悪魔を見た
「箪笥」や「甘い人生」,「グッド・バッド・ウィアード」のキム・ジウン監督作品。そしてイ・ビョンホンとチェ・ミンシクが主演と聞けば,どんなにグロい壮絶な復讐劇でもやはり観たくなる・・・・。しかし予想をはるかに凌駕する残酷映像のオンパレードで,(甘い人生の十倍くらい)これは劇場で観なくてよかったな,と。DVDなのでところどころ早回ししたり音を消したりしながら,それでも最後まで観た。
自分の子供を妊娠していた最愛の恋人を,猟奇殺人鬼ギョンチョル(チェ・ミンシク)に惨殺された捜査官スヒョン(イ・ビョンホン)の壮絶な復讐譚。比較的シンプルなストーリー展開の中で,なんといっても見どころは,殺人鬼を演じたチェ・ミンシクの卓越した演技力。(もちろんビョンホンも負けてはいないけれど)。親切なクムジャさんでも,彼は血も涙もない殺人鬼を演じたが,今回の役はそれをもっと上回っていた。
良心などひとかけらも持ち合わせていない,まさに「悪魔の生まれ変わり」としか言いようのないギョンチョルの不気味さと憎々しさ。一見平静に見える時の彼もまた,ふてぶてしくて気持ちが悪いのだけど,獲物に向かって突如牙をむくときの彼の恐ろしさといったら・・・・。彼の手中に陥ったら最後,助かる望みなど皆無ではないか・・・そんな戦慄すべき「絶対悪」を見事に体現しているモンスターキャラだった。よくここまでなりきれるもんだ・・・,驚愕。
そしてそんな彼に,単身で復讐に挑むスヒョン。こちらもまた,冷徹な復讐の鬼と化し,ギョンチョルを追い詰めては重傷を負わせ,それでも決して息の根を一気には止めずに再び相手を野に放つ,ということを繰り返す。ギョンチョルの仲間の殺人鬼の言葉を借りれば,「狩りと同じ。痛めつけては逃がし,再び追い詰めてはさらに痛めつけて獲物をいたぶる。」ようなやり方だ。
「覚悟しておけ,だんだん残酷になるぞ。」とギョンチョルの耳元でささやくスヒョンの表情にはすでに静かな狂気が滲んでいる。
一息に殺すのは惜しい・・・恋人が死の間際に味わったものと同じ恐怖や苦しみに悶えさせながら殺してやりたい・・・・その執念に取りつかれるスヒョンと,「面白くなってきたじゃねえか」とばかりに,スヒョンの挑戦を受けて立つ不敵なギョンチョル。この二人の血みどろの一騎打ちは,途中にあわれな巻き添えの死者を出しながらも,延々と続く・・・・。
とにかく誰がいきなり死ぬかわからないし,凄惨な殺戮シーンも予告なしに全開されるし,ハリウッドや日本の映画ではお約束のように「助かる」はずのキャラクターもバンバン殺されてしまう・・・韓国映画の,とくに犯罪ものや復讐ものの,容赦ない世界には,タブーなどという生易しいものは存在しない。その,地獄の底までも行ってしまう容赦なさも結構好きな私だけれど,さすがにこの作品は・・・いやはやかなり疲れました。
ギョンチョルが拉致した女性被害者を、生きたまま切断する残酷シーンは,精神的にはもっとも目を覆いたくなる場面だけれど,ギリギリまで見せつつも肝心のシーンはさっと切り替えてくれることが多かったので,まだ観れた。しかしスヒョンがギョンチョルを痛めつけるシーンはあまりカットがなく,リアルに焼いたり切ったり突き刺したり・・・という場面を見せられるので,心臓の弱い人やバイオレンス描写が苦手な人には非常にキツイと思う。
この監督さんの作品のイ・ビョンホンは,甘い人生などもそうだったけど,精悍で美しい。痛みや哀しみを内に秘めた「手負いの一匹狼」のような悲壮感の漂うキャラである。
恋人の死に直面したときの手放しで嘆き悲しむ表情,ギョンチョルと初めて対面した時の憎しみの表情,そして鉄の意志を持って復讐を遂げていくときの,瞳の奥に暗く冷たい炎が燃えているような表情・・・ビョンホンの演技が素晴らしい。生来は善人であったはずの彼が,深い憎しみを持ってギョンチョルと対決することにより,次第にギョンチョルに負けないほどの「悪魔」へと変貌していくのだ。
悪魔と互角に渡り合うには
自らも悪魔になる必要があるのかもしれない。
しかし,その闘いに終わりは来るのか…救いは,達成感はあるのか?どんなに痛めつけようと「俺は苦しみなんて感じないんだ。」とうそぶくギョンチョルに対して,最後にスヒョンが取った究極の選択。そしてすべてが終わったあとの,スヒョンのラストシーンの声なき慟哭。
観客の我々もまた,冒頭にスヒョンの怒りや悲しみに強烈に感情移入させられるため,彼とともに,どんどん「悪魔」の心境になっていく・・・人間の心の闇をたっぷりと見せつけられる恐ろしい作品である。残酷描写が苦手でなければ,お勧めの作品。
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