パラサイト 半地下の家族
劇場で鑑賞。殺人の追憶、グエムルー漢江の怪物ー 母なる証明でおなじみの、韓国映画の鬼才ポン・ジュノ監督の最新作にして最高傑作。第92回アカデミー賞の作品賞・監督賞・外国語映画賞をはじめ、カンヌでもパルムドール賞など、栄えある各賞を総なめにした作品だ。
あらすじ;半地下住宅に住むキム一家は家族全員が失業中で、ピザ屋の箱を組み立てる内職で日々の暮らしを何とかしのいでいた。ある日、長男のギウ(チェ・ウシク)がひょんないきさつからIT企業のCEOを務める大富豪パク氏の娘の家庭教師として雇われることになった。パク氏の豪邸と家族構成を知ったギウは、パク氏の一人息子の絵の教師として妹のギジョンを推薦する。味をしめた兄妹は、次いで父のギテク(ソン・ガンホ)をパク氏のお抱え運転手に、母親の チュンスクを家政婦に推薦しようと計画し、それぞれ前任者が解雇されるように仕向ける。こうして一家全員が富豪のパク氏の家庭に雇われることに成功するのだが・・・。
前半はコメディタッチでの展開。キム一家の半地下住宅での生活の様子がコミカルに描かれ、他家のWi-Fiの無断使用や雇い主の宅配ピザ店とのやりとりからは、一家の貧窮ぶりやしたたかさが窺える。長男のギウがパク家と繋がりを持ち、一家が素性を偽って次々にパク家に潜入?する過程はこの作品中もっともコミカルで、言っては何だが痛快にすら感じるところかもしれない。パク家の夫人ヨンギョ(チョ・ヨジュン)は美形だが世間知らずで、簡単にギウたちに騙されてしまう。事業では敏腕でも家庭のことはすべて夫人にまかせきりのパク氏もまた、家庭教師や運転手や家政婦に関しては深く詮索することもない。
苦労知らずの富裕層の鷹揚さと、それとは対照的な貧困層の雑草のようなしたたかさ。どちらかに肩入れしているのでもなくどちらかを非難しているのでもない描き方で、ただ二つの階層では「こんなにも生きる世界と価値観が違うんだ」ということを感じる。韓国の富裕層と貧困層の間には日本では想像もつかないほどの「深くて暗い川」があり、両者の住む世界をはっきりと隔てている。こちらからあちらへと移ることは至難の業。そんな中、キム一家はパク家の「幸せをほんの少しおすそ分け」してもらおうとしたのだろう。やり方は詐欺ではあるし、前任者を追い出す方法は卑劣ではあるけれど。
物語の中盤にさしかかり、(ここからが一気に佳境になるのだが)パク一家が息子の誕生日祝いにキャンプ旅行へと出発した夜、キム一家は留守の豪邸で一堂に会し、傍若無人の宴会を繰り広げる。この後を詳しく書けばネタバレになるので控えるが、宴会の最中にキム家が策略を使って追い出した前任の家政婦が邸を訪ねてくる。その後の急展開の凄まじさと面白さ。なんと、パク家にパラサイト(寄生)していたのは実は彼らだけではなかった・・・!邸の地下には、パク家の家族すらその存在を知らない地下室があり、何年もの間、そこに身を潜めて生きている人物がいたのだ!
物語はブラックコメディ→ホラー&サスペンスと息つく間もなく様相を変えながら、終盤にはさらに仰天の展開となり、ラストは切ない希望とやり切れない諦念が交じり合った強烈な余韻を残して幕を閉じる。日本も、かつての「一億総中流」という時代に比べればじわじわと貧富の差が広がりつつある。それでも韓国の「階層移動はほぼ不可能」なほどの深刻な格差社会に比べれば、日本はまだ「努力や才能や運で豊かな生活が手に入る」チャンスに恵まれている。キム家の家族はみなそれぞれ能力的には決して劣っていない。むしろ娘と息子は優秀なのではないかと思えるのに、学業を頑張っても大学に進学しても、就職すらままならないのが韓国の実情だとしたら、「あちらの世界」に移る努力が報われないならば、彼らに寄生して生きていく方法を選びたくなる気持ちも理解できる。
ラストシーンのギウの願い。失ったものの大きさを考えつつも、今はまだ会うことが叶わない父ギテクに思いを馳せる。いつか、いつの日か・・・パラサイトという手段ではなく正々堂々と彼が「格差の壁」を超える日が来るのだろうか。それは実現可能な夢なのか、それとも哀しい妄想にすぎないのだろうか。
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ななさん、ご無沙汰しています。
韓国映画はあまりなじみがないのですが
(でもポン・ジュノ監督の母なる証明は見ています。
これもガツンとくる作品でした)
パラサイトは比較的若葉マークにもとっつきやすく楽しめました。
根底としては格差問題があるのでしょうが
あまり説教くさくなく、エンターテイメントとして表現されていたのが秀逸でした。
字幕嫌いのアメリカ人に、それでも見たいと思わせた
監督の力量はすばらしいですね。
投稿: セレンディピティ | 2020年4月 1日 (水) 00時13分
セレンさん こんにちは!
そっか~~、韓国映画はあまりご覧にならないのね。
でもこの作品は数々の賞をとっただけあって、万人受けもするのですね。
そうですね。この監督さんの作品はどれも深い社会問題を根底に描いていますが
コミカルな描き方やエンタメ性もあるので入り込みやすいんです。
楽しめるし、考え込むこともできるし、問題提起もしてくれるし
素晴らしい監督さんだと思います。
投稿: なな | 2020年4月11日 (土) 17時40分