流浪の月
こんな愛の形があるなんて・・・。
観終わった後、切ない余韻に満たされた。
家内更紗。伯母の家での性的虐待を誰にも話せない孤児の少女。
佐伯文。異性を愛せない身体的な欠陥を抱えて生きてきた孤独な大学生。
この二人が出会い、一緒に過ごす日々そのものが、互いの癒しとなり救いとなる。家族でも友人でもなく恋人でもない、男女を超えた絆がそこに生まれる。それはある意味、ソウルメイトともいえる絆かもしれない。それでも世間の目に映る二人は、ロリコン誘拐犯と被害女児でしかなく、刻まれたデジタルタトゥーは消えることはない。事件後、別々の人生を送っていた二人が再会し、世間の無理解や攻撃にさらされながらも、「それでも一緒にいる。離れない。」と決断するまでの物語だ。そして、二人がこれから対峙する世界は、決して平坦な道ではなく、世間の冷たさから逃げ続けるものとなるかもしれない・・・そんな覚悟の中にも、互いが「やっと居場所を見つけた」というささやかな幸せを感じるラストが、なんとも切ない作品だった。
松坂桃李さんは原作でイメージしていた文(ふみ)そのもの。過酷な減量で痛ましいほど痩せた身体からは、まるで植物のような中性的な静謐さがただよう。寡黙で悲しげで、時にじっと相手に注がれる漆黒の瞳から、彼の抱えてきた秘密の重さとやるせなさがにじみ出る。彼は、ほんのわずかな声音やまなざしの変化だけで演技できる素晴らしい俳優さんだと感嘆した。
あまりにも辛いことは誰にも言えない。理解や慰めを得る前に、そんな秘密や悩みがある自分そのものを人に悟られたくないからだ。文の身体の秘密と養家で更紗の受けた性暴力は、どちらもそれほど深い闇だった。他人には言えない傷を抱えた二人だからこそ、その愛は、家族愛とも異性愛とも違う唯一無二のものだったのかもしれない。
明るい役も暗い役もとても上手にこなす広瀬すずさん。可愛らしさと美しさ、どちらも兼ね備えた彼女だけど、DVを受け続けながらも、明るさと芯の強さを内に秘めて、自分の道を選び取っていく更紗をこのうえなく見事に演じていた。
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