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2023年3月26日 (日)

ロストケア

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今日、劇場で鑑賞。原作は読了済。

これは「救い」なのか、それとも「殺人」なのか。

ワンオペで働きながら90歳前後の両親二人を自宅で介護してきた身としては、松山ケンイチ演じる斯波にやはり共感してしまった。殺人には違いないし、裁かれなくてはいけない。しかし、地獄の中にいる介護者と被介護者にとってはやはり紛れもなく「救い」ともなったのは事実だと思った。

この社会には介護地獄という穴が空いていて、安全地帯にいる者たちはそれが見えなかったり見ようとしなかったりしている・・・。落ちた者にしかわからない絶望と孤独と苦しみがそこにはある。介護体験者だからわかるけれど、何が辛いって介護は終わりが見えないことだ。そして終わりというのはすなわち親の死を意味し、それをいつの間にか「待つ」自分に罪悪感を覚えたり、目の前でどんどん弱っていき変貌していく親の姿を見るのもまた辛い。心身ともにすり減っていき、共倒れになる。

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松山ケンイチさんの目の演技が凄かった。取り調べの時、時々ふっとその目に狂気が宿ったように見える瞬間があり、そんな彼は「殺人者」に見えたけれど、同じその目に涙と共に言いようのないくらいの悲しみや煩悶が宿った時の彼は「救世主」にも見えた。あれほどの壮絶な介護地獄を通り、最愛の父親を手にかけるしかなかった彼だからこそ許される行為なのでは、とさえ感じた。もちろん他者の命を奪う権利を持った人間などいないと頭の中ではよく承知していても。

それに比べると長澤まさみ演じる大友検事の正論には苛立ちを覚えたが、よく考えてみれば彼女は「安全地帯にいる世間一般や社会の代弁者」なのだから、介護体験のある私は「何も知らないくせに」としか思えなかったのかもしれない。介護地獄を終わらせるのは被介護者の死によるしかない。そして最後まで持ちこたえられるならいいけれど、介護者の方がその人生を崩壊させてしまうまで終わらないことも多いのだから。

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我が家は、この春ようやく両親を施設に入所させることが決まった。骨折を繰り返す母とパーキンソン病の父を長く一人で看てきたが、父が脳梗塞で半身不随になり、いよいよもう限界がきたからだ。仕事以外の時間をすべて介護にあて、二人分の通院や買い物の付き添いをこなし、何度も救急車を呼び・・・そんな日々はいくら親を愛していても、心と体が勝手に疲弊していく毎日だったと思う。親との別れは切ないし、これからも全力で看ようと思うけれど、施設に入所後はぐっと楽になるし、親の死に関しては、悲しみだけではなく明らかに「安堵」も感じるだろうと思う。それだけ、介護は辛いものだから。人生の終わりに、親子が苦しみを与えあうなんて、そんな悲しいことが起きちゃいけないはずなのに。

斯波の介護地獄の最中での親子シーンは壮絶だった。誰一人助けてくれない深い穴の底の、柄本明の名演技に泣かされた。脳梗塞の父親と重なった。介護地獄の穴はふさがるどころか、これからも大きく深くなっていく可能性があることにも戦慄する。世の政治家よ、全員この映画を観て、そして現実を直視してほしい。

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コメント

ロストケア、終映ギリギリで観て来ました。間に合って良かったー。
監督の前田哲さんは「月はどっちに出ている」の助監督をされていたとか。丁度いま読んでる山田太一さんの「月日の残像」に、山田さんの助監督時代のことが書いてあって、そちらも興味深かったです。
この映画、出演者に一々驚かされました。あれ、この俳優さん知ってるけど、いやまさかあの人?本当に?、何度も自分に問いながら役どころに見入ってしまうという…。
柄本明さんや峯村リエさんが私は大好きなので、その演技力には感嘆しました。
介護は今や誰もが我が事として捉えるべきですね。だって必ず人間には親がいて、そして人間の寿命がこれだけ延びているんですから。身近な友人からも様々な介護経験を聞きます。それが映画の中で、具体的に的確に、決して過剰にならないように描かれていて、監督のセンスを感じました。その数秒の映像を見せられただけで、こちらは十分そこから想像を自分の方へ持って来れるんです。そして、、、していたマスクの中に目からこぼれたものが伝って仕様がなかったのが、柄本明さんが歪んだ口で息子に訴えかけるあのシーンでした。

本当にいい映画を観ると、何とも言えません。
私は、傍聴席で遺族が叫んだあの一言も、この映画には絶対必要だったなと思って、ますます監督のセンスに惚れました。

ダリアさん こんばんは

お返事がすっかり遅くなってしまい申し訳ありません。
おっしゃる通り、まことに壮絶でリアルで心を打たれる作品、そして俳優さんたちの名演技にも感嘆しましたね。2度映画館に足を運びました。柄本明さんの演技が特に心に残りましたが、父の姿と重なるものがあったからでしょう。その父もつい先日天に召されました。介護が始まって数カ月のことであり、寝たきりになってからは施設にお世話になったので、私はこの映画の中の人たちのような苦しみはなかったかもしれませんが、それは運よくタイミングよく施設に空きがあり、費用も賄えるももであったからです。この条件がそろわなければ、松山ケンイチ演じる斯波のような介護地獄を味わっていたかもしれません。そしてまだ母の介護は続いています。こちらも施設にお世話になっていますが杖歩行から車椅子になり、認知も確実に進んできています。
長生きは決して幸せではないとしみじみ思います。超高齢化社会、これから穴に落ちる人がますます増え、その光景が当たり前になって何の対策もとれない日が確実に近づいてきていると思うと暗澹とします。

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