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2013年9月の記事

2013年9月28日 (土)

最愛の大地

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ボスニア・ヘルツェゴビナ紛争によって,敵味方に分かれてしまった恋人たちを通して,内戦による女性への性的な暴力や,国際的な介入の不足などの問題提起を投げかけてくる作品。国連の親善大使も務めるアンジェリーナ・ジョリーの初監督・脚本作品。ミニシアターで鑑賞。

戦時中の悲恋ものかしらと期待して観にいったのだが,甘ったるいラブストーリーなんて生易しいものではなかった・・・・・どこまでも重く,残酷で,ラストの一瞬の場面の衝撃で,それまでの物語の印象ががらりと変わってしまった作品。
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1992年に勃発したボスニア・ヘルツェゴビナ紛争。
史上最悪と言われたこの内戦は,敵対する宗教を持つ異民族が,昔からの遺恨や確執を抱えつつ共存していた旧ユーゴの土地では,避けられないものだったのだろう。セルビア人(ギリシア正教)とムスリム人(イスラム教)とクロアチア人(カトリック)が,独立を巡って対立し,自分たち以外の民族を武力で制圧し排除しようとしたおぞましい戦い。この映画はその中でも,セルビア軍によるムスリム人女性への非道な行いに焦点を当てて描かれている。

それまで仲良く暮らしていたはずの隣人や知人がいきなり敵になる・・・・街を歩いていただけで突然射殺され,住み家や財産を奪われる。女性は拉致されて集められ,民族浄化のためにレイプされ異民族の子供を強制出産させられる。これほどまでに非道な人権蹂躙があったからこそ,この内戦は「史上最悪」とまで言われたのだろう。
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そんな戦火の中で敵となってしまった二人の男女。
セルビア人のダニエルは将軍の息子で軍を率いる立場。平和な時代には彼の恋人だったムスリム人のアイラは,紛争が起こると,他のムスリム人の女性たちと一緒にセルビア軍宿舎に連れ去られてしまう。彼女が囚われてきたことを知ったダニエルは,部下たちに,アイラを「自分のものだ」と宣言し,彼女を集団レイプから守る。

しかし時には彼に抱かれながらも,アイラの表情は完全に和らぐことはない。それはそうだろう。彼は,かつては恋人(しかも恋は始まったばかりの段階でしかなかった)だったが,今は,自分の同胞をあれだけ手酷く痛めつけ,抹殺しようとしているセルビア軍の将校なのだから。日常的に繰り返される,自分や同胞の女性たちに対するセルビア軍の仕打ちを考えると,彼の庇護を無邪気に享受する気持ちなどには到底なれなかったと思う。
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ダニエルの父であるセルビアの将軍は,息子がムスリムの女を囲っていると知って,「彼女を信用するな」と忠告するが,その背景には,過去に母や兄弟をムスリムに殺害されたという遺恨がある。

この父将軍役を演じていたのが,同じような「民族間の確執と復讐の連鎖」をテーマにした「ビフォア・ザ・レイン」に出演していた,クロアチア出身の俳優さん(レイド・セルベッジア)だった。その他にも,出演陣の多くはこの紛争の地出身で,実際にこの悲惨な内戦を体験した俳優さんもいるという。アンジーはあえて彼らを起用したそうだ。

ダニエルの異動後に脱走に成功したアイラは,身を隠していた姉や同胞の元に辿りつくが,そこで我が子のように可愛がっていた幼い甥の死を知らされる。その後再び彼女はダニエルの元につれ戻され,彼の専属画家として,庇護という名のもとの軟禁生活を送ることになる・・・・。

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二人の間に存在しているように見えた愛情や信頼は,実はどれくらいの温度差があったのだろう。
ダニエルのアイラへの愛は本物だったろう。しかしアイラにとって彼は,いつ殺されるかわからない世界の中で自分を守ってもくれるが,同時に自分を支配し生殺与奪の権利を握っている存在でもあったから。ダニエルの心もまた,長引く紛争の中で疲弊し,アイラに対して暴君的な態度を取ったり,発作的に不信感に襲われたりもする。


所詮,支配者と被支配者の間に愛が存続するはずはないのだろう・・・特に,このような,あまりにも惨い争いの最中では。男女が当たり前のように愛し合い,互いに信頼し合うためには,平和な世界が背景にないと難しいのだろう。彼らが敵と味方の立場なら,なおさら・・・・・。支配者と被支配者の間の互いに信頼しきれない愛・・・という点では,ラスト、コーションを思い出した。大胆な性描写も共通するものがあるかも。

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戦争は,人の心の大切なものを,とことんまで破壊する
ことを,この作品を観て思い知った。なんという哀れな結末。これは,どんな逆境にも屈せずに愛を貫く恋人たちの物語かもしれないと,最後まで願いながら観ていたのに,全くそうではなかった。

