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2010年6月の記事

2010年6月28日 (月)

シャネル&ストラヴィンスキー

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今年はシャネルの伝記的な作品を3本も観たが,この作品が一番好きかな。(ちなみに一番イマイチに感じたのがオドレイ・トトゥのココ・アヴァン・シャネル

それに比べればこの「シャネル&ストラヴィスキー」は,シャネルの生涯のうちでも,ストラヴィンスキーとの恋愛に焦点を絞って描かれていたので,その分人物描写が深まっていたように思える。

シャネルがストラヴィンスキーのパトロンであり愛人でもあったって,実際はどこまでほんとうなのか知らないけど,芸術家どうしの激しい大人の恋愛は,なかなか見ごたえがあった。
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二人の関係やその顛末は,どこか昼メロっぽい展開だ。妻と愛人の間でオタオタと葛藤する男と,彼を振り回す気の強い女の物語。天下のシャネルとストラヴィンスキーの間に起きたことだからこそ,魅力的にも新鮮にも映るが,実はどこにでもありそうなありきたりの不倫物語なのかもしれない。

それに,二人を演じた役者がとてもいい。

シャネル役のアナ・ムグラリス。シャネルもの3作品の中ではダントツに美人で華がある。実際にシャネルのモデルでもある彼女の着こなすシャネルスーツやその歩き方(完全なモデル・ウォーク!)にうっとり。シャネルの誇り高く妥協しない雰囲気もよく出ていた。

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そしてストラヴィンスキーを演じたマッツ・ミケルセン。やっぱりよいですね~,この方。マッチョな戦士役も,繊細な家庭人役も,なんでもソツなくこなすって感じで。

この作品の彼はどちらかというと弱気なキャラかもしれない。前述したように,糟糠の妻とかわいい子供たちのいる家庭と,シャネルへの愛(情愛っぽい?)との板挟みで悶々とする彼がちょっとかわいそうになってくる。シャネルは彼の才能を愛したのかもしれないが,彼のほうはシャネルに,妻にはない女性としての魅力を感じていたのかな?

・・・・しかし,「脱いだらスゴイんです」この方。運動不足なはずの音楽家が,なぜにあれほどマッチョなのか。それを言うならアナのスタイルも完璧すぎて,このお二人のベッドシーンは不自然なほど絵になりすぎ。

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ストラヴィンスキーの妻を演じた女優さんも存在感があった。
家族がシャネルの屋敷で世話になっている手前,二人の情事を知りながらも耐える彼女の姿に,つい感情移入。(シャネルたちのほうが悪者に見えてしまった。)結局最後はストラヴィンスキーは,妻子を捨てることはなかったのだろうけれど。

全編に流れる不協和音に満ちた美しい音楽が,彼らの関係の危うさや緊張感をよく表していたように思う。

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明日は,これまたマッツ・ミケルセンの,「誰がために」のDVDが届く予定。当分マッツ祭りだ。

2010年6月21日 (月)

ジュリー&ジュリア

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ダイエットおよび節酒しているときには(←それはわたし)絶対に観てはいけない映画だなぁ~,これ。出てくる食べ物がめちゃめちゃおいしそう~という点では,南極料理人と双璧かも。

これは二人の実在の女性の物語。
ひとりは,1960年代に「Mastering the Art of French Cooking」という本でフランス料理をアメリカに紹介し,「アメリカ料理界の母」とまで呼ばれた,伝説的料理研究家のジュリア・チャイルド。そしてもうひとりは,2002年にジュリアの全レシピを,1年で制覇することに挑戦し,その奮闘の日々を自らのブログに綴ったジュリー・パウエル。カリスマ・ブロガーの先駆けとなったジュリーのブログは,本として出版され,2006年にルル・ブルッカー賞を受賞している。
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メリル・ストリープの変幻自在の(ここまでくるとまさに神業)魅力は,この作品でも大炸裂。彼女の作品はどれもハズレがないが,実在した人物を演じた場合も,話し方やしぐさなど本人そっくりに化ける。たしか,「ミュージック・オブ・ハート」で,ブルックリンの小学校のバイオリン教師を演じた時も,実在する主人公の家族がメリルの演技を,「しぐさが彼女そっくり」だと絶賛していたような記憶が。

