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2011年12月の記事

2011年12月31日 (土)

あけましておめでとうございます

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本年も猫ともども,
どうぞよろしくお願いいたします。

2012年は,明るく強く生きたいです。2011年が大変な出来事と見通しの立たない事柄に満ちた年だったからこそ,今年はなお一層,人の強さや優しさが求められる年かもしれません。とにかく自分に出来ることを精一杯無心で・・・・毎日悔いのないように生きていきたいです。いつ何が起こるかわからない世の中になりましたから。大それた希望や夢は今年は抱きません。今まで気がついていなかったあたりまえの事柄に感謝しつつ,その日その日を丁寧に過ごしていきたいですね。

そんなわけで心機一転というのでもないのですが,自分へのプレゼントのひとつとして革製の聖書ケースを奮発しました。革製品のハンドメイド工房,アトリエ「ハ短調」さんにオーダーしました。
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ハ短調さんにはメールで注文し,聖書のサイズや希望する革の色,入れていただくイラストのデザイン等,細かい打ち合わせの後,1週間ほどで仕上げていただきました。ちなみに私がリスエストした聖書ケースの色はワインカラー,表面のイラストは十字架と葡萄です。
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裏には自分の名前をローマ字で入れてもらいました。
ファスナーで開閉できます。

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サイズもぴったりで,ケースに入れたまま聖書が読めます。値段は11,000円。とても気に入っています。一生ものですね。ハ短調さんによると,使い込むほどに革の風合や手ざわりがよくなるとか・・・。とりあえず新年の元旦礼拝はこの新しい聖書ケースで。ちっと熱心に毎日聖書も読まねば・・・・。ちなみに,ハ短調さんの工房では,聖書ケース以外にも各種革製品の注文を受けておられます。

最後に今年のおせち料理の画像を・・・・
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これは一人前です。普段作るお惣菜を詰めただけのようにも見えますが…(汗)。メニューは以下の通り。
・お煮しめ(里芋 人参 こんにゃく 干し椎茸 牛蒡)
・鶏の竜田揚げ
・牛肉ロール(人参と牛蒡巻き)
・和え物2種(菜の花と春菊)
・ぶりの照り焼き
・蓮根のきんぴら
・だし巻き卵
・鯛かまぼこ
・黒豆(これだけは市販の調理済みを買った)

2011年12月22日 (木)

2011年度劇場公開作品マイベスト7

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2011年も,はや終わりに近づきました。

年末の慌ただしい日々,みなさんいかがお過ごしでしょうか。本年もこの拙いブログに沢山の方々にお越しいただき,ありがとうございました。
今年は震災の影響もあって,劇場へ出かける回数が減り,数えてみたら14本しか新作映画を劇場で観てなかったです・・・これで映画好きと言えるのか・・・DVD鑑賞は相変わらず励んでおりましたけれど。

劇場では観なかったけど,遅れてDVD鑑賞できた公開作も含めても,今年の本数の中でマイベスト作品を無理に10本選ぶのはあまりにもキツイので,今年は洋画邦画取り混ぜて7本選ばせて頂きました。内省的,宗教的な色合いの作品が揃ったのは,やはり震災の影響もあるのでしょうかね・・・・。1位の英国王~と6位のミッション・インポッシブル~以外はみんな静かで切ない落ち着いた作品ばかりです。マイナーな作品も多いですね。単に私の性格が暗めだというだけかもしれませんが・・・

1位 英国王のスピーチ

2位 ヤコブへの手紙

3位 黄色い星の子供たち

4位 ブラック・スワン

5位 神々と男たち

6位 ミッション・インポッシブル/ゴースト・プロトコル

7位 八日目の蟬 

2012年も拙ブログをよろしくお願いいたします。

このブログもお陰様で,もう5年目に突入です。今後はますます,劇場鑑賞作品よりは,自分の好みの旧作DVDを中心にした映画ブログになっていくのでは,と思われます。エンタメよりはヒューマニックなもの,ハッピーエンドよりはバッドエンドなもの,そして以上の2点はクリアしてなくても,イケメンがたくさん出ているもの…等に内容が偏るかもしれませんが,好みの作品が被った折には,覗いてやってくださいませ。
しかし,年末と年始の挨拶を,こうやって一つの記事でいっぺんに済まそうというところもまた,だんだんズボラになっている証でしょうか。
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今年もきっと 寝正月だにゃ~! 
コラコラ,飼い主のベッドのど真ん中で寝るんじゃない!

