南極料理人
面白いとは噂に聞いていたけど,ほんとにね~,これとってもいい作品。そう,さりげなく癒し系というか。
究極の単身赴任,行き先は南極。
ペンギンもアザラシもいない,ウイルスさえ生息できない,平均気温マイナス57度の地。そこに派遣されたチームのメンバーは,無論,生え抜きのエリートで,使命感に燃えた人々かと思っていたら,これがけっこうみんなかなりの「ゆるキャラ」で。作品全体をこの「ゆる~~~~い」雰囲気が最初から最後まで支配していて,「これでいいのか?」と思いつつも,なんだかほっとするこの心地よさ。
南極でのお仕事の様子や,単身赴任特有の悩みは,そんなに深刻に描かれていない。そう,焦点はあくまで調理担当の吉村さん(堺雅人)の作る,「おいしいごはん」
のっけから,食卓に並ぶ料理の豪華さに目を見張る。和洋中華,何でもござれの腕利き料理人の西村さんが,丹精込めて作る食事を食べる隊員たちが羨ましい。いや,別に南極へは行きたくないけど…。
男ばかりの食卓の風景は,食材や調理法や味付けについてのおしゃべりに花が咲くこともなく,食器のたてる音がせわしなく響くばかりだが,それでも誰もが,西村さんの作る食事をとても楽しみにしているのが伝わってくる。
ワルキューレの騎行の曲をバックに,「皆さ~ん,今日のお昼は,おにぎりと豚汁ですよ~」という,西村さんのアナウンスが雪原に響くと,我先にと転がるように帰ってくる隊員たちが可愛い。
だからこの後で,別の隊員が「皆さん,一時半になりました。ぞうすいの時間です。」というアナウンスをしたシーンでは,「え,さっきお握りたらふく食べたのに,また雑炊食べるのかよ?」と突っ込んでしまったが,ぞうすいって雪を集めて生活水を造る「造水」のことだったのね。自分の勘違いに大笑い。
とにかく全編を通して出てくる豊かな食事,そしてそれをめぐる,ちょっとしたアクシデントや南極ならではの工夫や苦労が面白い。それも爆笑する面白さではなく,ちょっとトボケたゆるい面白さ。
ストレスで,夜中にバター丸かじりとか,やっと完成した手作りラーメンを食べたいばかりに,オーロラ観測を全員がサボっちゃうとか。折々の,隊員たちの名台詞がなんともまた笑えるのだ。
西村くん,僕の身体はね~,ラーメンでできているんだよ。(泣)
とりたてて大事件や盛り上がりがあるわけでもなく,こんな感じで隊員たちの日常と食事の物語が淡々と,ゆったりと続くのだけど,なんだかこれをいつまでも観ていたいような,終わってほしくないような気持ちになった。
食は生きる源。
食は癒しとコミュニケーションを担うもの。
そして食とは,作り手の創意工夫と愛情の賜物。
そんなあたりまえのことを教えてもらえる作品。
大好きな堺雅人さんの癒し顔を思い浮かべながら,私も家族のために,美味しいごはんを作りたくなった。
« グッド・バッド・ウィアード | トップページ | 好奇心は猫を殺す »
「映画 な行」カテゴリの記事
- ナイトクローラー(2015.12.25)
- ノア 約束の舟(2014.06.22)
- 嘆きのピエタ(2013.08.22)
- ナイト&デイ(2010.10.18)
- ニック・オブ・タイム(2010.05.27)
コメント
トラックバック
この記事へのトラックバック一覧です: 南極料理人:
» 「南極料理人」 究極の単身赴任 [はらやんの映画徒然草]
今回のサブタイトルは、本作「南極料理人」の予告の中で使っていたコピーです。 もう [続きを読む]
» 『南極料理人』(2009)/日本 [NiceOne!!]
