アスファルト
フランス発の、少し風変わりでハートウォーミングな「団地映画」。イザベル・ユペールが好きなのでDVDをレンタルしたのだが、意外にもとてもよかった。心がじんわりあたたかくなった。
とある老朽化した団地に住む3組の男女の物語。それぞれ世代も職業も背景もバラバラな組み合わせであり、普通ならありえない出会いかもしれない。
車いすの中年男×夜勤の看護師
団地の2階に住む独身の中年男性スタンコヴィッチ。(名前からしてスラヴ系?)彼は老朽化したエレベーターの修理の費用の相持ちを、「自分は使う必要がないから。」という理由で拒む。彼だけ新しいエレベーターを使わない、という条件で住民は納得。ところが皮肉なことに、スタンコヴィッチはその後脳梗塞(?)か何かで車いす生活になり、エレベーターを使わないと外に出られない羽目に。住民の目を盗んで深夜にこっそりエレベーターを使って病院の自販機でスナックを買うのが日課になった彼は、そこで休憩中の夜勤の看護婦と知り合い、彼女に恋心を抱いた彼は、「写真家」だと偽って彼女との会話を楽しみにするようになるが・・・・。
失礼ながら何ともサエない中年男性。「自分は使わないから」という理由で共有のエレベーターの修理費用も出さないなど、性格的にも変人のにおいがプンプンするが、看護師に会いたいばかりに、まるで初めて恋をした中学生のような言動を取るところは、なぜかほほえましくも思えてくるから不思議だ。
鍵っ子ティーンエイジャー×落ちぶれた元人気女優
年の差は親子よりも開いているかもしれないこの二人。母子家庭で母親は働いているのか常に不在の青年シャルリと、今はすっかり落ちぶれて団地に最近越してきた元人気女優のジャンヌ。現実に疎いジャンヌに対して、若いのにしっかりしているシャルリは、ジャンヌにオーディションの役柄や演技に対してアドヴァイスをしたり酔いつぶれた彼女の介抱をしたり。普通は仲よくなるはずのない違いすぎる世代と生活背景の二人の間に芽生える、年齢を超えた親しさは、母と息子のようでもあり、ほんのり恋愛めいた色合いもあり・・・・。
この、シャルリを演じた19歳のジュール・ベンシェトリ君。
色気と透明感を併せ持つ美青年なのだが、サミュエル・ベンシェトリ監督の息子さんであり、なんと「男と女」の名優ジャン=ルイ・トランティニャンのお孫さんだそうな。今後の映画界での活躍が楽しみだ。
不時着したNASAの宇宙飛行士とアルジェリア系移民の女性。
この二人のお話が一番あり得ない出会い方で、かつ一番面白く、心にも残った。団地の屋上に間違って降り立った宇宙飛行士と、すぐに迎えにこないNASAってどうよ?と思いつつ、最初は言葉も通じない二人のズレたやり取りの可笑しさと、次第に疑似親子のように心を通わせていくところがとてもいい。宇宙飛行士を演じたマイケル・ピットを観たのは、ファニーゲームUSA以来だけど、こういう役の彼もいいなぁ。劇中のクスクス、とっても美味しそうだった・・・。
淡々と並行して進むストーリー。3組の男女のお話は、共通点は「団地」というだけで特に接点もなく終わるし、唯一どのストーリーでも触れられていた謎の「音」についても、ラストに種明かしの場面を見ると「な~んだ」となるのだけど、なぜか登場人物すべてが愛おしくなってくる不思議な心地よさがある。
この心地よさの正体は・・・・なんだろう。それまで全く違う世界で生きていた人と人が触れあい、わかり合っていく過程をじっくりと繊細に、そして爽やかに描いてくれているからかな。
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東京の劇場で鑑賞したときはガラガラで閑古鳥が飛び回ってました(笑) いい映画なんだけどな・・。
イザベル・ユペールは、映画ブラック・スワンの元ネタになったといわれる、ハネケの「ピアニスト」での、母親の抑圧から逃れようと倒錯的な愛に落ちる音楽教授役の彼女がとても悲しくて素敵でした・・。(自分のタイプからいえば、イザベル・アジャーニが好きですが)
この映画での年上の女優と繊細な男子高校生の関係は、フランス映画「青い麦」とか「個人教授」みたいな禁断の関係になるのか、と思いきや、そうはならず、年の差友達的なほっこりムードでしたね・・(でも、彼のほうには恋愛意識はあったような・・)
「ピアニスト」でも、若い男性から求愛されていましたが、「アスファルト」のジュール君のほうがずっとイケメンであります(笑)
ジャン=ルイ・トランティニャンは、「愛アムール」やアランドロンの映画で渋い犯人役が有名ですが、彼のお孫さんとはね・・。
イザベル・ユペール63歳ですが、キュートです!
