フェイク
1997年製作。まだ今ほど売れてなかったジョニー・デップと,円熟期のアル・パチーノとの共演作。FBIの潜入捜査官と,下っ端マフィアの物語だ。監督さんはイギリス出身のマイク・ニューウェル。彼の作品でこれまで観たものは,フォー・ウェディングとか,コレラの時代の愛とか,最近作ではあのプリンス・オブ・ペルシャ 時間の砂。(なんかどれもカラーの違う作品ばかり。器用な監督さんなのかな?)
潜入捜査官の苦労話,という点では,インファナル・アフェアなどを思い出すが,これは実話を元にしていると言うから凄い。ドニー・ブラスコという名前でマフィアに6年間潜入した捜査官ジョー・ピストーネは,今もマフィアの報復を恐れて名前を偽って生きているという。
ドニーを弟分として可愛がり,自分の夢を託すほどに信頼するマフィアのレフティを演じたパチーノも,レフティとの心の絆が強まるに従って,彼を欺いていることに苦悩する捜査官を演じたジョニーも,ともに素晴らしかった。
特にこのジョニーは渋く,オールバックに口髭,サングラスに皮ジャン,名優パチーノとサシで演技してもなんら遜色のない存在感だ。こんな作品の彼を観ると,「ジョニーはやっぱり演技派なんだなぁ」と実感する。
家庭を顧みることができない彼と妻子との感情は常にすれ違い,いったいどちらが本当の自分なのか,諍いの絶えない妻よりも,レフティの方に惹かれてゆき,次第に堅気の服装よりも,マフィアの服装や言動が板についてくるドニー。
いつばれるかわからない,綱渡りのような緊張感と,自分を信頼しきっているレフティを裏切る日が来ることに対する罪悪感・・・・。抑えた内心の感情を現すジョニーの瞳の,厳しさ,鋭さ,そして痛々しさ。いや~~,カッコいいです,マジで。
そしてジョニー以上に名演技だったのがやっぱりアル・パチーノ!彼はたくさんの映画でマフィアを演じてきたが,ゴッドファーザーのマイケル・コルレオーネのような,冷徹さと品格の漂うキャラのときもあれば,スカーフェイスのトニー・モンタナのような,下品でパワフルなキャラのときもある。そしてこの作品のレフティのような,うだつのあがらないキャラであっても,まあなんと上手く演じることか。
マフィアにしては人がよすぎるために,いつまでたっても下っ端から昇格できないレフティ。そんな哀愁の漂うくたびれたキャラを,パチーノは,時にはしみじみと,時にはコミカルに演じている。
彼がドニーに寄せる信頼と友情,そして夢。
それらがいつかすべて消える日がくることを,観ているこっちは知っているだけに,レフティが言ったりしたりすることを,なんとも切なく感じてしまう。
二人の禁断の友情の篤さに,つい涙腺がゆるみそうになったシーンが二つある。ドニーが自腹を切って中古の船を買い,「堅気にならないか?」と持ちかける場面と,ラストの,すべてが明るみに出た後,ファミリーの制裁を受けに出かけるレフティが,妻に「あいつだから許せる」と言い残す場面だ。
そう,マフィアものではあるがこれはアクションものでもサスペンスでもなく,ヒューマンドラマ,二人の男の切ない友情の物語なのだ。ジョニーファンもパチーノファンも,そしてマフィア映画ファンも必見の傑作。
それにしても,ヒートといい,インサイダーといい,スケアクロウといい,セント・オブ・ウーマンといい,リクルートといい・・・・パチーノって,恋愛ものより,同性と相棒を組む映画でいい味を出しますね。
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悪人を演じる善人か、善人のふりをする悪人か・・・6年間の潜入操作。マフィア壊滅。FBI捜査官の実話を映画化。ストーリーFBI特別捜査官ジョー・ピストーネはドニー・ブラス... [続きを読む]
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ななさん
お久しぶりです。
「フェイク」~!大好きです。
ジョニーの作品って、わりとジョニー好きな人以外には、あんまりおススメできないのが多かったんだけど、これとギルバート・グレイプはおススメできますね。
このジョニーのビジュアル、好きです。
クリスマスにレフティの家に行くと赤いジャージ着てたのがぷぷぷでした。
投稿: むぎむぎ♪ | 2010年6月13日 (日) 18時33分
ななさん、こんばんは^^
「フェイク」私も大好きです~!
ジョニーファンにもパチーノファンにも大満足の映画ですよね。
私もこういうバディものが大好きです!
