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2012年12月18日 (火)

少年は残酷な弓を射る

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これはまた凄い・・・・なんという重苦しい・・・・痛い作品。でも,まぎれもなく傑作には違いない。受けたのは感動というよりは衝撃なのだけど,どんな感情であれ,この作品の余韻は,今もずっと強烈に心に残って離れないのだから。原作は2003年に発表され,ベストセラーになったというたライオネル・シュライバーの小説。
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自分を拒絶する息子を愛そうと苦しんできた母親の物語?いや・・・そんな簡単なものではなく,これって悪魔を生んでしまったある母親の物語なんじゃないだろうか?とさえ思いたくなるくらい,ある意味,ホラー並みの戦慄を覚える物語だった。欧米で社会問題にもなっている青少年の凶悪犯罪・・・・そしてその家族の物語でもある。

冒頭,トマトまみれの祭りの中で,全身を真紅に染めて恍惚とした表情で微笑むエヴァ。彼女が現在住んでいるさびれた家の外壁にぶちまけられた真っ赤なペンキ。そして回想の中でもたびたび登場する血のりのようなトマトケチャップを挟んだサンド・・・・。この作品の中には毒々しい「赤」がまるでテーマカラーのように繰り返し登場する。ラストで明らかにされるケヴィンの恐ろしい犯罪を予兆するかのように・・・。
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ヒロインのエヴァがなぜ世間の目におびえたような生活をし,町の人々はなぜあんなに彼女に冷たい視線を浴びせ,時には罵倒すらするのか?彼女の夫はどこにいるのか?彼女はいったい誰に面会するために刑務所に通っているのか?現在の彼女と過去の彼女を交互に描くことによって,最初は謎だった彼女の過去や背景が徐々に観客に明らかにされてゆき,最後まで緊張が途切れることなく,ラストの惨劇に向かってストーリーが収束されていく様は実に見事である。
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この作品は今までの固定観念…母性神話・・・それらを覆す物語でもある。エヴァとケヴィンの場合は,母親は無条件に子供を愛し,子供もまた母親の愛を求めて応えるものだという常識を完全に否定している。特に理解不能なのは息子ケヴィンの母親に対する根強い憎悪。あれは嫌悪とかいうレベルのものじゃない。彼の瞳に宿るのは明らかに冷たい憎悪である。

まだ乳飲み子の時から,幼年期も,少年期も…青年期も一貫して,幼子とは思えないほどに念のいった嫌がらせを母に対してのみ行うケヴィン。最後に彼が行った血も凍るようなあの犯罪すら,母親を苦しめ,世間から断罪させるためだったのではないかと思えるほどだ。
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そんなに息子に疎まれるどんなことをエヴァはやったというのか?

彼女は懸命に息子に向き合おうとする普通の母親にも見えるのに・・・。しかし,ケヴィンを妊娠したときの彼女に,あまり笑顔が見られなかったことや,華々しい経歴のキャリアウーマンの彼女が,出産と育児によってキャリアを捨てたことを内心後悔していたことなど・・・ケヴィンは胎内にいるときから本能的に嗅ぎつけていたのでは?それゆえに憎悪や嫌がらせで母親の気を引き,母の忍耐や愛情をを試していたのでは?とも思った。

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いやそれとも,やはりケヴィンは,生まれつき愛情が決定的に欠けた,邪悪な人間だったのか?母親がどう接しても結果は同じだったのだろうか?幼少期のケヴィンの,子供とは思えない冷ややかな表情,そして美青年に成長したケヴィンの,食事の際の咀嚼する口もとのアップの映像には,なぜか思わず生理的な嫌悪感を抱きたくなるような,そんな不気味な雰囲気が漂う。
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母親への憎悪や嫌がらせも,彼なりの歪んだ愛や執着の裏返しであって,
彼はああいう方法でしか母親に愛を示すことができなかったのかもしれない。なぜなら彼は生まれつき「病んで」「壊れて」いた人間だったから。あれほど憎んでいたかのように見えた母親だけを生かし,慕っていたように見えた父親を殺したケヴィン。彼が本当に独占したかったのは母親だったのだろうか?あんな恐ろしい方法で。

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ケヴィンの取るどんな行動も場面も,「あり得ない」「こんな親子がいるはずはない」と思いつつ観るしかなく,同様の悲劇が「自分たちの身の回りに起こらなかったことを感謝」するとしか言いようのない衝撃的な物語だった。ラストの抱擁・・・・いったいこの母子にほんのわずかでも救いや再生はあるのか?それもわからないまま物語は幕を閉じた。

製作総指揮も手掛け,渾身の演技でエヴァを演じたティルダ・スウィントン。そしてそれぞれの年代のケヴィンを演じた子役たちの怪演ときたら,オーメンばりだ。母親の立場の人には重いしキツイ内容の物語かもしれないが・・・・・。

