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2017年3月29日 (水)

この世界の片隅に

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ブロガーさんたちの多くから、昨年の1位に選ばれ、観客動員数130万人を超えたこの作品が、ようやく隣県で上映されたので、わたしもすずさんに会いに行ってきた。

アニメとしても素晴らしいけど、何よりストーリーやテーマに感動。 涙と笑いと切なさと癒しと…あらゆる感動が散りばめられた傑作。そして余韻がすごい。心がどうしようもなく切なくて、でもあたたかくて・・・「生きる」ということについてしみじみと考えさせられ続けている。


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主人公のすずさんは、19の年に見初められて、それまで名も知らなかった呉の青年のもとに嫁ぐ。絵が得意で、優しくて、やや天然で、控えめなすずさんには、故郷の広島に初恋のほのかな思いを抱いた幼馴染もいたけれど、流されるままにお嫁に来て、それでも夫の周作さんに愛され、優しく温和な義両親にも大切にされる。気むずかしい義姉径子さんの小言に、時には円形脱毛症になったりもしながら、すずさんなりに健気に婚家で奮闘していく様子が、前半はほっこりと牧歌的なタッチで描かれる。

すずさんや姪の晴美ちゃんのセリフや表情が可愛らしく、すずさん役の、のんさんの声はおっとりと癒し系で、ほんわかとした優しさに満ちている。

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今から70年ほど前の大戦前後の日本。
描かれているのは、わたしの親世代が子供の頃の、ごく普通の人々の暮らしだ。

右から書かれた横文字の看板。着物姿の人々。
竈で炊かれるご飯や水桶で冷やされる西瓜やトマト。
洗濯板での洗濯や針仕事。家電の全くなかった時代の細々とした家事。

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それらがとても丁寧に描かれていて、体験したわけではない私でさえ、なぜか懐かしくて胸があつくなるのだから、 当時の生活を実際に体験した世代は、たまらない郷愁を感じると思う。ごく普通の市井の人々の、ささやかな日常の一コマ一コマは、見ているだけでも優しく豊かな気持ちになってくる。現代よりずっと物のない不便な時代の暮らしぶりであるというのに。時間の流れや人のやりとりがゆったりとしていて癒されるからだろうか。

そんなすずさんの慎ましい暮らしにも、
戦争の影は否応なしに忍び寄ってくる。

食料の配給や防空壕掘り、空襲警報、里の兄の戦死・・・・・。従順で我慢強く、おっとりとしたすずさんは、それまでの人生と同様に、戦時中の暮らしも淡々と受け入れてこなしていく。乏しい食料を工夫してカサ増ししたり、苦手なお裁縫の腕で着物をモンペに仕立てたり。
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すずさんだけでなく、この時代、誰もがそうだったんだと感じる。戦時中という非常時、命が脅かされ、物の無い厳しい時代に、すずさんのセリフを借りれば、「やさしくしぶとく強く」みんな生きていたのだ。

災難の中にも「無事だった」ことを少しでも探して、「・・・だから(まだ)よかった。」と言い合うポジティブ思考。そうでもしなければやっていけないのかもしれないけど、そうやって気持ちを光の方角に切り替えて、互いに励まし力づけあって、みんな肩を寄せ合って乗り越えてきたんだと思う。

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そして他の人々と同じように、戦争によって、すずさんも家族も大きな痛手を負う。時限爆弾の爆発に巻き込まれてすずさんは右手を失い、その右手をつないでいた姪の晴美は命を落とす。(この場面の描写は、アニメーションならではの映像で秀逸だ。)すずさんの故郷、広島は、終戦間近のあの夏の日に被曝し、すずさんの両親は帰らぬ人となってしまう。

それまで自分の気持ちや思いを、大好きな絵に託して表現していたすずさんが、右手を失い、もう絵が描けなくなってからは、自分の口で、言葉で自己主張や意思表示をするようになる。そして敗戦の日、玉音放送の後に、今まで穏やかだったすずさんが、はじめて大きな悲しみと怒りに突き動かされて慟哭する。戦争に勝つためにそれまで我慢してきたことや喪ったものを思って。

