LOVERS
わたしが金城武と出会い,彼の美しさにストレートにノックアウトされた作品がこれ。この作品の見所は,何といってもイーモウ監督こだわりまくりの映像美。使われる色そのものもだが,その取り合わせの妙が素晴らしい。
劇中に登場する,森や竹林,草原や紅葉といった自然の色を背景にして,鮮やかに映える衣装の色。これは衣装担当のワダ・エミさんの力もあるだろうけど,やはりイーモウ監督の,ただものではない美意識のなせる技だろう。
初期の作品ではまだ渋く,最新の作品,王妃の紋章では少し華美すぎる気もする色彩の取り合わせが,この作品ではちょうど最高のバランスの境地に達しているのではないかと思う。
とにかく使われる色がすべて,目を見張るほど美しく,そして洗練されている。牡丹坊でのツイィーの舞踏シーンの衣装に多用された,柔らかな薄紅色やセルリアンブルーのハーモニーにはうっとりするし,逃避行をするときの彼女と金城さんの色違いの衣装の臙脂,茶,群青色も,あざやかな林の木々や葉の色に映えて美しい。また,飛刀門一族の衣装は,周囲の竹林の色に溶け込むような綺麗な若草色だ。
ストーリーは込み入っているように見えるが,敵同士の間の許されない愛,三角関係,誰も幸せにならないラスト,といった王道のラブストーリーで,何よりも主要登場人物が3人のみ,というのがわかりやすい。
そしてまた,この3人がみんな美しく,
キャラ立ちまくりで素晴らしくて。
たおやかさと少年のような硬質な美しさを持つ,盲目の踊り子,実は飛刀門の女戦士・小妹(シャオメイ)を演じたチャン・ツイィー。 端正な顔立ちで弓の名手でもあり,小妹と運命的な恋に落ちる役人のジンを演じた金城武。 そして,彼の同僚(実は飛刀門からの密偵)で,小妹を深く愛するリウを演じた,渋さ全開のアンディ・ラウ。
3人の間で繰り広げられる愛憎の物語。
押さえ切れない思いや葛藤,愛するがゆえの憎しみや悲しみを表現する,3人の表情の見事さには,それぞれ見惚れてしまう。そして切ない名セリフもまた多い。
小妹; 「なぜ戻ったの?」
ジン; 「戻るさ。君のためなら。」
リウ; 「俺は三年間想い続けたのに,お前は三日であいつと」
・・・・などなど。
アクションシーンも,中国武侠映画ではお約束の,竹林での戦いや,一刀必殺の飛刀シーン,弓をあざやかに連続で射る金城さんのシーンとか,見ごたえたっぶりだ。特に予想を裏切る飛び方で,必ず相手を倒す飛刀門の技は凄い!
基本的に背景はCGに頼らず,ロケ映像に命をかけるイーモウ監督。この作品も,竹林は四川省で,美しい森や原野はウクライナで撮影したそうだ。
花の咲き乱れる原野で,ジンが小妹に花束をプレゼントするシーンがあるが,このシーン,花畑用にと数ヶ月前から苗を植えておいた花が,監督のイメージにかなう成長をしていなかったため使わず,急遽探し出した別の場所での撮影(だから花は野生)だったそうである。特典を観ていて,「こだわりの強い監督の下のスタッフってなんて大変なんだろう」と思ったが,こんなこだわりがあったからこそ,素晴らしい映像の作品ができたのだろう。
また,10月のウクライナでの撮影中,急に季節外れの大雪に見舞われ,前日まで紅葉を背景に撮っていたリウとジンの一騎討ちのシーンを,やむを得ず続きを雪の中で撮影し,結果的には,紅葉の中で始まり吹雪の中で終わる,あのような印象的な戦闘シーンになったそうである。
実は私も一番感動したのがあのシーンで,何が感動って,アジアを代表するイケメン二人が一人の女を取り合って組んづほぐれつの肉弾戦を延々と繰り広げていることに感動,というか,このシーンを見ると瀕死のツイィーが羨ましくなる。いーなあ,あんな二人に命懸けで愛されて。
そして哀しいクライマックスを迎えるラストシーン。
リウの飛刀はジンに向けられ,小妹は自分の心臓近くに刺さった刀に手を伸ばし,自分の命と引きかえにジンを助けようと,リウを狙う。「あの人を殺すなら,わたしもあなたを殺す」・・・・このシーンで,一番可哀想に思えたのは,リウ。アンディの演技が,もっとも光る場面だ。
結局,リウの手の中の飛刀は宙を飛ぶことがなく,彼は憎い恋敵を殺すことよりも,自らが小妹の刃に倒れることのほうを選ぶ。しかし小妹の刃は,ジンを守るためだけに投げられたもので,彼女はリウの命を奪うつもりはなかった。それぞれ相手の思いがわかった時の表情が切ない。
息を引き取る小妹と,嘆きの中に取り残される男たち。
このラストシーンの三人三様の悲劇が哀しい。主題歌の美しい調べとともに,ベタなお話とわかっていても,必ずうるうるしてしまうシーンだ。
今回,感想をまとめるために久々に再見してみたが,何度も観ているはずなのに,やはり同じ場面で新鮮な感動や興奮を覚える。エンタティーメント色の濃い作品ではあるが,同時に心を打たれる抒情的な物語でもあると思う。
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