2011年12月18日 (日)

ミッション・インポッシブル/ゴースト・プロトコル

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ミッション・インポッシブルシリーズ4作目!このシリーズは,前作でイーサンが婚約者を助けて無事に引退したところで終わってたんじゃないのか?と思いつつ,やっぱり好きなので観に行った。

あらすじ: ロシア・クレムリン爆破事件の犯行容疑がかけられたイーサン・ハント(トム・クルーズ)。アメリカ大統領は政府の関与への疑いを避けるべく、ゴースト・プロトコルを発令。イーサンと仲間は組織から登録を消されるも、新たなミッションを言い渡される。真犯人への接近を図るイーサンは、世界一の高層ビル、ブルジュ・ハリファの高層階へ外部からの侵入にチャレンジするが……。(シネマトゥディ)
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前作とうって変わって,今作ではやたらと暗く厳しい表情のイーサン。冒頭から彼はロシアの監獄に収監されてて,あんなに仲の良かった奥さんはなぜか影も形もなく・・・・。でも憂いを帯びてちょっとくたびれた雰囲気のイーサンもなかなか素敵だ。彼の脱獄から物語は始まり,そこからはノンストップでインポッシブルなミッションの連続で息つく暇もなく面白かった。それはもう,盛り沢山すぎるほど,不可能なミッションの連続で。

ゴースト・プロトコルってなに?と思いながら観たが,これは「やり取り」「手順の指示」などを意味するプロトコルの前にゴーストがついているので「空指令」「孤立無援」のような意味合いだろうか。
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本部の指令を受けてクレムリンに潜入したイーサンだが,盗み出す予定の資料は何者かに抜き取られた後で,おまけにその後起こった爆破の犯人にまでされてしまう。そのためにイーサンのチームは政府から援助を受けることができなくなり,まさに孤立無援で新たなミッションに挑むことになるが,それは核戦争をもくろむある人物を追い,核テロを未然に防ぐというものだった・・・・。

このシリーズが回を重ねる度に,「トム,まだアクション大丈夫なんだろうか?」と作品のストーリーそっちのけで心配になる私だが(だって彼はスタント使わないし49歳だし)今作の見せ場のアクションは,ドバイの超高層ホテル,ブルジュ・ハリファの壁面,なんと地上約800メートルを吸盤手袋ひとつでよじ登るというもの!命綱一本でトムはあれを実際にやったというから,凄すぎて言葉もない。
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その他にもこのシリーズにお約束の,侵入も脱出も不可能な場所に,最新のテクノロジーを駆使した兵器を使って潜入する指令とか(今作ではクレムリン),「クルーズ走り」と呼ばれるイーサンの全力疾走とかも健在で,やはりそんなシーンではワクワクと血が騒ぐ。

それに今作は脇役の存在感や,彼らの背後にあるちょっとしたドラマなども,いい味を出しているし,絶妙なタイミングで入るジョークもセンスがよくて秀逸だった。3作目では技術屋として登場したベンジーが今回エージェントに昇格してユーモラスな役まわりで笑わせてくれる。

イーサン・チームに今回参加した,分析官(実は元諜報員)のブラントを演じたのは,ハート・ロッカージェレミー・レニー。性格はちょっと繊細で,あるトラウマを抱えているキャラなのだが,キレのいいアクションは,やはりハート・ロッカーの猛者ぶりを思い出した。

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このシリーズはどれも好きだけど,この4作目が一番よく出来てるんじゃないだろうか。スパイアクション,人間ドラマ,ユーモアのセンス,俳優のキャラ立ち・・・どれをとってもバランスよく仕上がっている。面白い。

それにしても,前から思ってはいたけど,トムが高いところ,本当に得意だってことがよ~~くわかった作品だった・・・・彼は実はその気になれば空も飛べるんじゃないかな?なんて。

2011年12月11日 (日)

ミスター・ノーバディ

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さまざまな異なる運命の選択をすることによって,何通りもの人生を生きる男を描くSFドラマ。
舞台は不死の世界となった近未来。唯一残った死を迎える人間ニモの過去を回想し,彼の人生に関わった3人の女性とのそれぞれの運命を映し出すユニークな設定のファンタジーだ。パラレル・ワールドのお話だから,ストーリーも先が見えなくて面白いし,驚異的に映像が美しいし・・・俳優さんもジャレット・レトやダイアン・クルーガ―とかみんな好きなので・・・・私はとってもお気に入りの作品。

