの謎解きや夫婦愛の切なさも盛り込まれたバランスの良いSF
だと思う。映像もスタイリッシュで綺麗だし,洗練されている。謎解きの部分も分かりにくそうに思えて,観終わったあとはきちんと伏線も回収されているのですっきりするし,全体の雰囲気がしっとりして,そこはかとない哀しみさえ漂う・・・・哀しみというか郷愁というか。好きだな~~これ。

近未来のどんなクローン技術の洗礼を受けても,記憶を消されても,人間の根底に流れる愛や望郷の思いはやっぱり完全には消えず,本能のように蘇ってくるものなんだ・・・・・。なんだか嬉しいような切ないような。

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ついでにいえば,ハッピーエンドでなければもっとよかったかな。個人的な好みとしては。ラストのあんな形の再会も・・・・無い方がよかったかな…忘れ形見を一人で育てるヒロインという図の方が・・・余韻がね。いや単に好みの問題なんだけど。

ヒロインのジュリアは終わるまでキャサリン・ゼタ=ジョーンズだとばかり思っていた。後で調べたら,オルガ・キュウリ蓮根・・いやキュリレンコ・・・007/慰めの報酬の女優さんだったのね。お顔が細面に変わってて気がつかなかった。
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クローンめいた美しさのヴィクトリアを演じた女優さん・・・誰だろう?と思ったら,「ウォリスとエドワード英国王冠をかけた恋」でシンプソン夫人を演じた人だったのね。最近DVD観たばかり。

それにしても,トムちん,今作でもまだまだ若いね。もう50越えてるとはとてもとても見えないし,最近の出演作はどれもみんないい出来で。・・・・嬉しいなぁ。

ちなみに「オブリビオン」という言葉の意味は「忘却」とか「人事不省」「大赦」とかいうそうな。どれもみなそれぞれがこの物語の内容に当たってる・・・ような。

2013年3月12日 (火)

あの日、あの時、愛の記憶

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いとしい声が,私を呼んだ・・・・

ポーランドの強制収容所内で恋に落ち,一緒に脱獄を果たしたものの,その後生き別れとなった恋人たちが,30年以上もたって奇跡の再会をする物語。邦題はもっとヒネリが欲しいところだけれど,これは驚愕のホロコースト実話ものであり,そして切ないラブストーリーでもある・・・・DVDで鑑賞。ドイツ作品。
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最近はホロコーストの悲劇について,シンドラーのリストのような直球ものとは一味違ったもの,たとえば,ヒトラーの贋札ミケランジェロの暗号サラの鍵等,実に多様な切り口の作品が製作されていて,そのどれもが秀逸なので,この作品も当然見逃せなかった。

しかし実話だなんて到底信じられない設定の話である・・・・収容される前から恋人だったのならわかるが,収容所内(しかもアウシュヴィッツ!)で知り合ってから恋仲になるって可能?・・・・男女別に収容され,ナチス親衛隊の厳格な監視の元にあるのに,なんと妊娠まで!しちゃうなんて。おまけに二人で手に手を取ってアウシュヴィッツを脱獄だなんて・・・・できないでしょ,それは,いくらなんでも。
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しかしお話が始まってみるとヒロインのハンナはユダヤ女性だが,彼氏のトマシュはポーランド人であり,政治犯として収容されていて,彼は収容所内でもいろんな役得や恩恵を受けることができる立場にあったことがわかった。それゆえわずかではあっても看守の目を盗んだ逢引の機会も持てたし,彼はナチス親衛隊の制服を手に入れてドイツ兵になりすまし,ハンナを連れて無事に収容所のゲートを通過する。

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もともと,政治犯のトマシュは,収容所の告発写真のネガを,抵抗運動の有志たちに届けるために脱獄を計画するのだが,その際に愛するハンナも一緒に連れて逃げたわけである。トマシュが単身で逃げるのに比べると,格段にリスクが増す計画だ。

親衛隊になりすまし,偽の指令書を持っていたとはいえ,囚人服のハンナを連れたトマシュに,ゲートの警備員が少しでも不審を抱いたら,計画は成功してなかっただろうし,差し向けた追っ手に捕まって拷問や処刑を受けた可能性も大きい。彼らが逃げおおせたのは信じられないくらい強運だったのかもしれないのだ。いずれにしても,トマシュはまさに命懸けで愛する女性を助け出したのである。
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追っ手に捕まることもなく,何とか無事にトマシュの生家にたどり着いたのに,二人はその後運命のいたずらで,なんと生き別れになってしまう。あんなに命懸けで脱獄し,堅く将来を誓い合ったのになぜ?と,この点も不思議だったが,ハンナを置いて抵抗運動に身を投じなければならなかったトマシュの事情や,ハンナを受け入れなかったトマシュの母の選択や,あの動乱と混乱の時代背景を考えると,互いに相手を「死んだもの」と思ってしまったのも仕方なかったのか・・・・。
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相手がこの世にいないなら,どんなに恋しくても悲しくても,思い出ばかりに浸って嘆いて生きていくわけにもいかない。ハンナはアメリカに渡って今の夫と出会い結婚し,娘をもうけ,過去は封印して(きっとトマシュの死があまりにも辛かったから)生きてきた。晩餐会用のテーブルクロスを受け取りに訪れたクリーニング店のTVから,懐かしいトマシュの声を聴くまでは・・・・・。