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この物語がしみじみ心に響くのは、そこで終わらず、その後のすずさんたちの生きる姿をも描いていることだ。敗戦後の焼け跡で、戦時中よりももっと逼迫した暮らしの中で、それでもすずさんも周囲の人々も、懸命に自分の居場所で生きていくのだ。

配給の列に並び、進駐軍の残飯雑炊に舌鼓を思わずうち、家では塩の足りない味気ない食事を囲む生活が、再び和やかにときおりユーモアも交えながら優しく描かれる。どんなときも取り乱さず温厚な義両親の笑顔も、以前のままだ。すずさんの家庭には、広島で母を喪った戦災孤児の幼女が新しく家族に加わることになり、すずさんの義姉は、しまっておいた晴美の服を行李から引っ張り出す・・・・。

人生は続くのだ。
誰にとっても。どんな悲劇の後にも。

エンドロールのアニメーションがいい。すずさんからお裁縫を習った養女の少女が作ったのか、義姉の径子さんとすずさんと三人がお揃いの服を着て幸せそうに笑っている。

戦争が与える様々な試練について描かれてはいるが、この物語はあからさまな反戦映画ではない。「戦争さえなければ・・・」というよりはむしろ、「戦争があったからこそ」「戦争があるにも関わらず」、強くやさしく、たくましかった人々の日常を描いた物語。だからたくさんの勇気や希望や癒しに溢れている。

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劇場で、先着順にいただいた絵葉書です。

今は戦時中でもなく、安全で物の豊かな時代だけど、戦中とはまた違う生きにくい問題もある。それでも、今、そばにいる大切なひとと、今自分にできることをしながら、精一杯生きていこうと思った。

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コメント

原作は未読、ほぼ予備知識なく飛び込みで鑑賞したので、空襲シーンの迫力、死の唐突さ、現実と空想、喜怒哀楽をギリギリまで抑制した表現などにまず驚きました。

近年ヒットしているアニメーションは、キャラクター以外は、より本物に近い表現にする。精密な描写で実写に勝るとも劣らぬ、いやむしろ、実写以上の“らしさ”を追求し高い次元で勝負した作品だと認めました・・。
国民的人気となった「君の名は。」に対しては、言うほどでは・・・の感が強かったぼくも、この作品に心の琴線を何度も打ち鳴らされました。

38発のM69焼夷弾を子弾として内蔵するクラスター爆弾の形で投下された焼夷弾AN-M69、機銃掃射、時限爆弾など、あらゆる種類の攻撃がリアルに描かれています。照明弾もリアルで怖い。

戦艦大和を描くシーンでは、艦上で手旗信号をしている兵隊がいましたが、信号の内容を解読できるように描かれていました。アニメーションなのに、これまで実写映画で描かれた戦艦大和よりも本物に見えました。

空襲シーンでは、米軍を迎え撃つ高射砲の煙の色がカラフルでした。あれは史実通りのようで、海軍の高角砲の弾丸で、着色弾というのが実際あるようです。どの軍艦が撃った弾丸かを識別するために色を変えていて、6色あり、陸上の砲台にはないようですね。

こんなアニメーションで、こんなリアルな表現をするなんて…。今はアニメーションというものが、子供や一部の傾倒している大人だけの狭い世界から、一般的な人達に向けた広い世界へと移行しつつあるのです。

「この世界の片隅に」は、日本人としては娯楽映画とした場合の評価が難しく、、あのシーンが好きだったとか、そういう感想を語りずらい部分があります。反戦映画にありがちな強い主張はありません。静かに淡々と、しかし生々しくも平凡に描いています。

8月6日の広島に何が起きるのか、わかっているのは観客である我々です。

明るい日常を描く部分と戦火の闇を描く部分が混在し、明るかったはずの主人公すずが、どんどん暗くなっていく…。

映画が終わると思われた瞬間、戦災孤児だけの回想シーン(すずと出会うまでのエピソード)が始まります。この作品は、あえて暗い部分を見せないことに徹底した作品なだけに、あのシーンをエピソードとして描く意味は大きいと思いました。当時は、暗さを見せないことが日常の戦いだったのでしょうね。