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身長185㎝と,当時の女性としてはかなり(いや,今でもか)大柄だったジュリア・チャイルド。そんな彼女を表現するために,遠近法のマジックなどを駆使して,メリルは見事にスクリーンの中で大女に変身。底抜けに明るく,食べることが何より好きで,猪突猛進タイプの型破りな女性ジュリア。実際の彼女が出演している映像を見たが,独特の声や話し方がメリルそっくり!いや,メリルの方がジュリアを真似ているのだけども。
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そして,現代女性のジュリーを演じたエイミー・アダムス。この作品の彼女は等身大のキャリアウーマンで,どこにでもいそうなタイプの女性なのだが,やはり彼女が演じると可愛らしい。あれだけこってりしたフレンチを毎日毎日こしらえたら,本来なら体重もかなり増えそうなものだが(実在のジュリー・パウエルは太ったらしい)エイミー・アダムスのヴィジュアルは最後まで標準体重のままで,それに食材の費用も一般人には大変だっただろうなぁ~なんて,妙なことが気になってしまった。

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なにはともあれ,料理を作ること(そして食べることも)が大好きな二人の主婦が,何かにチャレンジして成功するさまを時代を超えて描いたこの物語(というか実話)は爽快である。そして料理プロジェクトというだけでなく、同時にわれわれブロガーに共通する心理もよく書かれていると思う。

ブログを始めて間もないころの,コメント数に一喜一憂するさまや,読者が増えてから出てくる欲のような感情,私生活を多少犠牲にしてまでも,のめりこまずにはいられない中毒性などなど・・・。彼女の作るフランス料理の数々は,こちらには作り方もお味もあまりなじみがなくてピンと来ないものも多いのだが,(でもすごく美味しそうではあったが),それよりも新米ブロガーからカリスマブロガーに登りつめる彼女の気持ちの変化の方が,より共感できて面白かった。

女性には特にお勧めの一本。元気が出ますよ~~。

2010年6月13日 (日)

フェイク

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1997年製作。まだ今ほど売れてなかったジョニー・デップと,円熟期のアル・パチーノとの共演作。FBIの潜入捜査官と,下っ端マフィアの物語だ。監督さんはイギリス出身のマイク・ニューウェル。彼の作品でこれまで観たものは,フォー・ウェディングとか,コレラの時代の愛とか,最近作ではあのプリンス・オブ・ペルシャ 時間の砂。(なんかどれもカラーの違う作品ばかり。器用な監督さんなのかな?)

潜入捜査官の苦労話,という点では,インファナル・アフェアなどを思い出すが,これは実話を元にしていると言うから凄い。ドニー・ブラスコという名前でマフィアに6年間潜入した捜査官ジョー・ピストーネは,今もマフィアの報復を恐れて名前を偽って生きているという。
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ドニーを弟分として可愛がり,自分の夢を託すほどに信頼するマフィアのレフティを演じたパチーノも,レフティとの心の絆が強まるに従って,彼を欺いていることに苦悩する捜査官を演じたジョニーも,ともに素晴らしかった。

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特にこのジョニーは渋く,オールバックに口髭,サングラスに皮ジャン,名優パチーノとサシで演技してもなんら遜色のない存在感だ。こんな作品の彼を観ると,ジョニーはやっぱり演技派なんだなぁ」と実感する。
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家庭を顧みることができない彼と妻子との感情は常にすれ違い,いったいどちらが本当の自分なのか,諍いの絶えない妻よりも,レフティの方に惹かれてゆき,次第に堅気の服装よりも,マフィアの服装や言動が板についてくるドニー。
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いつばれるかわからない,綱渡りのような緊張感と,自分を信頼しきっているレフティを裏切る日が来ることに対する罪悪感・・・・。抑えた内心の感情を現すジョニーの瞳の,厳しさ,鋭さ,そして痛々しさ。いや~~,カッコいいです,マジで。

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そしてジョニー以上に名演技だったのがやっぱりアル・パチーノ!彼はたくさんの映画でマフィアを演じてきたが,ゴッドファーザーマイケル・コルレオーネのような,冷徹さと品格の漂うキャラのときもあれば,スカーフェイストニー・モンタナのような,下品でパワフルなキャラのときもある。そしてこの作品のレフティのような,うだつのあがらないキャラであっても,まあなんと上手く演じることか。

