霜花店(サンファジョム)
だいぶ前にレンタルして観たのだが,感想が今頃になってしまった。王様と親衛隊長の美青年と王妃との間に繰り広げられる三角関係の愛憎劇だが,かなり濃厚なエロスと同性愛の要素を色濃く盛り込んだ,もうひとつの王の男の物語とも言えるかも。
舞台は高麗時代の朝鮮王朝。この時代の韓国は,元の国の属国のような立場だったらしい。王妃は元から嫁いできていたが,女性を愛せない王(チュ・ジンモ)と王妃(ソン・ジヒョ)の間には肉体関係はなく,王の寵愛はひとえに,少年の時から手塩にかけてきた親衛隊長のホンニム(チョ・インソン)に注がれていた。
しかし王妃との間に世継ぎが生まれないと,元につけ入られて王自身の立場が危うくなるという問題が起こり,王はホンニムに王妃の相手をするように命じる。
「なぜわたくしにそのような」と苦悩するホンニムに王は「そなたしか信じられぬし,王妃から生まれてくる子がそなたに似てほしい」と答えるが,生まれて初めて女性を抱いたホンニムと,それまで男性を知らなかった王妃は,密かに愛し合う仲になってしまう・・・。
長身でポニーテール風長髪の目元涼しいホンニムも,豪華な衣装に身を包んだ王も,ともに凛々しく美しい。そんな麗しい彼らが,自責の念に懊悩したり,嫉妬心に苛まれたりする様子は見ごたえがあった。
端正な王の瞳の奥に燃え上がる嫉妬の炎や,身を切られるような苦悩の表情には感情移入せずにはいられなかったし,本妻を裏切っているかのようなホンニムの後ろめたそうな哀しげな表情もまたいい。凛とした気丈な王妃が,恋敵だったホンニムを愛してしまい,まるて少女のように彼のために贈り物を渡す場面も切ない。
ちなみに霜花店の霜花とは,元の国で愛する相手に贈る霜花餅のこと。バレンタインチョコみたいな意味があるものかな?劇中では王妃が密会に来たホンニムのためにこの餅を作り,また宴会の席で,王が「霜花店」という,道ならぬ恋をうたった高麗民謡を披露する場面もある。(これがまた美声!)
昼ドラのような,ベタベタでドロドロな物語でエロもグロも過剰気味だが,三人の主人公たちの大胆で繊細な演技には否応なしに惹き付けられる。特に後半の,王もホンニムも,どちらも相手が「可愛さ余って憎さ百倍」の存在になるあたりは圧巻。
最後には本気で剣を交える二人だが,死の間際に王は,ある問いをホンニムに投げかけ,ホンニムはそれに答える。王を深く傷つけたあの答えは,ホンニムの本心だったのかな?と鑑賞後に考えてしまった。
エンドロールの二人の幸せそうな表情の狩りの場面を観ていると,やはりホンニムの王への愛想尽かしは本心ではなく,二人の間には確かに想い想われる愛情が存在していたのだと信じたい。そうでないと王様が可哀想すぎ…。と,やはり王に一番肩入れしてしまう物語だった。
しかしこのようなケースの情愛とは,つくづく厄介なものだ。至福のときをもたらしてくれるが,こじれたときの破壊力もまたすさまじい。切なくも濃厚な愛の物語を堪能したいときにオススメ。
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