すずが言っていたように「私達の戦い」でもあったわけで、昭和20年8月15日まで戦っていたのは男だけじゃないわけです。

現代も生きていくことは苦しいわけですが、苦しいからこそ生きてゆこうと思えることもあるのでは・・とも思いました。

原作を先に読んだ身としては晴美ちゃんがその後どうなってしまうのか知っていたので、あの子が登場するたびに泣けて泣けてしかたなかったり
そして原作で最も深く感動した孤児の女の子がすずさんと出会うシーン。こちらも脱水症状でよぼよぼになるくらい号泣してしまいました。いい年のおっさんなのに情けない話ですが、そんなわけで一人でないと観られない映画であります
いろんな賞を受賞したことでいまだ日本の各地でポツポツとかかっているようですね。収益が製作費の十倍に達したということで、噂でささやかれている「延長版」の製作もぐっと現実味を帯びてまいりました。みっともない状態になっても、また繰り返し見たい作品であります

浅野さん 

そうですね。
わたしはアニメは基本観ないのですが、特にジブリなんて相性が悪くていけません。申し訳ないけどテーマにそんなに感動しないのです。「ハウル~」も「千と千尋」も「ポニョ」も撃沈でした。私があえて鑑賞するのは、アニメでもストーリーに感動した場合だけなのです。今まで観てよかったと思えたアニメは「風立ちぬ」くらいです。あれは原作が文学小説を下敷きにしたものだからかもしれません。

この作品は、テーマもストーリーも訴えたいことも雰囲気も素晴らしかったです。もしこれがアニメでなくて実写でも観たいと思いました。でも、アニメだからこその色彩や、主人公の気持ちに合わせた自由な表現がとても素晴らしいと思いましたね。おっしゃっている、かぎりなくリアルさを追求した背景等についても。

敢えて暗い部分を見せなかった戦争映画は、その背後に隠されている「暗さ」を想像させてもくれます。そして、ストレートに悲惨さや暗さを描いた作品よりも鑑賞者は増え続けると思いますね。戦争を描いたアニメでは有名なものに「火垂るの墓」がありますが、あれはあまりの悲惨さゆえに、再見することができません。反戦へのメッセージは強烈に伝わるのですがね。

この作品は長く深く私たちの心に残り続けると思います。

SGAさん

今日、原作届きました。まだ読み始めていませんが楽しみです。原作を読んだあとなら、また背後の事情や心境もよくわかって鑑賞が深まったでしょうね。読んだあと、DVDでまた再見したいです。
長くなるので記事には書けてないけど、すずさんと周作さんとりんさんのエピソードも心に残りました。その他いろいろ素敵なサイドストーリーがありそうですね。延長版はそこらへんも付け加えてほしいです。3時間くらいになってもいいから。

>いい年のおっさんなのに情けない話ですが
あららSGAさん、いつのまにおっさんになられたのですか?まだまだお若いかと・・・でもブログでのおつきあいももう10年ごしですね。
わたしも号泣はしなかったけど泣きました。いい年のおばさんが泣くぶんは問題なかったみたいです。

ななさん☆はじめまして
コメントありがとうございました。
戦争も無く物に溢れている幸せな現代でありながら、逆に生き難くもなっていることが、なんだか虚しくなってしまうそんな映画でもありましたね。
のんさんのあったかい声にほっこり癒されながらも、いつまでも余韻にひたる見事な作品でした。

まだ~むさん ようこそ。

>戦争も無く物に溢れている幸せな現代でありながら、逆に生き難くもなっていることが、なんだか虚しくなってしまう

そうそう、現代ってものは溢れているけど
心は貧しく弱くなっているのかしらと
すずさんたちを見て思ってしまいました。

また頑張らなきゃ・・・とか
日本人ってこんなに優しくて強いんだとか
そんな前向きな気持ちになりましたよね。
戦争を描いているのに
そんなあたたかい気持ちになるなんて
凄い作品だと思いました。