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マフィアにしては人がよすぎるために,いつまでたっても下っ端から昇格できないレフティ。そんな哀愁の漂うくたびれたキャラを,パチーノは,時にはしみじみと,時にはコミカルに演じている。

彼がドニーに寄せる信頼と友情,そして夢。
それらがいつかすべて消える日がくることを,観ているこっちは知っているだけに,レフティが言ったりしたりすることを,なんとも切なく感じてしまう。
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二人の禁断の友情の篤さに,つい涙腺がゆるみそうになったシーンが二つある。ドニーが自腹を切って中古の船を買い,「堅気にならないか?」と持ちかける場面と,ラストの,すべてが明るみに出た後,ファミリーの制裁を受けに出かけるレフティが,妻に「あいつだから許せる」と言い残す場面だ。

そう,マフィアものではあるがこれはアクションものでもサスペンスでもなく,ヒューマンドラマ,二人の男の切ない友情の物語なのだ。ジョニーファンもパチーノファンも,そしてマフィア映画ファンも必見の傑作。

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それにしても,ヒートといい,インサイダーといい,スケアクロウといい,セント・オブ・ウーマンといい,リクルートといい・・・・パチーノって,恋愛ものより,同性と相棒を組む映画でいい味を出しますね。

 

2010年6月 8日 (火)

告白

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2009年の本屋大賞受賞作である,湊かなえ氏の原作は一応買ってあるが,未読の方が衝撃が大きいかと期待して読まずに劇場へ。

冒頭の教室シーン,まるで学級崩壊のような状態の子供たちに向かって,終始声を荒げるわけでもなく,淡々と話す女教師,森口(松たか子)の態度に,多少の苛立ちの混じった違和感(もっと叱ればいいのに,あの教師像はあり得んだろ,とか)を感じたが,すぐに異常な設定の物語に引き込まれて,ラストまで呼吸をするのも忘れて見入ってしまった。
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学園を舞台にした物語とはいえ,「愛娘を殺した教え子に教師が復讐する」という設定自体が激しくリアリティに欠けているので,その後に展開される,登場人物たちの信じられないほどの悪意や残酷さなどもすべて含めて,これはたしかに現実社会の問題を反映してはいるが,それをかなりデフォルメした残酷寓話の一種なのだろうと思った。

そう思って観れば,この物語は非常によく出来た,傑作だということができるだろう。こういうジャンルの作品が苦手でなければ,かなり面白い,といってもいいかもしれない。

しかし,この作品からは確かに並々ならぬパワーと衝撃を受けるけれど,それは感動ではない。うまく表現できないけれど,頭をガツンと殴られっぱなしの2時間・・・・鑑賞後はふらふらになって席を立てない,といった感じだろうか。(実際に,エンドロールが終了するまで,観客の大半が呆けたように座っていた。)これと同じ感触は,オールドボーイでも感じた。傑作だけど,私は好きだけど,安易に人にはオススメできない,というような感じ。
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主要登場人物は,森口先生の他は,犯人の少年AとB,そしてそれぞれの母親,Aの親友となる少女。彼らそれぞれが,まことにイヤなキャラクターなのである。

それでも,彼らの背景が映し出されるにつれて,その異常な行為や考え方にも,それぞれ事情や理由があることがわかってくる。特にキーマンでもある少年A の,自分を捨てた母親への思慕とトラウマから来る人格のゆがみは,観ていて途中で切なくなってくるほどだ。

しかし,この物語の凄いところは(イヤなところと言い換えてもいいが),そうやって観客を多少なりとも感情移入させた後,いきなり足元をすくうような裏切り方をしてみせるところだ。
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どんな事情があるにせよ,やっぱり彼らは(特にAは)モンスターなんだということを,その後のAの独白シーンによってじわじわと見せつけてくれる。

それは他の登場人物も同じで,入れ替わり立ち替わり告白者が替わることで,事件の全貌が次第に浮き彫りになってゆくのだけど,その過程で,まるで手品の箱から無尽蔵に出てくるかのように,それぞれの悪意や愚かしさ,残酷さなど,醜悪なものが後から後から,これでもか,これでもかと時間差で出てくる。