監督・脚本:沖田修一原作:西村淳主題歌:ユニコーン出演:堺雅人、生瀬勝久、きたろう、高良健吾、豊原功補、西田尚美、古舘寛治、黒田大輔、小浜正寛、小出早織、宇梶剛士、嶋田久作公式サイトはこちら。<Story>海上保安庁の料理担当である西村(堺雅人)は、南...... [続きを読む]
» 「南極料理人」良かったです☆ [ポコアポコヤ 映画倉庫]
こういう知られざる?暮らしをしている人の日常にスポットをあてて、ユニークに見せてくれる映画は大好き。4つ★半〜5つ★
[続きを読む]
» 「南極料理人」★★★★ [***JoJo気分で気ままにGO!***]
'09年制作 監督:沖田修一 出演:堺雅人、生瀬勝久、きたろう、高良健吾、豊原功補、西田尚美、古舘寛治、小浜正寛、黒田大輔(敬称略) 見渡す限り氷・氷・氷の白銀の世界・南極。ペンギンはおろかウイルスさえも存在しないこの場所に、海上自衛隊の料理人...... [続きを読む]
こんばんは。
ぼくも、おいしいものを作りたくなりました。
料理を題材にした映画は、
観ている人をその気にさせるのが必須。
『食堂かたつむり』もよかったです。
でも『ホノカアボーイ』は
あまりおいしそうに見えなかったなあ。
投稿: えい | 2010年3月 4日 (木) 22時51分
えいさん こんばんは
おお,えいさんもお料理なさるんですね。
お料理って,本気ですれば
実は男性の方がこだわる分じょうずなような気もしますよ。
一流のシェフは男性が多いですしね。
「食堂かたつむり」いいそうですね。
育てた家畜を食べるというのは
ちょっと個人的には抵抗がありますが
世間の評判がいいので,また観てみようかな・・・
投稿: なな | 2010年3月 5日 (金) 00時39分
ななさん、こんにちは☆^^
ははは、雑炊の時間じゃなくて、水を作るぞうすいだったんですよね(^ー^* )フフ♪
勘違いしますよね~^^
写真を見せていただいて、そうそう、あのものすごい肉のかたまりの料理があったなぁと思い出しました。
あれも凄かったですよね。
おにぎり、ラーメン・・うぅぅ・・よだれが・・だったんですが、日本人ならではの料理がほとんどだったので、すぐにでも食べられるかもしれないと言うところで、余計にお腹がグーになったのかもしれないなぁって思いました。
ななさんが書いてらっしゃるように、とぼけたゆるさが堪らなく良かったですし、ちょっとしか映らなかったけど、あれでちょうど良いと思った、帰ってからの彼らの映像もとても好きでした♪
投稿: メル | 2010年3月 5日 (金) 09時08分
ななさん、こんばんは!
エビフライの気分になったら、エビフライ!
っていうのはわかりますよね〜。
僕は本作の中で一番おいしそうだなあ〜と思ったのは、あのおにぎりです。
コンビニのおにぎりは食べますが、ああいう手作りのおにぎりってそういえば食べてないなあと。
やはり作った人を感じる料理はおいしそうですよね。
投稿: はらやん | 2010年3月 5日 (金) 19時01分
コチラ、本当に映画全体が暖かい料理みたいな作品でしたよね!
極寒の熾烈な環境での物語なはずなのに、、なんでこんなに まったりと暖かいの??と思ってしまいました!
西村さんのキャラもいいですよね! あ、、ここ怒らないんだ!!と何度も思ってしまう事が多々あり、、大物っぷりを発揮していましたよね(^^)
あの エビフライ メニューとして出してくれるお店ないのかしら、、
投稿: コブタです! | 2010年3月 5日 (金) 20時31分
いろいろといただき、ありがとうございました!
人間って、しようもない生き物で、貪欲で、わがままですが、その貪欲さが生み出した、味への追求だけは、ありがたいですね。
書くことが本職の方ではないので、本の方はいまいちらしいですが、やっぱ味が伝わる映像がいいですね。
でも、行きたくねえ。
投稿: sakurai | 2010年3月 5日 (金) 23時05分
メルさん こんばんは!
もう最初っから,美味しそうな食べ物ばかり出てきて
そのせいか「ぞうすい」は勝手に
「雑炊」と変換しちゃっていました。
西村さんの作る雑炊もきっととっても美味しいんでしょうね~
美味しい食べ物に触れると
それは映像でも文章でもですけど
なんか心が豊かになりますよね。
ただ食欲を満たすだけでなく,
見た目や心の込め方も大事なんだなって思いました。
日本に帰ってきた西村さんが
なんとハンバーガーを口にして
「うまっ!!」と言ったラストが印象的でした。
投稿: なな | 2010年3月 5日 (金) 23時29分
はらやんさん こんばんは!
