アンナとロッテ
一度感想を書きたいと思っていた,大好きな作品。2004年のアカデミー外国語映画賞にノミネートされたオランダ・ルクセンブルグの合作作品だ。原作はオランダの女流作家テッサ・デ・ローの書いた国民的ベストセラーで,映画の原題はDE TWEELING。第二次世界大戦のドイツとオランダに引き離された双子の姉妹の,その後の波乱に富んだ人生を描いた物語だ。
幼いころに両親と死別し,それぞれ別々の親戚に引き取られた双子の姉妹,アンナとロッテ。アンナは,ドイツの貧しい農家で,薄情な叔父夫婦に,学校にも行かせてもらえず牛馬のようにこき使われる。一方,病弱なロッテはオランダの裕福な家庭で大切に育てられるが,ロッテが書き続けたアンナへの手紙は,養父母の思惑から,アンナの元へ届くことはなかった。二人は,互いに,異国の空の下にいる自分の分身に恋い焦がれながら,全く違う人生を歩んでゆく・・・。
十数年後にやっとロッテからの手紙がアンナの元に届き,オランダからドイツへアンナに会いにやってきたロッテ。二人が感動的な再会を果たした時,ロッテは大学生,アンナは叔父の家を出て住み込みのメイドで生計をたてていた。
駅での再会シーンで言葉もなく見つめ合う二人。アンナの雇われている伯爵夫人のお屋敷でともに過ごした一晩。届くことがなかった何十通もの手紙を,そっとリボンで束ねてアンナに渡すロッテ。まるで二本のスプーンが重なるように,寄り添って寝台に横たわる二人。やっと取り戻せたかのように思えた姉妹の絆だったが・・・。
再び二人の仲が絶縁状態になったのは,戦争,そしてナチス・ドイツのせいだった。ユダヤ人の青年を婚約者に持つロッテと,ナチの親衛隊の将校マルティンと結婚したアンナ。ロッテの住むオランダにも,容赦なく忍び寄ってくるナチスの脅威。
ドイツが侵略をしかけてきたオランダで,オランダ人の養父母やユダヤ人の恋人と生きるロッテ。自分は「彼らの敵の」ドイツ人だという事実は,彼女をひどく悩ませたと思う。とくに彼女のせいで婚約者のダビッドがナチにつかまり,収容所送りになってからは,毎日が針のむしろにいるような気持ちだったかもしれない。祖国を疎ましく思う気持ち,ドイツ人であるというだけで,周囲から無言で責められているような気持ちに苦しめられたことだろう。
一方,ナチスがユダヤ人や他国に,どんなことを行っていたのかよく知らなかったアンナは,なぜロッテから突然拒絶されたのか理解できずに深く傷つく。やっとめぐり合えたロッテとも再び疎遠になったアンナは,マルティンと築く家庭に夢を託す。
「はやく子供が欲しいわ,特に女の双子がほしい」と夫に言うアンナ。養父母に愛されて育ったロッテと違い,孤独で過酷な人生を歩んできた彼女が,どれだけ家族愛に飢えていたかがわかって切なくなるシーンだ。それなのに,最愛の夫との思い出もほとんどないままに,マルティンはあっけなく戦死してしまう。
戦争が終結し,オランダにロッテを訪ねたアンナを,「ナチは出て行け!」と追い出すロッテの仕打ちはあまりに酷いが,わたしはあの時のロッテを責める気持ちにはなれなかった。婚約者がアウシュビッツで死んだことを知らされたばかりのロッテ。その死の責任が直接アンナにあるとは思ってなくても,あのときは誰かに当たらずにはいられなかったのだと思う。もちろん,ロッテに路上に放り出されたアンナの哀れさには,もっと涙したけれど。
戦争がいかに人を傷つけるか・・・・。
語りつくされたテーマのようにも思えるが,やはりどの物語も,その物語だけが持つ哀しさに,あらたに胸が震える思いがする。戦争が罪のない一般大衆に与える傷は,ほんとに千差万別だと思う。
この「アンナとロッテ」もそんな物語のひとつ。
二人は両親の死によってまず引き離され,その後の運命を戦争によって狂わされた。戦争で,敵同士になるということは,時には肉親の情さえも隔ててしまうほどの深い溝を作るものなのだろうか。少女の頃には再会をあんなにも切望していた,アンナとロッテに降りかかった悲劇は,涙なくしては観れなかった。
ナチに殺されたロッテの恋人ダビッドも,「ほんとうはウィーンに帰りたい」と言いながら,ひたすらに新妻を愛していたアンナの夫も,どちらも同じく戦争の犠牲者だと思う。
そしてまた,この物語は,ナチス・ドイツのことを被害国からの視点だけでは描かず,アンナのような,ドイツ国民の側からも描いていることが面白いと思った。他国から見れば極悪なナチスも,ドイツの民衆の視点から見ればそうとばかりも言えず,ドイツの一般民衆もまた,戦争の犠牲者なのかもしれないと思った。
生き別れもの,戦争ものに弱い私としては,定期的に観たくなる号泣映画のひとつである。
余談;ロッテ役の女優,テクラ・ルーテンはこのあいだ久々にヒットマンズ・レクイエムでお見かけした。(コリンの泊まったホテルの女主人役)
痩せてちょっと,ジュリエット・ビノシュみたいになってた。
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