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2017年4月15日 (土)

怒り

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凄い作品を観てしまった・・・・・。
原作は未読でDVDで鑑賞。一筋縄ではいかない重いものをそれぞれ抱えた登場人物たちのストーリーから、「愛する人を信じ通すことができるのか?」というテーマをじっくりと問いかけてくる物語。

東京の八王子で起きた、残虐な殺人事件から一年後、千葉、東京、沖縄という三つの場所に、それぞれ前歴不詳の男が現れる。三人の男は、それぞれが犯人と何らかの共通点を持ち、誰が犯人であるのか、観客にも後半までは明かされないサスペンスフルな展開だ。

俳優陣が凄い名優揃い。
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渡辺謙を筆頭に、森山未來、松山ケンイチ、広瀬すず、綾野剛、宮崎あおい、妻夫木聡・・・・。それも、殺人犯や、ゲイのカップルや、米軍基地で性犯罪の被害者になる少女や、障害を持った女性という難しい役ばかり。

誰が犯人かは途中からは判明してくる。しかし、普通のサスペンスなら、犯人像や犯行の理由や背景などに焦点を当てるのだろうが、この物語はそこらはあまり詳しく語らない。なぜあのような残虐な犯行ができたのか、犯人の抱えている心の闇については、推測するしかない描かれ方だ。
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それよりはむしろ「犯人ではないけど何らかの事情で過去から逃げている」他の二人の男性と深く関わった登場人物たちの心の葛藤に焦点が当てられていた。

信じたい、でも信じられない。
信じられなくてもそばにいたい・・・でも・・・・。

愛情と猜疑心と愛おしさと恐怖と。そして、犯人かもしれない男たちの醸し出す何とも言えない暗さと哀しさ、繊細さ。天涯孤独で不治の病を持っていたり、親の作った借金から逃げていたり。
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個人的には、東京編のふたりの物語の切なさに泣けた。綾野剛の演じた直人のキャラクター。彼の抱えていた哀しみと、そんな彼を愛しながらも疑いに負けて手離してしまった優馬(妻夫木聡)。ゲイカップルを演じたこのお二人、まるでブロークバックマウンテンのように魅力的だった。いや…脱帽です。千葉編に登場した松山ケンイチさんの、いかにも「人生の裏街道をひっそりと生きてきました」的な雰囲気も、すごく上手いと思った。(こういう雰囲気、なぜか好き)

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タイトルにもなっている「怒り」。

それは、社会の底辺で生きるものが衝動的に抱く理不尽な怒りだったり、今も続く沖縄の米軍基地問題への怒りだったり、愛する人を信じられない自分に対する慟哭だったり。

愛する相手を疑う方も辛いだろうけれど、疑われた方の思いはどんなだろう。黙って姿を消した直人。「違うよ」とはっきり否定して抗議するのが普通だけど、それすらしないほど傷ついたのか、それとも、あまりにもたやすく身を引く癖がついている彼の哀しい生き方のせいなのか?

重く、苦しみに満ちた物語だけど、千葉編や沖縄編からは、一筋の光にも似た救いも感じられる。人間の業のようなものを感じるのは「悪人」と同じかな。

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映画 あ行」カテゴリの記事

コメント

こちらにも...。
映画は見ていませんが、原作は読みました。(こう言っていいかわかりませんが)すご~くおもしろかったので、映画化されることになって、キャストが発表になった時には、お~そう来たか!とにやにやしていました。
ちょっと内容が過激なところもあるので、映画を見るのは躊躇してしまいましたが、サスペンスとしてのおもしろさもさることながら、ヒューマンドラマとしても見応えのある作品だったことと思います。

小説は、イギリス人英語講師殺人事件にインスパイアされたと聞きました。市橋容疑者が逃亡している時、全国から「自分の身近にいる人が犯人かもしれない」という情報が多数寄せられたそうです。
自分の知らない、見えない部分もすべて含めて信じること、愛することの難しさを考えさせられる作品でした。

 これは、実際に起こった事件がモデルになっていますが、原作の著者は、2年半に及ぶ逃亡劇や事件そのものより、目撃情報の通報者たちに興味があった。街で似た男を見た程度ならともかく、シンパシーを寄せる人間に対して疑念が生まれていく“事件の遠景”に胸騒ぎを覚えた・・と、語っています。

