カテゴリー「映画 あ行」の95件の記事

2024年5月19日 (日)

オッペンハイマー

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原爆の父と呼ばれた天才科学者オッペンハイマーの栄光と没落を実話に基づいて描いた作品。オッペンハイマーを演じるのはノーラン作品では常連の名優キリアン・マーフィー。これは観なければ!と、原作未読でなんの予備知識も入れずに劇場で鑑賞。んで、当然のごとく混乱した。一筋縄ではいかないノーラン監督作品。もちろんこの作品も時系列どおりに見せてはくれない。

いや、時系列通りではあるのだけど、オッペンハイマーの国家機密のアクセス権をめぐる密室での聴聞会(1954年)と、ルイス・ストローズ(ロバート・ダウニー・Jr)が主役の上院での公聴会(1958年)が交互に出てくるので「今はいつ?」「これは誰?」「この人はオッピーの味方?それとも敵?」状態で初見時は混乱。二度目鑑賞のときは人物や関係性も調べていったし、公聴会のシーンはモノクロだと気づいたので(遅い!)話についていけた。はじめっから順に見せてくれや!とは思ったけどね。

オッペンハイマーの偉業すなわちトリニティ作戦がいかにしてなされたか、どのような人々がそこに関わっていったのか、という経緯は、聴聞会の場面が進行するにしたがってオッペンハイマーの回想として描かれる。そこに登場する名優さんのまあ多いこと!登場場面が少ししかない名優さんもいる。マット・ディモン、ジョシュ・ハートネット、ケイシー・アフレック、ジェイソン・クラーク、ケネス・ブラナー、ラミ・マレック・・・いやもうなんて贅沢な!そして男優さんたちが役作りのためか恰幅よく太っている人も多かったような。(キリアンとロバート・ダウニーとラミは除く)

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して、狡猾で尊大な表情を巧みにみせたトルーマン大統領役があのゲイリー・オールドマンとは最後まで気づかなかった!オールドマンは、過去映画でチャーチル役でも見事に化けたけど、今回もお見事。短時間の出演なのに怪演から目が離せず、この役者さん誰よ!となってググってびっくりした。いやぁ全くわからなかった。このトルーマン(今作ではほとんど悪役だが)言ったセリフの中で「彼ら(日本人)が恨むのは、原爆を作った君ではなく落とした私だ。」というのがすごく印象的だった。だから罪悪感を感じることはないと慰めるのではなく、決定権は我にありと威張って使っていたみたいだけど。そりゃそうだよ、と腑に落ちた。確かにオッペンハイマーなくては作ることができなかった原爆だけど、兵器としての明確な意図を持って作らせたのも使用したのも政治家なのだから。

オッペンハイマーの天才ぶりと同じく、彼の変人ぶりというか世の中や人付き合いに関する疎さ(うとさ)も感じられ、たとえばすぐに人を信じてしまうとか、あれだけ有名人になっても無防御過ぎる天然ぶりとかもよく描かれていた。ある意味純粋すぎて、だから人にも利用されやすく罠にも気づかないのだろう。トリニティ作戦のためにあつらえた新居にはなんとキッチンを作るのを失念していて、妻に指摘され「そうか、すぐ作るよ」って…Σ(・□・;)そんな夫を最後まで支え続けた戦友のような妻キティをエミリー・ブラントが演じていたのがすごく適役!
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最後にオッペンハイマーがやっと報われた授賞式で、かつて彼を裏切る証言をしたテラー(ベニー・サフディ)が握手を求めてきた時に、オッペンハイマーは快く応じたのに、妻は差し出された手を無視し、彼を何とも言えない表情で睨みつけたシーンが印象的で好き。

これだけの名優たちの名演技と凝った造りで、やや難解ながらもぐいぐい惹きこむパワーはすごいとしかいいようがない。原爆開発に対して科学者たちの思いと政治家の思惑は実は相容れないものだと改めて実感する。