そうそう,あのおにぎり。
いろんな具があってほんとうに美味しそうでした。
それに握る時の堺雅人さんの手つきや表情を見てると
ますます食べたくなりましたね~
コンビニおにぎりが普及してから
手作りのおにぎりってすたれてきましたが
やっぱり愛情込めて手で握るおにぎりは最高ですよね。
投稿: なな | 2010年3月 5日 (金) 23時32分
コブタさん こんばんは
堺さん,この作品にぴったりのキャラでしたね。
>あ、、ここ怒らないんだ!!と何度も思ってしまう事が多々あり、
ときには菩薩のようにも見えた彼の笑みは,
優しさと包容力と一種の諦めが混じっていて
まさに母性を感じましたよ~
やはり「食」を担うのは「母」なのでしょうね。
>あのエビフライ メニューとして出してくれるお店ないのかしら、、
いや~,ほんとあれ,私も食べてみたい~
この映画を見て,
チャレンジしてくれるお店があればいいのにね!
投稿: なな | 2010年3月 6日 (土) 00時16分
sakuraiさん,こんにちは!
味への追求というわがままなら
ゆるされるような気がしますね。
美味しいものはほんとに活力になりますから。
>でも、行きたくねえ。
南極まで行かずとも
あんな美味しい料理が食べれたら最高ですが
南極のような究極の不便な土地だからこそ
美味しいもののありがたみも増したのかな?
投稿: なな | 2010年3月 6日 (土) 09時42分
こんばんはー^^
この映画、わたしは映画館で観たんですけど、すっごく良かった♪
面白かったです!!
出てくる料理も本当に美味しそうで^^
極寒の地で、食べ物だけが最大の楽しみになるんだろうなぁ^^
でも、美味しいもの食べれたらあまり苦もなく過ごせるかも^^
伊勢エビは大笑いしました~~(笑)
投稿: みすず | 2010年3月12日 (金) 19時00分
みすずさん~
お久しぶり,コメントありがとう!
いい映画でしたよね~,これ。
さりげないけど,ゆるゆるだけど
人間愛の詰まった作品でした。
食べ物ってほんと大事だよね。
健康面だけでなく
メンタルな面でも大切なんだよね。
美味しいごはんを毎日食べれる,ということが
どれほど人の活力になってるか,よ~~くわかりました。
あまりにも優秀な料理人が家庭にいると
太ってしまいそうな気もしますけどね~。
投稿: なな | 2010年3月13日 (土) 23時13分
ななさん、こんにちは!
そうそう、ぞうすい!同じ発音ですもんね~。
ななさんちでは、一杯写真があって、またまた映画のシーンが色々蘇って来ました。
オンザロックの氷は、いいなー!って私も思ったなー、
美味しそうな料理と、その料理に負けない内容の面白さと、バランスの取れた映画でした。
「プール」がレンタル開始になったようで、そちらも近々見ようと思ってるのですが、内容がどうも先に見られた方のレビューなどで、自分に合わない部分がありそうで、心配だな~(^^ゞ
投稿: latifa | 2010年4月20日 (火) 14時27分
latifaさん こんばんは
お料理の映像がほんとに美味しそうで
空腹時にはたまらん作品ですよね~
男性はヨダレが出るだろうし
女性は料理意欲が湧きますね~
>料理に負けない内容の面白さと、バランスの取れた映画でした。
それぞれのエピソードが
ほどよく面白くて,絶妙でしたね。
「プール」も同じ癒し系作品ですか~?
加瀬さんは好きなのですが
評判がイマイチなら,ちょっと心配ですね。
投稿: なな | 2010年4月21日 (水) 00時24分
ななさん、こんにちは!
ごぶさたしてますが、お元気ですか!?
わたしは、延々と続く乾燥の日々で、
もうお肌がガッサガサ・・・困ってます(笑)
本作、WOWOWで観賞。
最近、すっかりさっぱり味の邦画を好みで、
このところ立て続けに観ていますが、
こちらも面白かった~。
おっしゃるように”食は癒しとコミュニケーションを担うもの。”を改めて気付かされる内容で。
そして、無性にラーメンが食べたくなる物語でした!
そういうときに限って家に買い置きがないんですよね・・・。
原作ではいろいろとレシピも載っているとか。
ちょっと読んでみたいです~。
投稿: JoJo | 2011年2月 5日 (土) 15時53分
JOJOさん こんばんは!
>すっかりさっぱり味の邦画を好みで・・・
さっぱり味の邦画には
堺さんのような持ち味の俳優さんが欠かせませんね。
>無性にラーメンが食べたくなる物語でした!
苦心の末のラーメン,ほんとに美味しそうでしたね。
オーロラ観測なんてどうでもよくなる気持ち
わかりますよね~~。
原作は本屋で見かけたことあるんですが
そうですか,レシピも載っているんですね!
真似して作ってみたいですね。
投稿: なな | 2011年2月 6日 (日) 22時43分