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2010年9月22日 (水)

狼たちの午後

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アル・パチーノ主演,シドニー・ルメット監督作品
。1972年にブルックリンで実際に起きた銀行強盗犯のお話。アルと共演しているのが,あのゴッドファーザーで彼の兄役だったジョン・カザール。

この作品で主犯のソニーを演じたアルの外見がとにかく若くて初々しい!スケアクロウと同時期の撮影で,その目元にはまだ可愛らしさが残っている。
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とはいえ,やはりその演技は若手とは思えない凄みと巧みさがあるのだが。邦題だけ見るとク ールなマフィア映画のようだが,そんなジャンルではなく,ソニーたちは言わば社会の「負け犬」たち。初めて計画した銀行強盗で,仲間の一人は開始直後に怖気づいてリタイアするし,肝心の金庫の中には,はした金しか入ってない始末だし,あっという間に通報されて包囲されるし・・・・。

つまり,これは失敗に終わった強盗犯が,その後どんどんドツボにはまってゆくお話。そのドツボぶりが,実話を基にしているだけにやけにリアルで,そして名監督シドニー・ルメットの手によると緊迫感の途切れることのない秀逸な人間心理ドラマとして仕上がっているのだ。

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籠城するうちに,ソニーと人質たちとの間に芽生える,妙な共感関係が面白い。それは,犯罪者のくせに,お人好しな一面もあるソニーのキャラと,冷静沈着な(ほとんど女性だし)人質たちのキャラにもよるのだろうけど,いわゆるストックホルム症候群とかいうやつが起こるのだ。銀行を取り巻く野次馬たちの,「非日常」にエキサイトする群集心理の高揚ぶりも興味深い。

その他にも,劇中に登場する「アティカ事件」や「ゲイ問題」「ベトナム戦争帰還兵問題」などが,様々な70年代の世相を巧みに映し出している。

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この作品のアルの熱演は絶賛されたというが,確かに時には繊細に,時にはクレイジーに,くるくると目まぐるしく変化する彼の表情や,少しもじっとしていないエネルギッシュな動きには、最初から最後まで目が釘付けになる。

物語が進むにつれて,彼がなぜ銀行強盗を働こうとしたか,その背景が見えてくるのだが,そこには社会の底辺で足掻く者たちが抱える焦燥や憤懣が感じられる。

彼に面会したり電話で話したりする家族たち。彼の母親と本妻,密かに彼と結婚していたという男の恋人レオン。彼らを養うために,また性転換の費用を捻出するために強盗に及んだというのに,電話や面会では口やかましい彼らとキレて痴話喧嘩になってしまうソニーが,愚かしくもあり哀れでもあり・・・・。(しかしこの,電話で痴話喧嘩をする場面のアルの演技ってとてもいい。特にレオンに見せる繊細な愛情とか)

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登場シーンからすでに,呆けたような病んだ表情のジョン・カザール。彼とアルとのかみ合わない会話やピントのずれた発想は時に笑えるのだが,据わった眼差しはなかなか不気味な存在感がある。

サルが射殺され,ソニーが逮捕されるラストはあっけない。それまで心が通じ合っていたと思っていた人質たちが自分を振り向きもせずに去ってゆく,その後ろ姿を見つめるソニーの表情がまた哀しい。

目の離せない展開と,熱気のこもった名演技,緩急をつけながらもどんどん加速していく緊迫感,その中にさりげなく散りばめられた社会風刺的な笑いの要素と切なさ・・・・見ごたえのある名作だと思う。

若かりし日のアルの作品は,スケアクロウが一番好きだけど,この作品のアルもとても好き。先日ジャスティスも鑑賞したが,あれもなかなかよかったなぁ・・・・。

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コメント

ななさん、こんばんは^^
「スケアクロウ」もこの映画もリアルタイムで観た私ですが、
なんせ若かったもので(爆)、話題性とパチーノ目当てで観た記憶しかありません^^;
ただ、良かった~って印象だけありますが、
また改めて観てみようと思います。
10代の頃に観た印象とは、また違ってみえてくることもきっと沢山あると思うので。。
ななさんのおかげで、忘れかけている名作がドンドン甦ってきて、
改めて映画の楽しみが増えている今日この頃ですm(__)m