被爆国である日本人からすれば、確かに辛い場面もある。被爆した日本の実際の映像が使われなかったことも残念だし、オッペンハイマーの功績を大歓声と拍手でたたえる民衆のシーンは観ていてやはり気持ちいいものではない。

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しかし、だからといってこの作品の評価は下がるものではないと、戦争を知らない世代の自分は思う。賛否両論あるにしても、取り上げたテーマ、監督の手腕、役者たちの演技など、紛れもなく傑作だと思うから。

キリアン・マーフィー。好きな役者さんだったけど改めて惚れました。

2022年12月16日 (金)

ある男

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劇場で鑑賞後、原作も読んだ作品。

あらすじ
弁護士の城戸章良(妻夫木聡)は、かつての依頼者である谷口里枝(安藤サクラ)から亡き夫・大祐(窪田正孝)の身元調査を依頼される。離婚歴のある彼女は子供と共に戻った故郷で大祐と出会い、彼と再婚して幸せな家庭を築いていたが、大祐が不慮の事故で急死。その法要で、疎遠になっていた大祐の兄・恭一(眞島秀和)が遺影を見て大祐ではないと告げたことで、夫が全くの別人であることが判明したのだった。章良は大祐と称していた男の素性を追う中、他人として生きた男への複雑な思いを募らせていく。(シネマトゥディより)

興味深いストーリー設定と一流俳優陣の見事な演技で、ぐいぐい惹きこまれた作品だった。イケメンだけでなくカメレオン俳優でもある妻夫木聡の繊細な演技はもとより、今作で唸らされたのは窪田正孝の名演。過酷な運命に押しつぶされながら懸命に行き場を探してあえぐ大祐をこれ以上ないくらい見事に演じ切っていたと思う。

これは過去をリセットし、まったく別の人間と人生を取り換えた男たちの物語。戸籍だけでなく過去の人生まで誰かと交換したいと思わせるほどの何かが、それぞれの人生に存在した人々。・・・・そんな人、そんなにいるんだ。というのがまず初めの正直な感想だった。それだけでなく、戸籍のロンダリングを世話するブローカーまで存在するとは。

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自分の人生に100%満足している人間なんて、そりゃいないだろうけれど、戸籍を交換したいという思いを持つ人間はみなそれぞれ不幸な過去を持っているわけで、不幸なもの同士で交換しても結局後でいろいろ不具合が出てくるのでは・・・と思うのだ。それでもとにかく自分のアイデンティティを捨てて別人になれさえすれば・・・と願うほどの事情があるのだろう。

家族に絶望して失踪した老舗旅館の次男坊と、在日韓国人であることにずっと人知れぬ苦痛を抱えてきた弁護士。そして凶悪殺人犯で死刑囚の父親とそっくりの容姿を持つ息子。この三名を比較すれば、一番最後の大祐の苦しみに比べれば前の二人の「別人になりたい」という動機は弱すぎるような気もする。

戸籍を取り換えてまで自分の本来のアイデンティティから逃げたい事情って、犯罪者の家族を持ち世間から差別される人とか、宮部みゆきの「火車」のように借金から逃げたい人くらいなのかな、とこれまでは思っていた。だけど、先日観たTV番組で、「人間関係を完全にリセットしたいと思った人や実際にリセットした人」が現在では増える傾向があることを知り、驚いた。そういう願望を持つ人が増えたのも事実かもしれないが、昔に比べてリセットしやすい社会になっているのかもしれないとも思った。そんな風に、いろいろなことを考えさせられる作品だった。

2022年9月18日 (日)

イーディ、83歳はじめての山登り

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アマゾンプライムで鑑賞。30年間、夫の介護に縛られてきた人生からようやく解放された女性が、娘時代に父親と登る約束をしたスコットランドの山になんと83歳で登る、というヒューマンドラマ。

いや~~~素朴で地味なお話なんです。演じる役者さんも日本ではたぶん知名度が低いと思われる。イーディを演じたシーラ・ハンコックさんはイギリスの女優さんでなんとお年は89歳!それで自転車乗ったり登山したりする演技、お元気すぎて脱帽です!
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うちの母は一つしか違わないけど、もう杖歩行です。((+_+))

