ダンケルク
クリストファー・ノーラン監督が,第二次大戦中のダンケルクの大撤退作戦(ダイナモ作戦)を、空、陸、海の3つの視点で描いた戦争映画。劇場で鑑賞。
映画つぐないにも描かれていた、ダンケルクの場面。海岸で祖国への船を待っている負傷し疲弊した兵士たちの姿や、連れて行けないためか、射殺される軍馬たちのシーンが切なく心に残っている。しかし、ダンケルク撤退の詳しい背景を知らなかった私は、なんとなく、これを、終戦間際に行われた単なる移送みたいに勝手に思っていた。戦いが一段落したから海を渡って祖国へ帰るのに、船の調達が間に合わなくて待たされてるだけ~・・・・みたいな。
今回、この作品を観る前に、ダイナモ作戦についてググったり、
BBCのドラマ映画「ダンケルク 完全版 DVD BOX 史上最大の撤退作戦・奇跡の10日間」を観たりして、しっかり予習したら・・・・・。
この撤退って、もの~~~すごく苛酷で、どえらい大作戦だったんですね。(←無知)まさに、絶体絶命の状況での、死に物狂いの救出劇だったわけ。
1939年のポーランド侵攻以来、、電撃戦を展開してきた無敵のドイツ軍。あっという間にフランスのダンケルクまで追い詰められて逃げ場を失ったイギリスの海外派遣軍。彼らの救出に向かった船舶は、駆逐艦や大型船だけでなく、貨物船、漁船、遊覧船、ヨット、はしけなどのあらゆる民間の船が含まれていたというから凄い。
撤退を妨げようと、空からも海からも陸からも、
執拗な攻撃を仕掛けてくるドイツ軍。
陸ではじりじりと包囲網を狭めてくるドイツ軍を防衛線で食い止めようとするフランス軍。そして撤退行動を阻害するドイツ空軍の攻撃の阻止に奮闘するのは、英国空軍が誇る戦闘機スピットファイア。しかし、やっと乗り込んだ駆逐艦も、出港してすぐにドイツの魚雷や爆撃に沈められ、海に投げ出される兵士たち。救う方も救われる方も、一刻を争う過酷な救出劇が繰り広げられるのだ。
全編を通して悲痛な叫びがこだまするような、そんな手に汗を握るサバイバル作品。「どうやって撮ったんだろう?」と観客を唸らせる迫真の映像はさすがノーラン監督。そして、「とにかくどんな手段を使っても逃げたい」という、恐怖とパニックに支配された兵士たち。
欺いてまでイギリス軍の中に紛れ込もうとするフランスの兵士や、定員オーバーの船から「お前が降りろ」「お前こそ」と諍いを始める場面は、正直かっこいいものじゃないけれど、ダンケルクの撤退には、若くて未熟な兵士もたくさんいたということだから、実際はそんな感じだったのだろう。ノーラン監督も、そのあたりを考慮したのか、浜辺の場面の俳優には若手で無名の俳優を起用している。
主演の一人である二等兵トミーを演じたフィン・ホワイトヘッドは、オーディションで抜擢された。イケメンなのだけど、どこにでもいそうな雰囲気もあり、必死に生きのびようとする迫真の演技がリアルでいい。襲い掛かる難関を次々にクリアして先に進むには、生きたいという本能に突き動かされて最後までとにかく諦めないこと、これに尽きるのかもしれない。
一方、救出に当たる英国空軍兵士や、現場で指揮を執る軍人、命を張って救出に向かった一般船の船長などは、やはり使命と責任をもって任務に臨んでいるせいか、かっこよく描かれていて、演じるのもケネス・ブラナーとかトム・ハーディとか、マーク・ライナンスなどのベテラン名優。ノーラン監督作品には常連となっているキリアン・マーフィは友情出演みたいな感じだけど。もう一人の常連、マイケル・ケインは英国空軍の隊長で声のみの出演。
この、英国空軍の活躍と貢献は大きかったらしい。彼らが空で身を挺して支援してくれなかったら、あれほど多くの人数を救うことはできなかったのではないかとも言われている。
ダンケルクの撤退で、トミーのような兵士たちの使命は、逃げること、生きのびること、だった。疲れ切った帰還兵で溢れる駅で、出迎える人たちに「生き残っただけだ。(何も偉くない)」と自嘲気味に呟く兵士に「(それで)十分だ」という答えが返ってきた場面が印象的だった。
その言葉通り、ダンケルクの撤退は、大きな犠牲も伴ったが、人的資源の保全という意味では大きな成功を収め、生還した兵士や軍人の多くは、後の中東などでの戦線で戦力となり、連合国を勝利に導いている。また、撤退には民間人も命がけで協力したことはイギリス人の心に刻まれ、“ダンケルクスピリット”(イギリス国民が団結して逆境を克服しなければならないという時に使うフレーズ)の合言葉は、今日でも継承されているという。
