君の名前で僕を呼んで
愛し合いながらも、許されない未来を抱えた恋人たちの、ひと夏の関係を描いた物語。17歳の少年エリオの成長物語でもあり、モーリスを彷彿とさせる美しさと切なさに満ちていた。
17歳のエリオは、アメリカの大学教授の一人息子。オリヴァーは、エリオの父の教え子で、課程論文を執筆中のアメリカの大学生。彼らは、エリオ一家がひと夏を過ごす北イタリアの別荘で出会う。オリヴァーが父のアシスタントとして別荘に招待されたからだ。自由気ままで自信に満ちたオリヴァーに軽い反発を感じたエリオだったが、次第に彼に惹かれていき・・・・。
今と比べて同性愛が禁断だった時代。二人の恋は周囲に悟られてはいけない期限付きのものだった。年上のオリヴァーは特にそれをよく心得ており、まだ思春期の無垢なエリオに対して責任や痛みも感じていて、最初はあえて距離を取ろうとする。エリオもまたガールフレンドを作って彼女ともいい関係を結ぶのだが、オリヴァーと気持ちを確かめあってからは、一気に彼にのめりこむ・・・。
誰にも打ち明けることができず、祝福もされず、いつか終わることだけが決まっている恋。それは、刹那的な煌めきや美しさに満ちた切ない恋だ。ひと夏の関係が終わりに近づき、オリヴァーがアメリカへ去る前に、両親は二人を小旅行に送り出す。実は何もかも感づいていて、それでも息子を責めたり非難したりすることなく、温かく見守ったエリオの父は、おそらく過去に踏み出すことができなかった恋の思い出があったのかもしれない。
駅での別れはとてもやるせない。名残を惜しむ長い抱擁の間、二人とも再会を誓う言葉を口にすることはない。おそらく恋人として会うことはもう叶わないと二人ともわかっていたから。 将来、エリオにはガールフレンドが、オリヴァーには妻が、それぞれにとって世間からみて違和感のない伴侶が現れることはわかっていたから。
まるで美しい音楽のような、絵画のような作品。同性愛とかは関係なく、深く激しく愛し合った相手を生涯の伴侶に選べなかった体験のあるひとには、心揺さぶられる物語だろう。ラストがとても素晴らしい。オリヴァーの電話に涙するエリオの心の中を、あえて台詞では語らないところが深い余韻を残す。
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