何が共感したって、実は今自分も両親の介護中で自分の人生が全く歩めてないから・・・。口に出して誰にも言えないけれど(ここで言ってるけど)正直、解放されたらやりたいことや行きたいところ・・私にもありますよ。そしてその時自分も老いていて実現には遅すぎるんじゃないかと焦る気持ちも。でもこの作品は、いくつになっても遅すぎることはない、って背中を押してくれるんですよね。そこがすごく嬉しく感じる物語でもありました。
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まあ実際に83歳で本格的な登山なんて、簡単に実現できないのは当たり前で、そこは都合よく?物語のそこここで助っ人が登場します。夜行列車でたどりついたスコットランドの駅で彼女にぶつかって転倒させた青年ジョニー。彼は登山用品店の店員で、イーディのガイドを引き受けてくれるのです。
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ジョニーを演じたケビン・ガスリーさんはちょっとジェームズ・マカヴォイに雰囲気の似ている俳優さん。初めは謝礼金目的だった彼ですが、たぶん根っから親切で誠実な人柄。頑固でプライドの高いところもあるイーディと時には衝突しつつも「ここからは、一人で登りたいの。」と言い張るイーディから一旦は手を引くものの、どうしても心配で後を追うなど、好青年ぶりにはこちらも胸が熱くなりました。いい子やぁ~~~~。

そのほかにも湖のボートでエンジンをかけてくれた女性とか、遭難しかかったイーディがたどり着いた山小屋で一晩黙って泊めてくれたおじさんとか。とにかくいい人に巡り合えるイーディ。これは、それまで暴君の夫と親の心子知らずの典型のような娘に尽くすだけの人生だったイーディに、神様がくださったご褒美のようにも思えました。
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スコットランドの山岳地帯の自然の雄大な美しさも堪能できます。映像がとても洗練されて美しい。
人生の黄昏どきに、やり残したことがある人達に特におすすめの物語です。

2021年1月31日 (日)

在りし日の歌

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「在りし日の歌」とは日本では「蛍の光」としてよく知られているあの曲だ。かつては卒業式の定番曲だったが、歌詞が時代にそぐわなくなって久しく、最近ではもっぱらデパートの閉店の曲としての知名度のほうが高いかも。日本ではこの曲を聞くと「別れ」をイメージするけれど、原曲は「友を懐かしむ」歌詞であるらしい。

市井の名もない人々が主役の大河ドラマのようなこの作品。中心となるのは二組の夫婦。同じ工場の同僚であり、同じ誕生日の息子を持つヤオジュンとリーユン夫婦と、インミンとハイイエン夫婦。彼らはお互いの息子の義理の父母の契りを交わし、息子たちはまるで兄弟のように一緒に育ったのだが・・・。歯車が狂い始めるのは、ヤオジュンとリーユンに第二子が出来、工場の責任者であるハイイエンの強い勧めで堕胎を余儀なくされてからだ。リーユンは二度と妊娠できない体になり、その後、あろうことか一粒種の息子シンを水の事故で失ってしまう。傷心のヤオジュン夫妻は住み慣れた故郷から逃げるように去り、誰も知らない海辺の町に移り住む。そこで養子を迎えた夫妻は、喪った息子と同じ名前をつけて育てるが、思春期になった義理の息子は反抗し、家出してしまう。
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ヤオジュンとリーユン夫妻の悲しみは自身の「子ども」との縁のなさ。考えてみればこの夫婦には4人の子供を持つ機会があったのに、誰一人手元に残らず、ことごとく失われていく。一人目は水の事故で死んだ最愛の息子シン。二人目は堕胎によって生まれることもかなわなかった第二子。三人目は家出した義理の息子。そして4人目は義理親子の契りを結んだハイイエン夫婦の息子ハオ。ハイイエンがリーユンに堕胎を強いたことと、シンを喪った事故の責任がハオにあったことから、彼らはすっかり疎遠になってしまったのだ。