「ごめんなさい・・・」とつぶやいたアイラの心の中を覗いてみたかった。彼女の葛藤や逡巡や恐怖の数々は想像できても,ダニエルに対する愛情は・・・どれくらい存在していたのか,またどのように変化していったのか,聞いてみたかった。こうするしかなかった彼女も,またおそらく結果的には,彼女よりももっと生き地獄を見ることになっただろうダニエルも,平和な時代に生きていれば,きっと幸せな恋人どうしでいられたはずなのに。

2013年9月17日 (火)

「許されざる者」

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1992年のイーストウッド主演の「許されざる者」を,舞台を明治初期の北海道に移し,主役を,かつて「人斬り十兵衛」という名でおそれられた,幕府の残党,釜田十兵衛(渡辺謙)という設定にしてリメイクした作品。公開前から何かと話題を呼んでいたので,連休に劇場に行ってきた。オリジナルも観ていたし,昔から謙さんは好きなもので・・・・。

明治政府が幕開けしたばかりの蝦夷地。開墾を待つ広大な未開の地と苛酷な大自然。その地には,政府軍に追われた幕府の残党や,和人に虐げられるアイヌたちの試練があった。
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政府軍の追っ手から逃げる途中も,大勢の人間をその手にかけてきた十兵衛は,アイヌの女性を妻にして荒野にささやかな所帯を持って以来,「二度と人を殺さない」という,亡き妻との誓いを守ってきた。そんな彼が旧友の馬場金吾(柄本明)に誘われ,二人の子供との生活を守るために,賞金稼ぎに身を投じる。

狙う相手は,彼からすれば何の縁も恨みもない二人の男。彼ら(のうちの一人)が,開墾地の女郎宿で,一人の女郎に腹を立て,その顔を切り刻んだにもかかわらず,警察が彼らを「馬6頭差し出す」だけの罰しかを下さなかったのを怒った女郎たちが,自腹で彼らの首に賞金を懸けたのだった。
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もう二度と人を斬らないと誓った十兵衛だが,二人の子供に冬を越させるだけの報酬を得るために,「ついてきてくれるだけでいいから」という金吾の頼みを受けるのだが・・・。

オリジナルに描かれていた,過去に罪を背負ったわけあり主人公と,その周囲の虐げられた立場の人々,法の側にあるはずの者たちによって行われる非道な行い,そして背景となる荒野・・・・などの諸要素が,この邦画リメイクでは,19世紀末の北海道の苛酷な自然や,日本ならではの、アイヌや幕末の落ち武者の悲哀に置き換えられて描かれている。そして主人公の十兵衛は,オリジナルのウィリアム・マニー同様,単なる勧善懲悪のヒーローとしては描かれていない。
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彼に殺される人々は,生かしておくと世界を滅ぼしてしまうほどのレベルの極悪な存在には描かれていない。賞金を懸けられた二人の男(兄弟)は,小心者で,女郎を傷つけた兄の方は歪んだ性格の持ち主にも思えるが,巻き添えを喰った弟はむしろ善人であり,殺されたのは災難としかいいようがない。

また,最終的に十兵衛に仇と見なされる警察署長の大石一蔵(佐藤浩市)は,確かに目的のためには卑劣な手段を選ばない冷酷で残虐でいやらしいキャラクターだが,その行動の目的は,私腹を肥やすためではなく,あくまでも法の代理人としての自分の勤めの遂行であることに変わりはない。
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一度は罪から足を洗ったはずの十兵衛だが,彼らを殺すことで再び罪に手を染める。それは,自分の子供たちを守るために,また,友の無念を晴らすために彼が「やむを得ず」行った選択だった。

ラストの殺戮シーンは,それまでずっと「大人しかった」十兵衛が,堪えに堪えた末にその力を解き放ったようにも思えて,ある意味「待ってました!」という爽快感も感じたのだが,やはり法の番人たちを殺した罪ゆえに追われる身となった彼は,最愛の子供たちを五郎たちに託し,「許されざる者」として,姿を消す。その背中にアウトローの悲哀が漂っているところは,オリジナルと同じだった・・・・。
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罪を背負って生きる人生・・・しかし,法を犯すのが罪なのは間違いないとはいえ,そこまで追い込まれる人々のそれぞれの事情を考える時,また,法の側にいながらも,人を痛めつけ虐げることが許される者たちが確かに存在することも考える時・・・・罪とは一体なんなのだろう?どんな場合も決して許されないものなのだろうか?と思ってしまう。もちろん無法地帯があっては困るし,その時代時代で基準となる価値観や法律は必要なものだけど,愚かしく弱い人間たちの,陥りがちな悲劇や過ちを思うとき,一律に裁くことや報復することの難しさを痛感する・・・。
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それにしても,謙さん 見事でした!
苦渋の選択だった「賞金稼ぎの旅」のときは一貫して暗く沈痛な表情で,どんなに痛めつけられても無抵抗だった十兵衛が,「大石を殺る」と決意して女郎屋に乗り込むときの,それまでの彼とはまるで別人のような,凄味を帯びた精悍な表情・・・・あまりのカッコよさに,そしてその鬼気迫る気迫に,場内には一気に水を打ったような緊張感が張り詰めましたよ~~。それまで長いことこのシーンを待たされたから余計に。

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