風立ちぬ
ジブリ作品は苦手だった私が予告編を観て「これなら観たい」と,劇場に足を運んだ作品。とてもよかった。素直に,感動できた・・・・。従来のジブリ作品がお好きな方なら賛否両論分かれても仕方がないようなまさに「大人むけ」の,ある意味「地味」かもしれないジブリ作品。
実在したふたりの人物・・・・ゼロ戦の設計者堀越二郎の半生に,作家堀辰雄の小説や結核で亡くなった恋人のエピソードを加えて作られたストーリー。大正から昭和の激動の時代の中を,夢をあきらめることなく,ひたむきにまっすぐに生きた主人公の生き様が描かれていた。
堀越二郎さんのことは,この作品で初めて存在を知った。堀辰雄さんの小説は,中学時代にいくつか読んだことがある。この映画のヒロイン里見菜緒子のキャラクターや行動から,堀さんの小説「風立ちぬ」に登場する療養中の婚約者の女性や,「菜緒子」のヒロインの女性を思い出した。
美しいもの、純粋なものがいっぱい詰まった映画だった。
関東大震災や不況,そしてそれに続く世界大戦の影・・・・
現代もけっして生き易い時代だとは思えなくなっている昨今ではあるものの,やはりこの物語の背景となった1920年代は,現代よりはるかに生き辛く,明日の命さえもままならない時代だったんだなと思った。菜緒子のかかった結核だって,この時代だったからこそ,死に至る病だったわけで。
そんな時代を恨むことなく,「美しい飛行機を作りたい」という,少年時代の夢からかたときも目を離さず,いつも感謝や希望を失わずにまっすぐに生きた主人公の二郎の姿に,なんともいえない爽やかでそして芯の通ったものを感じる。この時代とは別の意味で,終末観ただよう現代に観るからこそ,宮崎監督が描いてくれた二郎の生き方は,すごく心に響いてくる。
ヒロインの菜緒子との恋も,夫婦間の愛も,お互いを思いやる優しさも,そして添い遂げられなかった哀しさも・・・何度も目頭があつくなった。すべてがひたむきで・・・美しいのだ。
二郎の声を演じた庵野さんに違和感ありというレビューも目にしたけれど,たしかに最初だけは「あれ?」と私も思ったけど,二郎の飄々とした物に動じない,そしてナイーブでもあるキャラクターには彼の声がとてもしっくりきているのではないかと思った。
生きねば・・・・どんな時代でも,どんな人生でも。誰しも持っている,ささやかな夢や,守りたいものを大切にして。人生の折り返し地点をとうに過ぎ,どちらかというと,人生の仕舞い支度をそろそろ考えなければならないこの年になってもあらためて,素直にそう感じることができた。
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