それでもヤオジュンもリーユンも悲しみながらも誰をも責めない。自らの運命を受け入れ、互いに寄り添って生きていく。年月を重ねるごとに、時代や政策に翻弄され、失い続けた悲しみや痛みは、確かに彼らを疲弊させるけれども、自棄になることも自らを過剰に憐れむこともなく、毎日を静かに忍耐強く生きていく。

 時系列をあえてバラバラにしているこの作品。大きな感動は終盤になって訪れる。死の床にあるハイイエンの懇願で、夫妻は何十年ぶりかの帰郷を果たすのだが、そこで再会したハオからシンの死について懺悔を受ける。しかし、夫妻はすでにそのことをハオの父、インミンから聞いて知っていて、ハオを赦していた。もしかしたら、夫妻が逃げるように故郷を去ったのは、もちろんシンを喪った悲しみもあっただろうけれど、自分たちが近くに居続けたらハオを苦しめてしまうと思ったからではないのか。ハオもまた自分たちの「義理の息子」だったのだから。もしそうだとしたら、この二人はなんと優しく強い人間だろう。

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ハオの子供を「おばあちゃんよ。」と嬉しそうに抱く年老いたリーユン。そのときヤオジュンのもとには家出した義理の息子から携帯電話がかかってきていた。恋人をつれて帰ってくるという。長年の苦労が、忍従が、晩年になってようやく報われるのかもしれない。しかし、たとえそうでなくても、長い年月を共に生きてきたこの夫婦の絆や穏やかさは、盤石のものとしてそこにあり続けるのだろう。

生きていくこと。ただ、それだけがどんなにか辛い時もあるかもしれない。それは誰にでも起こりうること。それでも人生は続き、大切なひとの存在は生きるうえでの支えとなる。人生は時には苛酷で残酷なものだけど、その中で精一杯生き抜こうとする人たちの姿は強く美しい。そんなことを教えてもらえる物語だった。

2020年8月23日 (日)

1917 命をかけた伝令

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アマゾンプライムでレンタル視聴。第一次世界大戦時に、最前線の1600人の味方に作戦中止の命令を命懸けで届けたイギリス陸軍の兵士のお話。フィクションではあるが、監督のサム・メンデスは、実際に西部戦線の伝令だった祖父のエピソードを多数取り入れているそうだ。

戦争ものの中でこれまで取り上げられることのなかった「伝令」に焦点を当てている点と、全編ワンカットに見えるように密着して追いかける映像の臨場感がこの作品の見どころだ。命令を受けてから味方の塹壕を出、死屍累々の無人地帯を抜けて限られた時間内に最前線まで移動する二人の若いイギリス兵。観客はまさに彼らと一緒に行動しているようなハラハラドキドキの体験を味わう。多分無事にたどり着けるだろうとは予想しつつも、どこで敵に出くわすかわからない恐怖や、次に何が出てくるかわからない緊張感がずっと続く。
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途中で撤退した後の敵陣で罠にかかりそうになったり、爆撃を受けたりとまさに命懸けで任務を遂行する二人の兵士、スコフィールドとブレイクを演じるのは、若手俳優のジョージ・マッケイディーン=チャールズ・チャップマン。ブレイクは兄がまさに最前線の軍にいるという理由もあって命令の遂行に強い意欲をみせ、先輩格のスコフィールドは彼より経験値が高いだけに慎重派だ。しかし、ブレイクは途中で敵の兵士に刺殺されてしまい、後半からはスコフィールドが単独で最前線の軍へと向かう。あるときは身を潜め、あるときは味方の軍用トラックに乗せてもらい、またあるときは敵兵に向けて銃撃しながら。最初は任務なので仕方なく、という雰囲気も垣間見えた彼が、終盤では取り付かれたように強靭な意思を持ってひたすらに突き進む。

