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2011年2月の記事

2011年2月25日 (金)

瞳の奥の秘密

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どれほどの歳月が巡ろうとも,
いかなる境遇の変化が起ころうとも
変わらないもの,それは秘めたる「情熱」
瞳は時に雄弁に語りかける・・・・

2010年度のアカデミー賞外国語映画賞受賞作品。製作国はアルゼンチン。サスペンスと人間ドラマとラブストーリーが巧みに絡み合った秀逸な作品。

ややネタばれですので未見の方はご注意を!

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25年前に起きた凄惨なレイプ殺人事件を巡る,登場人物たちのそれぞれの秘めた感情。裁判所職員ベンハミンは,犯人釈放に対する無念の思いや,諦めた恋に対する慚愧の思い,自分の身代わりになって命を落とした同僚への罪悪感を抱き続け,被害者の夫リカルドは,釈放された犯人を罰したいという執念を燃やし続ける。

おそらく日本などより,ずっと情熱的な南米だからこその物語なのかもしれない。特にリカルドが犯人に行った私的な制裁は,衝撃的だ。しかし軍事政権下にあった当時のアルゼンチンに,法治国家としての満足な機能を期待できないのなら,私的制裁もやむを得ないかと個人的には思う。
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それにしても,長い年月,言葉のコミュニケーションを一方的に絶たれるということは,肉体的な虐待よりも,ずっと人間の精神を蝕む責め苦になるのだなあ。これをやり通したリカルドの精神力や執念には鳥肌・・・。

しかし彼がベンハミンに言った「過去に囚われると未来をも失う」というセリフもまた重い。犯人に罪を償わせるという目的は達したかもしれないが,リカルドの暗いまなざしは,その言葉どおり,自分の人生をも犯人と共に葬り去ってしまったかのようだった・・・・。その言葉を聞き,犯人の変わり果てた姿を目にしたベンハミンは,長年の煩悶にひとつの決着をつけて,かつては諦めた恋に向かって歩き出す決心をするのだが。
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とても印象的だった「ひとには誰にも変えられない部分がある。それは各人の情熱」という言葉。そう,封印してそのまま殺してしまえれば,どんなに楽なことかと感じるほどの,強烈な「思い」。それは叶わぬ恋慕の情であったり,ぬぐいきれない怨念であったり,はたまた許されない邪念であったり・・・・。

それでも人は愚かで弱いものであるから,そしてそれとは矛盾した言い方になるが,すごく強靭な一面もあるからこそ,自らの「思い」を捨てることなく持ち続ける・・・・。長く生きているときっと,誰の瞳の奥にもそれぞれの「秘めた情熱」が隠されているのかもしれない。

それが怨念や歪んだ情熱でなく,自分を高め,生き甲斐となるようなパッションであれば幸せだ。人間そのものがミステリーであり,その心の深淵は果てしもなく深い・・・・そんなことを痛感させてもらえた物語だった。

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ラストの,25年の歳月を越えて,思いを成就させた恋人たちの,見交わす瞳の表情が素敵だった。もちろん,そこから続く道は,イレーネの言うように「簡単じゃないわよ。」なのだろうけれど…。

2011年2月16日 (水)

ぼくのエリ  200歳の少女

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スウェーデン発のヴァンパイア物語。
孤独な少年がヴァンパイアを愛し,共に生きていく決心をするお話。DVDで鑑賞。残酷なシーンもある恐ろしい物語ではあるけれど,それでも鑑賞後に強烈に残ったのは,心を締め付けられるような切なさだった。

学校では同級生から執拗なイジメを受け,家庭でも離婚した母親に本心をさらけ出せない孤独な少年オスカー。そんな彼の団地の隣の部屋に,ある晩ひっそりと越してきた初老の男と少女。夜の中庭でオスカーは,エリと名乗るミステリアスな彼女に出会い,惹かれていく・・・・。

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この物語,ヴァンパイアの少女を愛してしまった少年の単なるピュアな初恋物語ではない。もっともっと残酷で,どうしようもないくらい重いものが込められている。

ヴァンパイアと人間の壁を越えて,最後にはエリと共に生きていこうとするオスカーの選択は,ピュアな純愛レベルでは追い付かないほど壮絶な覚悟を伴うものだ。わずか12歳の少年がよくもここまで・・・と痛ましく感じるくらい無償の愛と言えるかもしれない。

Cap052
人間のままでヴァンパイアと生きることは,すなわち相手の庇護者となるということだ
。不老不死であるけれども致命的な弱点も持ち,人間を捕食して生きる宿命のヴァンパイアたちが密かに生き延びるためには,人間社会から自分たちを匿って世話をしてくれる人間が必要だ。