  ぼくのなかでハイライトだったのは妻夫木聡で、ノーブルな顔立ちに手入れされたあごひげという、男らしい風貌で自然体のゲイの男性をリアルに演じていましたね。
実は、以前に観た「メゾン・ド・ヒミコ」の
オダギリジョー演じるゲイの青年にまったくリアリティを感じられなかったのですが、本作の彼が演じた経済的にも恵まれたいわゆる都会のエグゼブティブ・ゲイの青年は、一見、充実した成功者でありながら、内面にとめどもない孤独を抱え、漁るようにハッテン場である新宿二丁目に出没します・・。

ホスピスにいる母親を見舞う優しさとは裏腹に、スマホで今日の獲物を物色していた妻夫木君が、身も心も愛した男性が綾野剛だった・・。

おおよそ、一部の芸人の影響からか、邦画でゲイというと、なよなよしたおネエ言葉で小指を立てながら、上から目線で人生の薀蓄を垂れる、というステロタイプな人たちばかりが取り上げられるのが普通でしたが、実際のゲイの方たちは、もちろんそういう人ばかりではありませんね。

広大なアメリカでは、ブロークバックマウンテンの大自然の中の二人が似合ったように、この作品での、都会の絵具に染まりきった孤独な魂たちの出会いは、今の日本においてとてもリアリティがありました。

初めて観た劇場鑑賞時は、謎に包まれた三人の男たち(松山ケンイチ、綾野剛 森山未來)が接する周囲の人の気持ちで彼らを“観察”していたぼくですが、DVDで二度目に観たときには、逆に、彼らの立ち位置になって彼らに感情移入しながら見つめる自分に気がつきました・・。


本作が素晴らしいのは、ななさんも記されたように、ミステリーとしての答えを導くことに腐心していない点でしょう。

ストーリーには直接関係しない生活のディテールを拾い上げ、人々が抱える秘密とこれが招く悲劇的な結末を丁寧に描いている・・。

現代において「人を信じる切ることがいかに難しいか」

これも、この作品の大きなテーマの一つであり、原作では、「愛する人を守るため」という利他心に基づく自己犠牲の精神の尊さと悲しさが、より際立った展開になっていて、
ドラマティック・アイロニー《観客にはわかっているが舞台上の人物同士は知らないことになっている面白味》は、小説版のほうが強く、こちらのほうも合わせてご覧になるのも面白いかな、と思います。

セレンさん こちらにもありがとうございます。

原作を読まれたのですね。
そうですか、原作も俄然読んでみたくなりますね。
「悪人」も先に映画を観て原作も読みました。
この作家さんの描くテーマは
重いけれどとても心惹かれるものがありますね。

>ちょっと内容が過激なところもあるので、映画を見るのは躊躇してしまいましたが、
わかります、わかります。過激シーンいろいろありますね。
演じきった俳優さん、それぞれ天晴れです。

>イギリス人英語講師殺人事件にインスパイアされたと聞きました。市橋容疑者が逃亡している時、全国から「自分の身近にいる人が犯人かもしれない」という情報が多数寄せられたそうです。
彼もまた整形して沖縄の離島まで潜伏していましたよね。わりとどこにでもいそうな風貌で、確かに身近な人でももしかしてって思うかも・・・・。ちょっと怖いし哀しいですよね。疑ったら最後、関係は壊れてしまいそうです。

浅野さん 

>原作の著者は、2年半に及ぶ逃亡劇や事件そのものより、目撃情報の通報者たちに興味があった。
そうそう、ここが面白いですよね。ここに目をつけたところが凄いかなと思います。

妻夫木さん演じたゲイの男性のリアルさは素晴らしかったと思います。綾野くんとの絡みも、「うわ~~」とも思いましたがお二人の役者魂に圧倒されました。

わたしは悲しみや痛みや過去を抱えた人物が好きなのですが、そういう点では綾野さんの演じた直人や、松山さんの演じた田代のキャラクターに惹かれました。

>現代において「人を信じる切ることがいかに難しいか」
これは無理難題でしょうね。
肉親ですら裏切るのが人間ですから。自分ですら信じられないときがありますよ。だから他人にも期待はせずにどこか冷めた目で見てしまいます。もちろん人の愛情も善意も信じますが、儚いものだし、消えたり変化したりしても仕方ないものだと思っています。

