HEAVEN
2002年の作品。監督は「ラン・ローラ・ラン」やパフュームある人殺しの物語のトム・ティクヴァ監督。ケイト・ブランシェットとジョヴァンニ・リビジの,犯罪者と刑務官の許されぬ愛の物語。
とてもリアルには起こりそうにない,まるで寓話のようなピュアなラブスト―リーだ。人物設定も,ストーリーの進行も。それなのに,なぜだろう・・・・ヒロインのケイトの魅力や演技力なのか,監督の描く映像や世界観の静謐な美しさゆえか,「こんな愛もありかも・・・」と純粋に感動できてしまう美しい作品である。…大好き。
舞台はイタリアのトリノ。英国人で教師のフィリッパ(ケイト)は,夫と教え子の命を奪う元になった麻薬の売人に復讐をするために,彼のオフィスに爆薬を仕掛け,間違って関係のない人間を4人も爆死させてしまう。テロリスト疑惑を受けてイタリア警察に逮捕されたフィリッパの尋問に通訳として立ち会った若い刑務官のフィリッポ(リビジ)は,彼女に恋をし,二人は無謀で先のない逃避行を決行する・・・・。
フィリッパとフィリッポ。
まるで対のような名前のふたり。
惹かれあう運命に定められていたかのよう。
年齢も,国籍も,それまで辿ってきた人生も
何一つ共通点などないはずなのに。
それでもフィリッポは唐突にフィリッパに恋をしたのだ。己の立場からしてみれば,決して恋などしてはならない相手に。目の前に横たわるフィリッパの涙を見たときに、フィリッポの心は一瞬にして恋に落ちた。そして考えられないほどの危険を冒して彼女の逃亡を助ける決心をする。
逃避行を開始するときにはじめて名乗りあった二人。互いのことを何一つ知らないというのに,人はこんなにも深い愛に囚われることがあるのだろうか…?そんなこともきっとあるに違いないと思ってしまうほど,彼女を見つめるフィリッポの瞳は純真で,彼を受け入れるフィリッパの涙は美しい。
逃避行するふたりの姿は,ともに飾り気のない白いTシャツとジーンズ姿で剃髪・・・これ以上ないくらい余計なものを削ぎ落としたシンプルさは,現世には何の未練も執着もない二人の心境を現しているかのようだ。互いへの愛だけを持って,この先どんな希望があるかもわからず・・・。ただ,二人で生きる世界へと,そう,二人にとっての天国(HEAVEN)に向かって。
冒頭から時折現れる,まるでカメラが天上から俯瞰するかのようなショットや,BGMに流れる,ベートーヴェンの「月光」に雰囲気の似た透明感と静けさに満ちたピアノ音楽・・・・・。そしてラストの,どこまでもどこまでも高く上昇していくヘリコプター。
現世を捨てて,しがらみを捨てて,昇華していく愛。このまま逃げ切れるのだろうか,二人は・・・・・でもそんなこと,どうでもよくなるほど不思議な癒しに満ちたラストシーンだった。
混ざりけのない100%の愛・・・・そんな愛を誰かに抱いたひとは,きっとこのフィリッポのようなまなざしで,愛する相手を見つめるのだろう。すべてを捨てて尽くし,受け入れる愛。その一途さは,痛々しいほどだ。彼の父も弟も,ひとことも彼を諌めることも反対することもなく,彼の決断を受け入れ協力したのは,その一途さを理解したためだろう。
他のすべてを無くしたとしても,愛だけで,ひとは生きていけるものだろうか・・・・私にはわからないけれど,実際にはなかなかできないことだからこそ,この物語はHEAVENという題なのかな?とも思った。
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» 「ヘヴン」トム・ティクヴァ監督 風景も綺麗で面白かったです [ポコアポコヤ 映画倉庫]
深夜にやっているのを録画♪予想以上に面白く、イタリアのトスカーナ地方及び、トリノの街(上から映した空撮もgood!)等の風景が素晴らしく、イタリア語の響きも良く、音楽も控えめで、主役の2人も適役かつ上手で、見終わった後味も良かったし。4つ★半
... [続きを読む]
おおっとこれも良さそうな映画っすね~(^o^)丿
前のオススメも良かったっすから期待できますね!