庇護者になる道を選んだ人間は彼らの隠れ蓑となり,日中は彼らを日光から守り,必要とあらば彼らを生かすために人殺しもしなければならない。エリの父親を装って一緒に暮らしている男がまさにそれで,彼はエリのために人を殺して,その血をエリのために持ち帰っていた。(ちなみに原作ではこの男はゲイの小児性愛者という設定)

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ヴァンパイアとしての哀しみと孤独を描いた作品は,インタビュー・ウイズ・ヴァンパイアとかポーの一族などがお馴染みだけど,彼らの庇護者として生きる人間の悲哀を描いた作品は初めてだった。トワイライトシリーズが,ひどくお気楽でご都合主義に感じるくらい,この物語で描かれているヴァンパイアと人間の関係は,リスクの大きいものだ。庇護者は彼らと共に滅びる運命・・・いや、相手を生かすために我が身だけが滅びる場合も多いのではないか。

自分だけが年齢を重ね,体力もなくなり,相手の食料調達もままならなくなり・・・オスカーの前任者の男の凄惨な末路からは,オスカーもいずれたどる運命が透けて見えて痛々しい。
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そして200年の間、そうやって庇護者を乗り換えながら生き抜いてきたエリの,「ヴァンパイアならではの」,したたかさと哀しさ。「女の子じゃないよ。」とオスカーに告げたエリの身体の秘密と,これまで辿ってきた想像を絶する苛酷な道のり・・・・(ちなみに邦題のサブタイトルは大嘘です

オスカーに向かって生きるための殺しを正当化し,「私を受け入れて。少しでいいから理解して。」と懇願したときのエリは,オスカーを思う気持ちよりも,生きるための打算の方が強く働いていたのだろうか?学校でも家庭でも,孤独と鬱屈した思いを抱えたオスカー。猟奇殺人事件の記事をスクラップし,夜更けに一人で木にナイフを突き立てる彼の屈折した心理をエリは見抜いて,白羽の矢を立てたのだろうか?それともエリもオスカーの孤独な魂に自分と同類の香りを感じて,自然に引き寄せられたのだろうか?

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エリの正体を知った時の嫌悪と逡巡・・・それでもオスカーはエリを受け入れた。それほどまでに彼は人間世界では孤独だったのか?それともエリそのひとに,性別を超えて惹かれるものを感じたのか?あるいは彼の潜在意識に眠っていた「痛めつけられてきたものゆえの残虐性」がその道を選ばせたのか?

いや,そうではなく,絶体絶命のあのプールの場面で,自分を鮮やかに救い出してくれたエリを見上げるオスカーの嬉しそうな天真爛漫の笑顔を観る限りでは,やはり彼はエリが大好きで,どんなことがあっても一緒にいたい,エリを守りたいだけなのかもしれない,と思った・・・・。そしてそれはそのままラストの旅立ちのシーンへとつながる。
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彼の表情が穏やかで満ち足りていればいるほど,観ている方は,その旅路の先にある破滅への予感に切なくなるラストだ。

漆黒の闇に音もなく舞う雪。
白い雪の上に鮮やかに映える血の赤。
しんしんと寒さが骨身に凍みてくるような寂寥感。
オスカーを演じた少年の透き通るような頬の白さと

黒曜石のように煌めくエリの瞳の妖しさ。
北欧らしい静謐さや透明感がなんとも美しかった。

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目を覆うほどの残酷な殺戮のシーンはどれも見せ方(あるいは隠し方)が秀逸で,センスがいいのでそれほどグロくない。特にもっとも残虐なプールのシーンは,水中のオスカーの目線からのほとんど無音の映像で,爽快感さえ漂う名場面だと思う。

ストーリー,映像,世界観,役者の演技
・・・どれをとっても傑作。
ハリウッドでリメイクされてるそうだが,絶対この北欧版オリジナルの方がいい味わいだろう。

2011年2月 7日 (月)

RED/ レッド

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若造は引っ込んでな

RED(=RETIRED EXTREMELY DANGEROUS)
つまり,引退した超危険人物
元CIAの凄腕工作員だったメンバーが再結集する,同窓会みたいなスパイ映画。もうこの設定だけでワクワクするではないか。しかも出演するのがブルース・ウィリス,モーガン・フリーマン,ジョン・マルコヴィッチ,ブライアン・コックス,ヘレン・ミレンときた日には,(平均年齢もギャラの総額も高そう〜)期待するなという方が無理だ。

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田舎に引退して穏やかに年金生活をしていた元凄腕CIAエージェントのフランク(ブルース・ウィリス)の家に何者かが侵入し,フランクが命を狙われたことから,事件は始まる。フランクは恋心を抱いていた年金課のサラを連れて,謎の解明と協力の要請のために,かつての仲間たちを訪ねる…。

