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2014年5月 7日 (水)

鑑定士と顔のない依頼人

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劇場で一度観て,後日リピートしてしまった作品。この作品,最期のオチまで観てしまうと,もう一度それを知ったうえで再見したくなる・・・・初見時に感じた,それぞれの登場人物の言動が,二度目はまったく違ったふうに見えてくるのが面白かった。私のようなリピーターは結構たくさんいらしたそうである。

あらすじ: 天才的な審美眼を誇る美術鑑定士ヴァージル・オールドマン(ジェフリー・ラッシュ)は、資産家の両親が遺(のこ)した美術品を査定してほしいという依頼を受ける。屋敷を訪ねるも依頼人の女性クレア(シルヴィア・フークス)は決して姿を現さず不信感を抱くヴァージルだったが、歴史的価値を持つ美術品の一部を見つける。その調査と共に依頼人の身辺を探る彼は……。(シネマトゥディ)
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ジュゼッペ・トルナトーレ監督の作品の中では,散りばめられた謎や人間の欺瞞や残酷さは,題名のない子守唄と似た香りがする。美しい映像や流れるようなモリコーネの音楽にうっとりとはするが,後味はシニカルで暗く,切ない。個人的にはこの切なさ,やりきれなさが好きではあるが。

天才鑑定士ヴァ―ジルが,図らずものめり込んでしまった,まさかの「老いらくの恋」それも生まれて初めての恋。しかしそれは,彼が密かに収集してきた膨大な肖像画のコレクションを狙ってしかけられた,まさに「壮大な」詐欺事件だった・・・・。(ネタバレすみません)
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変人で気難しく,人との接触を嫌うヴァ―ジルの心に密やかに確実に入り込んでいく謎の美女クレア。「広場恐怖症」という名目で,中盤まで姿を見せない彼女は「怪しい・・・この女性」と最初からマークできたけど,終盤になって「え~,あの人もこの人もグルだったの?」と驚かされる。なんて手の込んだ,そして大がかりな詐欺なんだ!とヴァ―ジル同様,唖然としてしまった。しかし,それほどまでの手間や準備を費やしても価値があるくらい,盗み取られたヴァ―ジルのコレクションの総額はたいしたものだったのだろうとも予想がつく。・・・・こりゃショックだただろうなぁ。気の毒なんて言葉では言い表せない。

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人生の最後に想定外の恋に落ちてしまったがために,これまで築き上げてきたものすべてが根こそぎ奪い取られて腑抜けのようになってしまうヴァ―ジル。しかし,警察に行く決心もつかず,「何が起こってもあなたを愛してるわ」というクレアの言葉を反芻し,ラストシーンのカフェで彼女を待ち続けるヴァ―ジルの姿をみて,彼が一番失って辛かったものは,コレクションではなく愛するクレアの存在だったのだろうなぁ,と感じた。

人を愛することなく人生を終えるはずだった彼が,それがたとえ仕組まれたものであっても「愛する」体験をしたことは,彼にとってはよかったのだろうか・・・?彼はこれからもクレアを恨むことは出来ず,いつまでも彼女に恋い焦がれながら彼女を想いつづけて生きるのだろうか。彼女にいつか再会でき,彼女からの謝罪の言葉を聞き,彼女に赦しの言葉をかける場面を夢見て生きるのだろうか?それは彼女を知らない人生よりは,彼にとって豊かなものであると言えるのだろうか?

いろいろ考えさせられる余韻のあるラスト。しかし皮肉で残酷な物語であることは間違いがない。愛もまた偽れる・・・作中の台詞がずっしりと胸にこたえた。

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映画 か行」カテゴリの記事

コメント

こんばんは。プロフ画像、相変わらずお美しいですね~
老いらくの恋… 文学でも映画でも扱われることの多いテーマですね。『痴人の愛』とか『ベニスに死す』とか。老いれば老いるほどにますます若さが美しく見えてきてしまうということなんでしょうか

わたしがヴァージルだったとして、やっぱりクレアを恨む気にはなれないだろうな。むしろ「いい思いをさせてもらってありがとう」と思う気がします。底なし沼のように落ち込む気もしますけど(笑)

SGAさん こんばんは

>プロフ画像、相変わらずお美しいですね~
ありがとうございます。写真は多少ごまかしがきくので・・・

老いらくの恋・・・・人生のたそがれ時に「これで最後かも」という悪あがきというか・・・・気持ちはよーくわかります。
そういや「痴人の愛」って,原作を愛読していたときがありました。それも20代のときに!あの話になぜか惹かれてしまって。

>むしろ「いい思いをさせてもらってありがとう」と思う気がします。
そうそう,それなんですよね。それはあると思います。
>底なし沼のように落ち込む気もしますけど(笑)
日によってはそんな気分にもなるでしょうね。なんともやりきれませんねぇ・・・・。

こんばんは。

この手の映画の場合、
その思いもよらぬ結末に、
なんだそれ…と、あきれちゃうときと、
ただただ呆然と
その成り行きを見守るときがありますが、
これはまぎれもなく後者。

ななさんのように、
その仕組みが分かった上で、
最初から観直すと、
新たな発見があり、
オモシロさもより深まる気がします。

ななさんが一緒に暮らしていた猫さん、
ななちゃんのこと、
いただいたコメントで知りました。
初めは、そのことも書こうと思ったのですが、
「虹の橋を渡りました」の記事を読んでいるうちに
目頭が濡れてきて…。

