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2017年11月の記事

2017年11月18日 (土)

マンチェスター・バイ・ザ・シー

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DVDで鑑賞。今年の第89回アカデミー賞で、主演男優賞と脚本賞を受賞した作品。主演はケイシー・アフレック。彼の演技は、心に傷を負った繊細な主人公を演じさせたら、彼の右に出る者はいないと再認識したくらい、見事だった。 

これほどまでに「哀しさ」と「優しさ」が詰まった作品を私は知らない・・・・。

ボストンの便利屋で働くリー・チャンドラー(アフレック)。彼はかねてから心臓病を患っていた兄ジョーの訃報を受け、長い間帰っていなかった故郷(マンチェスター・バイ・ザ・シー)に帰郷する。そこは、彼にとって、幸せな思い出とともに、それをはるかに上回る重すぎる過去がある町だった。

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葬儀のあと、リーは自分が兄の遺児パトリックの後見人に指定されていることを知る。しかし、遺された甥と一緒に暮らすには、この町はリーにとって辛すぎる思い出のある場所だった。それでも今後の方針が決まるまでの間、リーとパトリックは、時には衝突し、時には不器用にいたわり合いつつ、ぎこちない同居生活をスタートさせる。

この町では暮らせないリーと、ここで築いてきた交友関係や思い出との訣別を嫌がり、リーの住んでいるボストンに引っ越すことを拒否する思春期のパトリック。最愛の父親を亡くし、再婚した母には頼れないパトリックの寂しさと、深いトラウマを抱えたリーの痛み。二人とも哀れで、二人とも切ない。

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挿入される回想シーンで、徐々に明らかになるリーの過去。それは、自分の過失から愛児を喪うというあまりにも痛ましいもので、癒えることは一生不可能だと思えるものだった。リーを責め、去っていった妻のランディとの再会。演じるミシェル・ウィリアムズは出演シーンは多くないのに、なんと印象的で見事な演技をすることか。

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これは過去のトラウマからの再生の物語ではない。辛すぎる過去を乗り越えられない主人公と、彼を取り巻く親しい人たちの物語だ。かつて自分がリーを責めたことを赦してほしいと涙するランディ。弟や息子を気遣いつつ逝った兄のジョーと、兄弟の友人で、パトリックの養父になってくれるジョージ。 容赦のない哀しみは厳然と存在するが、ひそやかな優しさもまた存在することが慰めとなっている。

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ラストシーン、ボストンに帰るリーと、残るパトリックの、道を歩きながらのやりとりが心に沁みる。二人とも実は一緒にいたいんだな・・・・それを素直には表現できなくて、でもお互いの気持ちは通じ合っているんだ・・・という感じがよく伝わってきた。

「乗り越えられない・・・辛すぎる。」と言ったリーの気持ちはよくわかる。ほんとうによくわかる。軽々しく頑張れなんてとても言えない。ただ黙って彼の肩を抱いてあげたい。いや、それすら憚られ、ただ見守りながら祈り続けたい…そんな気持ちになった。、時やパトリックの存在が、彼の悲しみを少しでも癒す日は来るのだろうか。折に触れて生々しく疼く痛みは、きっと生涯、消えることはないだろう。それでも前を向いて生きていってほしいと思った。

2017年11月12日 (日)

独創的な花器で

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こちら、まるで蛇を想わせる「うねり」が面白い花器です。

自分では絶対に選ばない(選べない)タイプの花器なのですが、数年前に、華道教室のお師匠さんのお勧めで購入しました。これが案外、活けやすいのです。もちろん花材を選びはするけれど。

基本的には、二つの口から伸ばした枝ものを、上で繋げてアーチを作る活け方が多いですね。なかなか珍しい活け方なのか、「おお~」と驚いていただけます。


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芯となる花材は今回は二本のオンシジウム。左右の口から伸ばした枝を上で絡めてアーチを作っています。