ちーさん こんばんは

おお,これもリアルタイムとは羨ましい!
それにしてもこの作品のパチーノは若くって
言っちゃなんですが「キュート」ですよね。
きっと今ご覧になったら
10代のころとはまた一味違う感想を持たれることと思います。
ルメット監督作品ですもん,よく練られてますよ~
この監督の作品は会話のやりとりが秀逸ですが
この作品も例外ではないですね。

私はこれは今回が初見なんです。
邦題がB級の任侠映画みたいでつい敬遠していましたが
もっと早く観ればよかったわ!

ななさん、こんばんは^^
仕事休みの今日、改めてこの名作を鑑賞しました!
イヤイヤ、○十年前に観たこの映画ですが、銀行強盗のお話ってことだけ覚えていて、ストーリィなんて完全に忘れていました^^;
最初っから最後まで、どのシーンにも音楽が一切流れず(エンディングにでさへ)、緊迫した場面が、登場人物達それぞれの会話や息遣いからリアルに伝わって来て、観ている私もその後の展開が予測できなくてハラハラしながら観てました。
ずっしりとした社会派監督の作品で、再見して良かったです。
ほんと、お薦めの映画ですよね!
ところでこの映画、シチュエーションが本広監督の「スペース・トラベラーズ」に似ているなぁって、思ってしまいました。
アッ、逆でした「スぺトラ」が似てたんだった(笑)
銀行強盗、人質とのやりとり、武装で包囲、マスコミ、交渉、ピザ、外国へ逃亡などなど・・
「スぺトラ」は完全に娯楽映画だったので、全く作品として比べられませんが、ニューシネマ世代の監督、絶対この映画観ているはず(笑)
また今日、新たに見直して「エイリアン2」のアンドロイド役がカッコよかったランス・ヘンリクセンが最後、FBIの運転手役で出てて、ちょっと嬉しかったです^^
サルが撃たれてしまったのは、何と言ったらよいのか、ちょっと切なかったですよね~。ソニーの表情を観ているだけでジワ~ンと来てしまいました

ちーさん こんばんは

再見されたんですね~
ほんと,ただの銀行強盗ものじゃないですよね。
社会問題や人間心理が見事に描かれています。
おっしゃるように,BGMが見事にありませんね。
この監督さんの作品ってそんな感じが多いですね。
その分、よく練られたセリフに観客は集中できますし。
そういえば,舞台の背景も
一つの部屋の中ばかりだったりと
あまり余計な動きをしないので
これもその分役者たちの演技やセリフに集中させますよね。

>本広監督の「スペース・トラベラーズ」
そんな作品があるのですね~。未見ですが
お話を伺う限りでは
この作品の影響を受けた可能性大ですね。

>「エイリアン2」のアンドロイド役がカッコよかったランス・ヘンリクセンが最後、FBIの運転手役で出てて・・・
おお,あの印象的な運転手さん,
どっかで見たなあと思ってたら
エイリアン2のあの方でしたか!

サルが撃たれたのはあまりに唐突で
最初はあっけにとられてしまいました。
演じたジョン・カザールって,こんな風な不遇な最期の作品多いですね。
ご本人も病気ではやく世を去ってるし・・・。

こんばんは~
この映画はみてないなあ。パチーノ、若くて甘さのある顔してるね。
彼の映画だと、デパルマ監督の「スカーフェイス」が印象に残ってるよ。

「クルージング」という映画はみたことある?
パチーノはおとり捜査でゲイバーに潜り込んだ警官役。
みたいなあ。

アイマックさん こんばんは!

そうなんですよ,
いつのまにやら音立てて老けてしまったパチーノですが
このころの彼はまだ「甘いマスク」です。
でも肩を揺らしながら歩く後姿なんぞは
今もこのころも一緒ですけどね。

>デパルマ監督の「スカーフェイス」
クルージングは未見だけど,スカーフェイスは観ました。
パチーノの下品な演技が凄かったね。
ギャングか警官の役って多いんだけど
どっちも最高にハマるよね。

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