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2018年1月16日 (火)

光をくれた人

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DVDで鑑賞。テーマは夫婦愛というよりは、罪の償いや赦しなのかなと思った。そういう意味でとても心に残った作品となった。

オーストラリアの孤島ヤヌス・ロックに灯台守として赴任した帰還兵トム・シェアボーン(マイケル・ファスベンダー)と、彼の若く美しい妻イザベル(アリシア・ヴィキャンデル)の犯した罪。それは、島に流れ着いた赤ん坊を、自分たちの子供と偽って育てたことだった。ボートには父親と思しき男性の遺体。ちょうど自分たちの子供を死産で失っていたばかりのイザベルに懇願され、トムは事実を報告することを断念し、男性の遺体を密かに葬り、赤子を自分たちの実子と世間に偽って育て始める。

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よく考えたら、これは途方もない罪である。その場限りで消えてしまうような嘘だとか意地悪だとかに比べると、けた違いに重い行為だ。赤子の母親や、その他の身寄りの家族は健在で、赤子を探しているかもしれないのに。人ひとりをそっくり盗み取るような行為であり、生涯、偽り続けていく覚悟もいる罪だ。

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思慮深く真面目な夫のトムは、その罪の重大さを十分理解していたと思う。だからこそ彼は逡巡し葛藤する。

それでも彼が妻の懇願を受け入れのは、ひとえに彼女を深く愛していたから。彼のそれまでの寂しい色褪せた人生を、愛で豊かに彩ってくれたのがイザベルだったから。イザベルの天真爛漫さや明るさは、彼にとって本当に喜びだったのだろう。

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良心の呵責を感じ続けたトムに比べて、母になりたい願いに執りつかれていたとしか思えないイザベルの行為は、身勝手で幼くも思えたけど、孤島に夫と二人きりで過ごす生活や、二度の流産、死産が彼女の理性や判断力を失わせたのも無理はない。トムはそこにも自分の責任を感じ、なんとかして妻の笑顔を取り戻したかったのかもしれない。孤島での暮らしは、世界に存在しているのはただ二人だけのような錯覚を生んでしまうものだから。

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実子と偽って四歳まで育てたルーシーの愛らしさ。トムとイザベルはこの娘によって無上の喜びを得る。しかし、トムは本土に帰ったときに、自分たちの幸せは、ルーシーの実母ハナ(レイチェル・ワイズ)から取り上げたものであることに気づかされ打ちのめされる。良心の呵責に耐えきれず、トムは ハナに匿名で手紙を送り、娘の生存を告げてしまう。それは妻のイザベルにとっては裏切り行為だったのだけれど・・・。

この物語は、さまざまな赦しと愛に満ちている。
トム夫婦がお互いに抱いた愛と赦し。被害者であるハナが、亡き夫を想いつつ、トムたちに差し出す赦し。そして、真実を告白し、罪を償うことでトムとイザベルが得た神の赦しと平安。

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善人も罪を犯す。その動機は様々で、とても切ないものもある。責めたくても責められない罪もある。しかし、それが法的にも裁かれるほどの重さを持った罪である場合、やはり贖罪や赦しを経ないと平安は得られない。善人であるならなおさらのこと。

トムの晩年が穏やかだったことも、成長したルーシーが会いに来てくれたことも、イザベルが書き残した手紙をルーシーに読んでもらえたことも・・・・本当によかったと思った。

マイケル・ファスベンダーの、内面の苦悩や細やかな愛情を表現した演技が素晴らしい。アクション映画でも活躍する彼だが、こういうヒューマンドラマを演じても素晴らしいのね。

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コメント

余韻が残る物語でした。
最後はよかったのですが、あそこまでの20年はさぞ長かったろうと。
イザベルはどんなに待っていただろうかと思うと、泣けました。
ハナが、実の娘ルーシーに拒絶されるところも辛かったですね。
http://blog.goo.ne.jp/franny0330/e/1eeddc4163600748a0c91c42953a5cd5#comment-list

ななさん、こんにちは。
心に響く作品でした。
実はななさんに是非見て欲しいな…と心の中で思っていたので
こうして感想をうかがうことができてとてもうれしいです。

戦争、孤島、流産…さまざまなことが重なって起こった悲劇ですが
赦すこと、償うことが、心の平安へと導かれたのでしょうね。
最後のトムの穏やかな笑顔が
その後のすべてを表しているように思いました。

マイケル・ファスベンダーをはじめ、3人の演技がすばらしかったですね。

zooeyさん 

>イザベルはどんなに待っていただろうかと思うと、泣けました。
自分からは会わない約束をしていただけに
ルーシーから会いに来てくれるのを待っていたでしょうね。
自分の死後もいつかは来てくれると信じてトムに手紙を託したのでしょう。
私は、あんなことがあっても乗り越えて最後までトム夫婦が添い遂げたことも嬉しかったです。

セレンさん

>実はななさんに是非見て欲しいな…と心の中で思っていたので
> こうして感想をうかがうことができてとてもうれしいです。
ありがとうございます。実はキャストを見てぜひとも観たい作品だったのですが
イザベルがわがまますぎて共感できないというレビューも目にしていたので
鑑賞を二の足を踏んでいたのですが
結果的に観てよかったです。
人の弱さも強さも描かれていたし、何より赦しや愛が心に残りました。
3人の俳優さん、どなたも名演で、最高のキャスティングでもありましたね。
マイケル・ファスベンダーの出演作の中では、これが一番好きになりました。

ななさん、こんにちは!
私もさっき、これ見ました。
なかなか面白かったです。

キリスト教的には、一度は赦す・・・っていうのが、あるとか・・。
イザベルが2度の流産で、あの赤ちゃんをどうしても手放したくなくて・・っていうのは、よく解るのですが、その後の行動が、うーむ・・・と思ってしまいました。

でも美男美女で、目にも愉しかったです。

以前、ななさんもご覧になっている、中国映画の「最愛の子」を、ちょっと思い出しました。

latifa さん こんばんは

お返事が遅くなりました。

>キリスト教的には、一度は赦す・・・っていうのが、あるとか・・。
一度どころか聖書でキリストは「7度を70倍するくらい許しなさい」と弟子に教えています( ゚Д゚)
つまり無制限に相手を許せと。
無理無理~ですよね。一度でも許せないことってあるもの。

>イザベルが2度の流産で、あの赤ちゃんをどうしても手放したくなくて・・っていうのは、よく解るのですが、その後の行動が、うーむ・・・と思ってしまいました
わたしもそこらへんのイザベルの言動にはイライラしました。
まわりの人間がみんな大人な対応なのに彼女一人が幼くて自己中に感じました。
でも夫のトムはそんなイザベルの幼さや天真爛漫さに癒されて愛して結婚したのでしょうね。
だから最後まで妻を理解し受け止め続けたのでしょう。

>中国映画の「最愛の子」を、ちょっと思い出しました。
生みの親と育ての親の物語として通じるものがありますね。

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