嗤う蟲
「嗤う蟲」ってタイトルからして禍々しい雰囲気。使ってる二つの漢字の中に虫が合計四匹もいてゾワッとするし。普段使っている「虫」が、昆虫を指すことがほとんどなのに比べて、「蟲」は、昆虫や爬虫類、ねずみなどの小動物、魚類などの生物全般を意味するらしい。そして「蟲」は特に、ムカデやイモムシなどの爬虫類を指して使われるんだって。それに、虫嫌いな人にとっては、虫が三つも集まった「蟲」は見るだけでもゾワッとするかもしれない。「嗤う」という漢字も、「あざ笑う」という意味を持ち、なんとも気持ちの悪いタイトルで、そこがまたこの作品の内容にマッチしていて秀逸だ。
ジャンルはいわゆる田舎ホラー。田舎の閉塞感や因習やカルト集団による恐怖など、霊的な怖さではなく、怖いのはまさに「人」であり、よそから移住してきた主人公やその家族が、じわじわと精神的に追い詰められていく過程がなんとも恐ろしい作品である。こういうジャンルは映画も小説も私は嫌いじゃない。むしろ好きなジャンルである。ので、期待マックスで劇場で鑑賞。
あらすじ:田舎暮らしを夢見るイラストレーター・杏奈(深川麻衣)は、夫・輝道(若葉竜也)と共に都会を離れ、田園風景が広がる麻宮村に移り住む。新天地でのスローライフを満喫する二人だったが、自治会長の田久保夫妻から子作りを迫られるなど、自分たちの生活に過剰に干渉してくる村人たちに困惑する。やがて杏奈は、彼らの中には田久保(田口トモロヲ)を恐れる者がいることに気付き、村での暮らしに違和感を募らせていく。一方、輝道は田久保の仕事を手伝う中で、麻宮村を支配するおきてを知る。 (シネマトゥディより)
典型的な「村八分」ホラー。田舎暮らしを夢見て都会から移住してきた若い夫婦が、はじめは住人たちに歓迎されるが、隠された「掟」に次第に気づき、従わないと生活が脅かされていくことに徐々に恐怖を募らせはじめて・・・というストーリー。非常によくできていて、こういう作品は、移住してきた主人公たちが、
①歓迎されて喜ぶ
↓
②徐々に芽生える違和感に戸惑う
↓
③「掟」や「異常な慣習」に危機感を抱く
↓
④クライマックスの恐怖を味わう
↓
⑤絶望して諦める or 闘って脱出
というパターンをたどることがほとんど。この作品では、妻のほうが冒頭から何となく違和感に気づき、その後どんどん嫌悪感や拒絶感を募らせるのに比べ、夫はやや気弱で八方美人なところがあり、妻の訴える違和感を「大丈夫」と無理やり聞き流したあげくに、おぞましい陥穽にはまって身動きのとれない事態にまで落ちてしまう。ただ、多くの田舎ホラーが⑤の段階で諦めて取り込まれてしまう、あるいは殺されてしまうラストになりがちなのだが、この作品は一度は絶望の淵に落とされた妻が果敢にも闘って夫と一緒に脱出するので、後味は悪くない。
とはいえ、夫が田久保の罠にはまってじわじわと追い詰められていく様子は恐怖としかいいようがないし、村人が一致団結して「ありがっさま~~」と笑うシーンなど、不気味このうえない。ところどころ挿入される「うごめく虫」のアップシーンなども気色悪さを倍増してくれる。こういうジャンルが好きな人には強くお勧めです。
ちなみに、田舎ホラーが大好きな私のおすすめの映画は
・ミッドサマー(2019年 監督/アリ・アスター)
・理想郷(2022年 監督/ロドリゴ・ソロゴイェン)
・ウィッカーマン(1973年 監督/ロビン・ハーディ)
・楽園(2019年 監督/瀬々敬久)
・笛を吹く男(2015年 監督/キム・グァンテ)
上記の映画のうち、脱出できたのは最後の「笛を吹く男」のみ。脱出どころか村人たちに壮絶な復讐をやりとげるところはさすが韓国映画らしいが、息子を殺され、本人も満身創痍だから復讐して当たり前な展開だった。それ以外はみんな恐るべき集落の狂った因習の犠牲になってジ・エンドで、この胸糞悪さが田舎ホラーの醍醐味かもしれない。そう思うと、「嗤う蟲」の終わり方はかなり救いがあり、一家全員無事に脱出できるので胸糞悪さは薄めです。
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