タクシードライバー
1976年製作。アメリカン・ニューシネマの終焉期を飾るスコセッシ監督の名作。ロバート・デ・ニーロがあのゴットファーザーPARTⅡの二年後に主役を演じた作品だ。(当時33才)
ベトナム戦争の後遺症の影響で,犯罪や暴力,ドラッグで腐敗した当時のアメリカ社会。その中で孤独と焦燥感をつのらせ,静かな狂気にとらわれてゆく,一人のタクシードライバーの物語。
元海兵隊員トラヴィス(デ・ニーロ)は,ニューヨークの街をあてどもなく流すタクシードライバー。彼は,大都会にはびこる犯罪や悪に怒りを覚えると同時に,誰ともわかりあえず認めてもらえない,深い孤独や疎外感に苛まれている。
彼は,大統領候補の議員の事務所に勤める高嶺の花,ベッツィーに恋をするが,初めてのデートにポルノ映画をチョイスし,即効振られてしまう。そんな彼が議員襲撃という常軌を逸した計画にのめり込んでいったのは,生きる目的や使命が欲しかったせいもあるが,自分を失望させた世間への腹いせもあったのだろう。
自室でトレーニングに励み,マグナム銃を手に入れ,腕から飛び出すように改造し,鏡の前で独り言を言い,ポーズを決めるトラヴィスの目に宿るのは,社会をよくしたいという正義感ではなく,再び戦士になって何かを破壊したいと願う狂気だ。目的を見つけた彼の目には生き生きとした光が宿り,動作が自信に満ちてくる。
しかし,この時のデ・ニーロの,なんと哀しくもカッコよいこと!ほんとに若い。老成したキャラだったゴッドファーザーのヴィト役に比べて,このトラヴィス役の彼は,ちょっと疲れた感じのまだほんの青年。
冒頭のルームミラーに映し出される彼の目のアッブ。その傷ついたような寂しげなまなざしを見た瞬間から,感情移入がしにくいキャラであるにもかかわらず,彼の演じるトラヴィスにもう釘付け。
目論んだ議員暗殺は失敗し,その足で,やり場のないエネルギーを売春少女アイリス(14歳のジョディ・フォスター)への救出に向けるトラヴィス。アイリスを囲っていた売春組織の元締めたちを容赦なく殺戮し,気がついたときには,彼は少女を売春組織から救いだした英雄に祭り上げられていた。テロリストが一転してヒーローに。なんとも,皮肉な展開をトラヴィス本人はどう感じたのだろうか。
ラスト,まるで憑き物が落ちたかのような穏やかな表情で,再び街をタクシーで流すトラヴィス。しかし,その目に宿る孤独な光は,以前よりも深くなっているように感じた。彼の載った新聞記事を見て接触してきたベッツィーにも,トラヴィスはもはや心を開かず,料金ももらわずに走り去る。
トラヴィスが変えたかった社会は,結局何の変化もなく,
彼の孤独もまた,埋められることはない。
無数のイエローキャブが街を流してゆくラストの映像を見て,トラヴィスのように,心に孤独や闇を抱えたタクシードライバーは,他にもたくさん存在するのでは,と思った。そして,30年後の現代,アメリカだけでなく世界中で,社会に怒りを感じて狂気に走る,トラヴィス予備軍が増えてきているのではないか,と戦慄もするのだ。
しかしスコセッシも,昔の方が,ずっといい映画を撮っていたのね。
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» 『タクシードライバー』 [めでぃあみっくす]
マーティン・スコッセシ監督作品の中で一番好きな映画はやっぱりこれです。昨今『アビエーター』や『ギャング・オブ・ニューヨーク』そして『ディパーテッド』で再びアカデミーの常連となっていますが、個人的にはこの頃の監督のテイストが好きなのでこういった映画をまた撮....... [続きを読む]
ななさん、こんばんは。
ロバート・デニーロの出世作ですよね、コレ!