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この作品を観て,つくづく人生って選択の連続なんだなぁ・・・・と思った。そしてその選択の結果が全く異なる人生へと自分を導くものなのだとも。「もし,あの時,違った選択をしていたらどうなっていただろう。」と考えることは誰しもあるだろうけれど,それを実際に映像化して何通りもの「ニモの人生」を観客も同時に見ることができるなんて,面白い設定だと思った。
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どの選択をすれば・・・というよりは,「どれも選択しなければ,どんなことが起こりうるか?」って言うのを見せてくれたわけで,いったいどれが本当のニモの人生なのよ?って混乱はなはだしいけれど。

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「もしあの時,ああしていたら今頃は・・・・」という思いは,人生が折り返し地点を過ぎた私のような年代の方が,切ない共感が多いかもしれない。長く生きるほど,人生の選択場面は増え,同時に異なった運命を生きる自分の姿を想像する機会も増えてくると思うから・・・・たとえ現在の人生に取り立てて不満がなかったとしても。
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ニモの場合,最初に大きな選択の場面が訪れたのは両親の離婚のとき。母についていくか,父と残るか・・・駅のプラットホームで,土壇場まで迷って母の乗る列車に向かって駆け出したニモのスニーカーの紐が切れるか切れないかで・・・,もうそこで彼の運命は枝分かれする。その後どんな暮らしをしてどんな女性を愛するかも・・・・。

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ニモと関わる三人の女性,アンナ,エリース,ジーン
・・・・。彼女たちとの人生もまた,折々の選択によっては,別れることになったり,結婚したり,自分や相手が死んだり死ななかったり,幸せだったり不幸だったりと幾通りにも枝分かれしてゆき,それをごたまぜに見せてくれるわけなので,解り辛い面もある。しかしまあ,大筋のところでは,「このニモは誰をパートナーにしているニモなのか?」というのは,彼の髪形や雰囲気をちゃんと決めてくれているので混乱はしなかった。それでもこれ,一度だけじゃ全部のシーンの理解ができないので,何度か再見しているうちに新しい発見がいくつもありそうな作品だと思う。
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アンナ役のダイアン・クルーガーは,いつもの大人っぽくスノッブな印象ではなく,くしゃっとしたセミロングにガーリーなメイクで,素朴で可愛らしい雰囲気が魅力的だった。彼女とニモとの深く堅い絆や結びつきに,ちょっと切ない気持ちになった。また,ニモ役のジャレッド・レトは好きな俳優さんだけど,役作りのために激太りしたり,前髪を引っこ抜いたりという荒業もこなす方なので,今作では本来のカッコいいジャレが見れて嬉しかった・・・かな。彼のブルーのガラスのような瞳が美しい。

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細部はよくわからないところもあるのだけど,音楽も映像も洒落てて美しく,とても惹き付けられる作品だ。日々の些末な選択や偶発する(ようにも見える?)出来事の影響で,こんなにも幾通りもの可能性が私たちの人生に起こりうるんだなぁ・・・と,鑑賞後は不思議な不思議な気分になっちゃった。もし1度だけ過去の選択をやり直せるとしたら・・・・あの時のあの選択だけはやり直す!と心密かに思ったりもして。どんな選択かはもちろん誰にも言えないが。

2011年12月 6日 (火)

活け花あれこれⅡ

一番好きな花は・・・コスモスかもしれません。野生ならではの,強さとしなやかさを秘めた花でありながら,楚々とした控えめな風情もあって。今回はそんなコスモス(もちろん野生です)も含めた特に好きな5点の紹介です。いずれも,通っている教会の礼拝堂に活けました。写真撮影は前回と同じく,当教会の牧師さん(元カメラマン)です。

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吾亦紅  コスモス  ブルーファンタジア  鶏頭
秋も深まった聖日の礼拝の講壇に活けました。
吾亦紅で横に流れるような線を出して。

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ヘルコニア ソリダコ  ドラセナ 
ソリダコは葉っぱを除いて数本をまとめて。
鮮やかな色彩の対比がお気に入り。

