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2010年2月10日 (水)

スモーク

Cap061
1995年製作の珠玉の名作。最近までまったく存在を知らなかったが,偶然レンタルショップのオススメ名作コーナーで見つけて,ハーヴェイ・カイテルもウィリアム・ハートも大好きなので借りてみた。

主役はカイテルだし,題はスモークだし,ジャケットのデザインは渋いし,何となくダークな社会派作品かと思っていたら,これがなかなかどうして,究極のやさしい癒し系物語だった。舞台はニューヨークの下町ブルックリン。煙草屋を営むオーギー・レン(カイテル)を巡る人たちのお話。
Cap034
銀行強盗事件で妻を失った作家のポール(ハート)。家出の黒人少年ラシードと,彼が幼いときに蒸発した父親。オーギーの元恋人のルビーと,その娘でヤク中のフェリシティ。そして店主のオーギー自身も,決して波風のない人生を送ってきたわけではない。

そんな,ワケアリの人たちばかりの間で繰り広げられる物語はどれも,優しさとほろ苦さが同じくらい混じりあっている。彼らがそれぞれに背負っているささやかな重荷は,決してこの先も消えてなくなりはしないけれど,ほんの少しの思いやりのやり取りを生きる糧にして,彼らはこれからもまた,新たな一日を重ねていくのだろう。たとえどんなことが起ころうとも,人生はよどみなく続いて行くのだから。オーギーが毎朝決まった時刻に撮る街角の写真を見てそう思った。
Cap045
劇中,ちょっとした事件やいざこざも起こるのだが,決して声高にも饒舌にもならず,まるで傍観者のような淡々とした語り口で進む物語は,派手な展開はないのに,優しく心に沁みてくる。

特にさりげなく描かれる家族の絆がいい。
ラシードとその父(フォレスト・ウィテカーが素晴らしい)との物語。そしてまた,オーギーとフェリシティ(アシュレイ・ジャドがこれまたいい。)の物語。
Cap049
どちらも,親子の関係が今後よい方向へ進むのかどうかはわからないのだけど,みんな心の奥深くに,親や子への思慕の情を秘めているように感じられた。

そしてトリを飾るのは,オーギー自身のクリスマスのエピソード。盲目の老婆についた優しい嘘と,黙って騙されたふりをした老婆の話。社会の弱者やはぐれもの同士が,見知らぬ仲であるにも関わらず,互いを思いやってそして互いに癒される・・・・,人生の痛みを知る者にしか演じられない,即興のお芝居・・・・ちょっとO・ヘンリーの短編小説の,シニカルだけど優しい雰囲気を思い出した。
Cap057
その話を聞くウィリアム・ハートの表情の優しさと,カイテルの恥ずかしそうな笑み。強面のカイテルに,こんなソフトな癒し系の笑顔ができるとは。

エンドロール中に映し出される,オーギーのクリスマスエピソードのモノクロ映像を眺めながら,しみじみと温かい気持ちになる名作。
Cap056
クリスマスに観たい名作が,私の中でまたひとつ増えた。

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映画 さ行」カテゴリの記事

コメント

ななさん、こんにちは。
これ、大好きな映画です。この作品で初めてハーヴェイ・カイテルいいなあ、って思ったんです。ウィリアム・ハートもいいですよね。温かい気持ちになれます。
でも確かに、ジャケット写真は渋すぎる・・・(これでこの作品を手に取らない人が多いと思う!もったいない!)

mayumi さん,さっそくのコメント,ありがとうございます!

ハーヴェイ・カイテルは私は初めて出会ったのが
「ピアノ・レッスン」で
長いことそのイメージ(ワイルドでセクシー)から
抜け出せずにいましたが
こんなキュートで優しいキャラもできるんだなぁって。
ウィリアム・ハートはこんなキャラの役
見事にハマって(悪役ももちろんできますが)
大好きな役者さんのひとりです。
お気に入りの,素敵な作品がまたひとつ増えましたよ。

ななさん、こんばんは^^
ハ―ヴェイ・カイテル、渋いですよね~。
この映画、リアルタイムで観ましたが、アシュレイ・ジャドも出ていたなんて、忘れてました^^;
内容もなかば忘れてますが、良かったってことだけ覚えてます
あのしわしわ顔がなんとも言えず、存在感ばっちりですよね!
決して私の好きな顔ではないんですが、
「ピアノ・レッスン」はホントにセクシー&ワイルド^^
「レザボア・ドッグス」では超クール、「テルマ&ルイーズ」の人間味溢れる刑事、
不思議と惹かれてしまいますね*^^*

ちーさん こんばんは!

