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2014年9月 7日 (日)

ペインテッド・ヴェール ある貴婦人の過ち

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2006年の作品。しかし日本では未公開で,DVDも今年リリースされたばかり。邦題からは,昼メロみたいな安っぽさが漂うのだが,サマセット・モームの原作の文芸映画で原題は「五彩のヴェール」。1934年に「彩られた女性」という題でグレダ・ガルボ主演で映画化されたもののリメイクだそうで。

何がいいって,主演がエドワード・ノートンナオミ・ワッツなこと!これがなければ絶対スルーしていた作品だ。サマセット・モームの小説もあまり読んでないしね。で,結論から言うと,これ,とってもよかった。たぶんみなさんほとんどご存じないと思うけど,あえて紹介させていただこうかと。
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舞台は1923年のロンドン。
上流階級の家の娘キティ(ワッツ)は、父親の勧めに従って,中流階級出身の医学博士ウォルター(ノートン)のプロポーズを受け入れ,彼の赴任先の上海へ同行する。しかし真面目で寡黙で仕事熱心なウォルターに不満を募らせた彼女は,イギリス副領事タウンゼント(リーヴ・シュレイバー)と関係を持ってしまう。

やがて妻の不貞に気づいたウォルターは,ある復讐策を実行する。キティに対し,コレラが蔓延している僻地医療現場へ自分と同行するか離婚か,どちらか選ぶようにと迫ったのだ。「なぜ私がそんなところに行かなきゃいけないの?」と抵抗するキティだが,不倫相手のタウンゼントがただの浮気男にすぎなかったことがわかったキティは,他に選択の余地もなく,冷え切った関係の夫と共に,中国の奥地へ向かう・・・。
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撮影時にまだ30代だったナオミ・ワッツが美しい。1920年代のファッションは,膝丈までの細身でフラットなドレスやボブカットのショートヘア,キャスケットタイプの帽子・・・などとても素敵なのだけれど(華麗なるギャツビーの時代よね)この映画のナオミの髪形もとても女らしく可愛らしい。

彼女は前半はとても嫌な女である。たとえ上流階級に生まれても,女性は適齢期になれば結婚するしか生きるすべがなかった時代,大して愛も尊敬も抱いていないウォルターと,ある意味「妥協して」結婚「してあげた」彼女は,面白味のない夫を裏切ったあげく,離婚されることだけは避けたくて,自分に復讐しようとする夫に怒りを覚えながら投げやりな気持ちで僻地に赴く。
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しかし,後半からの彼女は,シスターが経営する孤児院でのボランティアなどを通して,次第に変わっていく。ろくに口もきいてくれない夫と二人きりで,コレラの蔓延する不便な僻地に無為に閉じ込められる生活の中,キティは生きていくために,自分ができること,自分にしかできないことを模索し始める。それまで,親や夫の庇護のもと,深い考えもなく高慢に気ままに生きてきたに違いない彼女が,「自立」というものに目覚め始めたのかもしれない。こうなると持ち前の気丈さや負けん気がプラスに働くのか,彼女は次第にたくましく生彩を取り戻していくのだ。

そしてそれにしたがって,冷戦状態だったウォルターとの関係も少しずつ変化していく。夫に対し,謝罪や尊敬の気持ちが芽生え,新婚時には彼女の方には無かった夫への愛も生まれてくる。

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ノートンもまた,物静かで沈着で,しかしこうと決めたら譲らない頑固さも持つウォルターにぴったりの雰囲気だった。愛して結婚した妻に裏切られた大人しい夫の執念深い反撃・・・。キティへの愛情と復讐心の狭間で悩む不器用で生真面目なウォルター。この二人が演じたからこそ,この作品は珠玉の味わいにまで高められたと思う。

しかし,夫婦の間にやっと本当の愛や信頼が生まれ,子供も授かった矢先に,ウォルターがコレラに感染。この時代だから・・・・奇跡は起こらず,キティの懸命の看護も虚しく,点滴の生理食塩水が尽きたときに,彼は脱水症状を極めて逝ってしまう。最後に「(こんなところに連れてきて)赦してくれ。」と妻に言い残して。
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ここからは涙腺がゆるみっぱなし。

和解したとたんに夫が死んでしまうのも,小説や映画ならもちろんありがちな話の流れなのに,ナオミとノートンの演技に泣かされ,「ウォルター埋葬→キティ慟哭→キティがその地を去る」までの一連のシーンの背後に流されていたフランスの童謡「À la claire fontaine(清らかな泉のほとりで)」の,やさしい澄んだ調べとシンプルな愛の歌詞にまた泣かされ・・・・。この曲,どこかで聴いたことがあると思ったら,クリスティン・トーマス・スコット主演の,ずっとあなたを愛してるでも効果的に使われていた曲だった。曲の最後に繰り返される,(Il y a longtemps que je t'aime,Jamais je ne t'oublierai.=ずっとあなたを愛してた,決してあなたのことは忘れない)という歌詞があまりにもこの場面の哀しさや切なさにぴったりで心に残る。

美しい映画だった。ノートンやワッツのファンならぜひご覧ください。モームの原作がお好きという方にもおすすめ。

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コメント

この邦題は困ったものです。
モーム原作の映画について言うと、
古くは『人間の絆』“Of Human Bondage”→『痴人の愛』
比較的新しいところでは『女ごころ』“Up at the Villa”→『真夜中の銃声』
『劇場』“Theatre”→『華麗なる恋の舞台で』など。
ところで、来年はモーム没後50年、代表作『人間の絆』発表から100年目に当たります。ぜひモームの作品をお読みください。

Maugham-maniaさん こんばんは

コメントありがとうございます。
モームについていろいろと教えていただきありがとうございました

この作品の邦題,確かに悪趣味ですよね。
ある貴婦人の過ち・・・・ってそういうテーマじゃないし。
文芸作品なのに安っぽい響きの題になってしまいましたよね。
他の映画化作品の邦題もそれぞれみんな微妙ですね。

モームの作品は,今までほとんど読んだことがありません。
いや,しかし挙げていただいた作品のなかで題に見覚えがあるものがあり
本棚をひっくり返してみたら「女ごころ」が出てきました。新潮文庫の。
20年ほど前に買って読んだ記憶があります・・・・しかし内容の詳しい記憶は曖昧に。
モームはストーリーが面白く,人間に対してシニカルな目線もあり,そこは好みですね。
また読んでみたいと思います。代表作の「人間の絆」おすすめなんですね。

ナオミ・ワッツにエドワード・ノートン。映画好きなら「おお!」という二人ですが日本の一般の人には浸透してないということでしょうか。それにしても単館系でかけてあげたっていいのに… 8年も経った今頃になってDVD発売というのもよくわからない話ですね(^_^;
ノートンさんは最近は『ムーンライズ・キングダム』や『グランド・ブダペスト・ホテル』などですっとぼけた役を演じている印象が強いですが、こちらはかなり深刻そうですね

SGAさん こちらにありがとうございます。

ナオミもノートンもルックスもですが何よりその定評ある演技力を思えば、このお二人がコンビだとどうしても見逃せませんね。二人そろって駄作に出るとも思えませんし。ほんとになんで上映してくれなかったのかしら。もったいない作品でした。

>『ムーンライズ・キングダム』や『グランド・ブダペスト・ホテル』
これは出演陣が超豪華な作品ですよね。DVDになるのが楽しみです。
ノートンは本当はこういうお茶目な役のほうが凄いのかななんても思います。本来、器用な役者さんなのでシリアスもロマンスもなんでもこなす方ですが。

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