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ニューサイラン カーネーション トルコ桔梗(黄) レザーファン
ニューサイランはくるりと大きく巻いてホッチキスで止めて。

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向日葵 ギボウシ ティーゼル
向日葵は花弁を取り除いたものと残したものの
2種類を組み合わせて変化をつけました。

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カラー カーネーション 野ばら アブライト アスパラガス・ナナス
昨年のクリスマス用の花。
野ばらとアブライトは銀を吹き付けたもの
アスパラガス・ナナスをふわっとかぶせて。
電飾で華やかにクリスマスらしく・・・・。

2011年12月 5日 (月)

黄色い星の子供たち

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ナチス・ドイツ時代のフランス,親独政策をとったヴィシー政権のもと,1942年に起きたヴェル・ディヴ事件(ユダヤ人大量検挙事件)について,生存者の証言を基に製作された真実の物語。自由と啓蒙,人権を謳ってきたフランスが,自国に住むユダヤ人をドイツに引き渡し死に至らしめたこの出来事を,フランス政府は1995年まで,「ヴィシー政権はフランスではない」として長い間責任を認めようとしなかったという。
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ヴィシー政権時代,ユダヤ人に関する法の制定などによって,身分や権利を剥奪されつつあったフランス国内のユダヤ人たち。1942年7月16日,パリに住んでいたユダヤ人13000人が一斉検挙された。ドイツは当初30000人の検挙を指示していたが,それに抵抗した一部の官僚や警察官たち,当日ユダヤ人たちを匿った一般市民が大勢いたので,予定していた数には至らなかったという。
Cap143
検挙後のユダヤ人たちのうち,子供連れの家族約8000人は,一時的にヴェル・ディヴ(冬季屋内競輪場)に収容される。その後彼らは,フランス国内のドランシーなどの収容所に送られ,成人男子,成人女子,子供の順にドイツへと移送され,絶滅収容所で殺害されることになる。検挙された13000人のうち,生存者は400人だったという。
Cap138

親とともに一斉検挙され,ヴェル・ディヴで飢えと渇きや病気に苦しみ,収容所ではひととき家族と共に過ごせても,その後唐突に親と引き離され,子供たちだけで収容所に取り残されたのち,何もわからないまま死の旅へと連れ去られていった子供たち。

一時的に送り込まれた収容所でも,「まだ,フランスに居るから大丈夫だ。まだ家族一緒にいられる・・・」とフランスを信じようとしたユダヤ人たち。政府がどんなに恐ろしい計画を持っていたか,その時はまだ知る由も無く。
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「逃げて,生きると約束して」と言い残した母の言葉を守って移送前に脱出し,生き残った少年ジョー・ヴァイスマン。検挙から収容所生活までをジョーとともに過ごした親友のシモン・ジグレールと弟のノエル(ノノ)。特に幼いノノの無邪気さと天使のような可愛らしさ。母の死も自分の運命も理解できないノノの無垢な瞳に何度泣かされたことか。
Cap139
最後に子供たちがようやく移送されることになった日,死の収容所へと自分を連れていくトラックに向かって,「ママに会える!」と一番先に駆けていくノノの姿には哀れで涙が止まらなかった。
Cap169
当時のフランス政府の犯した取り返しのつかない大罪。何の罪もない自国民(中にはフランスのために戦った軍人のユダヤ人も多くいたのに)を,死刑執行人に引き渡すような無慈悲な真似だ。こんな事件があったことを,詳細に世界に知らしめてくれただけでも,この作品の意義は大きいと思う。恥ずかしながら私もまったく知らなかった。ヴィシー政権がナチスに協力したことは何となく知っていたけれど。
Cap149
それでも看護婦のアネットをはじめとする,勇気ある人々の行いにもまた,感動させられる作品だ。検挙の日にユダヤ人を匿った多くのパリ市民。通行証を偽造して渡してくれる職人。ドイツ兵に逆らってまでヴェル・ディヴのユダヤ人たちに水を与えた消防士たち。元ジャーナリストのボッシュ監督は,この映画で,ヴィシー政権の罪とともに,ユダヤ人を最後まで守ろうとした勇敢なフランス国民の存在も伝えたかったのでは,と思う。
Cap179
女性監督ならではの感性なのだろうか,登場する子供たちのいじらしさや愛らしさは格別で,こちらもついつい母親目線で鑑賞してしまう。こんな子供たちに苦しみを与えるなんて「仕事だから」と,当時の政府側の人間は冷徹に割り切れたのだろうか・・・・・。戦争が彼らの良心を麻痺させてしまったのだろうけれど。
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突然,強制的に引き離される親と子・・・・
この世にこれ以上の悲劇があるだろうか。
幼い子供にとっては,またその母親にとっては,それは死をも超える痛みだろう。それぞれのシーンでの,子供たちの訴えるようなやるせないまなざしが,いつまでも心に焼き付いて忘れられない。

