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2011年9月の記事

2011年9月20日 (火)

悪魔を見た

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箪笥」や「甘い人生」「グッド・バッド・ウィアード」のキム・ジウン監督作品。そしてイ・ビョンホンチェ・ミンシクが主演と聞けば,どんなにグロい壮絶な復讐劇でもやはり観たくなる・・・・。しかし予想をはるかに凌駕する残酷映像のオンパレードで,(甘い人生の十倍くらい)これは劇場で観なくてよかったな,と。DVDなのでところどころ早回ししたり音を消したりしながら,それでも最後まで観た。
Cap006
自分の子供を妊娠していた最愛の恋人を,猟奇殺人鬼ギョンチョル(チェ・ミンシク)に惨殺された捜査官スヒョン(イ・ビョンホン)の壮絶な復讐譚。比較的シンプルなストーリー展開の中で,なんといっても見どころは,殺人鬼を演じたチェ・ミンシクの卓越した演技力。(もちろんビョンホンも負けてはいないけれど)。親切なクムジャさんでも,彼は血も涙もない殺人鬼を演じたが,今回の役はそれをもっと上回っていた。
Cap005
良心などひとかけらも持ち合わせていない,まさに「悪魔の生まれ変わり」としか言いようのないギョンチョルの不気味さと憎々しさ。一見平静に見える時の彼もまた,ふてぶてしくて気持ちが悪いのだけど,獲物に向かって突如牙をむくときの彼の恐ろしさといったら・・・・。彼の手中に陥ったら最後,助かる望みなど皆無ではないか・・・そんな戦慄すべき「絶対悪」を見事に体現しているモンスターキャラだった。よくここまでなりきれるもんだ・・・,驚愕。
Cap014
そしてそんな彼に,単身で復讐に挑むスヒョン。こちらもまた,冷徹な復讐の鬼と化し,ギョンチョルを追い詰めては重傷を負わせ,それでも決して息の根を一気には止めずに再び相手を野に放つ,ということを繰り返す。ギョンチョルの仲間の殺人鬼の言葉を借りれば,「狩りと同じ。痛めつけては逃がし,再び追い詰めてはさらに痛めつけて獲物をいたぶる。」ようなやり方だ。

「覚悟しておけ,だんだん残酷になるぞ。」とギョンチョルの耳元でささやくスヒョンの表情にはすでに静かな狂気が滲んでいる。
Cap037
一息に殺すのは惜しい・・・恋人が死の間際に味わったものと同じ恐怖や苦しみに悶えさせながら殺してやりたい・・・・その執念に取りつかれるスヒョンと,「面白くなってきたじゃねえか」とばかりに,スヒョンの挑戦を受けて立つ不敵なギョンチョル。この二人の血みどろの一騎打ちは,途中にあわれな巻き添えの死者を出しながらも,延々と続く・・・・。

Cap016
とにかく誰がいきなり死ぬかわからないし,凄惨な殺戮シーンも予告なしに全開されるし,ハリウッドや日本の映画ではお約束のように「助かる」はずのキャラクターもバンバン殺されてしまう・・・韓国映画の,とくに犯罪ものや復讐ものの,容赦ない世界には,タブーなどという生易しいものは存在しない。その,地獄の底までも行ってしまう容赦なさも結構好きな私だけれど,さすがにこの作品は・・・いやはやかなり疲れました。

Cap031
ギョンチョルが拉致した女性被害者を、生きたまま切断する残酷シーンは,精神的にはもっとも目を覆いたくなる場面だけれど,ギリギリまで見せつつも肝心のシーンはさっと切り替えてくれることが多かったので,まだ観れた。しかしスヒョンがギョンチョルを痛めつけるシーンはあまりカットがなく,リアルに焼いたり切ったり突き刺したり・・・という場面を見せられるので,心臓の弱い人やバイオレンス描写が苦手な人には非常にキツイと思う。

この監督さんの作品のイ・ビョンホンは,甘い人生などもそうだったけど,精悍で美しい。痛みや哀しみを内に秘めた「手負いの一匹狼」のような悲壮感の漂うキャラである。

Cap019
恋人の死に直面したときの手放しで嘆き悲しむ表情,ギョンチョルと初めて対面した時の憎しみの表情,そして鉄の意志を持って復讐を遂げていくときの,瞳の奥に暗く冷たい炎が燃えているような表情・・・ビョンホンの演技が素晴らしい。生来は善人であったはずの彼が,深い憎しみを持ってギョンチョルと対決することにより,次第にギョンチョルに負けないほどの「悪魔」へと変貌していくのだ。

悪魔と互角に渡り合うには
自らも悪魔になる必要があるのかもしれない。

Cap028
しかし,その闘いに終わりは来るのか…救いは,達成感はあるのか?どんなに痛めつけようと「俺は苦しみなんて感じないんだ。」とうそぶくギョンチョルに対して,最後にスヒョンが取った究極の選択。そしてすべてが終わったあとの,スヒョンのラストシーンの声なき慟哭。