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この作品、主役は若き一兵士という「名もなき英雄」のキャラのためか、あまり知名度は高くないが、しっかりとした演技のできる若手俳優が起用されている。スコフィールドを演じたジョージ・マッケイは、どちらかというと地味目の俳優さん。しかし、どこかで確かに見た覚えがある。調べてみたらマローボーン家の掟で長男のジャックを演じた俳優さんだったのね。そのかわり、司令官たちにはコリン・ファースマーク・ストロング、ベネディクト・カンバーバッチなどの名優が揃い、しっかりと脇を固めている。

伝令の命令が発せられてから無事に任務を完了するまで、回想シーンもなく視点も切り替わらず、観客に与えられる情報は主役のスコフィールドと全く同じ、というこの緊迫感。大画面で観るとその臨場感も半端ないだろうと思う。戦争映画好きなら一見の価値ありの作品だ。

2020年7月24日 (金)

アウトブレイク 感染拡大

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アマゾンプライムで鑑賞。カナダ、ケベックのモントリオールで起きた新型コロナウィルスの感染拡大をテーマにしたTVドラマ。あまりのタイミングの良さに、最近のコロナ禍の影響で急遽制作されたドラマかと思いきや、これがなんと2019年の1月には撮影がほぼ終了していたというから驚きだ。つまり、このドラマはまさに現在のコロナ禍を予言するかのような内容になっている。

もともとの設定に違いがあるので、もちろん多少異なる点はあるが、今現在起こっている感染状況や人々の反応や、医療や社会の問題などが驚くほど似ている。新型コロナウィルスでパンデミックが起きれば、一体どのような混乱や悲劇が起こるのか、正確に誠実にリサーチして作られたものだからだろう。以下、ドラマと現実との共通点や相違点を書いてみると・・・。

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相違点
・ウィルス発生の原因はフィレット(+蝙蝠の糞?)
・重症化すると心臓が冒されて死に至る。
・発症までの期間は1週間以内。
・ドラマではまだ国内だけで感染爆発。

共通点
・感染しても多くは無症状や軽症。
・ワクチンはなかなか出来ないが特効薬は存在する。
・風評被害や詐欺や差別といった社会問題も起こる。
・マスク不足やマスク泥棒が発生する。
・「クラスター潰し」を有効な対策として取り入れる。

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全く未知のウィルスによる感染爆発の恐ろしさは、見えない敵に対して、戦い方が手探り状態になることだ。ウィルスなけでなく、恐怖や不安がどのように社会に蔓延していくか、ドラマの中では実にリアルに描かれている。医療機関の疲弊や混乱、その中であぶりだされる人間関係。エゴが露呈する政治家や個人の事情を優先しようとする人たち。見ていてハラハラするほど危機感のない行動をする人たち・・・。ドラマの中で起こるすべてのことに既視感ありまくりで、ドキドキしながら鑑賞した。

そして、見終わった後に、暗澹とした気持ちになった。だって、今現在進行中の新型コロナウィルス感染状況は、世界中を舞台にしてはるかに大きな規模で進んでいるし、ウィルス自体の手強さも厭らしさも、経済に及ぼすダメージも、ドラマとは比べ物にならないくらい甚大だから。私たちはいま、何という恐ろしいモンスターを相手に戦っているのか。そしてそれはいつまで続くのか。

大好評で高視聴率をたたき出したこのドラマ、続編も制作されるとのことなので、ストーリーにはさらに実際のコロナ禍の体験を生かした要素が取り入れられるのでは?と期待している。

2018年5月22日 (火)

ウィンストン・チャーチル/ヒトラーから世界を救った男

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少し前に劇場で鑑賞していたのだけど感想アップは今頃になってしまった。第90回アカデミー賞、主演男優賞とメイクアップ賞を受賞した作品。監督はつぐないジョー・ライト