突然ですいませんが<(_ _)>
良ければ相互リンクして頂きたいです!
ジョニー・タピア Cinemas ~たぴあの映画レビューと子育て ってブログです
http://tapia.cocolog-nifty.com/blog/ です
もしして頂けるならこちらに即座にリンク作らしてもらいたいです!
ご検討お願いします!
投稿: ジョニー・タピア | 2012年3月13日 (火) 22時00分
ジョニー・タビアさん こんばんは
この作品,善いですよ、古い作品ですが
レンタル店にあるかなぁ?もしかしたらないかも・・・
でももし機会があればぜひ。
相互リンク,させていただきますね,
ありがとうございます。嬉しいです。
今後もよろしく!
投稿: なな | 2012年3月14日 (水) 00時51分
ありがとうございます!
今後もよろしくお願いします<(_ _)>
投稿: ジョニー・タピア | 2012年3月14日 (水) 03時26分
ななさん~こんにちは!
久しぶりにこの映画の事を思いだしたけど、やっぱり好きだわぁ~。
ななさんのレビューを読みながら、色々なシーンやストーリーが頭に蘇って来ました。
写真も一杯あって、楽しませて頂きました。
最初の写真なんてキャ~~(^0^)こんなシーンもあったっけか。
ティクヴァ監督の映画大好きなんだけど、ここのところ(ザ・バンク以後)どうしてるのかな?
新作が見たいなー。
映画とか小説とか、一途な人が個人的に好きなので、応援したくなっちゃう。
投稿: latifa | 2012年3月14日 (水) 16時53分
クシシュトフ・キエシロフスキーの遺稿をアンソニー・ミンゲラでもシドニー・ポラックでもなく、トム・ティクヴァが映像化したおかげで素晴らしい映画になってましたよね。
破滅へと向かう2人なのに、なぜか心のどこかで応援している自分がいる。
これは本当に素晴らしい映画だと思います。
投稿: にゃむばなな | 2012年3月14日 (水) 21時58分
ジョニー・タピアさん こんばんは
さっそくリンクさせていただいています。
そちらにもまたお邪魔させていただきますね。
投稿: なな | 2012年3月15日 (木) 00時15分
latifaさん こんばんは
>最初の写真なんてキャ~~(^0^)こんなシーンもあったっけか。
最初の写真だけはDVDからではなくネットで見つけたので
映画のシーンというより宣伝用の写真かも・・・。
でもこの写真のリビジ,とっても素敵ですよね。
彼は横顔が綺麗ですからね。
ティクヴァ監督作品,そういえば最近聞きませんが
ザ・バンクはあまり好評じゃなかったので私は未見です。
この作品とパフューム~がとにかく素晴らしいですよね。
感性というか・・・・独特で美しいです。
特に,現実離れした物語の映像化が得意かも。
>一途な人が個人的に好きなので、応援したくなっちゃう。
うんうん私もそうですよ。
こんな一途な彼って,他には類を見ないんじゃないかな・・・
ここまで尽くされたら,そりゃ,誰でも彼に応えたくなるよね。
投稿: なな | 2012年3月15日 (木) 00時23分
にゃむばななさん こんばんは
にゃむばななさんも,この作品を高評価で嬉しいです。
>クシシュトフ・キエシロフスキーの遺稿
トリコロール~の監督さんですよね。
>トム・ティクヴァが映像化したおかげで素晴らしい映画になってましたよね。
この監督の映像はほんとに独特の美しさと表現力がありますよね。
破滅に向かう愛だからこその純粋さがいいのかもしれません。
投稿: なな | 2012年3月15日 (木) 22時45分