2011年12月 2日 (金)

不滅の恋/ベートーヴェン

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1994年の作品・・・・ご存じだろうか?
耳が不自由という致命的なハンディにもかかわらず,その才能によって「楽聖」と呼ばれるほどの偉業を後世に残した音楽家ベートーヴェン。情熱的で恋も多かったが,生涯を独身で通した彼の死後に,見つかった三通の恋文。それは,ベートーヴェンから,名前の明かされていない「不滅の恋人」に宛てたものだった。この女性が一体誰だったのか,今なお世界中の研究者たちが論争を繰り広げているという。

Cap093
この作品は,そんなベートーヴェンの秘められた恋について,大胆な仮説をもとに製作された芸術の香り高いミステリー・ロマン。天才でありながら,その反面,不運で孤独でもあったベートーヴェンの生涯を回想しつつ,彼の不滅の恋人とはいったい誰だったのかという謎解きの面白さも盛り込んだ作品だ。ベートーヴェンを演じたのは,レオンダークナイトゲイリー・オールドマン。

登場する主な女性たちは三人だ。ベートーヴェンにピアノを教授され,婚約の話まで出ていたという貴族の令嬢ジュリエッタ(ヴァレリア・ゴリノ)と,ベートーヴェンのパトロンの役割も果たしたエルデーティー伯爵夫人(イザベラ・ロッセリーニ)。そしてベートーヴェンの弟の妻のヨハンナ(ヨハンナ・テア・スーグ)
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ベートーヴェンの死後に見つかった遺書には「すべての財産を我が不滅の恋人に譲る」と書かれていた。彼の弟子のアントン・シンドラーは,残された恋文を手に,「不滅の恋人は誰だったのか」と調査を開始する。

シンドラーの調査が進むにつれて,ベートーヴェンの恋愛遍歴が明らかになるともに,彼の歩んだ波乱の人生もまた少しずつ露わにになっていく。難聴のハンディに苦しみ,様々な確執を抱えた肉親に対し,屈折した愛情を抱いていたベートーヴェン。時に正直すぎ,時に情熱的すぎるゆえに,その傲慢不遜さが敵を作り,人々から疎まれることもあったベートーヴェン。彼の不器用な生き様が,数々の名曲をバックに次第に浮き彫りにされてくる・・・・。
Cap071
恋文が書かれたとき,恋人はボヘミア地方の温泉地カールスバードのホテルで,ベートーヴェンと忍び逢う約束をして彼の到着を待っている状態だったらしい。悪路のために到着が遅れたベートーヴェンが手紙でホテルの恋人に,「待っていてほしい」と切々と訴えているのだが,その文面からは,二人が道ならぬ関係にあり,恋の成就のためには何らかの障害を抱えていたことがわかる。以下に少し抜粋してみる。(本文はもっともっと長い。)

私の天使,私のすべて,私自身よ。――きょうはほんの一筆だけ,しかも鉛筆で(あなたの鉛筆で)――明日までは,私の居場所ははっきり決まらないのです。こんなことで,なんという時間の無駄づかい――やむをえないこととはいえ,この深い悲しみはなぜなのでしょう――私たちの愛は,犠牲によってしか、すべてを求めないことでしか,成り立たないのでしょうか。あなたが完全に私のものでなく,私が完全にあなたのものでないことを,あなたは変えられるのですか。

Cap049
もし私たちが完全に結ばれていれば,あなたも私もこうした苦しみを,それほど感じなくてすんだでしょう。・・・・(中略)・・・私たちはまもなく会えるのです。きょうもまた,この二,三日,自分の生活について考えたことをあなたにお伝えできない――私たちの心がいつも互いに緊密であれば,そんなことはどうでもいいのですが。胸がいっぱいです。あなたに話すことがありすぎて――ああ――ことばなど何の役にも立たないと思うときがあります――元気を出して――私の忠実な唯一の宝,私のすべてでいてください,あなたにとって私がそうであるように。