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華やかさをプラスする足元のゴットの枝は、オンシジウムの芯に巻きつけています。外れそうなところは実は裏から緑のビニールテープで止めているんです。もちろん見えないように・・・。

Img_1002_3全体像です。

この「蛇」の花器には、オンシジウムの他にも、お正月に、千両と銀を吹き付けた柳で作ったアーチを活けたこともありますが(画像がないのが残念)なかなか素敵にしあがりました。あと、ツルウメモドキとかもいいですね。

この花器のもう一ついいところは、「少ない花材で大きく活けることができる」という点です。それでいてインパクトが大の作品になります。重宝しています。

この花器にはこの花材を・・・とか、反対にこの花材ならあの花器で、といろいろ考えるのも楽しいです。

2017年11月 7日 (火)

ハクソー・リッジ

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第二次世界大戦の激戦地ハクソー・リッジで、武器を持たずにたった一人で75人の命を救った兵士の実話から生まれた感動作。

主人公は、良心的兵役拒否者としてはアメリカ史上初めて名誉勲章(メダル・オブ・オナー)を授けられたデズモンド・トーマス・ドス
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ドスを演じるのは、沈黙ーサイレンスーといい、この作品といい、信心深い役がここのところ続いているアンドリュー・ガーフィールド。監督は、パッションでイエス・キリストの壮絶な十字架刑を描いたメル・ギブソン。

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再臨派の敬虔なクリスチャンのドスは、「殺人は罪である。」という信念のもと、衛生兵として陸軍に志願し、文字通り「一人も殺さなかった」が、自らの命を掛けて多くの仲間の命を救った。彼の勇気と功績を称えた名誉勲章は、米軍の勲章の中では最高のものである。

映画の前半は、ドスがなぜ「武器を持たない」という信念を持つに至ったか、彼の生い立ちや家族との関係が描かれる。
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少年の日に喧嘩のはずみで、兄を殴り殺しそうになった体験。敬虔な再臨派の信者の母と、第一次大戦で心に深い傷を負った父親。母に暴力を振るう父親に銃口を向けたこと。「絶対に殺さない」という信念で戦場に赴いたドスが、本当に癒したかったのは、戦場で仲間を殺された父の心の傷だったのかもしれない。

ドスが異色だったのは、良心的兵役拒否者なのに志願し、入隊したこと。そして入隊したにも関わらず、ライフルの訓練で「触れません。」上官の命令を拒否し、除隊の勧めも断って、非武装での従軍というスタイルを貫いたことだ。実際、入隊したなら武器を持って戦えよ、と同じ仲間なら彼にドン引きして当然だと思う。場違いもいいところだ。全体の士気も下がる。
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しかし、ドスは、仲間から軟弱者、臆病者と蔑まれて嫌がらせやリンチを受けても、軍法会議にかけられても、決して信念を曲げることはなかった。彼は、自らを「良心的協力者」と称し、「皆は殺すが、僕は助けたい。人と人が殺し合う中で、一人くらい助ける者がいてもいい。」と主張し、軍隊を去らなかった。

しかし、そんなドスへの仲間の評価は、軽蔑から尊敬へ、足手まといから、「お前なしでは戦えない」と指揮官に言わしめるほど頼れる存在へと180度変容する。それは、熾烈を極めた「ハクソー・リッジの戦い」で、ドスが「殺さずに助ける」という信念を実際に行動で示したからだ。
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ハクソー・リッジとは、沖縄の浦添城跡一帯にある丘陵地帯の断崖絶壁前田断崖の別名。ここで米軍と日本軍は、前後11回にわたる激しい争奪戦、攻防戦を約3週間の間繰り広げた。