「アスファルト」は、題名に象徴されるように無機質で、古びた公団住宅が舞台。エレベーターもオンボロなのに、部屋に入ると各々、工夫して素敵に内装を施していてお洒落です。
団地映画というジャンルもあるくらいで、邦画でも昔の傑作があります。
監督自身も、子供のころは団地住まいらしいですが、都会のマンションみたく、完璧に孤立した空間で「隣は何をする人ぞ」ではなく、肩を寄せ合って助け合わないと暮らしてゆけない団地、長屋は、監督の創造力を刺激するのでしょう・・。
そこに住むのは、愛する男と別れたらしいこじらせ系のユペールや、どこにでもいる手前勝手なおっさん・・それでもなんとなく憎めない・・。
宇宙飛行士と、アラブ系移民の人の良いお母さんのとの話が良いですね。
アメリカの象徴のNASAの宇宙飛行士と、アラブ系の移民の肝っ玉母さん。
運命次第では、もしかしたら殺し殺される関係になっていたかもしれない2人が親子の情と言う根源的なものによって互いを思い合う様がホロリと・・。
「帰ってきたヒトラー」でもそうでしたが、ヨーロッパでは大都市はともかく、郊外の子供のいる家庭は、日本以上に貧困で年寄りも孤独で貧しいです。
物質的には昔より恵まれていて便利だけれど、人は、誰かと関わりあって、その人のために少しばかりの自己犠牲をしたときに、初めて心の安らぎを得るのでしょうね、きっと。
投稿: 浅野佑都 | 2017年6月19日 (月) 09時17分
浅野さん
フランスの団地映画は初めて観ましたが、たしかに建物の外観やエントランスなどはすこし殺風景ですがそれぞれの室内はさすがフランスという感じでオシャレでしたね。でも、同じフランスのより上のクラスから見たら、彼らはつつましい階層なのでしょうね。
投稿: なな | 2017年6月23日 (金) 23時12分
こんにちは、ななさん
この映画は去年有楽町駅前のヒューマントラストシネマで観ましたが、一風変わった映画でしたね。私もNASAの宇宙飛行士と移民の老婆の話が一番良かったと思いましたが、やや荒唐無稽なのが気になりました。たまにはこうした雰囲気の作品も悪くはありませんね。
投稿: ケント | 2017年8月 5日 (土) 15時47分
ケントさん こんにちは レスありがとうございます。
そうですね、荒唐無稽なところもある、不思議な雰囲気の作品でした。
ちょっとそれはありえないでしょ、とつっこみたくなるような設定もあったけど
人と人との繋がりの温かさや理解しあえる素敵さはよく描かれていましたね。
投稿: なな | 2017年8月 9日 (水) 12時29分
おはようございます。
WOWOWで放映あったので昨日観ました~♪
意外にも(期待とか無かったので)とっても良かったです!!
ななさん、ご覧になってて嬉しい。
なんで宇宙船?みたいなシーンがあるんだろ?とか、不思議に思いながら観ていましたが・・・屋上に不時着!!ってビックリ、可笑しい~(笑)
絶対に出会わないだろう人との出会い・・・、かいがいしくお世話するアラブの女性と戸惑いながらも笑顔が増えていく宇宙飛行士、ほろりとさせられますね。
監督の息子さん!!美少年だったーー、要チェックだわ(笑)
歳の離れたこちらの二人の、恋にはならないけどちょっと危うい感じも好きです。
車いすの男は、どうやってあの山?超えたんだろう~~。
必死さが切なかったですね。
冒頭ではアパートに結構な人数住んでるみたいなのに、その後は全然出てこない不思議さとか、あの音の正体とか・・・、面白かったです。
それぞれの部屋のインテリアも・・。
昔社宅にずっと住んでいたので(古~~い建物でした)懐かしく思い出しました。
投稿: 瞳 | 2017年12月 1日 (金) 09時34分
瞳さん こんばんは
これ、ご覧になった人が以外に少なくて、
瞳さんがご覧になって嬉しいわ~
何気に癒されるいい作品ですよね。一風変わっているところがまたいい。
一番可笑しかったのは、宇宙飛行士が間違って降りてきたって設定。
ありえないけど楽しかった~~。そこで次第に打ち解けていく二人もね。
>監督の息子さん!!美少年だったーー、要チェックだわ(笑)
>歳の離れたこちらの二人の、恋にはならないけどちょっと危うい感じも好きです。
美少年は大人びた色気があるし、引退女優は枯れた色香が魅力的だし
親子以上に年が離れてるのに、なんかお似合いでドキドキしました・・・。
不思議な話よね・・・普通は出会えない二人組が少しずつお互いを理解していく。
淡々と進むけれどほのぼのしました。
感動!というのではないけれど「好感度」めちゃ高い作品でした。
投稿: なな | 2017年12月 4日 (月) 00時53分