Cap050
あなたがどんなに私を愛していようと――でも私はそれ以上にあなたを愛している――私からけっして逃げないで――おやすみ――私も湯治客らしく寝に行かねばなりません――ああ神よ――こんなにも親密で!こんなにも遠い!私たちの愛こそは,天の殿堂そのものではないだろうか――そしてまた,天の砦のように堅固ではないだろうか。――

わが不滅の恋人よ,運命が私たちの願いをかなえてくれるのを待ちながら,心は喜びにみたされたり,また悲しみに沈んだりしています――完全にあなたといっしょか,あるいはまったくそうでないか,いずれかでしか私は生きられない。・・・・(中略)・・・・おお神よ,これほど愛しているのに,なぜ離れていなければならないのでしょう。

Cap072
天使よ,いま郵便が毎日出ることを知りました――この手紙をあなたが早く受け取れるように,封をしなければなりません――心をしずめてください,いっしょに暮らすという私たちの目的は,私たちの現状をよく考えることによってしか遂げられないのです――心をしずめてください――愛してほしい――きょうも――きのうも――どんなにあなたへの憧れに涙したことか――あなたを――あなたを――私のいのち――私のすべて――お元気で――おお――私を愛し続けてください――あなたの恋人の忠実な心を,けっして誤解しないで。
『ベートーヴェン不滅の恋人』青山やよひ(河出文庫)より

Cap110
なんという,切なく情熱的な文面。
こんな手紙が書ける人だったのか,ベートーヴェンは。
そしてまた,こんなにも狂おしい想いを
その胸に秘めることができる人間だったのか。


彼の作曲する音楽は,当時の社会では「官能的すぎて不道徳」だという理由で,未成年には聴かせないように,とさえ言われていたそうだ。今聞くと「どこがそんなに不道徳?」と思うけれど,爽やかな宮廷音楽に慣れた当時の人々の耳には,彼の曲の中に迸る激しい感情が,とても刺激的だったのか?ベートーヴェンは決してハンサムではなかったけれど,たいそう表情豊かな男性だったらしい。武骨な容貌とは裏腹に,女性を虜にするような,激しいパッションを持つタイプだったのだろう。

Cap103
終盤になって,ようやく観客にも明かされる恋人の正体。
彼ら二人は,なぜ結ばれなかったのか。
なぜあの恋文は,ベートーヴェンの手元に戻ってきていたのか。
そしてベートーヴェンがなぜあんなにも,
甥のカールに激しく執着し,深く溺愛したのか。


明らかになった真相は,あまりにも切ない。
運命のいたずらとしか思えない「すれ違い」や「思い込み」ゆえに,互いに「見捨てられた」と勘違いしてしまった恋人たち。そしておそらく,どちらも激しい気性とプライドの持ち主だったために,誤解を解くきっかけも求めないまま,恋人たちの愛は憎しみに形を変えて生き続け,それでもベートーヴェンの方は,やはり終生彼女を忘れることができなかったのだろう・・・・。
Cap101
演じたゲイリー・オールドマンの芸達者ぶりには,今更ながら脱帽させられる。どんな役にも全身全霊でなりきれるし,キレた悪役もこなせる人だが,彼はピアノも弾けるのだ。(もちろんベートーヴェンの曲を弾くのだから,特訓はしたらしい) 若き日のベートーヴェンの情熱と愛,失望や怒り,老いたベートーヴェンの孤独や後見人となった甥のカールへの慈しみと哀しみ・・・・様々な感情をゲイリーは見事に演じていた。

Cap130
古い作品だ。DVDもレンタル店にはあまり見かけないと思う。でも音楽好き,オールドマン好き,悲恋もの好きな私にはツボにはまる作品。ちなみにこの作品中に出てくるベートーヴェンの曲の中で一番私が好きなのは,交響曲第7番の第2楽章落下の王国の主題曲にもなった舞踏の権化ともよばれる曲)である。あの旋律の規則正しい重厚さ,込められた哀しみと,そこはかとなく漂う不穏さ・・・が何とも言えず好き。

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