瞳の奥の秘密
どれほどの歳月が巡ろうとも,
いかなる境遇の変化が起ころうとも
変わらないもの,それは秘めたる「情熱」
瞳は時に雄弁に語りかける・・・・
2010年度のアカデミー賞外国語映画賞受賞作品。製作国はアルゼンチン。サスペンスと人間ドラマとラブストーリーが巧みに絡み合った秀逸な作品。ややネタばれですので未見の方はご注意を!
25年前に起きた凄惨なレイプ殺人事件を巡る,登場人物たちのそれぞれの秘めた感情。裁判所職員ベンハミンは,犯人釈放に対する無念の思いや,諦めた恋に対する慚愧の思い,自分の身代わりになって命を落とした同僚への罪悪感を抱き続け,被害者の夫リカルドは,釈放された犯人を罰したいという執念を燃やし続ける。
おそらく日本などより,ずっと情熱的な南米だからこその物語なのかもしれない。特にリカルドが犯人に行った私的な制裁は,衝撃的だ。しかし軍事政権下にあった当時のアルゼンチンに,法治国家としての満足な機能を期待できないのなら,私的制裁もやむを得ないかと個人的には思う。
それにしても,長い年月,言葉のコミュニケーションを一方的に絶たれるということは,肉体的な虐待よりも,ずっと人間の精神を蝕む責め苦になるのだなあ。これをやり通したリカルドの精神力や執念には鳥肌・・・。
しかし彼がベンハミンに言った「過去に囚われると未来をも失う」というセリフもまた重い。犯人に罪を償わせるという目的は達したかもしれないが,リカルドの暗いまなざしは,その言葉どおり,自分の人生をも犯人と共に葬り去ってしまったかのようだった・・・・。その言葉を聞き,犯人の変わり果てた姿を目にしたベンハミンは,長年の煩悶にひとつの決着をつけて,かつては諦めた恋に向かって歩き出す決心をするのだが。
とても印象的だった「ひとには誰にも変えられない部分がある。それは各人の情熱」という言葉。そう,封印してそのまま殺してしまえれば,どんなに楽なことかと感じるほどの,強烈な「思い」。それは叶わぬ恋慕の情であったり,ぬぐいきれない怨念であったり,はたまた許されない邪念であったり・・・・。
それでも人は愚かで弱いものであるから,そしてそれとは矛盾した言い方になるが,すごく強靭な一面もあるからこそ,自らの「思い」を捨てることなく持ち続ける・・・・。長く生きているときっと,誰の瞳の奥にもそれぞれの「秘めた情熱」が隠されているのかもしれない。
それが怨念や歪んだ情熱でなく,自分を高め,生き甲斐となるようなパッションであれば幸せだ。人間そのものがミステリーであり,その心の深淵は果てしもなく深い・・・・そんなことを痛感させてもらえた物語だった。
ラストの,25年の歳月を越えて,思いを成就させた恋人たちの,見交わす瞳の表情が素敵だった。もちろん,そこから続く道は,イレーネの言うように「簡単じゃないわよ。」なのだろうけれど…。
最近のコメント