万引き家族
先週、劇場で鑑賞。カンヌでパルムドールを獲っただけあって、樹木希林さんやリリー・フランキーさん、安藤サクラさんたち演技派の俳優陣による熟練した演技と、重く切ないテーマに深い感動を覚えることができた。素晴らしい作品だ。
演技もよかったが、取り上げられている社会問題が、現代の日本が抱えている実は切実なものばかり。高齢者所在不明問題、実の親によるネグレクト、JKの風俗店バイトなどなど、実際に救済の手が回りかねている社会問題で、いわば日本の「暗部」「恥部」といっても過言ではない。
東京の下町に暮らす、柴田一家。
年金暮らしの祖母と日雇い仕事の父。クリーニング店のパートの母と、風俗店で働く母の妹。そして、学校にも行かず、スーパーで父から万引きを指南されている少年。社会の底辺で生きているような、殺伐とした暮らしぶりなのに家族の会話や表情は飄々として明るい。しかし、物語が進むにつれて、何の説明もなしに始まったこの「家族」のメンバーが、実は全員、血のつながっていない他人の集まりであることがわかってくる。
途中で家族に加わった幼い女児以外の他のメンバーが、いったい過去に何を抱えていて、どんなきっかけと理由で柴田家の一員になったのか、最後まで詳しくは語られない。しかし、誰もが実の家族には恵まれなかったり、築くことができなかったり・・・という事情を抱えていたんだろうなという想像はつく。
家族を作りそこねた者たちによる疑似家族。彼らは、その日その日は楽しく気楽に生きているようだが、実際は犯罪に片足を突っ込んでいたり、就学できてなかったり、というさまざまな問題を見てみぬふりをしているに過ぎない。それはまるで、この作品に描かれている社会問題を、政府が、社会が、見てみぬふりをして先送りしているのと同じなのかもしれない。
この家族は、祖母の死と、祥太がおこしたある行動がきっかけで、崩壊に向けて動き出すことになる。崩壊というよりは「解散」かもしれない。
それぞれ「本来の」アイデンティティに戻って生きていくことになった彼らの、これからはどうなるのだろうか。少なくとも、祥太少年は柴田家と訣別し、前を向いて歩いていくだろう。それと対照的に、虐待する実の親のもとに戻された少女ゆりの、ベランダから何かをじっと見つめる瞳が切なかった。
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この映画は色々な意味で切なかったですね。
私は好きではありませんが、是枝監督のどうしてもこれを作りたかったという思いは
理解できるような気がしました。
ネットでは、この作品をろくに見もしないで国辱もの、日本の恥部と
避難する向きもあるようです。
観ないで批判するなんて、言語道断だと思うのですけどね。
投稿: zooey | 2018年7月 3日 (火) 14時48分
ななさん、久しぶりに映画でコメントさせて頂けるのを嬉しく思います。
血か時間かというシンプルな図式ではなく、本作は実にいろんな問題をはらんでますね。
愛おしいと思いながら、反面で幼な子に犯罪をさせてしまっているわけですから。終盤の安藤サクラさんの「結局私たちじゃダメなんだよ」ってセリフがずっと残ってます。
監督の問いかけはまだまだ続くような気がしました。
投稿: ぺろんぱ | 2018年7月 3日 (火) 15時38分
zooeyさん 是枝監督は、高齢者所在不明問題などのテーマを
ずっと描きたかったそうですね。深い思い入れが感じられました。
だからこそ、訴えたい社会の問題がストレートに響いてくる作品で
そういう意味では強烈・・・賛否両論なのもうなずけますね。
でもおっしゃる通り、観ないで批判する人は無しだなぁ。
高齢者や児童虐待問題、共感する自分が切なかったなぁ・・・。
投稿: なな | 2018年7月 4日 (水) 22時33分
ぺろんぱさん こんばんは お元気ですか
この映画、いろいろと考えさせられて鑑賞後に後を引きましたね。
単なる血や時間ではなく、そもそも家族になった理由やきっかけにも
今の日本が抱えている重い問題が関わっていますよね。
子供に万引きをさせたり、老母の死を隠そうとしたりする父親は確かに軽犯罪者。
だけど「それしか教えられるものがない」と取り調べで語るその顔の悲しさ。
祥太少年への愛情は本物には違いないのに…切ない。
監督の問題提起はこれからも続きそうですが、答えも出ないかもしれません。
投稿: なな | 2018年7月 4日 (水) 22時48分
ななさん、こんにちは。
映画を見たあともいろいろ考えさせられる作品でした。
日本のさまざまな問題がこれでもかと詰め込まれていましたが、貧困、孤独、社会の不寛容や無関心など、ひとつの問題がまた別の問題を引き起こしているケースも多いのでしょうね。
綱渡りのような彼らの生活を見ながら、いつまでも続けられるわけがないと思っていましたが、ここまで来るまでに何か救える方法がなかったのか・・・考え込んでしまいました。
投稿: セレンディピティ | 2018年8月15日 (水) 10時21分
セレンさん こんばんは
>ひとつの問題がまた別の問題を引き起こしているケースも多いのでしょうね。
ほんとにそう!社会の暗部ですからどうしても問題は連動して起こりますよね。
救える方法が追い付かないのが現状でしょう。
綱渡りのような彼らの生活・・・。
食に関心のあるタイプなので彼らの食卓の貧しさ(調理をしていないものばかり)なのが
とても気になりました。
このような、後々まで考えさせられる作品は好きです。
投稿: なな | 2018年8月17日 (金) 21時56分