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肝臓ガンを患い老人介護施設で余生を過ごしている,かつての上司ジョー(フリーマン),湿地の隠れ家で,妄想と共に潜伏している元宿敵&同僚のマーヴィン(マルコヴィッチ),そして今は優雅な洋館で暮らしている,凄腕の狙撃手だったヴィクトリア(ミレン)。それに加えて,旧ソビエトの元スパイ,イヴァン(コックス)がタッグを組んで,何年も前に葬り去られていた,ある村の虐殺事件隠滅にまつわる陰謀に鮮やかに立ち向かう。
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当たり前だが,それぞれの演技もキャラ立ちも一級品。
ダイ・ハード4.0の時より若々しく見えるブルースの冷静沈着で万能なカッコよさ(若い子と恋ができるのも納得)や,老いた分だけ余計にキレた演技が冴えわたるマルコヴィッチの怪演ぶり。フリーマンは相変わらず味があるし,ヘレン・ミレンに至っては,ゴージャスで気品のある彼女が,夜会服姿+夜叉さながらの形相で,マシンガンを撃ちまくるシーンの痛快さといったら。
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個人的には,若いころのヴィクトリア(ミレン)との禁断の恋のエピソードを持つ,旧ソビエト側のスパイ,ブライアン・コックスのキャラが一番好きかもしれない。このあたり,人物造形が見事で,作品に深みや厚みがある。
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この作品,何がいいかって,そりゃあ,年金生活者の彼らが若いモンに一歩も引けを取らず,各人が場面ごとに仰天するような特殊能力を発揮してくれる姿が実に爽快なのである。登場する武器も作戦も,破格のものばかりで,REDの面々それぞれがみなとても個性的で魅力的で,おまけにこの上なく役者がみんなハマっている。敵のキャラや陰謀の細かいことはこの際どうでもいい,とにかく彼らがカッコよすぎて!
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・・・・・誰がジジイってか?

最初から最後まですごーく楽しみながら観た!
機会があれば大スクリーンで何度でも再見したい,ストレス解消にはうってつけの怪作!

2011年2月 3日 (木)

グリーン・ホーネット

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グリーン・ホーネット=緑のスズメバチ。
初めて知ったが,テレビやラジオドラマでお馴染みの,ヒーローアクションものの映画化らしい。英語でスズメバチってホーネットっていうんだ・・・。

ヒーローのグリーン・ホーネットを名乗るのは,父親の死後にロスの新聞社を継いだ放蕩息子のブリット(セス・ローガン)。彼は父親の運転手だったアジア人カトー(ジェイ・チョウ)の,人間離れした身体・知的能力を知って正義感に目覚め,彼を片腕に緑のマスクに顔を包み,ロスの悪党たちに挑む。

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「金持ちの御曹司が,メカに堪能な部下にいろいろ発明させてヒーローに扮する」という設定はバットマンに似たところもあるが,こちらのグリーン・ホーネットのブリットは,もっともっとコミカルで能天気なヒーローである。第一,闘いが強くない…というか,闘うスキルを持っていないヒーローなんて初めて見た。

彼は,実戦においては,資金面以外はほとんどすべて,カトーの力に頼っている。まあ,直情的で子どもみたいなブリットのキャラだからこそ,そんな調子のいいところもかえって憎めず,天才型のカトーとはいい凹凸コンビになっていて,二人の間のちょっとしたいさかいや友情も,なかなか微笑ましかったりする。

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カトー(どう考えても日本名だが,本人は中国人という妙な設定)は,優れた戦闘能力を持つ改造車から,絶品カプチーノ・マシーンに至るまでの様々なグッズを発明でき,それに加えて,瞬時に複数の敵を察知して倒すことのできる身体能力も持っている。


カトーを演じたジェイ・チョウが,これまた天から二物も三物も与えられているひとで,彼が劇中にムーディーにピアノを弾く場面もあるし,なんといってもアクションシーンの跳び蹴りなどが見惚れるくらい最高に素敵!運転手の制服やマスクも似合ってて,王妃の紋章の時よりずっと若々しいし,きっと彼の魅力が存分に発揮できていたのでは,と。

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そして街の悪党どものドン,チュドノフスキーを演じたのが,イングロリアス・バスターズの怪演が記憶に新しいクリストフ・ヴァルツ!もう存在感が半端じゃなく,このひとのキレた悪役は,表情から台詞まわしから,なんでこんなに魅力があるんだろう…ある意味主役を食うほどにキャラが立っていたような。

派手に繰り広げられる破壊劇を頭をからっぽにして楽しみ,観終わった後にはスカッとする,おバカかっこいい,ヒーローアクションである。

3D・・・は苦手なので3Dメガネはしょっちゅう外しながら観た。だってかけたら画面が暗くなるもん・・・でもかけなきゃかけないで,字幕や人物が二重になったりして観にくいシーンも多かった。軽く酔ってしまったかも。

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