追憶の森
マシュー・マコノヒー&渡辺謙共演。ガス・ヴァン・サント監督が,青木ヶ原樹海を舞台に描いたミステリードラマ。妻を亡くし,失意のうちに自殺するため青木ヶ原へやって来たアメリカ人男性アーサー(マコノヒー)。彼は樹海の中で日本人男性タクミ(渡辺)と出会い,サバイバル体験を経て,打ち明け話をするようになるのだが・・・・・。
俳優さんに惹かれてDVDを鑑賞。
聞けばカンヌでは大不評だったというこの作品。
描かれているテーマ(死生観?)が欧米では理解されにくかったのかな?でも,日本人にとっては,けっこう心を打たれる物語かもしれない。青木ヶ原樹海が自殺の名所であることは日本人ならよく知っていることだし,死後の魂とか死者からのメッセージとか,日本人が共感できそうなテーマが全編に漂う物語だから。
最愛のひとを突然亡くし,そしてその相手に対して沢山伝え残したことがあったとしたら・・・・・?先延ばしにしてきた贖罪や和解に向き合うことなく唐突に相手を喪ってしまったら・・・・?残されたものの後悔と悲しみはいかばかりかと思う。
マコノヒーの演じる主人公のアーサーは大学教授。妻のジョーン(ナオミ・ワッツ)は,数年前のアーサーの浮気以来アルコール依存になっていて夫婦は些細なことでも感情がすれ違う生活を送っていた。そんな中,ジョーンが脳腫瘍に冒されていることがわかる。手術の成功をきっかけに夫婦の絆を取り戻したと思った矢先,皮肉にも転院先に搬送される救急車の事故でジョーンはあっけなく亡くなってしまう。それもアーサーの目の前で。
一流の俳優陣による細やかな演技と,それぞれの存在感に圧倒される。カメレオン俳優マコノヒーはアウトローも宇宙飛行士もエイズ患者もやさぐれ刑事も敏腕弁護士役ももなんでもこなすが,今作では繊細で知的なキャラで,やはり男前だなぁ・・・・このひとは。
そして日本が誇る名優,渡辺謙さん。樹海の中にふらふらと現れたときから謎めいたキャラクターで、「一体何者・・・?」と思いつつ観ていたが,焚火を前に亡き妻への思いを打ち明けるアーサーを見つめる彼のまなざしや涙(この表情が上手い!)を見て,「もしかしたらこの人は実は・・・なんじゃ?」と感じるものがあった。
終盤になって彼の正体?が推測できる場面やキーワードがたくさん出てきて、やっぱりねと納得。
焚火での会話の中でも,特に心に残っているものは,アーサーと妻のすれ違いについてのエピソード。相手に対する愛情を素直に出せなくなっていた二人は,ちょっとした気遣い(夫が妻の紅茶を補充するとか妻が夫のシャツをきれいにするとか)も,それとははっきりわからないように行った・・・というところだ。感謝するのもされるのも厭だから,という理由で。二人の間の溝がよくわかるエピソード。そして,実は二人とも相手を愛していたんだということもよくわかるエピソード。
感謝も謝罪も,今となってはすべて手遅れ。アーサーは連れ添ってきた妻の好きな色や季節すら知らなかった自分に気づき,それを聞き出そうとしたまさにそのときに起こった事故で妻は帰らぬ人となり,もはや永久に答えを知ることはないと嘆く。
相手が伴侶でなくても親子や恋人でも,喪った相手に対してこのような慙愧の思いを抱いて苦しむことってけっこうあるんじゃないかと思う。やり残したこと,言えなかった思い,実現しなかった和解や,もっと理解したかったのに十分でなかった相手のことなど・・・いろいろと。
そんなとき,あの世(天国でもいいけど)に旅立った相手から,こちらの悲しみや愛情を受け止めてくれるメッセージがなんらかの形で届けられたら・・・それはなんという慰めだろうかと思う。残されたものの生きる力になるし,死はすべての終わりではなく魂はいつまでも一緒にいるのだと信じられる。
淡々とした語り口のなかにもラストにしみじみとしたあたたかい余韻の残る作品。まさに癒しと再生の物語だ。日本人なら観て損はないかも。
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