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コメント

これは観ました~なかなか深い映画でしたよね~

ティルダ・スウィントン好演でしたね

こんばんは。

>これって悪魔を生んでしまったある母親の物語なんじゃないだろうか?とさえ

私はそう思います。
エディプス・コンプレックスを思わせるには余りに強烈過ぎるし、余りに幼児期からその傾向が見えすぎるし、、、原作はどう描かれているのかが興味深いですが。

ケヴィンのエズラ君はじめ、ケヴィンの子役くんたち、本当に見事でしたね。ななさんご掲出の(上から3枚目、4枚目)ケヴィンくんの二枚、前方を睨む目線が同じですもんね~。改めてゾクッとくるものがありました。

あの所々挿入される赤色の禍々しさに先ずやられました。
上手いですよね。
過去と現在を行き来する脚本も良くできていたし。

ケヴィンについては、現代通り、「話し合わなくてはならない」状況に観客自身が置かれるのがまた凄いと思います。
彼の「悪い種子」は元からあったのだとわたしも思います。
その母への執着は凄いですね。あれも愛情の裏返しかと思うと……。
でも彼自身もなぜ自分がそうなのか、こんなことをしたのか判らなくなっている。解明が最後まではっきり成されないところが恐ろしいです。

そうそう、ななさんご存知かもしれませんが、エズラ・ミラー君、ゲイであることをカミングアウトされました。
もうそれだけでこれからチェックし続けていこうとわたしは誓いました(笑)。

ジョニー・タピアさん

これはいろいろと考えさせられる問題作でしたね。
ティルダ・スウィントンの熱演に圧倒されましたが
ケヴィンを演じた若手俳優さんたちにも脱帽です。

ぺろんぱさん  こんばんは

>エディプス・コンプレックスを思わせるには余りに強烈過ぎるし
そうですよね・・・あのギリシャ悲劇にはない悪魔的なものを
ケヴィンのキャラには感じました。
原作…読んでみたくて一応買ったのですが
まだあまり手をつけていません…長くて。
でも冒頭だけでも読んだ感じでは,
原作のエヴァはけっこうクールというか
「よい母親」を演じていた自分を分析しているような記述もあって
う~ん,やっぱり愛情不足と言うか
母親の覚悟もなく子供を持ってしまった悲劇も多少はあるのかな~とも。
でも映画を観る限りではケヴィンの異常さの方が圧倒的でしたよね。
子役から始まってエズラ君に至るまで
みんなゾクゾクするほど怖かったです・・・邪悪です。

 

リュカさん こんばんは

>彼自身もなぜ自分がそうなのか、こんなことをしたのか判らなくなっている。解明が最後まではっきり成されないところが恐ろしいです。
最後の抱擁の場面で彼が一瞬見せた人間らしい表情に
安堵するというよりはむしろ混乱してしまった私です。
自分の立ち位置がわからなくなった「悪魔」みたいでした。
彼は更生できるのかな・・・無理のような。

エズラ君,ゲイですか~~ 素敵ですね
ゾクゾクします。
「エズラ」って名前は旧約聖書の預言者の名前に出てくるので
ユダヤ系?と思っていたらやっぱりそうでしたね。
でもユダヤ系でゲイってなかなか風当たり強いかも。
でもご本人がユダヤ教でなければ関係ありませんが。
色白,黒髪,赤い唇がセクシーですね。

原作買われたんですね。
映像でまざまざと見せられるのと、
どちらがより恐怖を感じ、そしてどちらがより疲れるか、
結果を教えていただければと思います。
ぼくはたぶん読みません(^-^;。

突然で申しわけありません。現在2012年の映画ベストテンを選ぶ企画「日本インターネット映画大賞」を開催中です。投票は1/17(木)締切です。ふるってご参加いただくようよろしくお願いいたします。
日本インターネット映画大賞のURLはhttp://www.movieawards.jp/です。
なお、twitterも開設しましたので、フォローいただければ最新情報等配信する予定です(http://twitter.com/movieawards_jp)。

クラムさん こんばんは

原作気負いこんで買ったんですが
読み始めてあれ?と・・・・
映画のあの,不穏で緊張感に満ちた雰囲気がない・・・
原作はエヴァが夫に宛てた書簡形式なんですが
なんか客観的すぎるというか冷めてるというか
出産までの経緯の描写も長いみたいだし
最近じっくりと読書できなくなったせっかちの私は
冒頭だけの雰囲気でもう挫折してしまいました。
映画が好きかな・・・・原作は読んでないから言えないんですが(汗)

日本インターネット映画大賞さん

毎年お誘いありがとうございます。
検討させていただきますね。

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