デニーロの映画は80年代以降の「アンタッチャブル」や「エンゼルハート」「ミッション」「恋におちて」など、色々観てましたが、
この「タクシードライバー」は遡って観たので、
その若さと個性的な役作りにビックリした記憶があります。
衝撃的でした。。ジョディ・フォスターにもビックリ@@
で、続けて観た「ディア・ハンター」でまたまた衝撃を受け、
役者としてのスケールの大きさに圧倒されました。
ハンサムな人を演じる時はハンサムにも見えるし、
悪人の時は、憎たらしいほどのワルだし、
引き出しがたくさんある役者さんですね。。
投稿: ちー | 2010年2月12日 (金) 21時13分
ちーさん こんばんは!
おお,これもご覧になっているとは!(尊敬)
私はデ・ニーロの作品は彼が中年になってから観たのですが
(初見作品は何だったか忘れましたが)
若いころの彼を観て衝撃を受けたのは「ゴッドファーザー」
それ以来,気が向くと「若いころのデ・ニーロ祭り」をやりますが
「ミッション」「アンタッチャブル」(これのデ・ニーロは
太ってましたが)
「恋におちて」は観ました~
「ディア・ハンター」「エンゼル・ハート」は未見なので
またぜひ観たいです。
「デ・ニーロは鬼のように映画に出る」と言われてますが
役作りのために痩せたり太ったり
ゴッドファーザーの時には確かシチリアでイタリア語の修業をしたり
この映画では実際にタクシードライバーを体験したり
その情熱とプロ根性には脱帽ですね。
真の名優とは,こういう人のことを言うのでは,と思います。
役者馬鹿とも言えるかもしれませんね。
ところでリターナー,今日届きました。明日じっくり観る予定です。
投稿: なな | 2010年2月12日 (金) 21時46分
再びお邪魔しま~す^^
最近、昔の名作を紹介して頂いているので、
私の年齢だとこのへんはかかせません(笑)
「エンゼルハート」は、一時期ミッキー・ロークに凝っていた時があって観ました。なかなか素敵でしたよ。映画も面白かったです。。
「リターナー」・・
楽しみですね! 私も観たくなってきました(笑)
コメンタリーとかも充実してて、楽しめると思います^^
投稿: ちー | 2010年2月12日 (金) 22時04分
ななさ~ん、こんにちは!
私も参加させて下さい♪
実はこの映画、ここ最近(1年以内)に初めて見たんです。
昔、すごい人気があった映画だったし、何度かトライしたんだけれど、TV放映だったために、吹き替えだし、CMが入るし・・家族とざわざわしてる居間で見る映画じゃなかったなあ・・・って思います。今振り返って思うと、そういう環境で集中して見れないのはもっともだったな、って^^
で、先日初めて見て、すっごく良かったです。
なんか、こう、、、この時代にこの映画が作られた・・って事と、この時代の若い子達が、主役のデニーロをカッコイイって思ったことも、納得というか♪
>この時のデ・ニーロの,なんと哀しくもカッコよいこと!
私も、びっくりしましたー。
おじさまになってからの印象が強かったので、後からゴッドファーザーのカッコ良かった若い頃や、この映画のデニーロ見て、なんてカッコ良い人だったんだろう・・・って思いました。
投稿: latifa | 2010年2月13日 (土) 14時59分
こんばんは~~♪
これがデ・ニーロ!!びっくりですね~。
こんなに素敵な人だったのね。。。
映画自体は観た事あるんですが~デ・ニーロって認識なかった。。。内容も細かいとこ覚えてないし><;
彼を一番見てるのはやっぱり『フェイク』なんですよね。
あのくたびれた中に瞳だけが輝く時があって・・・
やはり素敵な男優さんだなぁって。
けど、この若い頃・・・いいですね~。
ジョディは変わらない~~~。
彼女を初めて観たのは、『ダウンタウン物語』でした。
これは凄かった。子供なのにすごいセクシーで・・・
投稿: | 2010年2月13日 (土) 20時34分
↑名前書くの忘れました・・・ごめんなさい。
マリーです。。。
投稿: マリー | 2010年2月13日 (土) 20時35分
ちーさん こんばんは
デ・ニーロ関係の映画を続けて観たくて
レンタル店に行きましたが
「エンゼルハート」はなかったので
