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2016年10月の記事

2016年10月29日 (土)

ルーム

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はじめまして、【世界】

歳の男の子、ジャックはママと一緒に「部屋」で暮らしていた。体操をして、TVを見て、ケーキを焼いて、楽しい時間が過ぎていく。しかしこの扉のない「部屋」が、ふたりの全世界だった。 ジャックが5歳になったとき、ママは何も知らないジャックに打ち明ける。「ママの名前はジョイ、この「部屋」の外には本当の世界があるの」と。(ウィキペディアより引用)

第88回アカデミー賞主演女優賞のほか,たくさんの賞を受賞した本作。
ほっこりするキャッチコピーや,DVDジャケットの写真とは裏腹に,この物語のモデルとなった実際の監禁事件(フリッツル事件)そのものは,すごく恐ろしく残酷である。

フリッツル事件の被害者の女性は,実の父親によって,何と24年間も実家の地下室に監禁され,彼女が性的虐待によって生んだ父親との子供は,流産した子も含めると7人にも!及んだというから凄まじい。
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こんなにも酷い事件がモデルになって書かれた物語の映画化なのに,なぜこんなにハートフルな感動を呼んだのか・・・・それは,これが,被害者である母親の視点ではなく息子のジャックの幼い目を通して捉えられた物語であるからかもしれない。

生まれた時から彼の世界は「ルーム」がすべて。

友達はいないけど家具やおもちゃに語りかけ,大好きなママと過ごす時間。ママはいつも明るくいろんな遊びや勉強も教えてくれて,ジャックは寂しさや不自由さは感じずに来た。TVの中で繰り広げられる出来事は,全部ホンモノではないと思ってきた。だから今の状況にも不満やストレスは感じていない。

こんな悲惨な状況でも,いや,悲惨な状況だからこそ,息子の心だけは,誕生以来ずっと守り続けたママ,ジョイの愛情の深さがまず凄い。
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物語の前半は,ルームからの決死の覚悟の脱出劇が山場になっている。

外の世界の存在を実感したことのないジャックが,ママの言うことに忠実に従って命がけの脱出を試みる・・・その健気さに胸があつくなりつつも,上手くいくのかどうかドキドキハラハラ・・・・そしてなんといっても,ジャックを演じた天才子役のジェイコブ・トレンブリー君の,あの瞳の演技!初めて自分の目で,外界を見た時の,無垢な驚きの表情が素晴らしい。
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ジャックがまず警察に保護され,続いて「ルーム」が発見され,ママの救出。そこで涙ながらに抱き合う母子・・・・めでたしめでたし・・・で普通は終わるところだけど,この物語はそこで終わらない。もとの「世界」へ戻れたママと,初めて「世界」を体験するジャック。それは二人にとって新たな試練の始まりでもあったのだ。

ジャックの生物学的な意味での父親が,ジョイを拉致監禁した犯人であるという事実。「親とは子供に愛情を注ぐ存在」だという理由で「ジャックの親は私だけ」とインタビューで言いきるジョイ。でも,ジャックが生まれたいきさつは,彼がこれから成長していく過程で,乗り越えなくてはならない大きな障害になるということは誰もが思っていることで・・・実際に,行方不明だった娘の生還を喜びつつも,ジョイの父親(ウィリアム・H・メイシー)は,犯人の子でもあるジャックを孫として受け入れることができなかった。やはり父親としては無理もないのだろうか。
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その点,やはり母親は違うというか,ジャックのばあば(ジョアン・アレン)は,娘のジョイも孫のジャックのことも自然に受け入れることができる。いろいろな思いはあったにしても。ばあばの今の恋人(夫?)のさりげない優しさも救いとなって,自殺未遂までしたジョイの心もゆっくりと再生へと向かっていく・・・・。