そのなかにはこんな邪悪な発想,今まで聞いたこともない,というものもあって,眩暈や戦慄を感じるほどで,ここまで突き抜けてるとかえって圧倒されている自分がいた。
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そう,まるで悪意の応酬合戦なのだ。
ひとの心に巣食う,あらゆるマイナスな感情を陳列してみせられた感じ。森口先生の後任で,事情を全く知らない超KYの熱血男性教師(岡田将生)の暴走する善意でさえ,本人の意に反して相手を追い詰める凶器になりうる,という点は,怖ろしいブラックユーモアのようだった。

そして物語が終盤に近付くにつれ,一番のモンスターはもしかして,完膚なきまでの復讐を容赦なくやり遂げた森口先生なのだろうか,という思いにとらわれた。
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彼女の場合も,「第1章で告白したことがすべて」かと観客に思わせておいて,実はそれだけではなく,その後もいかに用意周到に執念深く罠を張り巡らしていたか,ということが後半で徐々に明かされ,ラストで収束するような仕掛けになっている。

「仮にも教師であるからそこまではしないだろう」とか,「復讐ではなくて命の授業なのだろう」とか,そんな甘い期待はラストの彼女の表情ですべて覆され,これは完全に純粋な復讐劇なのだと悟ったときの戦慄。このときの松たか子の演技は凄い。鳥肌が立つほどだ。
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あと,少年少女(全員モンスターだが)の演技も素晴らしいし(特に少年Aが光っていた)映像と音楽もよかった。この監督さんの作品は初見だけど,スローモーションやフォーカスを駆使して,ものすごく印象的な美しい映像を撮る。音楽もシンプルでピュアで,救いのない重いテーマと裏腹なのがかえってすごくよかったと思う。監督と俳優の功績で,きっとこれは原作を超える映画になったのではないだろうか,と思った。

怖いもの見たさでお化け屋敷に入って,さんざん怖がらされてへとへとになったような気分になったけど・・・・それでもこの映画は傑作だと思う。もちろん,無理に誰にでもオススメはしませんが。

 

2010年6月 6日 (日)

懐かしのジェイク/ブロークバックマウンテン番外編7

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先日観たプリンス・オブ・ペルシャでのジェイクの成長ぶりというか,変貌ぶりにぶったまげて,またまた久々にBBMを再見。こないだ観てから1年半くらいたってるかしら・・・・。

とにかく,目の表情がすごく上手いのよね,ジェイクの場合。濃いまつ毛に縁どられた彼の大きなブルーの瞳はインパクトが強くて,イニスへの抑えきれない愛情や,同性愛が御法度だった時代ゆえの後ろめたさや狼狽,夢が潰えた時の失望や哀しみなど,それら複雑な感情すべてを,まばたきや瞳のデリケートな動きなど,眼の表情の変化だけで表現できてしまうのがすごい。
 
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ジャックの心持ちに感情移入して切なくなったシーンはみんな,彼の眼のアップにやられたんだ~ということが,今回再見して改めて痛感。そして,ジェイクの観せ方を心得ているリー監督の手腕にも感心。ジェイクが最もキュートで美しく見える角度でのショットが多いし,ここぞというときの瞳のアップも的を得ている。

そんなジェイクが,ほんと久々に劇場公開作に登場し,ジャックとはまったく真逆のキャラで我々を再び魅了してくれたのは,ファンとしてはこの上ない喜びだ。

しかし,まさかこういうキャラだとは・・・・・。

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BBM熱に浮かされていた頃には想像もできなかった。ジェイクがゲームが原作の作品でバリバリのアクションキャラを演じるとは。
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これまでの繊細な役どころとは打って変わってアクティブで陽なキャラクターのダスタン王子。ブートキャンプなみのトレーニングを半年もこなして臨んだ作品で,われらがジェイクはその身体能力とプロ意識の高さを見せつけてくれた。やんちゃでお茶目な部分は,素のジェイクを反映してるかも。とにかく,ジェイクがイメチェンというか,どんなジャンルもこなせる万能俳優として認識されたのはファンとしては嬉しい。
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まぁ,わたしとしては繊細キャラのジェイク,そしてお髭のないジェイクの方がいまでも好み,という点は否めないが・・・・それでもBBMの主要登場人物4名がみんな(もちろんヒースも含めて)後の作品で全員演技派として華々しい成功を収めていることはさすがだと思う。特にジェイクには,不慮の死を遂げたヒースの分まで頑張ってほしいという思いが強いので,今回のジェイクのスクリーンでの久々の活躍は手放しで喜びたいところである。