結論から言うと、ああ、これはゲイリー・オールドマンを観る作品だと思った。もちろんそれだから薄い内容だというのではなく、それくらい、この作品で彼の果たした役割や存在感が凄かったという意味だけれど。
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物語は、チャーチルの首相就任から,ダンケルクの戦いまでの知られざる4週間を描いている。第二次世界大戦初期、ナチスドイツの電撃作戦は、フランスを陥落寸前にまで追い込み、追い詰められた連合軍は、ダンケルクの浜辺で窮地に陥っていた。侵略の脅威はイギリスにまで及び、ヨーロッパ中の運命が就任したばかりのチャーチルの手に委ねられた。徹底抗戦かそれとも和平交渉か、究極の選択を迫られたチャーチルの知られざる苦悩や尽力があますところなく描かれている。

ゲイリー・オールドマンの特殊メイクを手掛けたのが、日本の辻一弘さんだというから、驚きと誇らしさ(同じ日本人として)でいっぱいだ。オールドマンの原型をとどめているのは、つまり彼らしさを残しているのは唯一、「眼」だけではなかろうか。あごのお肉とか頬のお肉とか、アップで撮ってもまるで本物にしか見えないんですけど、いや、ホント。

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そして、やはりオールドマンの演技力の底力には恐れ入る。名優なのは知っていたし、アクの強い役も得意なのは定評がある彼だが、個人的には敵も多く作ったであろうチャーチルの強烈な個性(今回初めて知りました。でもこういう御仁だったからこそ、あの難関を他に追従することなく見事に切り抜けることができたのだろう。)を、見事に演じ切っていた。オスカー受賞も納得だ。

ノーラン監督のダンケルクといい,映画化が重なったダイナモ作戦についてあまりよく知らなかった日本人としてはとても勉強にもなった。チャーチルの決断が違っていたら、ヨーロッパどころか全世界がヒトラーの手中に落ちていたかもしれないと思うと戦慄した。チャーチルはまさに、あの時代、あのシーンで世界に必要とされた政治家だったのかもしれない。

2018年4月15日 (日)

女の一生

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モーパッサンは翻訳された短編集は読破しているが、この「女の一生」は未読。日常の人々の生活の中から、喜怒哀楽を美化せずに描く、自然主義といわれるモーパッサンの世界は、時に残酷で絶望的な人間性の一面を浮き彫りにする。ふとしたことがきっかけで露わになる人間の本音や、不運としかいいようのない出来事に翻弄される人々。読後感があまりよくないものもあるが、「確かにその通り」と納得もできてしまうのは、それが「ありのままの事実」だからだろう。そんなモーパッサンの代表作とも言える「女の一生」の映画化。遅れて公開してくれていた劇場での鑑賞。
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19世紀のノルマンディー。修道院の寄宿学校から両親や女中ロザリ(ニナ・ミュリス)のいる家に帰ってきたジャンヌ(ジュディット・シュムラ)は、近所に引っ越してきた子爵ジュリアン(スワン・アルロー)と付き合い、その後結婚する。ところが未婚のロザリが出産して、彼女とジュリアンが結婚前から関係を持っていたことが発覚する。ジャンヌは自身も子供を宿し、神父に諭されたこともあり、離婚を思いとどまる。やがて、息子の誕生で明るさを取り戻すが、友人である伯爵夫人(クロチルド・エム)とジュリアンの不倫が発覚する。 (シネマトゥディ)

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セリフもナレーションもBGMも控えめの静かな映画だ。ヒロインのジャンヌを中心に物語は進んでいくが、ところどころ時間軸をシャッフルさせているところもある。夫の不倫で苦しむ場面の後に無邪気で幸せだった娘時代や新婚時代が挿入されたり、反対に幸せな時代の場面の合い間に、孤独に年老いていくジャンヌの映像が挿入されたりする。そのためか、常に彼女の人生を俯瞰的に「美化せずに」眺めているような気分になる。また至近距離で、手持ちカメラで撮ったかのようなカットも多く、こちらは自分もその場にいて光景を覗き見ているような臨場感がある。とても「自然」でありのままの描写は、おそらく原作の忠実な実写を意識しているのだろう。
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結婚してから少しずつ陰ってゆくジャンヌの人生。妻の侍女や友人と不倫を重ねる夫。寂しさのあまり甘やかした息子は、お金をせびるときだけ手紙を寄越し、それ以外は家に寄りつこうともしない。ラストにようやく孫娘を腕にしてほんの少し光明が見えたように描かれている彼女の人生は、全体的に見たらやはり「悲劇」なのだろうと思う。