ななさん、こんにちは!
新しい学校に赴任されることになったのかなー?
桜、とても綺麗ですね。しだれも、桜並木も!
お写真、楽しく拝見しました^^
あと、タケノコ料理も、すごくおいしそうー。
スーパーで売ってる、パックに入ったゆでたけのことは、生のたけのこって、全く違うのよね。別の食べ物なんじゃないか?ってくらい。久しく食べてないから、食べたいです。ななさんちのお料理、ちょこっとだけ、おすそ分けさせてもらいたいわー。

で、この映画。
面白いって言っちゃなんですが、とても見応えのある作品でしたね。
私はゲイカップルのところが、一番印象に残ってるかも。
妻夫木君のなりきり度というか、すごくカッコ良くて、自然で、良かったです。

latifaさん こんばんは。

>新しい学校に赴任されることになったのかなー?
いえ、今年は異動はなかったですね。今の学校にもう四年目です。
異動の年は何かと気を遣うので体調を崩しやすいのですが
それは来年あたりになりそうです・・・・

筍はおかげさまでスーパーでほとんど買ったことはないなぁ。
季節外れにどーしても酢豚を作りたくて、少量の筍が必要になって買ったことはあったかな。
今の季節にけっこう大量にあちこちから堀りたてをいただきます。
お近くならおすそ分けしたいです、ぜひ。

そうそう、この映画。
>私はゲイカップルのところが、一番印象に残ってるかも。
一緒ですね~綾野剛さんの儚げな演技がとても好きですが
妻夫木くんの都会のエリート・ゲイ青年っぷりがとても上手くて
セクシーでしたね。「悪人」にも出演していた彼とは雰囲気全然違う。
ラスト近くに恋人の真実を知って号泣する彼の演技が素晴らしかった・・・。

お邪魔します~~
お料理の記事おいしそうなものばかりUPされていますね。
マンネリ気味なので、刺激されます~~
この映画、私も観ました。
同じく原作未読ですが、とても興味深く最後までひきつけられてみました。
<なぜあのような残虐な犯行ができたのか、犯人の抱えている心の闇については、推測するしかない描かれ方>
そうでしたね。正直気になります。やっぱりインパクトある事件だったから。三つの場所の物語が全部不幸で終わらなかった・・それだけでも良かったかなとは思いました。
沖縄編も東京編もつらかったかな・・・。
信じられなかったという妻夫木君の気持ちもわかるし
信じてしまった沖縄少年の気持ちもわかるから・・・
とってもやるせない気持ちになるんでしょうね。
最近は世の中、信じるより疑うことが目立ってきている気もするし。なんだかそう考えると、生きにくい世の中だな~~って
思います。

みみこさん こんばんは

お料理の記事、ちょこっと始めてみました。
お料理は食べるのも作るのも好きです。食いしん坊なので・・・
でも普段はマンネリになるときもありますね~

「怒り」、みみこさんも原作未読ですか。
そのうち読みたいと思いつつ、映画って原作のあるものが多いので
これはまだ後回しです。
今はなんと「ゴーン・ガール」を読んでます。
今さら・・・ですが。これがとっても面白くて。
この作品、わたしも犯人の動機や背景についてもっと知りたかったです。
なぜあのような事件を起こしたかって、結構重要なんですけどね。
でも作者はそっちよりずっと書きたいことがあったんでしょうね。

>沖縄編も東京編もつらかったかな・・・。
>信じられなかったという妻夫木君の気持ちもわかるし
>信じてしまった沖縄少年の気持ちもわかるから・・・
そうですよね。人を信じるということの難しさを
この作品であらためて考えることができました。
現代社会は特に誰も信じられない世の中になってきつつありますしね。

初めまして。

人を信じるといっても人の心は信じられるものではありませんね。

その人の無限の可能性を信じてあげることが肝心ですね。

師子乃さん はじめまして コメントありがとうございます。
人の心は善いものも悪いものも生まれつき有りますね。
確かにおっしゃる通りだと思います。
可能性を信じたいですね。

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