トマシュが生きていてポーランドにいるらしいと知ったハンナは,30年前トマシュの「推定死亡」という捜索結果を受けた赤十字社に再び電話をかけ,トマシュの電話番号を調べてもらうことに成功する。
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死んだものと思っていた最愛の人が生きていた・・・・それを知ったのは30年もの年月の隔たりのあと。すでに両者とも家庭があり,30年築いてきた別々の人生があった。この状況で再会すべきか否か・・・この物語は,収容所で愛を育み,脱獄したということも異色だけれど,30年ぶりの再会とそのときの恋人たちや家族の心情などにも心が揺さぶられた。

内心に複雑な思いを抱えていたに違いないのに,妻に「逢っておいで」と勧めるハンナの夫。母の過去を静かに受け入れる娘。彼らにとってトマシュは,ハンナの過去の恋人というだけでなく,「命の恩人」でもあったからなのか
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多くを語りすぎない秀逸な余韻の再会シーンもよかったが,私はハンナがトマシュに電話して,生存を告げた場面が好きだ。二人とも,この時どんな思いがこみ上げてきただろうと思う。まさに万感胸に迫る思いだったに違いない。

再び声を聴けた・・・愛しいひとが生きていた・・・という喜びと同時に,取り返しのつかない喪失の歳月に対するやるせなさも感じたことだろう。時は二度と巻き戻せない。再会したあと,二人はどうするのだろうかと,それが気になって気になって,実話だというからには,モデルになった二人はどうしたのか?といろいろネットで調べてみた。

※モデルとなった二人について書かれたニューヨークタイムズの記事によると,再会後の二人は,生涯よき友人を通した、とあります。再会したとき,トマシュ(実名イエジ・ビレッキ)はハンナ(実名シーラ・シバルスカ)に,39本のバラの花を捧げました。それは彼らが逢えなかった39年の歳月を現していたそうです・・・。

2012年5月 4日 (金)

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第84回アカデミー賞作品賞・監督賞・主演男優賞の3部門を受賞した作品。

とっても素敵!新鮮!そしてオシャレでハートウォーミングな作品。そして,なんといってもサイレント映画への敬愛に満ちた作品だ。たしかに従来の3Dやなにやらを駆使したハリウッド作品の中では,この作品はシンプルさと凝りようが「異色」なので,かえって目立つだろうな~,よい意味で。
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主演男優のジャン・デュジャルダンさん,よく知らない・・・・と思ったら,フランスのコメディアン俳優さんだそうで。「風と共に去りぬ」のレット・バトラーをお人好しにしたような雰囲気なんだけど,コメディアン俳優だけあって,笑顔がとっても人懐っこくて素敵。

サイレント映画全盛時代の大スターだった彼が,トーキー映画の時代になって没落してゆき,その反対に一躍売れっ子となっていく女優との恋に,煩悶や葛藤を覚える物語。最後はハッピーエンドなんだけど,途中はなかなか切ない展開もあり・・・・。
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ヒロインの女優役のベレネス・ベジョは,アルゼンチン生まれの女優さん。この作品の監督の奥さんだそうで・・・・。明るくて可愛くて,ポジティヴで,そして主人公の男優を一途に愛する姿がとてもチャーミングなキャラだ。

この映画自体がサイレント映画のつくりになっているので,最初はやはり「見慣れない」違和感があり「俳優さんたち,しゃべってよ~」と思わないでもなかったが,すぐに慣れた,というか,絶え間ないBGMや,時にはパントマイムっぽい仕草の役者の演技や,時折入る字幕だけでも十分にストーリーがわかることに驚き,いやむしろそれだけで楽しめる「サイレント映画」というものに「凄いなぁ」と素直に感動し,ぐいぐいと作品の魅力にひきこまれていった。
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特にお気に入りは,この,ヒロインの,タキシードとの独り芝居の場面。とってもロマンチックでそれでいてヒロインの自分の腰に回した片手が,男性の手にしか見えなくてドキドキ・・・。ヒロインの慕情もとても切なく伝わってきて,何度でも観たいシーンだ。

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個人的には主人公の愛犬役のこのワンちゃんに,演技賞あげたいかな。すごくかわいくて健気で。ピストルで死んだ真似とか可愛すぎ。ご主人の命が危うくなったときの活躍ぶりもいじらしくて,ワンちゃん好きにはたまらないキャラ?だ。
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さすがアカデミー作品賞だけの魅力は満載の作品です。私は大好き。とても面白かった。この「面白さ」は,ストーリーの面白さではなく,「サイレント映画ってこんなんだったんだ~!すごい}という面白さなのかもしれないけど。ラストの二人の見事なタップダンスも必見です。元気で優しい気持ちになれる素敵な作品でした。

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