余談だけど、予習で観たBBCの「ダンケルク~」(上記)は、ドキュメンタリーとドラマを織り交ぜた内容で、作戦の背景やフランス軍サイドの事情や、撤退できなかった人たち(自力で移動できないから残された負傷者とか、海岸にたどり着くまでにドイツ軍の捕虜になって殺された小隊とか、最後まで残って敵軍を食い止める役を担った兵士とか、病院船の申請をし続けながら野戦病院に残った外科医とか)のことも詳しく描かれていた。そして、この史上最大の撤退作戦の成功のいくらかは、フランスの犠牲のもとに成り立っていたことも。こちらもあわせて観るとなかなか感慨深いものがあるかもしれない。
« 伝統野菜 太きゅうり | トップページ | 秋のパスタ »
「映画 た行」カテゴリの記事
- 007/ノー・タイム・トゥ・ダイ(2021.12.04)
- 誰もがそれを知っている(2019.09.15)
- 魂のゆくえ(2019.08.07)
- ダンケルク(2017.09.17)
- 沈黙 (原作小説) 感想(2017.03.02)
コメント
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: ダンケルク:
» 映画:ダンケルク Dunkirk 「撤退」を描く異色の戦争映画、かつノーラン流「時間軸の多層構造」も入れ、最後には感動させる名人芸。 [日々 是 変化ナリ ~ DAYS OF STRUGGLE ~]
まず戦争映画のジャンル史上、画期的な企画。
何と「撤退」がメインプロット!
ドンパチというよりは、一方的に攻撃される主人公たち...
このため、非常にテンション高いシーンの連発で、息つく暇もない(汗)
陸から空から水中から(Uボート魚雷)ドイツ軍に責め立てられる連合軍、総勢 40 万人!
こういう創り方もあるんだ、とクリストファー・ノーラン監督に、ひとしきり感心。
一方で、ノーラン節はこんなリアルな映画でも健在、に驚く。
そのノーラン節とは何か。
それは、... [続きを読む]
» 映画:ダンケルク Dunkirk 感想その2 「時間軸の多層構造」部分のディテール × 3、に思わず目まい。予想外の中毒性が実に危険!(笑) [日々 是 変化ナリ ~ DAYS OF STRUGGLE ~]
昨日、感想をアップしたが、まだ書き足りてないことに気づき、追加。
基本、
・「撤退」を描く異色の戦争映画
・かつノーラン流「時間軸の多層構造」
・最後には感動させられてしまう
まだ書き足りないのは「時間軸の多層構造」部分のディテール。
実は、 3...... [続きを読む]
» 空と海と陸と君の間には クリストファー・ノーラン 『ダンケルク』 [SGA屋物語紹介所]
新作を撮るごとに注目を集める… そんな監督は珍しくありませんが、いま最もその点で [続きを読む]
ななさん、こんにちは。
ダンケルク、よかったですよね。
昨日IMAXでもう一度見たのですが、結構見逃していたり
勘違いしているところもあったなあ・・・と。また感動を新たにしました。
ななさんがご紹介くださった、BBCのドラマ映画も見てみたいです。
「つぐない」で描かれていた戦場もダンケルクだったこと、
私は後から知りました。本作は全体的にはクールでスタイリッシュな映像でしたが、
実際にはこれ以上に過酷な撤退劇だったのでしょうね。
あえてライトな演出になっていましたが、ベテラン、若手の演技もすばらしく
深いドラマが伝わってきました。
投稿: セレンディピティ | 2017年9月19日 (火) 10時25分
セレンさん こんばんは
ダンケルク、外れのないノーラン監督がどのような描き方をするのか楽しみで
どうしても劇場で観たかった作品でした。
実際に観に行けてよかったです。
やはりこれは大画面で見なくちゃですね。
「つぐない」のダンケルクの場面は、なんというか
海岸で待機している場面に焦点が当てられていたせいか
疲弊した感じは伝わってきましたが、
サバイバルの緊迫感はなかったですね。
BBCのドラマ映画、おすすめです。
さらに詳しく背景がわかって、率いる側、後方支援する側、残される側の
それぞれの葛藤や事情も伝わってきました。
投稿: なな | 2017年9月19日 (火) 22時55分
「つぐない」は私はかなり好きな作品だったのですが
少女の心の動きばかりが印象的で
ダンケルクの場面があったことは全く覚えていませんでした。
結構、長いシーンがあったのですってね?
