ツリー・オブ・ライフ
評価が真っ二つに分かれそうな作品。
ブラピ目当てにエンタメを期待して劇場に行くと酷い肩すかしを食らうことは間違いなく,事実私が行った劇場でも,途中退出されるお客さんが結構いた。実はこの作品,すごく宗教色が強く,内省的な色合いの濃い,超地味~~~~~な作品なのだ。おまけにドラマ性もあまりなく,淡々と流れる映像と登場人物の心の声で延々と綴られる物語。ただ,私の場合は自分のツボにすっぽりとハマったので感動できた。監督さん,テレンス・マリックかぁ…「シン・レッド・ライン」とかの。ああ,それなら納得の雰囲気の作品だ。
これは主人公のジャック・オブライエンが,再び神を見出すまでの魂の物語なのかもしれない。冒頭にいきなり旧約聖書のヨブ記の聖句,「わたしが地の基を定めたとき,あなたはどこにいたのか。あなたに悟ることができたなら,告げてみよ。」が示され,人知では測ることのできない神の全知全能性が暗示される。神は,この作品では,主人公やその母から「あなた」という二人称で呼ばれる。
物語は,主にジャックの回想,という形で,時系列を前後しながら,オブライエン一家の歴史が淡々と語られる。信仰篤い優しい母と,家父長的な厳しい父,そして二人の弟たち。ジャックの父をブラピが,そして成人したジャックをショーン・ペンが演じている。
堅実で敬虔な家庭に育ったジャックが,いつ神から離れ,そして再び神を見いだせたのはなぜなのか・・・冒頭,ジャック自身が独白で「いつあなた(の存在)を感じたのだろう・・・」と問いかけている。
ごく幼いころの幸せそうな家族の風景。幼児の目線でとらえているかのような美しい映像は,父や母の笑顔も周囲の自然も,みずみずしい明るさに溢れていて,それはまるで神の慈愛や恩寵を現しているかのようだ。信仰深い親に育てられた場合,子供は人生のスタート時から,自然や日常生活の些細な出来事の中にも「神」を感じながら生きるものである。(自分がクリスチャンホームで育ったのでよくわかる。)
やがて過度な支配や干渉をする父親に対して,ストレスや不満を募らせていく少年期。「善人になりなさい,人には優しく」と教える母とは反対に,「善人すぎると損をする。成功する人生をめざせ」と説く父の間で悩み,叱責ばかりする父親に「愛されてない」「偽善者だ」「僕たちを傷つける」「いなければいいのに」という鬱屈した思いを抱くジャック。
この作品のブラピは,確かに独善的で支配的で,「こんな父親大ハズレ~~」という嫌な父親を演じている。でも,一昔前には(ふた昔前くらいかな?)こんな頑固オヤジは日本にもいたような。父親が一家の大黒柱として確固たる責任を果たし,それだけに怖いものが「地震・雷・火事・オヤジ」と言われていた時代には,ジャックの父のように,不器用だけど自分の信念を持ち,躾に厳しく,それゆえに子供から煙たがれもする父親って結構いたような気がする。ブラピの演じる父親もまた,不器用で独裁的ではあっても子供にたいする愛情には深いものが感じられた。それが上手く伝わらず,子供の心を時には傷つけるものであったのは哀しいことだけど。
ジャックの母が人生の基盤を「神」に置いて生きていたのに対し,ジャックの父は教会に通ってはいても,神よりも「自分」の力を信じるタイプ。神の恩寵に生きる母と世俗に生きる父に挟まれて育ったジャックは,家庭の中では「世俗」に生きる父の方が支配権を握っていることにいらだちを覚えるようになり,また友人の水難事故での死も,同様に神に対する不信感を引き起こす。「どうしてこのようなことが?あなた(=神)が悪なら,なぜ善人になる必要が?」と神に問うジャック。
さらにジャックだけでなく家族全員を打ちのめすような悲劇が一家を襲う。気が優しく皆に愛されていた二男の死・・・大きな災いが降りかかった時,信仰の篤い人ほど「神よ,なぜですか?」と問う悲痛な叫びは大きい。それが罰ではなく神の深淵な計画の一部であり,神は常に自分に対して最善の計画を抱いていると信じて,自分の痛みや苦しみを委ねきることができるまで,ジャックの母もまた,哀しみの中で祈りと神への問いかけを繰り返す。
哀しみの中で神に語りかける母親の独白の背景に映し出される,自然界や生命,宇宙の神秘の映像の数々。それはあたかも,人間の力の及ばないスケールの出来事や現象を映し出すことによって,神の叡智と全能を示しているかのようだ。創り主である神の圧倒的な力に対して,人は最愛のものを喪う痛みをも委ねなくてはならない・・・そして神を信じるものにとっては,それ以外の解放と再生の道はないのかもしれない。
ジャックが長い道のりを経て,幻の中で天国の岸辺にたどり着き,若かりしころの父母や弟と再会し,安らぎを得るラストは静謐な幸福感に満たされる。神を信じない人から見れば,願望にすぎないと思えるかもしれないが,私はジャックは再び神に出会えたのだと思う。
キリスト教の浸透していないわが国では基本的に理解されにくく,純粋なヒューマンものとしても冗長な印象を受けて退屈される恐れの多い作品。私は感動したけど,万人には決しておすすめしない。
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