マディソン郡の橋
大人の切ない恋愛映画の金字塔。これもまた,私にとっては初見時より,年を重ねた現在のほうが,ずっと心に響く作品だ。
アイオワ州マディソン郡の農家で,夫やティーンエイジャーのこどもたちと平穏に暮らしていたフランチェスカ(メリル・ストリープ)。人生の折り返し地点をとっくに過ぎ,家族のためにだけ生きていた中年の彼女に,突然降ってわいたように訪れた恋の相手は,ローズマン・ブリッジの写真を撮るために町を訪れたロバート・キンケイド(クリント・イーストウッド)だった。
夫とこどもたちが留守にしている四日間,恋に落ちた二人は夢のような日々を過ごすが,結局フランチェスカは,ロバートと一緒に行かない選択をする。家族を犠牲にするわけにはいかない,一緒に行けば必ずこの恋が色褪せ,後悔する日が来るからと。それきり二人は会うことはなかったが,この恋は二人にとって生涯の恋となる。
初見時にはやや消化不良ぎみだったこの作品だが,フランチェスカの年齢に近くなってから観ると,何と身につまされることか。
突然目の前に現れた,ミステリアスで自由で,セクシーな雰囲気をまとった男性,ロバート。彼はフランチェスカに,若い頃の夢や情熱を思い出させてくれ,子供たちの母としてより,女として生きる喜びやときめきを甦らせてくれた。
へそくりをはたいて彼のためにドレスを買いに行くフランチェスカの高ぶりは,まるで少女のそれのよう。そしてまた,ロバートを諦めるときの彼女の表情の切なさ。雨の街角で,夫の車を降りてロバートの車へと走っていきたい気持ちを必死で押さえるシーンは何度観ても泣けてしまう。
この作品はもちろん,大女優メリルの上手さを見せつけられる作品だが,硬派の作品専門のようなイメージがあったイーストウッドの,意外なくらいソフトで優しい物腰や声音にも驚かされた。
それにしても,たった4日間だけの恋を生涯のものとして,その後は一度も逢うこともなく,死ぬまで秘め続け,想い続けるなんて可能だろうか?若い者同士ではなく,人生の様々なことも経てきた年代の二人だからできたことだろうか。
駆け落ちすることを拒み,
4日間の愛を美しいまま心に保ち続けたフランチェスカ。
家族のために捧げたこの身の残りはせめて彼に捧げたいと
遺灰を思い出のローズマン・ブリッジから撒くことを
子供たちに言い残して逝ったフランチェスカ。
あまりにもきれいすぎる,寓話めいた物語のようにも感じるが,このような運命的な恋をしたいという願いは女性なら誰でも持っているのかもしれない。いくつになっても。
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