ラスト近く,ジャックとママが,監禁されていた「ルーム」を訪ねる場面が印象的だった。ジョイにとっては地獄のような思い出もあっただろうこの部屋。でもジャックにとっては,生まれ育った懐かしい場所。かつて自分の全世界だった空間。ジャックは「さようなら」と思い出の家具の一つ一つに別れを告げる。まるで幼友達に話しかけるように。半ばパニック状態でここを脱出したあの日には,ゆっくりと告げることのできなかった別れの言葉を。

ジャックの「世界」での生活はやっと軌道に乗り始めたばかり。

この先には,楽しいことと同じくらい,生い立ちゆえの辛いことや理不尽な試練が待っているに違いない。でもママと一緒に乗り越えていってほしい。100万回のエールを贈りたい・・・と思った。

2016年10月22日 (土)

リリーのすべて

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劇場で観たかったのだけど,叶わず,DVD鑑賞となった本作。いろいろと見所はたくさん。
まず,実話であるということ。モデルは,世界初の性転換手術を受けたデンマークの画家エイナル・モーゲンス・ヴェゲネル 。ウィキで調べると,偏見に支配されていた1930年代に,妻のゲルダが夫の性別移行を支援したのは事実らしい。また,実際のリリーは手術後わずか3か月後に拒絶反応による死を迎えている。

その他にも主演のエディ・レッドメインの女装した演技にびっくり!
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優美なドレスをまとって,はにかみながら微笑む彼の表情は,まさに女性そのもの。鑑賞中は「でも,この人(エディ・レッドメイン)はもともと線が細くて,こんな女性っぽい雰囲気の男性だったよな。」という思いもよぎったのだけど,特典映像のインタビューで,普通の男性の服装でしゃべっている彼を見たら,やっぱり役を離れた本人はどうみても男性だった。(あたりまえか)

これね~,オンナの服着て化粧すればみんな女性に見えるというもんでもないと思うの。服装だけでなく,しぐさや表情が女に見えるというのが凄い。そういえば同じ感動をプルートで朝食をキリアン・マーフィーにも感じたっけ。あの作品の中の彼も,女性にしか見えなかったものね。
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愛する夫が,もしくは恋人が自分と同じ性になりたいという願いをもったらどうするか・・・・。これは,グザヴィエ・ドラン監督の名作わたしはロランス」でも描かれていたテーマで,だれしも混乱と苦悩を体験するはず。相手はもう引き返すことのできないところまで行ってしまっていて,受け入れるか別れるかどちらかの選択しかない・・・・。

相手が同性になっても愛せるというのは,本当に相手の存在そのものを愛しているのだろうと思う。性別を超えた愛?愛するがゆえに,相手がより自分らしく生きることを願う?
でも異性としてもう愛してもらえないことへの寂しさや鬱憤もまたかなりのものだと思う。想像するしかないけど…大抵の人ならやっぱりお別れしちゃうだろうなあ。
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ヒロインのゲルダも,やはり寂しさのあまり,「アイナー(男性だったころの夫の名)に会いたい。」と訴える場面もあるが,夫からは無残にも「無理・・・」と言われてしまう。まあ,そりゃ正直なところそのとおりかもしれないけど,残酷だ。普通ならそこで愛想が尽きて別れるところだろうが,ゲルダは夫を見捨てず,支え続ける。

強い女性だと思う。中盤からは,彼女の愛と献身ぶりは妻というより母のそれに近かったようにも思えた。相手のすべてをありのままに受け入れ,どこまでも見捨てないところなんかが。

主人公は・・・・リリーかもしれないけど,これはむしろ「ゲルダの物語」でもあるんだろうね。

2016年10月20日 (木)

追憶の森

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マシュー・マコノヒー&渡辺謙共演。ガス・ヴァン・サント監督が,青木ヶ原樹海を舞台に描いたミステリードラマ。妻を亡くし,失意のうちに自殺するため青木ヶ原へやって来たアメリカ人男性アーサー(マコノヒー)。彼は樹海の中で日本人男性タクミ(渡辺)と出会い,サバイバル体験を経て,打ち明け話をするようになるのだが・・・・・。