また、後日、お伺いさせていただきます。

その時は改めてよろしくお願いします。

なるほど、そういうことだったのですね、この映画。
ならば私はななさんに教えて頂いた展開を踏まえて、二度目的?鑑賞をさせて頂けますね。いつの日かの楽しみにします、ありがとうございます。(*^^*)

私もキホン、「切ない」トーンは好きな世界です。

ヴァージル。
誰でもが経験することではない程の心の震えと全てを投げ打っても追い求めたい愛を知ったということで彼の生は一瞬でも輝いたのだと思いたいですが、、、最後にどう感じるかは彼自身なのでしょうねぇ。切ないですねえ。

えいさん 

>ただただ呆然と
> その成り行きを見守るときがありますが、

そうですね。わたしもそうでした。後半は特に
二度目の鑑賞でも仕掛けがわかっていながらも
ついつい茫然としてしまいました。
ストーリーやキャラクターが「ありえない」くらい個性的で
騙し方も大がかりすぎて完璧なので
成り行きを見守るだけでも心を奪われてしまいます。

DVDも予約してしまったので三度目の鑑賞も楽しもうと思います。

ななのことありがとうございます。
家族が手作りしたお墓も完成し毎朝お花とお水を供えています。
5か月たって当時の悲しみは思い出に変わりつつあるとはいえ
まだまだ寂しさは不意に襲ってきますね・・・・。

ぺろんぱさん 

ブログのほうも再開されたようでとっても嬉しいです。
8月かな・・・DVDがリリースされるので,機会があればぜひご覧になってください。
ぺろんぱさん,これお好きだと思うわ。感想聞きたいです。

>誰でもが経験することではない程の心の震えと全てを投げ打っても追い求めたい愛を知ったということで彼の生は一瞬でも輝いたのだと思いたいですが・・・

私もそう思いました。
というか,わたしがそういう愛を描いた物語や映画に憧れるタチなので。
こっぴどく騙されてすべてを失っても,
体験しないよりはずっとよかったよね・・・あの恋はって思ってしまう。
もちろん自分がヴァ―ジルなら辛さは半端じゃないけどね。
いつまでも待つ・・・というのも憧れます。
我ながら乙女ですね~~いい年して。

ななさん、こんにちは!
2度鑑賞されたんですね。
うん、うん、解るわー。
この映画は、2回見たくなる。

色々考えさせられる処があるけれど、でも面白かったし、見る人、見る性別、年代によって、感想が違ってきそう。

私は、惜しい・・・。全てを失うのは悲し過ぎるって思ったけれど、全てを失っても、それでもリアル恋愛経験をできた方が良いって意見もあって、なるほどーと思った映画でした。

ななさん、こんばんは^^

やっとDVDで見ることができたこの作品、
さすがのジェフリー・ラッシュ!上手いですね~^^
でも、ドナルド・サザーランドが出てきて、なんか怪しいぞ!と思い、
ジム・スタージェスが出てきて、絶対なんかあるぞ!とか思い、
でもその何かが全く予測がつかず、
っていうか、予測する余裕などあるはずもなく
グイグイとストーリィに惹きこまれてしまいました。
ヴァージルが言った「どんな贋作にも真実がある」・・・
プラハのあのお店で彼女を待ってる姿は、そんな心情だったのかなぁと、ちょっぴり切なかったですね~(ρ_;)

latifaさん こんばんは~

劇場で二回観て、DVDを買ったので3回観ました~
二回目に観たときに、1回目と全く違う構図が見えてくるのが面白かったです。
>見る人、見る性別、年代によって、感想が違ってきそう。
そうですね~ 若い人は私とは違う感想を持ちそう・・・・純粋だし人生を振り返る年でもないし、やり直しの効く年だしね。
なんというか・・・・ヴァージルの年代だともう人生の総決算をしなきゃいけない頃じゃないですか。
そんな年にまるで別世界に落ち込んだような体験をして、至福から奈落に突き落とされて・・・・でもそれまでの人生や価値観では予想もしなかった至福の味が忘れられなくて、それは恨みや悲しみよりずっと強いもので・・・・と思うと、う~~ん、乱暴な言い方だけど騙される価値はあったのかなとか思ってしまうんですよ。彼が失意のあまり施設で呆けて死んでしまったならともかく、ラストは彼なりに立ち直ってまだ希望を持ち続けているみたいにも見えましたよね。

ちーさん お元気ですか!

>ドナルド・サザーランドが出てきて、なんか怪しいぞ!と思い、
>ジム・スタージェスが出てきて、絶対なんかあるぞ!とか思い、
あはは、そうなんですよね・・・このお二人、見かけによらず悪役が多かったりするんで。
ジムなんかお顔は絶対悪役じゃないのに出世作が詐欺師役だったりするからかしら。
で、怪しいなと思いつつもどんなたくらみなのか考える間もなく振り回された気がします。
オレオレ詐欺とか小者レベルですよね・・・ここまで綿密に用意周到に組織された詐欺軍団に比べたら。
プラハで彼女を待ち続けるヴァージルは「もしかしたら彼女の愛だけは本物だったのではないか?」という思いにすがっているのでしょうね。
盗まれた絵よりも何よりも彼は彼女を取り戻したかったのでしょう。
一生待ち続けるかもしれませんが・・・・彼女の心は今となっては神のみぞ知る・・・でしょうね。

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