最後にレフティが制裁を受けに出かけるシーン、
私もウルウルでした。
ネックレスとか外して行くところ・・
もう、我慢できませんでした(涙)
監督がマイク・ニューウェルって、
私もビックリしました(笑)
投稿: ちー | 2010年6月13日 (日) 21時09分
むぎむぎさん こんばんは
>ジョニーの作品って、わりとジョニー好きな人以外には、あんまりおススメできない・・・
うふふ,わかります~
コスチュームものメイクもののジョニーは
それはそれで魅力的なんですけどね。
これや「ギルバート・グレイプ」のジョニーは
まさに演技派俳優って感じで
作品もヒューマンドラマだし,誰にでもオススメできますね。
この作品のジョニーはしびれますね。
>クリスマスにレフティの家に行くと赤いジャージ着てたのがぷぷぷでした。
そうそう,それも上下揃いで白線の入ったヤツ・・・
この作品の彼のキャラクターにぴったりで。
投稿: なな | 2010年6月13日 (日) 22時50分
ちーさん こんばんは!
バディものは,その二人が仲良しでも敵対していても
どちらもとっても好きですね。
敵対してた二人が心を通わせ合っていく,というのが
一番好きだけど。
この作品のドニーとレフティは
「禁断の友情,それも一方だけが真実を知っている」という
変わった設定だったのが,とっても切なかったです。
もちろんラブストーリーではないのだけど
二人の友情ってそれに近い切なさを感じました。
あれだけ裏切られても「あいつだから許せる」って・・・(涙)
裏切ったドニーのラストの瞳の暗さと厳しさも印象的でした。
投稿: なな | 2010年6月13日 (日) 22時55分
こんばんは^^
お姉さまのほうが秋吉久美子似って(^^;
なんと言う美人姉妹(+_+)羨ましい限りです(T^T)
さてこの作品ですが・・・
そそ、この作品はマフィアものですが、ヒューマンドラマですよね。ジョニー大好きで上手いなあと思いますが、やはり年を重ねている分だけあって、パチーノがこれまた上手い!!確かに同性と絡む作品で
いい味出していますよね(^_-)-☆
この映画が好きで原作も読んだのですが、最初は
登場人物の外国名に、あれ?これはだれだっけ?とか
かなり読みにくかったのですが(^^;途中から引きこまれ、最後はボロボロ泣きました(T^T)
読書家のななさんですので、もし機会がありましたら
読んでみて下さいね(^_-)-☆
投稿: ひろちゃん | 2010年6月14日 (月) 00時51分
この映画、ジョニー作品では珍しく男性に勧められる映画ですよね~。
ここでのジョニーは男らしく、セクシーで~
最初は彼ばかり観てたけど
やっぱパチーノさんあってのジョニー。
あのくたびれたレフティとピリピリ張り詰めたドニーのバランスが絶妙。。。
実話なのに作り物より凄い・・・
マフィアものなのに、こんなに切ないお話・・・
ジョニーファンじゃなくても是非観て欲しい作品ですね~~~。
投稿: マリー | 2010年6月14日 (月) 10時57分
ひろちゃん こんばんは!
いえいえ,かつて秋吉久美子にちょっと似てた(と言われてた)姉も
年を取って今ではまったく面影ないですけどね。(苦笑)
で,この映画ですが
ジョニーとパチーロって
考えてみればすんごく豪華な取り合わせですよね。
もちろんどちらも名優なんですが
おっしゃる通り,「年の功」もあって
パチーノの円熟した演技はさすがでした。
カッコよくってセクシーなのは
やっぱりジョニーでしたが。
原作も読んでみたいですね。
実話と言うだけに
興味をそそられる物語ですし。
投稿: なな | 2010年6月14日 (月) 22時55分
マリーさん こちらにもありがとう
>ジョニー作品では珍しく男性に勧められる映画ですよね
ですよね~,ジョニー作品はどうしても
女性ファンが多いですから。
でもこの作品は男同士のせつない友情を
マフィアの世界を舞台に描いているし
潜入捜査官の実話,という点でも
男性にもお勧めですよね。
ジョニーとパチーノのコンビは最高でした。
おっしゃる通り,対照的なのがよかったですよね。
マフィアものって「ゴッドファーザー」も
そりゃせつないっちゃあ,切ないんですが
この作品の切なさはまた格別ですよね。
投稿: なな | 2010年6月15日 (火) 00時20分
ななさん、こんばんは~♪
私も原作を読みましたよ~。
設定が少し違ってますが面白かったです^^
6年も潜入してたら、そりゃ~もう立派なマフィアですよね(爆)
ドニーの苛立ち、自分でもどうする事も出来ないもどかしさ。。。
ジョニーは良い演技をしてましたね^^
そしてアル・パチーノは、文句なく素晴らしかったです。
男同士の友情。。。
でもドニーは最初から自分が裏切る事を分かってての。。。
切ないですね。
投稿: にくきゅ~う★ | 2010年6月16日 (水) 02時36分
こんにちはー♪
わたしも「フェイク」大好きです!