俳優さんに惹かれてDVDを鑑賞。

聞けばカンヌでは大不評だったというこの作品。
描かれているテーマ(死生観?)が欧米では理解されにくかったのかな?でも,日本人にとっては,けっこう心を打たれる物語かもしれない。青木ヶ原樹海が自殺の名所であることは日本人ならよく知っていることだし,死後の魂とか死者からのメッセージとか,日本人が共感できそうなテーマが全編に漂う物語だから。
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最愛のひとを突然亡くし,そしてその相手に対して沢山伝え残したことがあったとしたら・・・・・?先延ばしにしてきた贖罪や和解に向き合うことなく唐突に相手を喪ってしまったら・・・・?残されたものの後悔と悲しみはいかばかりかと思う。

マコノヒーの演じる主人公のアーサーは大学教授。妻のジョーン(ナオミ・ワッツ)は,数年前のアーサーの浮気以来アルコール依存になっていて夫婦は些細なことでも感情がすれ違う生活を送っていた。そんな中,ジョーンが脳腫瘍に冒されていることがわかる。手術の成功をきっかけに夫婦の絆を取り戻したと思った矢先,皮肉にも転院先に搬送される救急車の事故でジョーンはあっけなく亡くなってしまう。それもアーサーの目の前で。
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一流の俳優陣による細やかな演技と,それぞれの存在感に圧倒される。カメレオン俳優マコノヒーはアウトローも宇宙飛行士もエイズ患者もやさぐれ刑事も敏腕弁護士役ももなんでもこなすが,今作では繊細で知的なキャラで,やはり男前だなぁ・・・・このひとは。

そして日本が誇る名優,渡辺謙さん。樹海の中にふらふらと現れたときから謎めいたキャラクターで、「一体何者・・・?」と思いつつ観ていたが,焚火を前に亡き妻への思いを打ち明けるアーサーを見つめる彼のまなざしや涙(この表情が上手い!)を見て,「もしかしたらこの人は実は・・・なんじゃ?」と感じるものがあった。
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終盤になって彼の正体?が推測できる場面やキーワードがたくさん出てきて、やっぱりねと納得。

焚火での会話の中でも,特に心に残っているものは,アーサーと妻のすれ違いについてのエピソード。相手に対する愛情を素直に出せなくなっていた二人は,ちょっとした気遣い(夫が妻の紅茶を補充するとか妻が夫のシャツをきれいにするとか)も,それとははっきりわからないように行った・・・というところだ。感謝するのもされるのも厭だから,という理由で。二人の間の溝がよくわかるエピソード。そして,実は二人とも相手を愛していたんだということもよくわかるエピソード。
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感謝も謝罪も,今となってはすべて手遅れ。アーサーは連れ添ってきた妻の好きな色や季節すら知らなかった自分に気づき,それを聞き出そうとしたまさにそのときに起こった事故で妻は帰らぬ人となり,もはや永久に答えを知ることはないと嘆く。

相手が伴侶でなくても親子や恋人でも,喪った相手に対してこのような慙愧の思いを抱いて苦しむことってけっこうあるんじゃないかと思う。やり残したこと,言えなかった思い,実現しなかった和解や,もっと理解したかったのに十分でなかった相手のことなど・・・いろいろと。

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そんなとき,あの世(天国でもいいけど)に旅立った相手から,こちらの悲しみや愛情を受け止めてくれるメッセージがなんらかの形で届けられたら・・・それはなんという慰めだろうかと思う。残されたものの生きる力になるし,死はすべての終わりではなく魂はいつまでも一緒にいるのだと信じられる。

淡々とした語り口のなかにもラストにしみじみとしたあたたかい余韻の残る作品。まさに癒しと再生の物語だ。日本人なら観て損はないかも。

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