もう一度 弾いて。
そして喝采を浴びて。
あなたの夢のために
わたしは星になる。
1976年公開の宝石のように煌めく純愛物語。
当時話題作だった「カサンドラ・クロス」と二本立て公開作品で,「カサンドラ~」目当てに劇場に足を運んだ観客が,こちらの作品の方に感動してしまった,というエピソードをよく目にする。私は今回がDVDで初見。
どこかで耳にしたことのあるような,軽やかで爽やかなBGMが流れる中,美しいモン・サン・ミッシェルの風景をバックに物語が始まる。まるで天から舞い降りてきたかのような,ピュアでどこまでも無邪気で可愛い少女,ステラ。そして彼女は父親探しのためにやってきたフランスで出会った,落ちぶれた中年のピアニストのリチャードに恋をする。
一緒にいれるだけで幸せだと言わんばかりの,屈託のない愛情を直球で寄せてくるステラに対して,父親ほどの年齢のリチャードは,最初は戸惑いと困惑を隠せない。ステラが父と会えたらそこで別れようと思っていた彼だが,一途でキュートな彼女に次第に惹かれてゆく。
実は白血病という不治の病で余命がわずかだったステラ。しかし彼女はそのことを隠して,リチャードのピアニスト再起にすべてをかける。ともすれば諦めが先に立つリチャードを,ある時は優しく励まし,ある時は激しく叱咤激励し・・・・
リチャードはステラと結婚し,やがて彼女のために「ステラに捧ぐ」というピアノ・コンチェルトを書き上げる。しかしその初演の日,ステージの袖でステラはウェディングドレスに身を包んだまま息を引き取った・・・。
これって実は,ベタもベタ,少女マンガをそのまま映画にしたような物語である。そして人物の掘り下げも浅く,生活感もなく,ステラやリチャードのそれまでの背景も性格も詳しく描かれていないので,親子ほどの年齢差のある二人が恋に落ちる必然性も,さほど感じられない。
しかしそれだからこそ,本作は現実にはありえない寓話めいた美しい純愛物語としての魅力にあふれ,ステラの天使のような可愛さに,細かいことはすべて許してしまいたくなるのかもしれない。
中年期も終わりに差し掛かって,もう人生を諦めてしまった男と,愛と希望と生きる意欲にあふれつつも,命の灯がまさに消えようとしている少女が出会い,少女は自分に残された時間を,彼を愛し支えることに費やす。そして彼は,まるで愛する彼女の命を受け継ぐかのように,再び生きる意欲を取り戻す。・・・・文句のつけようのないロマンチックな悲恋物語なのである。
ステラというのはラテン語で「星」の意味。
死期を悟ったステラが,「私が行けない時はこれを身につけて演奏して。そうすればいつも一緒にいられるから」とリチャードにプレゼントした星型のタイピン。それをつけたリチャードが演奏する「ステラのコンチェルト」の,えもいわれぬほどの壮大で美しい調べ。
その調べに合わせて,出会いから現在までのステラのシーンが走馬灯のように蘇り,「あなたにすべてを捧げて幸せだった」という彼女の独白が流れるラストシーンは,これは泣かずにはいられないだろう。
邦画の砂の器でも同じように感じたけれど,この場面で,物語の感動のすべてが,ドラマティックで美しい音楽によって見事に収束されていくのだ。音楽がとても効果的に感動を盛り上げてくれる作品の代表ではないだろうか。有名俳優も出ていない小品ではあるけれど,多くの人の心に今でも残る,珠玉のような作品だろう。
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