観客の我々もまた,冒頭にスヒョンの怒りや悲しみに強烈に感情移入させられるため,彼とともに,どんどん「悪魔」の心境になっていく・・・人間の心の闇をたっぷりと見せつけられる恐ろしい作品である。残酷描写が苦手でなければ,お勧めの作品。

2011年9月13日 (火)

イースト/ウェスト 遥かなる祖国

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ちょうど10年ほどまえに公開され,太陽に灼かれてオレグ・メンシコフに私が初めて出会った大好きな作品だ。夫アレクセイ(オレグ)と共に,冷戦時代のソ連に帰国したフランス人の妻マリー(サンドリーヌ・ボネール)の,苦難と激動の人生を描く一大叙事詩。

第二次大戦直後の1946年,スターリンが与えた特赦を信じて,亡命先の各国からソ連に帰国してきたロシア人とその家族数千人。しかし,祖国への望郷の念と希望にあふれた彼らを待っていたのは,処刑や強制収容所送りというむごい仕打ちだった。

Cap021
自分の故郷フランスを捨てて,夫の祖国へやってきたマリーもまた,スパイ容疑をかけられ,夫と引き離されそうになる。妻を収容所送りから救うために,優秀な医師であったアレクセイは,首都モスクワを遠く離れたキエフの工場での仕事や,プライバシーのない共同住宅での生活を受け入れる。しかしそこでの生活は,常に秘密警察や密告者の目に晒されて,息の詰まるものだった。

まるで閉ざされた巨大な監獄のような夫の国家ソ連。そこから脱出してフランスへの帰国を切望するマリーと,妻子を守るために国の政策に隷従して,時期を待とうとするアレクセイ。ともに苦労を分けあいつつも,考え方の違う二人の間の溝は次第に深まっていく・・・。

Cap024
これは実話らしく,この時代の旧ソ連では,実際に同じような目に遭った数多くの人々が実在するらしい。妻を愛しつつも,次第に彼女から責められるのが苦痛になり,共同住宅の管理人の女性と浮気をしてしまうアレクセイ。そしてマリーもまた,自分たちを苦しめる国家に媚びへつらっているようにしか見えない夫に絶望し,両親と祖母を秘密警察に殺された青年サーシャと心を通わせ,彼の水泳の腕前に亡命への夢を託すようになる。

自由の国フランスとはあまりにも違う,牢獄のような夫の国で囚われの身のように暮らすマリーの辛い気持ちもよくわかるし,妻に申し訳ないと苦悩するアレクセイの気持ちも,とてもよくわかる。国家体制がいかに罪のない人々や幸福な家族を翻弄し,引き裂くか・・・・そして果たしてマリーたちはそこから脱出できるのか?
とても実話とは思えないような波乱に富んだストーリーから目が離せなかった。

Cap040
この物語の中で一番心に残ったシーンはもちろんラストのアレクセイの,喜びと痛みの両方を滲ませた切ない微笑みのシーンだけど,その次に好きなのは,サーシャが夜の大海原を単身で泳いで亡命を果たすドラマティックなシーンだ。サーシャとマリーのひとときの恋すらも,たとえ不倫であっても,このような事情なら応援したくなってしまう。

しかしサーシャの亡命とマリーとの関与が当局に露見し,マリーは収容所送りに。その後長い歳月の服役を経て再び夫と息子の元に帰ったマリー。夫婦の間には再び元のような生活が再現したように見えたけれど・・・。
Cap044
そこからラストにかけて,思いもよらなかった感動的なストーリー展開になるのだ。それまでいろいろと悩むだけにしか見えなかったアレクセイの,妻への深い愛や秘めた行動力等が明らかになって,一気に彼の株が上がるのである。

一途なサーシャや,強さと美しさを持ったヒロインのマリーにそれまで心を奪われがちだった身としては,やっぱりこの物語の主役はオレグだわん~~と。当の妻本人にも伏せて綿密に沈着に練られた計画・・・(その秘められた長期戦を思うとき,全く関係ない話だが,私の中でなぜか忠臣蔵の大石内蔵助の姿が浮かぶ。)そして前述したように,忘れることのできない,あのラストの哀しくも素敵な彼の笑顔。
Cap049
・・・・切ないけど最高である。

途中でちょっと退屈に感じたとしても,長くてもラストに手に汗握る,そしてしみじみと感動的な場面が待っている。
Cap046
夫婦とは?国家とは?冷戦とは?と,さまざまな視点からじっくりと迫ってくる,骨太で重厚な作品。政治や歴史,ロマンス,家族愛,夫婦愛・・・そして艱難の中でも絶やすことのなかった不撓不屈の願いなど・・・見どころが満載の作品である。

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