ムーンライト
9月にはDVDリリースされるそうだけど、遅ればせながら劇場で鑑賞。第89回アカデミー賞で作品賞、助演男優賞、脚色賞に輝いた本作品は、登場人物の心情が丁寧に描かれた美しいヒューマンドラマだった。
マイアミの貧しい母子家庭に生まれた少年シャロン。売春で生計をたてる母は麻薬中毒でシャロンはどこにも居場所はない。麻薬売買が行われる地域で不良少年たちから逃げ隠れするシャロンはフアンに助けられ、心を開かないシャロンの面倒を見続けるフアンとパートナーのテレサはやがてシャロンの養父母の役割をするようになる。しかし、フアンもまたその生業は皮肉にも麻薬ディーラーだった。
思春期になっても母のネグレクトは続き、息子から金銭を巻き上げる場面も。弱くて孤独な彼は、学友からの執拗な虐めも受けている。そしてゲイである自分への気づきと、ただ一人の親友ケヴィンの存在。彼との美しい一度だけの思い出と裏切り。心にも体にも傷を負ったシャロンは、意を決して不良たちに反撃する。
青年期のシャロンは一転して体を鍛え、皮肉なことに自分もまた麻薬ディーラーの道を選んでいた。麻薬によって体を壊した老いた母との和解したてシャロン。そして彼は、ずっと心の中に封印していた相手、ケヴィンとも再会を果たす。
シャロンの幼少期、少年期、青年期を演じている俳優はそれぞれ別々の俳優。リトルと呼ばれた幼少期を演じた子役のアレックス・ヒバートと、思春期のシャロンを演じたアシュトン・サンダースは顔立ちが似ているし、心を閉ざし、おどおどした雰囲気もよく似ている。しかし、青年期を演じたトレヴァンテ・ローズは雰囲気も体つきもマッチョになって随分と違う感じだ。・・・・外見は。
しかし、たくましい青年のシャロンのまなざしや表情から、やはり少年期のシャロンと同じ内面が覗くから不思議。その瞳の奥に存在するのは、傷つき続け、愛に飢えた孤独な魂だからだろうか。物語の背景は貧困、麻薬、暴力といった過酷なものだが、これは人種や民族、性別などを超えた普遍的な愛の物語だと感じた。静謐でシンプルなストーリーだけに、それぞれの俳優たちの繊細で確かな演技が際立っていた。
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