マダム・マロリーと魔法のスパイス
ラッセ・ハルストレム監督作品で主演は大好きなヘレン・ミレン。
劇場でも観たし,DVDも購入し,加えて原作も買って読んでしまった。感想を書くのは今ごろになってしまったけど,とっても素敵で美味しそうで,心があたたかくなる大好きな作品。ストーリーもテーマも異なるけど,同監督の「ショコラ」に少し感じが似てるかな。
インドで曾祖父の代から飲食店を営んでいたハッサン・カダム一家は、繁盛していたレストランと母を,暴徒の襲撃によって失ったことをきっかけに故国を後にする。彼らは英国滞在を経てから欧州に渡り,家財道具一式を積み込んだ車で,落ち着く先を探して旅をするうちに,南フランスのとある片田舎にたどり着く。
そこでハッサンのパパは,通りすがりに目にした売り家の田舎屋敷を気に入り,家族の反対や心配を押しきってその屋敷を買い取りインド料理レストラン「メゾン・ムンバイ」を開店することに。 しかし、あろうことか,その屋敷と道を隔てたお向かいに建っていたのは,マダム・マロリー(ヘレン・ミレン)経営のフレンチ・レストラン「ル・ソール・プリョルール」。それは,ミシュラン一つ星を獲得した有名老舗レストランだった。
「マダム・マロリーと魔法のスパイス」なんていうファンタジックな邦題のお陰で,なんか魔法使いの出てくるお伽話のようだが,この物語は一言で言えば異文化(ことにその中でも食に関する文化や伝統)の対立と融合をテーマにしたものなんだろう。
インド料理VSフランス料理。味や調理法だけでなく、お店の内装からBGMからサーブの仕方からすべて天と地ほど違いのある文化だ。そして戦闘を率いるのは家長であるハッサンのパパVSマダム・マロリー。始めに仕掛けたのは,「この土地に下品なインド料理なんて!」と怒り狂ったマロリーの方だが、迎え撃つパパもなかなか強烈なキャラクターで負けていない。どちらも長年の経験とプライドと頑固で一徹な性格の持ち主ゆえ、互いに一歩も引かない。面と向かっての喧嘩はもちろん,食材の買い占め合戦やら町長への直訴やら…スタッフ同士の反目も加わって両レストランの競争は加熱していく。
そんななか、シェフとして生まれつき天才的な腕を持つハッサンと,マロリーの店の副シェフのマルグリットは,互いに淡い恋心を抱く。食に関して柔軟な発想と好奇心をもつハッサンは独学でフランス料理の勉強をし,マロリーは彼の才能に密かに衝撃を受けることになる。いわば「敵」である彼の中に,たぐいまれな料理人の才能を感じ取ったマロリーは,最初こそ落ち込むものの,やがてその才能を伸ばし,生かしていこうと決心する。
マロリーの意識の変化とハッサンの橋渡しのおかげで,反目していた両家の間には和解と親愛の情が生まれ,マロリーの店に修行に行ったハッサンは,伝統的なフレンチにオリジナルのスパイスを加えて次々に新しい味を生み出していく。マロリーの店はハッサンを迎えてから悲願だった2つ星を獲得し,ハッサンはパリの斬新な店に引き抜かれることになり…。
ハラハラドキドキする場面や展開も程よく盛り込まれてはいるが,あくまでよく効いたスパイス程度で、全体にはとても優しく、あたたかくて最後は大団円!という物語に仕上がっていた。しかし,出てくる料理のなんと美味しそうなこと!ハッサンの鳩のロティとオムレツ,特に食べてみたい… そんなわけで 映画の帰りに立ち寄ったのはもちろん,タンドリ料理が食べられるインド料理専門店でした。
映画の後に読んだ原作は、読みごたえ十分で,特にハッサン一家のインド時代の出来事や,料理の師匠としてのマロリーの存在や,さまざまな食材や料理がハッサンの視点で綴られていて,長尺な物語でも少しも飽きずに楽しく読めた。ただ、映画と違う設定も多々あり,小説ではマロリーとパパの間にはロマンスは発生しないし,ハッサンもフレンチにインドのスパイスを加えた料理を作り出したりはしないけれど。映画はハルストレム監督独自のほのぼのスパイスが加えられて、味わい深い癒し系グルメ作品に仕上がっていたような気がする。
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