「女の一生」だなんて、まるでジャンヌの生き様が、この時代のフランス女性の代表みたいに取れる題がつけられているけど、女なら誰でも彼女のように不幸な結婚をするかというとそうでもないような気がした。結婚相手次第・・・今もそれは言えるかもしれないけど、この物語でも、人生の明暗を分けるのは配偶者によるところは大きいと感じた。
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ただ、やはり箱入り娘で修道院育ちというジャンヌの境遇や、相手のことをよく知らないまま結婚してしまう習慣など・・・そういう点は、この時代の彼女のような女性特有だったのかしらとも思った。いったい彼女はどこでどう方向転換したら、少しでも悲劇が食い止められたのか、ずっと考えながら観たけれど、「何とかできたでしょ、そこは」と感じたのは、息子を甘やかす場面くらいだった。彼女の父親以外は、夫も神父も息子も・・・男性はみんなちょっと酷かった。不倫や借金やスポイルされた子供に苦しむ問題は、今も昔も変わらないところがあったかも。

美しい映像で淡々と綴られる、女性にとっては気が滅入るような物語。でも確かにこれがモーパッサンの世界だよね・・・と本屋で原作を買って帰途についた。こういう、写実的で救いのない物語も嫌いではない。共感できる部分に心惹かれる自分がいる。

2017年12月14日 (木)

オリエント急行殺人事件

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原作があまりにも有名だし、1974年にシドニー・ルメット監督で映画化もされているので、そちらとの比較もかねて鑑賞。ちなみに私はアガサ・クリスティファンでもあり、ポアロものもマープルものも、女史の有名な作品は制覇済み。そしてルメット監督の古典的名作も大好きだった・・・。今回のケネス・ブラナー作のオリエント急行は、だからいろんな意味で公開をとても楽しみにしていた作品のひとつ。

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40年前に比べるとCG技術のおかげで、映像はとても美しく、豪華寝台列車の雰囲気がリアルに再現され、贅沢な気分を味わうことができたのは収穫のひとつ。衣装は・・・・これはルメット版も十分豪華だったし、伯爵夫人やミセス・ハバードの衣装などは、ルメット版デザインのほうが好きだ。

なによりも・・・ポアロを演じ、監督もこなしたケネス・ブラナーさん、目立ちたかったのかしら?と感じてしまった。冒頭のゆで卵や嘆きの壁のシーンは要らないし、原作にはない、列車から飛び出してまでのアクションシーンや、アンドレニ伯爵の逆ギレ暴力シーンや、謎を解く場面の拳銃騒ぎなども要らないのでは?そもそもポアロにアクションや拳銃は似合わない。

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クリスティの描いた原作「オリエント急行殺人事件」の世界観や雰囲気を見事に表現していたのはやはり、密室劇の香りの漂うルメット版だと思う。まあ、そのルメット版と違いを作りたかったために、あえてアクションシーンも作ったのかもしれないけど。そしてこちらを好む観客もきっといるだろうとは思う。始終「ポアロってこんなキャラじゃないよ・・・・」という違和感を感じ続けたのは私だけ?