最後はやっぱり,今はなきヒースの画像で・・・・。

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ああ,やっぱり切ない。彼の不在を受け入れられるようになった時の流れそのものが哀しいというか・・・。BBMの中でのイニス=ヒースは,私の中では絶対的な存在なのかもしれない。

2010年6月 5日 (土)

ミレニアム ドラゴン・タトゥーの女

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近年のスウェーデン・ミステリはすごい。
ということで,これは原作を先に流し読みしていた。原作者はスティーグ・ラーソン。世界中で大ベストセラーとなった3部作のうちの1作目だ。劇場では見逃したので,DVDで鑑賞。もちろん期待を裏切らない,面白く完成度の高い作品になっていた。

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あらすじ:
ジャーナリストのミカエル(ミカエル・ニクヴィスト)は、ある大物実業家の違法行為を暴露し、名誉棄損で有罪になる。そんな彼に目をつけた大企業の前会長が、40年前に疾走した自分の血縁にあたる少女についての調査を彼に依頼する。ミカエルは天才ハッカーでもある調査員リスベット(ノオミ・ラパス)と協力して、未解決事件の真相に迫る。(シネマトゥディ)

原作を読んだときにまず思ったことは,ヒロインのリスベットを映像化するのはけっこう大変だなぁ,ということ。既知のハリウッド女優さんの誰の顔も思い浮かばない,斬新にして魅力的,そして型破りなキャラクターのリスベット。
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天才ハッカーであると同時に,後見人が必要なほどの,いわくつきの過去を持つ男性不信の権化のリスベット。

パンク・ファッションとでもいうのだろうか,登場シーンでの彼女のメイクに魅了される。似合わないのは百も承知だが,黒いアイシャドウ(これは持ってる)と黒いルージュ(これは持ってない)と皮ジャン,私も試してみたくなった。リスベットを演じた女優さんが黒いルージュがとても似合っていたので余計にそう思ったのかも。
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ストーリーが面白いのは,もう原作で知っていたのだが,実際にスウェーデンの荒涼とした自然を背景にテンポよく進む物語からは,ハリウッドものにはない魅力を感じた。

陰惨なシーンも多く,テーマのひとつには,女性を対象にした性犯罪や虐待という重いものもあるのだが(スウェーデンではこの問題は他の国より深刻らしい),鑑賞後に感じる爽快感やカタルシスは,やはりヒロイン,リスベットの行動が痛快だからだろうか。心に深いトラウマを秘めながらも,「やられたらやりかえす」という強さや突き抜けぶりは,同じ女性としては観ていてとても気持ちがいいものがある。
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三部作なので続編もとても楽しみだ。ちなみに原作の方は2作目以降はまだ未読。スウェーデン・ミステリの秀逸さは,他にも「スウェーデンのアガサ・クリスティ」と呼ばれるカミラ・レックベリの「氷姫」を読んだときも感じたが,どんどん映画化してほしい。(「氷姫」は映画化が決定しているそうだけど)その際にはぜひ,ハリウッドの手によるのではなく,スウェーデンを舞台にしてスウェーデンの俳優さんたちを使って。

2010年6月 2日 (水)

クイルズ

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美徳を知りたければ
まず悪徳に通じることだ。


2000年製作の,マルキ・ド・サド侯爵をモデルにした衝撃作。初見時はそんなに良さがわからなかったけれど,今回DVDを観直してみて,別の意味で衝撃を受けた。

それはこの作品での,ホアキン・フェニックスの上手さと美しさ!ホアキンと言えば,「グラディエーター」での憎々しくも哀れを誘う悪皇帝コモドゥス役とか,「ウォーク・ザ・ライン〜」のビリー・キャッシュ役とか,アクの強い性格俳優という印象があったのだけど,たしかにこのクイルズでも高度な演技を披露してくれているが,外見と言うか雰囲気と言うか・・・・これまで知っていた彼とはまったく違うタイプのホアキンを観ることができて驚き。
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神父役なんですよ,彼。それも清らかで繊細な。

