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2012年5月の記事

2012年5月 5日 (土)

灼熱の魂

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お母さん
あなたが生き続けた理由を教えてください。


母の遺言から始まった,父と兄を探す旅。
国境を越えて,時を越えて,母の過去の中へ・・・。


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カナダでシドニー賞の8部門を受賞し,アカデミー賞外国語賞のノミネートもされた作品。なんで受賞しなかったのかな?あまりに内容が衝撃的だったから?とにかくラストに判明する真相から超弩級の衝撃を受ける,ある母親の想像を絶する苛烈な生涯の物語だ。DVDで鑑賞。ラストに不覚にも号泣してしまった。

物語は中東系の初老のカナダ人女性ナワル・マルワンの不可解な死からスタートする。彼女はある日,プールで突然茫然自失状態となり,そのまま回復することなく息を引き取ってしまう。残された彼女の双子の子供たち,ジャンヌとシモンの二人は,母がカナダで長年秘書を務めていた公証人のルベルから,謎めいた母の遺言を告げられる。
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それは,死んだと聞かされていた父と,それまで存在すら知らされていなかった兄を探し出し,それぞれに母からの手紙を渡して欲しいというものだった。そしてその約束が果たされるまで,自分の墓には墓碑銘を刻まないでほしいとも・・・・。

生存中の母に愛されたという思いの持てない弟のシモンは拒絶するが,姉のジャンヌは母の遺言に従って母の故郷である中東の某国に赴く。
果たして自分たちの父は生きているのか?
そして初めてその存在を知った兄とは誰なのか?

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物語はそこから,母ナワルの回想シーンと,娘ジャンヌの母の過去を辿る旅とが交錯して描かれ,我々観客もまた,ジャンヌや途中から参加したシモンと一緒に,ナワルの生涯をともに辿ることになる・・・・。

徐々に明らかになるナワルの壮絶な人生。
中東のキリスト教系の民族の娘に生まれ,異教徒の難民の青年を愛し,その子供を身ごもったナワル。しかしそのことを一族の恥とみなした身内によって恋人は殺され,生まれた赤子は孤児院に預けられ,彼女は村を追放される。目印にとかかとにタトゥーを入れた生後間もない息子に向かって「必ず探しに行くから」と誓って故郷を離れて大学に入るナワル。

しかし内戦のため大学は封鎖され,息子のいた孤児院も襲撃されたと聞いて,ナワルはテロ組織に身を投じ,敵の指導者を殺した罪で15年もの刑を受ける。
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母の過去を辿るうちに,ジャンヌは母がかつて,中東の監獄で,15年間非道な拷問に屈することなく歌い続けて地獄を生き延びたゆえに「歌う女」と呼ばれた女闘士だったことを知る。そしてまた,彼女の心身を破壊し,歌を封じるために送り込まれた拷問人によって壮絶なレイプを受け,その後釈放されたということも。

姉弟が最後に辿りついた父と兄をめぐる真相は,あまりにも残酷で衝撃的なものだった。それが明らかになった時,私も一瞬DVDを止め,思わず呼吸まで止めて,「こんなにも残酷な運命があるのだろうか?」としばし絶句して天を仰いでしまったほどだ。

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兄への手紙と父への手紙。二つの手紙がなぜ二つでなければならなかったのか?ナワルは放心状態になったあの日,プールサイドで何を見,何を悟ったのか。あまりにもむごい真実を知った時の,おぞましさと救いようのない絶望感と・・・・。しかしこの作品の凄いところは,その後の場面に訪れる,信じられないような「救いと癒し」なのだ。

残酷な事実も耐え切れぬ重荷も,何も微塵も変わりはしない。
しかし人間は,いや母親という性は,
かくも強靭な意志の力で,すべてを受け止め,
すべてを赦し,我が子を愛することができるものなのか・・・。


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そのことに心が震えるほどの激しい感動を受け,同じ「母性」を持つものとして,涙があふれて止まらなかった。母の命を奪うほどのむごい運命。そして真実を知らされた二人の子供たちも,彼らの父もまた,同様の苛酷な重荷を,ナワルから引き継いだのかもしれない。

それでもナワルは真実を知ってほしかったのだ。恐ろしく苛酷な運命から目を逸らすことなく受け止めることによって,まさにそれまでの「怒りや憎しみの連鎖を断ち切り」,癒しを得てほしいと願ったナワルの思いは,そしてその強さとすべてを包み込む大きさは,この家族の悲劇をさえ,奇跡的な再生へと導くほどの力があったのだと思う

まさに無償の愛・・・・そんな言葉が心に浮かんだ。重いけれど,そして痛いけれど(それもかなりの激痛)しかし,ラストに待ち受ける途方もない感動へと行きつくために,ナワルの人生をどうかともに辿ってみてほしい・・・そんな思いになる必見の傑作。

2012年5月 4日 (金)

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第84回アカデミー賞作品賞・監督賞・主演男優賞の3部門を受賞した作品。

とっても素敵!新鮮!そしてオシャレでハートウォーミングな作品。そして,なんといってもサイレント映画への敬愛に満ちた作品だ。たしかに従来の3Dやなにやらを駆使したハリウッド作品の中では,この作品はシンプルさと凝りようが「異色」なので,かえって目立つだろうな~,よい意味で。
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主演男優のジャン・デュジャルダンさん,よく知らない・・・・と思ったら,フランスのコメディアン俳優さんだそうで。「風と共に去りぬ」のレット・バトラーをお人好しにしたような雰囲気なんだけど,コメディアン俳優だけあって,笑顔がとっても人懐っこくて素敵。

サイレント映画全盛時代の大スターだった彼が,トーキー映画の時代になって没落してゆき,その反対に一躍売れっ子となっていく女優との恋に,煩悶や葛藤を覚える物語。最後はハッピーエンドなんだけど,途中はなかなか切ない展開もあり・・・・。
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ヒロインの女優役のベレネス・ベジョは,アルゼンチン生まれの女優さん。この作品の監督の奥さんだそうで・・・・。明るくて可愛くて,ポジティヴで,そして主人公の男優を一途に愛する姿がとてもチャーミングなキャラだ。

この映画自体がサイレント映画のつくりになっているので,最初はやはり「見慣れない」違和感があり「俳優さんたち,しゃべってよ~」と思わないでもなかったが,すぐに慣れた,というか,絶え間ないBGMや,時にはパントマイムっぽい仕草の役者の演技や,時折入る字幕だけでも十分にストーリーがわかることに驚き,いやむしろそれだけで楽しめる「サイレント映画」というものに「凄いなぁ」と素直に感動し,ぐいぐいと作品の魅力にひきこまれていった。
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特にお気に入りは,この,ヒロインの,タキシードとの独り芝居の場面。とってもロマンチックでそれでいてヒロインの自分の腰に回した片手が,男性の手にしか見えなくてドキドキ・・・。ヒロインの慕情もとても切なく伝わってきて,何度でも観たいシーンだ。

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個人的には主人公の愛犬役のこのワンちゃんに,演技賞あげたいかな。すごくかわいくて健気で。ピストルで死んだ真似とか可愛すぎ。ご主人の命が危うくなったときの活躍ぶりもいじらしくて,ワンちゃん好きにはたまらないキャラ?だ。
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さすがアカデミー作品賞だけの魅力は満載の作品です。私は大好き。とても面白かった。この「面白さ」は,ストーリーの面白さではなく,「サイレント映画ってこんなんだったんだ~!すごい}という面白さなのかもしれないけど。ラストの二人の見事なタップダンスも必見です。元気で優しい気持ちになれる素敵な作品でした。

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