ジョニー目当てで最初は見たけど、やはりアル・パチーノが凄い!
年をとった下っ端マフィアの悲しさが伝わってきて辛かったです。
身の回りの品々を置いていくシーンは泣けました(>_<)
投稿: みすず | 2010年6月16日 (水) 07時49分
にくきゅ~うさん こんばんは
>6年も潜入してたら、そりゃ~もう立派なマフィアですよね(爆)
家族やかつての同僚たちより
マフィア仲間との絆の方が
徐々に強くなっていくドニーの心理が
興味深くもあり,同時に切なくもあり・・・。
これが実話,というのがまたいいんですよね。
ジョニーももちろんいいんですが
やっぱりこれはパチーノの映画かもしれませんね。
ジョニーは葛藤や苦悩を表情の演技で魅せてくれましたね。
投稿: なな | 2010年6月21日 (月) 20時40分
みすずさん こんばんは
>年をとった下っ端マフィアの悲しさが・・・
中年以降のパチーノは
ご本人の見かけもちょっとくたびれた感じになってるので
こういう哀れを誘う役がハマりますね。
ラストの家を出るシーン
金目のものを奥さんに残していき
すぐわかるように引き出しを開けてゆく・・・
あのシーンの彼の細やかな気遣いに涙しました。
投稿: なな | 2010年6月21日 (月) 20時43分
こんばんは~ 実話の潜入捜査でしたね
アルパチーノの下っ端チンピラもいいですねぇ~
けれども、ピストーネ捜査官も 常に死と背中合わせの潜入捜査は恐怖感が絶えなかったはずです。 捜査していた六年間は何倍にも感じたのでは...
投稿: zebra | 2010年12月 5日 (日) 00時06分
zebraさん こんばんは。
>ピストーネ捜査官も 常に死と背中合わせの潜入捜査は恐怖感が絶えなかったはずです。
そうですね。潜入捜査と言えば「ディパーテッド」や
「インファナル・アフェア」も思い出しますが
こちらは実話を基にしているのでリアルでした。
投稿: なな | 2010年12月 6日 (月) 22時07分
お久しぶりです。ななさん。
先週の日曜日 テレビ愛知で日曜プレミア13:00~15:00枠でふたたび観ました。 やっぱり男くさくて見ごたえがありました。
友達がメール
で「フェイクがテレビでやるぞ」と入ってきたので見てみることにしたんですよ
<家庭を顧みることができない彼と妻子との感情は常にすれ違い,いったいどちらが本当の自分なのか,諍いの絶えない妻よりも,レフティの方に惹かれてゆき,次第に堅気の服装よりも,マフィアの服装や言動が板についてくるドニー。>
そうそう テレビで この場面も放送してて 娘の誕生日にも顔を合わせることができないで そっと プレゼントとして枕元にぬいぐるみを置くドニーや 奥さんといっしょに二人の時間を過ごすことのできないすれ違いの日々・・・
これでは 常識で考えたら 夫婦生活を送るなんてムリですよね。
もちろんパチーノの下っ端ギャングの役どころも見ものでした。
ゴッドファーザーのマイケルやスカーフェイスのトニーと違ってしがないチンピラのくたびれ感が何とも言えなかった・・・
<そう,マフィアものではあるがこれはアクションものでもサスペンスでもなく,ヒューマンドラマ,二人の男の切ない友情の物語なのだ。ジョニーファンもパチーノファンも,そしてマフィア映画ファンも必見の傑作。>
やはりマフィアの世界にも 友情はあるんでしょうね。 むろん、その”友情”は血染めの嘘と裏切りにまみれてる限り いずれ崩れてしまうものだったとしても・・・
投稿: zebra | 2015年3月26日 (木) 14時00分
zebraさん お久しぶりです。
ものすごく返信が遅れて(いつものことですが)ごめんなさい。
GW中でやっと自分の時間が取れました。仕事に加え,家族が入院したり自宅介護になったりとバタバタしておりました。
レスをいただいてまたこの作品が観たくなりました・・・・DVDもってます。しかし改めてこの記事の写真を見ると,パチーノとジョニーってお二人とも目力が凄いですね。ジョニーも若い!
マフィアものですが実話にも基づいているし,哀愁の漂う友情ものでもあるし,それになんといってもこのお二人の名演技と存在感が素晴らしかったなぁと懐かしく思い出しました。
投稿: なな | 2015年5月 5日 (火) 23時51分