私はこれ、一月半ほども前に観たので
懐かしく思い出しながら、記事を拝見しました。

>人生は続くのだ。
>誰にとっても。どんな悲劇の後にも。

そうなんですよね。
戦争や災害や犯罪で、大切な人を失っても
その後も生きて行かなければならないということがどんなにつらいことか
この歳になってようやく少し理解できるようになった気がします。
優しい映画ですが、力強いメッセージを発信していましたね。

zooeyさん ありがとうございます。

>戦争や災害や犯罪で、大切な人を失っても
>その後も生きて行かなければならないということがどんなにつらいことか
おっしゃる通りですね。
それでも人生は続く。
食べて、眠って、残されたものを守らねばならない。
そうやっているうちに、喪失の痛みが少しずつ和らいでいくんですよね。
決して消えてなくなりはしないけれど。
人間は優しくて強い・・・とこの作品をみて嬉しくなりました。

>すずさんに会いに行ってきた。

この一文でこの作品を大いに気に入られたことがよく分かります。だってこの映画が好きな人はみんなそう言うんですもん。

わずか70年前の先人たちがどう生きたのか。どう生き抜いたのか。どう生き続けたのか。
平和な現代に生きる私たちにはそれらを知らねばならない責務があると思います。
そんな責務を果たす手伝いをしてくれたこの映画が公開されたこの時代に生まれていて良かったと心から思えましたよ。

にゃむばななさん

そう、すずさんに会えて本当によかったと思います。
妹に対するような、娘に対するようなそんな愛情すら感じます。

>わずか70年前の先人たちがどう生きたのか。どう生き抜いたのか。どう生き続けたのか。
彼らが誠実に生き抜いてくれたからこそ
今の日本があるのですよね。

原作者のこうの史代さんと、これを映画化してくれた監督さんに
あらためて感謝の思いでいっぱいです。

ななさん、こんにちは!
やっと見れました。
噂通りに、すごく良い作品でした。

私は予備知識無く見たのですが、途中での、晴美ちゃんとすずの右手のストーリーには、びっくり・・・。ショックでした。

それと、結婚後、すずを訪ねてきた幼馴染君と夜過ごすシーンで、すずはあの幼馴染が好きだったんだ!っていうのを明らかにするシーンでは、うわっと何故か動揺(^^;
映画を見終わった後知ったことには、夫もすずが一番ではなかったそうで、お互いにそうだったけど、一緒にいるうちにお互いにかけがえのない存在になった、っていう処とかも、いいなーと思いました。

>この物語がしみじみ心に響くのは、そこで終わらず、その後のすずさんたちの生きる姿をも描いていることだ。敗戦後の焼け跡で、戦時中よりももっと逼迫した暮らしの中で、それでもすずさんも周囲の人々も、懸命に自分の居場所で生きていくのだ。

そうなんですよねー。エンドロールの後にも、さらにお話が続いていて、そこがまた素晴らしくて・・・。

latifaさん こんばんは

>晴美ちゃんとすずの右手のストーリーには、びっくり・・・。ショックでした。
わたしは、すずさんの右手のストーリーは何となく知っていましたが
晴美ちゃんまで死んじゃうとは知らなかったので
そこは茫然としましたね。
すごく辛かったし、あんな大怪我なのに自宅で療養・・・って
それも今ならありえないくらいキツいですよね。
つくづく凄い時代をみなさん生き抜いてきたんだなぁと。
私の親世代なんですけどね・・・。尊敬しちゃう。

>一緒にいるうちにお互いにかけがえのない存在になった、っていう処とかも、いいなーと思いました。
そうそう、あの時代はまさに「縁談」は家どうしで決めたりして
本人の意志も確認せずに結婚させたりしていたし
顔も知らない相手に嫁ぐ…なんてことも普通だったでしょうね。
男性も、本命のひととは様々な事情で結婚できず
親が選んだ「釣り合う」相手を割り切って貰ったりして。
それでもすずさん夫婦のように
結婚してから愛情を育んでいったカップルも多かったでしょうね。
それはそれで素敵ですよね。

日本人であることがちょっとうれしくなってしまうような
そんなあたたかい素敵な余韻が残りました。
厳しい、切ない現実も描いているのにね。

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