いやいや,ちーさん,これもリアルタイムでご覧になった?
金城ファンとカイテルファンというのは
そんなに共通点が無いような気もするのですが
やはり素晴らしい「映画人」というのは
理屈ぬきで記憶に残るものですね。
私はこの作品の他には
カイテルのキャラで心惹かれたのは
「ピアノレッスン」くらいなのですが
この作品のカイテルは
優しいところも,胡散臭いところも,
みんなひっくるめてよかったですね。

ところでちーさんお勧めの「リターナー」
レンタル店になかったので,注文しました。
注文しても損はないくらい,いい作品そうですね。
また鑑賞したら,記事を書きたいと思います。

再びお邪魔します^^
「リターナー」楽しみにしていますね^^
金城クンのヴィジュアル面は、カッコイイですよ!
好きな俳優さん、たくさんいますが、
金城クンだけは別格で、もう、好きのレベルを超えて、
溺れていますから
金城クンの映画は、あまり客観的に語れなくなっているので
ちょっと不安でもありますが(笑)

ちーさん 再度ありがとうございます。

「リターナー」中古で(800円くらい)特典つきの
デラックス版というのを注文しています。
昨日発送されたようですから
届くのは明日かしら・・・・

これ,お話もアクションもいいみたいですから
観るのがとっても楽しみです。
金城さんの黒いロングコート姿
キマってますね。

ななさん~こんにちは!
そうなのよね、↓ここすごく良かったですよね~♪
>その話を聞くウィリアム・ハートの表情の優しさと,カイテルの恥ずかしそうな笑み。

ななさんも、ピアノレッスンの時のカイテル氏に心惹かれたのね☆同じ、同じ。あの映画は風景も音楽も内容も、どれを取っても素晴らしい5つ☆映画です~

で、リターナーをごらんになられるのですか^^
実は映画館に見に行った人です(^^ゞ
その後、TV放映でももう一回見てるので、2回みてます☆
金城君、カッコイイですよん~(^○^)
一緒に見に行った父が「あの主役の男は何ものなんだ?」と珍しく問って来たんですよ。(タダ券3枚もらって家族で見に行ったので、父も一緒にいるのです)

latifa さん こんばんは!

ハートさんとカイテルさんの友情にぐぐっときましたよ。
ウィリアム・ハートは悪役なんかもやるけど
基本的にはこんなソフトで優しい役が好きだなぁ・・・

>ピアノレッスンの時のカイテル氏
カイテルさんはあの作品が初見で・・・
「なんなんだ,この,きちゃないけど,
やけにセクシーなおっさんは!」と感動しましたね。

リターナー今日届きました~
入ってたポストカードやジャケットの金城さんにもうメロメロ
観るのがもったいなくて,まだ観てませんが・・・

>「あの主役の男は何ものなんだ?」
うふふ,お父様の台詞,ウケましたよ~
誰が観ても文句なしにカッコいいということですね,金城さん。

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» 「スモーク」 [It's a wonderful cinema]
 1995年/アメリカ、日本  監督/ウェイン・ワン  出演/ハーヴェイ・カイテル      ウィリアム・ハート  じんわりくる映画ですね。  ブルックリンの街のタバコ屋を舞台に繰り広げられる人間模様。大事件が起こるわけではないけれど、一人一人にドラマがある。それってとても大事なことなんだと思わせてくれた作品です。人が抱える心の傷、孤独。だからこそ、人に対して優しくなれる。手を差し伸べることができる。そんなことを感じました。  ハーヴェイ・カイテル、ウィリアム・ハート、この二人の... [続きを読む]

» 「スモーク」感想 [ポコアポコヤ 映画倉庫]
ああいう街角のお店に、ご近所の人が集う・・・。ふらっと立ち寄って、ちょっと立ち話して・・って感じが凄くイイ [続きを読む]

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