この時代の,腰から下が広がったロングスカートみたいな法衣姿のホアキン。彼の演じるクルミエ神父は,とてもピュアな美青年で,当時人間的な扱いを受けていなかった精神病院の患者たちに惜しみない慈愛を注いでいた。

そんな彼が,サドを更正させようと虚しい闘いを繰り広げるうちに,反対に自分の方が次第に悪魔の陣営に堕ちていくのだが,その堕ちてゆく過程のホアキンの演技が素晴らしい。

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「グラディエーター」とほぼ同じ頃に撮られたこの作品,一点の邪心もない清らかさと,相対する秘められたエロティシズム。この矛盾した真逆のムードを,どちらも漂わせることができるホアキンの魔性の瞳。まさに変幻自在で,エキゾチックな魅力に満ちている。(・・・って,ちょっと褒めすぎ?でもそれくらい,この作品の彼は美しいし,芸達者だ。)

神父である彼が封じ込めてきたマドレーヌ(ケイト・ウィンスレット)への禁断の恋慕の情を解き放つことになる,サド公爵の悪魔的なまでの言葉の技。ラストにはついに,ホアキンの瞳には,すさまじい狂気までが宿るようになる。
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神父だけでなく,病院内の他の患者たちの心に封じ込められた悪魔をも解き放つ,サド公爵の強烈な文章の影響力に戦慄した。サドの小説を口伝えに送るうちに,放火の快感を思い出してしまう放火犯や,患者の暴力的な行為の犠牲となるマドレーヌ。

意外でもあったのは,この物語の中では,職業や身分にかかわらず,誰もがサドのそんな危険で罪深い書物を切望し,夢中になったということ。そう,老いも若きも,淑女も娼婦も,人妻も処女も誰もかれもが。
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サド公爵が書いたり語ったりした物語は,現代のわれわれから見れば,巷に氾濫しているポルノ出版物に比べればどうってことのない代物かもしれない。サドの物語があれほど人々を麻薬のように引きつけたのは,それが禁止されていた時代だったから,なのだろう。

人間であれば誰しも,悪徳と美徳のどちらの素質も持っているはず。つまり,ひとは誰でも,聖人のように高潔にもなれるが,悪魔のように淫蕩にもなる可能性を持っている,と思う。
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徹底して無神論の立場を取り続けたサドと違って,クルミエ神父こそ,同じ人間の中に神と悪魔の両方が住む,ということを示す生き証人のような存在なのかもしれない。

冒頭ではサドを友人として手厚く扱い,神の愛によって更生させようとしていた神父。しかしサドの傍若無人で挑戦的な行いの数々のせいで病院経営が危機に陥り,どんなに手を尽くしてサドの執筆の手段を取り上げてみてもすべて無駄に終わり,ついにマドレーヌに恐ろしい災難が降りかかったとき・・・神の慈愛を説く神父がサドの舌をひっこ抜き,彼の死後はその後継者となるまで堕ちてゆく。
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サド侯爵を演じたジェフリー・ラッシュの怪演も見事だ。実際の侯爵は血なまぐさい犯罪者でもあったらしいのだが,この作品のサド侯爵は,そういった悪徳の権化というよりは,「すさまじい執念とエネルギーを持って,己の思想を表現することに命を賭けた人物」 としての面が強調されていたようだ。

いかなる迫害も非難にも屈することなく,紙とクイルズ(羽根ペン)を取り上げられれば,ワインや自分の血や排泄物までも使って物語を綴り続けたサド侯爵。しかし彼の発する並々ならぬパワーが,多くの人を滅ぼしてしまったこともまた事実である。

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今回再見してみて,これはとても深い,真摯な物語である,と痛感。ジャケットの画像のようなエロティックでセンセーショナルな面ばかりを期待して観ると肩すかしを食らうかもしれないが,答えの出ない人間の本質を問う,なんとも奥深い作品だと思う。

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