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2010年1月20日 (水)

不夜城

Cap114_2
不夜城という響きが好きだ。
眠らない街,新宿歌舞伎町。夜の8時には,商店街が早々とシャッターを下ろす四国の片田舎から一歩も出たことのない身としては,夜通し喧騒とネオンに彩られる街には,憧れさえ感じる。・・・たとえ,そこにどんなやっかいで危険な魔物が潜んでいようとも。

この物語のもうひとつの主人公は,他ならぬ新宿歌舞伎町そのものなのだろう。さまざまなアジア人種が生存競争を繰り広げる無国籍都市,歌舞伎町。
Cap088_2 
不法滞在者,残留孤児二世,中国三大マフィアの抗争
などなど,私にとって,初めて知った事実も多かった。(原作は未読。)治安のいい我が国では,おそらく唯一ハードボイルドの世界が似合う街,それが歌舞伎町なのだろうか。

金城武が演じた主人公の劉健一は,日本人と台湾人のハーフで,どのグループにも本当の意味では属さず,一触即発の緊迫感をはらんだ歌舞伎町の中国人たちの間を器用に渡り歩いている故買屋だ

「食うか食われるか」という危険な世界の中で,日本人でも中国人でもない彼の抱える,一匹狼ゆえの誰にも心を許せない孤独と,いつ命を狙われてもおかしくない危うさ。

Sleeplesswall1
ひっつめ髪に黒いコート姿で,馴染みの輩に声をかけながら,歌舞伎町の街並みを,手慣れた風に歩いていく彼。その後ろ姿がハンディカメラの長回しで写し出されるオープニングのシーンから,金城さんの全身から醸し出されるオーラに釘付けになる。

当時24歳だったという金城さんは,今の彼と比べると日本語の発音がかなりたどたどしい。(ということは反対に今の彼はだいぶ日本語が上手くなっているということか)。そしてお顔は今より少し細面で,切れ長の目の美しさが際立っている。 そのたたずまいからは,弱冠24歳とは思えない成熟したクールな色気が漂うところはさすがだ。
Cap111
物語の詳細は説明しない,というか人間関係も中国名もややこしくて説明しにくいのだが,中盤からは,上海,台湾,北京の三大マフィアの覇権争いが本格的に繰り広げられ,互いに裏切られたり騙されたり,の緊迫したシーンの連続。そしてその渦中を生き延びるために,危険な策を弄する健一。

健一を取り巻く人々。かつての相棒の呉富春(椎名桔平)や,健一がおやじさんと呼んでいる漢方薬店の楊偉民。そして健一が愛した,夏美と名乗る謎の女(山本未来)。日頃親しくしている相手でさえ,いつ自分を裏切り,寝返るかわからない。
Cap075
そしてまた健一自身も,自分の利益のため,もしくは保身のためにいつ誰に銃を向けるかわからない。この物語の登場人物全員が,お互いに誰も相手を信用していないのだ。特に終盤の,目まぐるしい裏切り合戦は,いかに素早く状況を判断し,先を読んで行動できるかで,勝敗が分かれていたように思う。

しかし何という厳しい殺伐とした世界だろう。
そう,人間不信の極み。真実の愛など求めてはいけない世界で,それでも真剣に愛したいと願った相手を,結果的にはあのような形で喪った健一。二人の間には愛も確かにあったかもしれないが,どちらも相手への不信やエゴの方が強かったのだろう。
Cap004_2
健一はその体験から,よりしたたかに,より冷酷に成長し,いずれ彼は,歌舞伎町を牛耳る存在にまでのしあがっていくのだろうか。

「ところで夏美って誰だ?」というラストの健一の台詞に,彼の気持ちや,今後の生きざまが見えたような気がした。おそらく彼は,もう再び誰かを愛することはないのだろう。

自分が全く預かり知らない別世界を垣間見れる作品。そして幅広い金城さんの魅力に触れることができる作品。しかしきっとこのダークでハードな物語を深く理解したいのであれば,映画よりは原作小説の方が,断然オススメなのだろうけれど。