かわりに「ディア・ハンター」と「グッド・フェローズ」をレンタル。
それと,初見ではないのですがもうほとんど忘れてる
「恋におちて」もレンタルしてきました。
デ・ニーロ祭り開催です~
「リターナー」観ました~~
いやぁー,この金城さん最高ですね。
私の中で「LOVERS」を軽く超えちゃいました。
感想は後日になると思いますが
ほんとカッコよかったわ~~
投稿: なな | 2010年2月13日 (土) 23時32分
latifaさん~,コメント嬉しい~~
私はこの映画の存在を知ったのもつい最近なんですが
(公開されたころはたしか高校生くらいだったのですが
映画館なんて行かない生活だったし
特にこんなタイプの映画なんて観ようとも思わなかった)
若いころのデ・ニーロの作品に惹かれて
レンタルしてみたんですよね。
いやいや~,これは傑作ですねぇ。
>この時代にこの映画が作られた・・って事と、この時代の若い子達が、主役のデニーロをカッコイイって思ったことも、納得というか♪
ほんとはカッコいいと思うのは間違っているのでしょうけど
この時代のアメリカの
ベトナム戦争の後遺症に苦しむ若者たちのことを考えると
製作自体にすごく意味のある作品だし
私もこの作品をきっかけに
ベトナム戦争のことをいろいろ調べたりして
とっても勉強になりました~~
デ・ニーロの演技力の凄さは認識済みでしたが
若いころこんなにカッコよかった・・・というか
痩せてたんだな~足も長かったんだなぁと
改めて惚れなおした一作になりました・・・。
投稿: なな | 2010年2月14日 (日) 00時17分
マリーさん こんばんは~
コメントありがとうね~
>これがデ・ニーロ!!びっくりですね~。
>こんなに素敵な人だったのね。。。
そうなんですよ~「ゴッドファーザーⅡ」のヴィト役も素敵ですが
やっぱり痩せてるとカッコいいよね~
いつから彼が貫禄がよくなったのかわかりませんが
彼にしてもパチーノにしてもダスティン・ホフマンにしても
この時代の名優(男優)さんは現在のルックスは
かなり変貌を遂げています。
それだけに彼らの昔の映像には衝撃と感動を
禁じ得ません。
なんででしょうねぇ~,ジョニーなんかは若いころと
そんなに雰囲気変わらないのに。
あと,アンディとかトニーとかアジアの俳優さんも
20代と40代でそんなに変わらないのに
デ・ニーロは特に体型が変わったせいか
なんか「昔はカッコよかったのね~」って感じが大きいです。
ま、彼の存在感や演技力は素晴らしいので
彼がけっこうおっさんになってからの
「ヒート」や「アンタッチャブル」「ミッション」なども
私は大好きな作品ですが。
投稿: なな | 2010年2月14日 (日) 00時28分
この映画こそマーティン・スコセッシの最高傑作だと思いますよ。
悪を倒すためにより怖い悪になるような、どんどんと狂気に染まっていくトラヴィスは映画史に残る異様な存在だと思います。
投稿: にゃむばなな | 2010年2月14日 (日) 21時34分
にゃむばななさん こんばんは!
>この映画こそマーティン・スコセッシの最高傑作だと思いますよ。
審査員も、これになんでオスカーあげずに,あんな「ディパーテッド」みたいな中途半端なリメイクものにオスカーをあげちゃったんだろう。先日「グッドフェローズ」も観ましたが,これもオスカーレベルの傑作でした。もらう時期を外してしまったんですね・・・彼。
トラヴィスというキャラは,たしかに強烈で,それもまたデ・ニーロが最高に演じたから,確かに映画史に残るある意味ダークヒーローですよね。
投稿: なな | 2010年2月14日 (日) 23時58分
あら。デ・ニーロ祭りですか。
私もちょっと前までデ・ニーロ祭りだったので(笑)、ななさんのいろいろな作品のレビュー、楽しみにしてます♪
ちなみに私は「恋におちて」を観て、デ・ニーロに恋に落ちた(爆)。
若い頃のデ・ニーロだったら、あとは「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」「ニューヨーク・ニューヨーク」「ディア・ハンター」「ミーン・ストリート」あたりかな。あ、あと「ミッドナイト・ラン」は超オススメです!
