おとうと
母が観たいというのでお付き合いで鑑賞。
別に,「寅さん」シリーズのファンではないわたし。劇場はやはり,中高年以上の年齢のお客さんで満員。始まってすぐに「ああ,懐かしい」とか「わかるわかる」とでも言いたげな,共感のこもった笑い声や,隣席との楽しげなささやき声が溢れる。(自分もそれにしっかり参加していたが)
そして鶴瓶さん演じる鉄郎が,ホスピスで息を引き取るラストは,会場のあちこちからすすり泣きが・・・・。(わたしももちろん,ちょっと泣けた)
しかし,この作品は確実に観る世代を選ぶ作品だと思う。
物語の舞台や人物像,セリフや行動から受ける雰囲気は,どう考えても,私の子供の頃の時代のものだった。つまり,昭和40年~50年頃みたいな。そして吉永小百合さんの演じた美しく健気な姉・吟子の立ち居振る舞いや言葉使いは,その時代よりもまだ一世代前の,そう,戦時中に家庭を守った「大和撫子」の香りがする。
吉永さんは,どの作品でもこんな雰囲気なのだが(今更イメチェンもできまい),きっとこのあたりに,時代錯誤の居心地悪さを感じる方もおられるかも。
若い世代の観客の方なら,蒼井優ちゃんの演じた娘の小春や,加瀬亮さんの演じた恋人の青年との間の,丁寧で節度のある台詞や雰囲気にも,「変なの・・・」と違和感を覚えるかもしれないが,その点は私は大丈夫だった。自分が若かった時の若者たちが,自分も含めてこんな感じだったから。
若すぎる世代には「ダサイ」作品かもしれない。つまり登場人物の,なじみのない古くさい価値観や言葉遣いがひっかかって,作品にひたれない恐れがある。そこは惜しいなぁ,と思うけれど描かれているテーマは普遍的でシンプル。題は「おとうと」とあるが,別に姉弟関係だけに限らず,これは「困りもの」のトラブルメーカーを抱えた家族の,葛藤と愛の優しい物語だ。
手のかかる子ほどかわいい。
面倒を起こすたびに放りだしたくなるけど
それでも見放せない母心のような愛。
そして,面倒をかける方も
わかっちゃいるけどやめられない,変われない・・・
それでもやっぱり心の中では後悔し,
肉親の愛を求めている。
そんな人間の,弱さや優しさや強さが散りばめられた,劇的な感動はないけれど,静かに心に沁みてくるような素敵な作品だったと思う。
鶴瓶さんはシリアスな演技も上手いけど,こういう「壊れキャラ」はまさにハマり役で,少しオーバーアクション気味なところもかえってよかったと思う。泥酔して姪の結婚式をぶち壊す大騒動をやらかしたり,借金を姉に肩代わりしてもらったり,ほんとに迷惑この上ない行いをするのだけど,姉の怒りをなんとかなだめようと,人懐こくおどけてみせたり,また反対に責められるとキレてみたり。鉄郎というキャラをまことに生き生きと体現していたと思う。
吉永さんは申し分なく若く美しかったが,東京でも下町の商店街に,あんな雰囲気の女性が生息しているのは実はあり得ないと思う。まるで人間界に舞い降りた天女のような非現実さ。顔立ちの美しさだけではなく,気品がありすぎる雰囲気は,やはり下町の空気の中では浮いている。

話す時の口角の上げ方からして完璧に洗練されているのだ。この上なく庶民的で身近な物語を描きながら,ヒロインの女優がまったく庶民的に見えないのは,やっぱりなんか違和感はある。
困りものの弟とは対照的な優等生キャラを演出しているのだろうけど,別に彼女のタイプでなくても,もっとさばさばした男勝りのキャラ(例えば若いときの賠償美津子さんみたいな)の方が下町には合っていたような気もした。
一緒に観た母に「吉永小百合さんっていつも同じタイプの役だね」と言うと,「そりゃあんな顔に生まれついたら,ああいう役しか似合わんでしょうが」とあっさり返されてしまった。ごもっとも。
個人的には加藤治子さんの演技がツボ。
そして中居くんの友情出演も楽しかった。ほんの一瞬の役なので,あやうく登場を見逃しそうになったが。
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こんばんは~。
>確実に観る世代を選ぶ作品だと
なるほど~!そうかもしれないですね~!
そうだとすると、私は選ばれたのかな~・・ナンテネ・・・。
若い方が感じたかもしれない“違和感”というものを、
私は感じませんでしたね。
吉永さん、ホスピスの所長役の小日向さん、石田ゆり子さん
加藤治子さん・・・それぞれのセリフに目頭が熱くなりました・・。
私も歳ですね。こういう映画がしみじみ「いいな~」と感じるようになりました・・。
投稿: ひきばっち | 2010年2月 6日 (土) 21時46分
ひきばっちさん こんばんは!
これね~,わたしも母にせがまれまければ
わざわざ見てないと思うんですよ~
劇場でも私の年齢の観客は皆無でしたね。
でも私も吉永さんのキャラ以外は
違和感もなく楽しめました。
大きな感動と言うよりは
日常生活の中の,誰もが共感できる小さな感動や
ちいさな癒しや笑いが散りばめられた
とても愛すべき温かな作品だったと思います。
>こういう映画がしみじみ「いいな~」と感じるようになりました・・。
私もですよ~
まだまだ超絶アクションものやエログロものも大丈夫ですが
それでもこういう作品で時には心のデトックスをしたくなりますね。
投稿: なな | 2010年2月 7日 (日) 20時49分
お母さん孝行、ご苦労様です。
時代錯誤の、昭和のかおりぷんぷんの、いかにもの山田節でしたが、見せちゃうのが職人ですよね。
彼自身は、結構《左》の人ですが、ちゃんと自分の役割をわかってて、こういう映画を必要とする人のために作ってる・・・と言うのを割り切って作ってるんだと思いますわ。
ちゃんと笑わすとこで笑わして、泣けせるとこで泣かして。
臨終の写真撮影はどうかと思いましたが・・・。
年配のご夫婦で膨れ上がった映画館もいいもんだなあと思いました。
投稿: sakurai | 2010年2月 8日 (月) 15時41分
sakuraiさん こんばんは
うふふ,ときどき母親も映画に連れて行ってあげないと
自分も好き勝手に行きにくいのですよね,何となく・・・
で,母親世代は字幕ものはまったく受け付けないので
質のいい邦画が来たら連れていくことにしています。
これは母もずいぶん気に入ったようで
私よりはずっと泣いていましたね~
>彼自身は、結構《左》の人ですが、ちゃんと自分の役割をわかってて、こういう映画を必要とする人のために作ってる・・・
なーるほど,職人芸なんですね~,いわば。
受け入れられる世代に偏りはあれど
感動のツボを心得た,巧い作りだったと思います。
>臨終の写真撮影はどうかと思いましたが・・・。
そうですねぇ,死がすぐに天国に直結するととらえている
われわれキリスト教徒などは
案外こういう写真も違和感はないのですが
一般にはまだちょっと不謹慎かもしれませんね。
>年配のご夫婦で膨れ上がった映画館もいいもんだなあと思いました。
いいですよ~,感動や笑いがほんとに素直に
「どよめき」として起こるんですよ~
座席を探すのに手間取るとか,
そんなトラブルもあるにはあるんですけどね。
投稿: なな | 2010年2月 8日 (月) 23時49分