有名なミステリの古典なのだから、リメイクとはいえもっと原作に忠実に、犯人たちのトリックなどの種明かしも丁寧に、そしてもっと犯人に感情移入もできるように描いてほしかった。とにかくポアロの出番が多すぎて、大切なところを割愛していたような気もする。

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ジョニー・デップは、さすが上手かった。酷薄さと卑しさがにじみ出た悪党面は、これまで見たどんなジョニー・デップとも別人に見えた。

このケネス・ポアロで続編「ナイルに死す」も映画化されそうだけど、なんだかんだ言いつつも、きっとそちらも観てしまいそう・・・・。クリスティのファンなので。

2017年6月18日 (日)

アスファルト

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フランス発の、少し風変わりでハートウォーミングな「団地映画」。イザベル・ユペールが好きなのでDVDをレンタルしたのだが、意外にもとてもよかった。心がじんわりあたたかくなった。

とある老朽化した団地に住む3組の男女の物語。それぞれ世代も職業も背景もバラバラな組み合わせであり、普通ならありえない出会いかもしれない。

車いすの中年男×夜勤の看護師
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団地の2階に住む独身の中年男性スタンコヴィッチ。(名前からしてスラヴ系?)彼は老朽化したエレベーターの修理の費用の相持ちを、「自分は使う必要がないから。」という理由で拒む。彼だけ新しいエレベーターを使わない、という条件で住民は納得。ところが皮肉なことに、スタンコヴィッチはその後脳梗塞(?)か何かで車いす生活になり、エレベーターを使わないと外に出られない羽目に。住民の目を盗んで深夜にこっそりエレベーターを使って病院の自販機でスナックを買うのが日課になった彼は、そこで休憩中の夜勤の看護婦と知り合い、彼女に恋心を抱いた彼は、「写真家」だと偽って彼女との会話を楽しみにするようになるが・・・・。

失礼ながら何ともサエない中年男性。「自分は使わないから」という理由で共有のエレベーターの修理費用も出さないなど、性格的にも変人のにおいがプンプンするが、看護師に会いたいばかりに、まるで初めて恋をした中学生のような言動を取るところは、なぜかほほえましくも思えてくるから不思議だ。

鍵っ子ティーンエイジャー×落ちぶれた元人気女優
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年の差は親子よりも開いているかもしれないこの二人。母子家庭で母親は働いているのか常に不在の青年シャルリと、今はすっかり落ちぶれて団地に最近越してきた元人気女優のジャンヌ。現実に疎いジャンヌに対して、若いのにしっかりしているシャルリは、ジャンヌにオーディションの役柄や演技に対してアドヴァイスをしたり酔いつぶれた彼女の介抱をしたり。普通は仲よくなるはずのない違いすぎる世代と生活背景の二人の間に芽生える、年齢を超えた親しさは、母と息子のようでもあり、ほんのり恋愛めいた色合いもあり・・・・。

この、シャルリを演じた19歳のジュール・ベンシェトリ君
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色気と透明感を併せ持つ美青年なのだが、サミュエル・ベンシェトリ監督の息子さんであり、なんと「男と女」の名優ジャン=ルイ・トランティニャンのお孫さんだそうな。今後の映画界での活躍が楽しみだ。

不時着したNASAの宇宙飛行士とアルジェリア系移民の女性。
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この二人のお話が一番あり得ない出会い方で、かつ一番面白く、心にも残った。団地の屋上に間違って降り立った宇宙飛行士と、すぐに迎えにこないNASAってどうよ?と思いつつ、最初は言葉も通じない二人のズレたやり取りの可笑しさと、次第に疑似親子のように心を通わせていくところがとてもいい。宇宙飛行士を演じたマイケル・ピットを観たのは、ファニーゲームUSA以来だけど、こういう役の彼もいいなぁ。劇中のクスクス、とっても美味しそうだった・・・。

淡々と並行して進むストーリー。3組の男女のお話は、共通点は「団地」というだけで特に接点もなく終わるし、唯一どのストーリーでも触れられていた謎の「音」についても、ラストに種明かしの場面を見ると「な~んだ」となるのだけど、なぜか登場人物すべてが愛おしくなってくる不思議な心地よさがある。

この心地よさの正体は・・・・なんだろう。それまで全く違う世界で生きていた人と人が触れあい、わかり合っていく過程をじっくりと繊細に、そして爽やかに描いてくれているからかな。

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