投稿: mayumi | 2010年2月15日 (月) 23時39分
私も コチラ大好きな映画の一つです!
物語もさることながら、デ・ニーロの繊細な演技が本当に素晴らしく見入ってしまった記憶があります!
こういう良い映画は こんなに時間たっても色あせないんだなという感じですよね!
投稿: コブタです! | 2010年2月15日 (月) 23時43分
mayumi さん こんばんは
ニューシネマ祭りのつもりが
いつのまにかデニーロ祭りに・・・・
「ディア・ハンター」観終わってこれは作品的にも
生涯の一本になるかもって,エキサイトしてます。
デニーロもよかったんだけど
「ディア・ハンター」では,
クリストファー・ウォーケンにやられましたが。
それ以外の作品の鑑賞予定は
「ミーン・ストリート」「レイジング・ブル」です。
「恋におちて」も大好きな作品なので
再見して記事を書く予定です。
「ワンス~」は若いころに一度観て感動したのですが
年を重ねた今の方が理解も深まる作品なので
また再見したいですね。
「ミッドナイト・ラン」もオススメですか~
それはぜひ観ないと~~~
投稿: なな | 2010年2月16日 (火) 00時04分
コブタさん コメントありがとう!
これ,名作ですよね~
スコセッシって,天才監督だったんだ!と
改めて見直した作品です。
デニーロが名優なのはとっくに知ってましたが
若いころの彼の作品って凄いですね~
デニーロの作品,70年代,80年代のものは
ほとんど未見なので,少しずつ観ていきたいです。
投稿: なな | 2010年2月16日 (火) 00時08分
デニーロさんは今イエローキャブじゃなくレガシー運転してますね。
男の友情ものがお好きなななさんでしたら、どなたかも紹介されてましたが「ミッドナイトラン」はいいですね。
ニューシネマの終焉に引導を渡したのは「ロッキー」だと聞いたことありますがどうなんでしょ?
この映画の影響を受けて、数年後に当時の大統領レーガンを至近距離から狙撃したバカがいましたよね。その瞬間のニュース映像は今でも覚えてます。
私は遅れてきたニューシネマファンでして、ビデオもなかった頃、TVでオンエアされるものを食い入るように見てました。挿入歌としてロックがふんだんに使われていたから。そこから作品に漂うやるせな~い雰囲気にもハマってゆきました。日本で似たような感じの作品作っていたのはATGじゃないかと思うんですけど違うかな?
ロックなお話というと、マーティンスコセッシはとてもロックに造詣の深い方で、いくつもロックドキュメンタリーを撮っています。この映画でも挿入歌として使われた「レイトフォーザスカイ」はロックファンの間では大変有名な一曲なんです。内容は、簡単に言うと失恋ソングです。選曲の理由までは知らないのですけどね。
そういえば「愛しのロバートデニーロ」っていう歌があるんですよ。一昔前にバナナラマというガールポップグループが歌ってました。
投稿: garagie | 2010年2月22日 (月) 00時40分
garagie さん こんばんは
お久しぶりです。
ミッドナイト・ランは観ましたよ
またそのうち記事をアップしますが面白いですね,あれも。
>ニューシネマの終焉に引導を渡したのは「ロッキー」だと聞いたことありますがどうなんでしょ?
「ロッキー」とこの作品は同じ年の製作ですねぇ。
アンチヒーロー,バッドエンドのニューシネマと違って
ロッキーはアメリカンドリーム肯定の作品ですから
ニューシネマとは真逆の存在ですね。
それがヒットすることによって
ニューシネマはこの「タクシードライバー」を最後に
姿を消したらしいですよ。
>スコセッシのロック好き
グッドフェローズでもそれは感じましたね。
残念ながらロックは私はまるきり興味がないので
わかりませんが。
投稿: なな | 2010年2月22日 (月) 01時05分