仲間が崖の下に退却した後も断崖の上に残り、傷ついた兵士の手当をしてロープで断崖の下に降ろす作業を繰り返すドス。一人救う度に「主よ、あと一人救わせてください。」と祈り続け・・・・なんと75人もの仲間を救いだしたのだ。敵の日本兵の手当てすら彼は行った。
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キリスト者がみな、ドスのように戦場で「殺さない」という信念を持っているわけではないし、持たねばならないとも思わない。「汝、殺すなかれ。」という教えは確かに重要な掟だけど、旧約の時代から、「聖戦」というものはしょっちゅうだったし、それに「敵を倒す」ことで味方を守る信念もまた正しい。現に、フューリーで登場した信仰篤い兵士バイブルは、信仰と戦闘で敵を殺すことは別物と、きっちりと割り切っていた。

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「何を信じ、どう行動するか」は人それぞれだ。「敵を殺さずに助けるだけ」の戦い方が、普通の戦い方より素晴らしいというわけではない。「愛する者を守るために武器を取って戦う。」者も無くてはならない存在だ。多くの兵士たちが捨て身で戦ったからこそ守られた祖国がある。ドス本人も、熾烈な戦闘の最中では、「武器で敵を殺す」仲間たちの援護を受け、命を助けられているのだから。

ただ、ドスの凄さは、困難にも迫害にも負けず、自分の信念を貫き、不可能な状況でそれを実行してみせたことだと思う。

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百戦錬磨の兵士でも身のすくむようなあの戦場で、丸腰で仲間を救い続ける・・・それはとてつもなく勇敢な行為であり、助け出した人数が75人もに登ったことを思えば、やはり信念を貫き通す人間の崇高さと、それが他者に与える希望や力に、感動を覚えずにはいられない。特に普段の彼が、控えめで謙虚で争いを好まない人物であったからこそ。「信念」と「信仰」と、それと「彼の信ずる神」の力によって、彼はあれほどの行動を取ることができたのだ。

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この作品での、ガーフィールドの演技は素晴らしい。ドスって本当にこんな若者だったんだろうな、と思わせる爽やかなオーラを醸し出し、その瞳からはピュアな精神がのぞいでいるかのようだ。「沈黙~」のロドリゴ神父の時に比べると、この作品の彼は、繊細で柔和な表情が清々しい。彼はとても知的な俳優さんで、しっかりとリサーチし、役作りを徹底してから撮影に臨んだそうだ。

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そして、この作品のもう一つの大きな見どころは、9割が実写という戦闘シーンのリアルさ。戦争映画はわりと好きでたくさん観ているけれど、これは今までに観た数々の戦闘シーンの中でも、群を抜いて恐ろしい戦場シーンだった。硝煙の中、どこにいるかわからない敵から浴びせられる砲弾の雨。火炎放射器で焼き払われる敵兵たち。足元にはネズミが群がる死骸の山。千切れた四肢やまき散らされたはらわたなどなど・・・。まさに地獄の光景。

箱爆弾とかいう、60㎝の至近距離で爆発しても危険のない爆弾を使った撮影で、ワイヤーやスタントマンは使っているけれど、CGはほとんどなしというこだわりの実写。そのせいで臨場感が半端ない迫力のある戦闘シーンに仕上がっている。戦闘シーンはメル・ギブソン監督は得意だけれど、この作品は本当に素晴らしい。おぞましく恐ろしい場面であるばずなのに、ハクソーが陥落する間際のスローモーションを多用した映像は、美しさすら感じる。

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この地獄のような戦場で、一人残って救出活動を続けたドス。強靭な意志とともに、体力も気力も、運も、すべて必要だったろう。ゆるぎない信念に支えられ、人はここまで強く優しくなれるものなのか、とただただ感動。救出を終えて崖を降りてきた彼を迎える仲間たちの驚きと称賛と畏怖すら混じったまなざし。誰もできないことを彼はやり遂げたのだ。

若者も疲れ、たゆみ、
若い男もつまずき倒れる。
しかし、主を待ち望むものは新しく力を得、
鷲のように翼をかって上ることができる。
走ってもたゆまず、歩いても疲れない。 (イザヤ書 40章30・31節)

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