英国の空軍兵士や指揮官、船長などはカッコ良すぎて
少々鼻に付く部分もありましたが
やはり感動しました。
でもダンケルクの同時期、カレーに残った英国軍は見捨てられたのですってね?
BBCの番組はどうやって見られるのでしょう?
投稿: zooey | 2017年10月 1日 (日) 23時58分
ななさんこんばんわ♪TB&コメント有難うございました♪
そうそう、確かにサバイバルという言葉もしっくりくる作品ですねこれは。戦争映画でもあるのですが、その陸海空すべてのパートから何が何でも生きて帰るという兵士たちの心情も滲み出ていましたし、当時の非常に切迫した状況も相まって命がけの撤退戦の様子も迫力や緊張感に溢れていた気がしましたね。ノーラン監督は撤退戦に終始していた内容のようにも見えましたが、ななさんが事前に観たダンケルクのように、この出来事は色々な側面に知られざるドラマがたくさんありそうなので、機会が合えば自分も別のダンケルク作品を観てみたいですね。
投稿: メビウス | 2017年10月 2日 (月) 01時28分
zooeyさん
>結構、長いシーンがあったのですってね?
そうそう、結構長いシーンでした。
ダンケルクの海岸までたどり着いたロビーの目の前に
いきなり広がる海岸と、
そこで救出を待つまでの間、
疲弊しつつも思い思いに過ごす兵士たち。
順番に撃ち殺される軍馬たちの映像は悲しかったけど
この「ダンケルク」の映画のような緊迫感はなく
なにか切ない牧歌的な雰囲気でした・・・・と、わたしは感じました。
>BBCの番組はどうやって見られるのでしょう?
こちらはレンタルビデオ店でリリースされていました。
でも、ダイジェスト版っぽかったのでどうしても詳しく観たかった私は
「完全版」というのを購入しました。3枚セットで
ダンケルクの「退却」「撤退」「救出」の三部作でした。
栄誉をたたえられた成功の裏には、おっしゃる通り置き去りにされたものや
後回しにされたものもたくさんありましたね。
フランス軍もこの作戦で自国は犠牲になった面もあるので
恨んでいるとも聞きますしね・・・・
投稿: なな | 2017年10月 3日 (火) 00時24分
メビウスさん
ノーラン監督が撤退劇に的を絞って描いたダンケルク。
事実を冷徹に綴ったような面もありましたが、
ヒーローも登場させて緊迫感を盛り上げてくれる場面もあり
「なるほど!」「すごい!」「がんばれ!!!」と
手に汗を握る作品に仕上がっていましたね。
戦争映画でもありますが「サバイバル映画」でもあるので
カタルシスも感じます。
>この出来事は色々な側面に知られざるドラマがたくさんありそうなので
ほんとうにいろいろな立場からみたトリビアが無数にあるみたいですよ。
舞台裏やサイドストーリーや後日談など・・・・
いろいろと知りたくなりますよね。
投稿: なな | 2017年10月 3日 (火) 00時31分
役者さんたち、若手もベテランもみな好演でしたね
桟橋組のアレックス君は確か英国のアイドルグループ出身だと思いましたが実に見事に一般兵に溶け込んでおりました
小型船の船長のマーク・ライランスさんもさすがの存在感。彼がアカデミー助演男優賞に輝いた『ブリッジ・オブ・スパイ』は近年のスピルバーグ作品では特に好きな映画です。
キリアン・マーフィはこれでノーラン作品最多出演俳優になったかな。彼、いつもそんあに目立たない役ですけどね(笑)
投稿: SGA屋伍一 | 2017年10月10日 (火) 22時03分
SGAさん
>小型船の船長のマーク・ライランスさんもさすがの存在感。
>彼がアカデミー助演男優賞に輝いた『ブリッジ・オブ・スパイ』は近年のスピルバーグ作品では特に好きな映画です。
おお、彼はあの作品のあの俳優さんでしたか。
とても存在感がありますね。
なにかこう哀愁と渋みを感じさせる役がたまりませんね。
キリアン・マーフィ・・・・
好きな俳優さんですが、ノーラン監督作品では
重要な役というよりは友情出演みたいな出方をしてますよね。
次回作(何かはしらないけど)はどんな出方をしてくれるか楽しみですわ。
投稿: なな | 2017年10月13日 (金) 21時40分