« 沈黙 (原作小説) 感想 | トップページ | ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ »

2017年3月 5日 (日)

未来を花束にして

Afficheus7
本日鑑賞。
20世紀初頭の英国での,婦人参政権論者サフラジェットの活動を描いた作品。ロマンティックで洒落た邦題とは裏腹に重く暗く,考えさせられる内容だったが,女性なら観ておくべき作品だと感じた。もちろん男性にも観てほしいが。

主人公のモード・ワッツ(キャリー・マリガン)は,低賃金と劣悪な環境のもと,洗濯工場で働く平凡な女性で,夫のサリー(ベン・ウィショー)と幼い息子のジョージとともに,ささやかな家庭を築いていた。

Suffragettes_09
7歳の時から洗濯婦の仕事につき,女性の参政権など,「もともと無くて当たり前」だと疑問にも思わなかった彼女が,活動家のイーディス(ヘレナ・ボナム・カーター)との出会いや,議会の公聴会で友人の代わりに証言したことをきっかけに,運動にかかわっていくようになる。
Set25
キャリー・マリガンは今作ではナチュラルメイク?すっぴん?とにかくアイメイクをほとんどしていないので,素朴であか抜けない感じ。(それでも十分可愛らしいが)でも,それがとても役の雰囲気に合っていた。子供の時からの働きづめの生活,男性よりも労働時間が長いのに男性よりも低賃金で,健康を損なう重労働に加えて工場長からのセクハラ・・・そんな待遇に慣れてしまっている忍耐強く悲しげな表情。そんな彼女が,公聴会での証言をきっかけに「もしかしたら,異なる生き方があるのかも・・・」と思うようになる。

Set24
「もし,娘が生まれていたら,どんな人生かな?」と夫に問いかけたモード。その問いに対して事もなげに,「君と同じさ。」と答えた夫。女に生まれるということは,未来に何の可能性もないということ。自分の人生だけでなく,これから生まれる娘たちすべての人生も。もしかしたら,モードが集会やデモに参加しようと決意を固めたのはあの夫のセリフを聞いたときではないだろうか。
7
サフラジェットの投石や爆破などのテロまがいの活動は,一見過激すぎて賛同しにくい面も確かにある。活動のリーダー,エメリン・パンクハースト(メリル・ストリープ)の「言葉ではなく行動で!」という主義は,同じサフラジェットの中でも賛否両論があったようだ。

しかし,何十年も穏便な方法で訴え続けても何も変わらなかった事実があるからこそ,過激な行動によって注目させるという手段を取ったのだろう。テロ活動なので当然活動家たちの払う代償も大きい。度重なる逮捕と投獄,警官からの暴力。そして獄中のハンガーストライキに対して取られる強制摂食。まさに命がけの運動だったのだ。
24_3
モードもまた大きな犠牲を払う。夫から強制的に離縁されて家を身一つで追い出され,息子を取り上げられてしまうのだ。参政権と同じく,男性にしか認められていない親権。だのに,自分では育てられなくて息子を養子に出す夫。なんと理不尽なのかと思うけれど,夫もまた妻と同じ職場で雇われている身としては仕方がなかったのだろうか・・・・。「ママの名前はモード・ワッツ。いつか見つけに来てね。」と,モードが涙ながらに息子と別れる場面は辛かった。

Set27
強い信念と長い年月と,大きな犠牲を払って勝ち取った権利。エンドロールで,各国で女性が参政権を勝ち取った年が表示されたけど,ごく最近やっと女性の権利が認められた国もあった。日本は戦後に与えられたものだから「勝ち取って」はないのかな・・・・。自爆テロのような方法はともかくとして,今は当たり前のように手にしている権利を,こんな風に命がけの運動で獲得してきたなんて,知らなかったし,知ることができてよかったと思う。

« 沈黙 (原作小説) 感想 | トップページ | ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ »

映画 ま行」カテゴリの記事

コメント

こんにちは。
キャリーの熱演に心揺さぶられる作品でした。
公聴会での証言が活動に身を投じるきっかけになったけれど
おっしゃる通りに、娘が生まれても自分と同じ未来しかない
という残酷な現実が彼女を運動へと掻きたてたのでしょうね。

私たち日本人女性は戦わずして参政権を得てしまったので
政治に対する意識が少々低いかもしれない...と反省しました。
この映画を通じて、女性が参政権を得るまでに
どれほどの努力と犠牲が払われたか知ることができてよかったです。

セレンディピティさん

>キャリーの熱演に心揺さぶられる作品でした。
おっしゃる通り,公聴会の彼女の表情や語りには胸を打たれました。
ストーリーは地味なのですが,
うまく作られていて退屈することなく引きこまれました。
私たち日本人は彼女たちほど闘ってきた歴史がないので
女性の参政権についても意識が低いかもですね。
2015年にやっと女性が参政権を得た国もあるということを
エンドロールで知ってあらためて驚きました。

お邪魔します~~
私も観ました。
知らないことが多かったので
純粋にとっても勉強になりました。
モードが家庭を犠牲にしてまで活動に
のめり込んでいく過程が丁寧に描かれていて
とても好感できるつくりでした。未来のための活動でしたね
子供との別れはちょっときつく感じましたが。
当時の夫は、ああいうものの考え方だったのかな。
エンドロールの事実はやはり驚きですよね
本当に最近だもの。
地味な映画でしたが、終盤の競馬場のシーンはドキドキでしたよね。
そういえば、
ななさんお勧めの「スポットライト 世紀のスクープ」も数か月前に観たのですが
忙しくて感想UPできなくって・・・。
面白い作品でもタイミング逃すとUPできないですよね・・・
社会派映画は、自分の知識も深まるので今後もチェックしていきたいです

みみこさん こんばんは!

DVDリリースされてから、この作品わたしも再見したばかりです。
>知らないことが多かったので
>純粋にとっても勉強になりました。
うんうん、わかります~。特に外国のことは
映画になって初めて知ることも多いです。
先駆けとなった事件や人ってどこにでも存在するので
とっても勉強になりますよね。
特にこの作品のように女性の権利の獲得に関する史実は
知っておいてよかったと思いました。
エンドロールは効果的でしたね。
ごく最近になってやっと獲得した国があるなんて。

「スポットライト」も知るべき事実でしたよね。
タイミングを逃して実は観たのにupしてない作品私もたくさんあるわ~~。

コメントを書く

(ウェブ上には掲載しません)

トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 未来を花束にして:

» 未来を花束にして [セレンディピティ ダイアリー]
1910年代のイギリスで参政権を求めて闘った女性たちの姿を描いた歴史ドラマ、「未来を花束にして」(Suffragette)を見ました。キャリー・マリガン、ヘレナ・ボナム・カーター、メリル・ストリープが共演しています。 1912年ロンドン。夫と幼い息子と暮らすモード(キ...... [続きを読む]

» 「未来を花束にして」 [Zooeys Diary]
20世紀初頭のイギリスでの女性参政権運動を、実話をもとに描いた作品。 1910年、陰鬱なロンドンの寒空の下、洗濯工場で働くモード(キャリー・マリガン)。 劣悪な労働条件の工場で7才から働き続け、貧しいながらも なんとか夫と幼い息子と平和に暮らしていたが ふとし...... [続きを読む]

« 沈黙 (原作小説) 感想 | トップページ | ベストセラー 編集者パーキンズに捧ぐ »

フォト

BBM関連写真集

  • 自分の中の感情に・・・
    ブロークバックマウンテンの名シーンの数々です。
無料ブログはココログ