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コメント

ななさん、こんばんは^^
もうご覧になったなんてビックリ~@@
それに今ちょうど「不夜城」のサウンドトラック聴いてます*^^*
初見では寝てしまった私は今さら何も言えませんが(笑)、
ダークな世界をハードに描いているけど、原作に比べて、健一と夏美の二人に焦点をあてているから、少~しソフトに、切なくなってて、
今では金城クンを語る上で、私の中では「天使の涙」の次にかかせない映画になってます^^
オープニングの長まわし、最高ですよね!! 監督いわく、
「24歳であの落ち着きと色気を出せた武には驚いた」って・・・
この映画の公開とTVドラマ「神さま、もう少しだけ」放映で、
1998年はまさに金城フィーバーだったようですね。。
(私はあと追いなので、リアルタイムで応援できず悔しいです^^;)
原作は映画を見てから読みましたが、私は映画がよかったです

ちーさん こんばんは

>今ちょうど「不夜城」のサウンドトラック聴いてます*^^*
書き忘れましたが,この作品,音楽もいいんですよね。
B,sの主題歌もいいけど
BGM担当が「ラバーズ」や「花様年華」の梅林さんで。
サウンドトラック欲しいです。

ちょっとわかりにくいお話でもあったので
ウィキの「不夜城」のあらすじや
人物説明をググりながらの鑑賞でした。
劇場で初見なら,きっと人物の見分けができなかったかも。
でも金城さんの素晴らしさは十分伝わってきました。
24歳であの演技や雰囲気,と思うと
賞賛ものですよね。やっぱり生まれ持ったものかなぁ。

原作よりはきっと映画は
ソフトで切ない味わいになっているのでしょうね。
機会があれば原作と比べてみたいと思います。

次回の金城作品,大好きな「lovers」を書く予定です。
少し先ですが・・・

ななさん、再びお邪魔します♪
もぉ~ななさんったら、
いつも素敵な画とレビューをありがとうございます!
ななさんの記事を読んだら思わず見たくなっちゃって
今日はDVDを引っ張り出して観てました。
(因みにコレの写真集も持ってます^m^)

いや、ホント24歳とは思えない男の色気ですよね~
日本の同世代の俳優さんで、
この役をこなせる人って居るかしら?
日本語の発音はたどたどしいけど、
相変わらず良いお声でしたし~(笑)
でも温泉のシーンは必要だったのかなぁ・・・

Anyさん こちらにもありがとう~

>日本の同世代の俳優さんで、
>この役をこなせる人って居るかしら?
いや,もちろんいないでしょう。20代の俳優さんって
日本の場合,半分アイドルですもんね。
お顔は綺麗でも,お子ちゃまっぽいです。
金城さんの大人の色気は真似できませんね。

Anyさんはこれの写真集も持ってるのね。
見たいです~。
ひっつめ髪に口髭,そしてブラックコートとサングラスの金城さん
とっても絵になってました。

>温泉のシーンは必要だったのかなぁ・・・
あれはもちろん原作にはないんでしょうね。
なんだかあのシーンだけ浮いてたような。
 


もう、殆ど記憶にありませんが(^_^;)
原作も映画も観ましたよ~。
原作の方がハードだったような記憶があります。

椎名桔平さんも出てましたよね?
悪役だった??

もう一度見たくなりました~(^_-)-☆

にくきゅ~う★さん こんばんは
コメントありがと~

これ,ご覧になっていたのですね!
原作も!
そうですね,原作の方が主人公たちももっとシビアで
悪党だと聞いてます。映画はソフトでしたね。

>椎名桔平さんも出てましたよね?
出てましたよ~,ちょっとクレイジーな役。
髪形がちょっとボサボサの長髪で。
でもオーラはあったなぁ。

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