レイチェルの結婚
「羊たちの沈黙」のジョナサン・デミ監督がアン・ハサウェイ主演で撮った,ある家族の物語。なかなかの秀作で,ハサウェイはこの作品でオスカーの主演女優賞にノミネートされた。
ハサウェイが演じたのは,レイチェルの妹キム。ドラッグ中毒で更生施設を出たり入ったりしている彼女が,姉の結婚式に出席するために,家族のもとに帰ってくるところから物語は始まる。彼女が家に着いたその時から,ハンディカメラによる手ぶれの目立つ映像が,結婚式前夜から当日までの,キムの家族や招かれた客たちの様子を映し出す。
そう,この作品,スザンネ・ビア監督やラース・フォン・トリアー監督らが得意とするドグマ形式に似た雰囲気で,まるで他人の家庭の結婚式のホームビデオを延々と見せられているような感じなのである。「ここはもっとカットしてもよいのでは?」という冗長に感じるシーンももあって,そこはやや退屈にも感じた。
それでも,「ワケあり家族の再生の物語かな?」と思いつつ最後まで惹きつけられて観たが,観終わった時の感想は,「再生ではなく,傷つけあっても,家族は家族」ということが言いたい物語だったのかな?」としんみり。
キムの家族は過去に体験した大きな悲劇によって傷を受け,いまだに全員がそれを内心引きずっている。その悲劇とは,キムが薬でラリった状態で運転した車が橋から転落し,弟のイーサンを死なせてしまったこと。両親はそれがもとで離婚し,キムは未だに自分を許すことが出来ず,家族のキムへの思いもそれぞれ複雑だ。
レイチェルの結婚式前後の数日間,顔を合わせた彼らは,これまでの鬱憤や本音を爆発させることになる。それぞれが秘めてきた心の傷を,相手にさらけ出すシーンのリアルな迫力!しかし,これが他人相手なら,関係が決定的に断絶してしまうほどの暴言も,家族の場合は本音をぶつけ合うことで,かえってすっきりする時もあるんだな,と思った。
特にレイチェルとキムの姉妹間の確執。
優等生の姉に,引け目と劣等感を感じていたキムと,常に騒ぎを起こす妹に両親を独り占めされたと思っていたレイチェル。本音を言い合った姉妹喧嘩は,ラストシーンを観る限りでは,彼女たちは以前よりいい関係になれたように思えた。
しかし,キムと母のアビーとの大喧嘩はもっと重く,痛い。
イーサンの死を互いに責任転嫁する二人の本音のぶつかり合いは,あまりにも痛々しく救いがない。互いに相手の最も痛いところに容赦なく切りこんだためか,衝撃や怒りも激しく,とっさに本気の殴り合いをしてしまう母とキム。
家族の一員が,当の家族に悲劇をもたらす,ということは,こんなにも辛いものか。相手が他人なら,恨んだり責めたりするのに何の躊躇もないだろうに,家族が相手だとそれができない部分もあるから。責めたいけれど責めるに忍びない,というジレンマ。結婚式の晩,去っていく母のキムへ見せる表情は硬いままだった。母とキムが,いつか心から和解できる日は来るのか,とても気にかかった。
そしてどこまでも優しい,キムとレイチェルの父。イーサンの死を今も悲しみながらも,キムへの気遣いと愛を示す彼の姿もまた切ない。この父がいるからこそ,家にはキムの居場所があるのかもしれない。
家族であることについて,いろいろと考えらせられる物語だ。問題が起こったとき,家族だからこそ逃げられない,という苦しみもあるけれど,家族だからこそわかり合える,理屈ぬきで受け入れることもできる,という癒しもまたあるのだろう。
オスカーにノミネートされたアン・ハサウェイの演技は,文句なしに素晴らしかった。
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こんにちは。
なかなか深い映画でしたよね。
嘘が一つもない家族・・・なんていうものは、実際には、ありません。
家族の中ではいろいろはことがあるのですが、それでも家族は家族。
そこを突いてきた映画でしたよね。
投稿: 亮 | 2009年11月11日 (水) 06時31分
亮さん こんばんは!
おそらく誰もが何らかの点で共感できる物語かもしれませんね。
家族の確執を描いているのですから・・・。
へんにご都合主義のハッピーエンドにせず
問題や悲しみは残したままの幕の閉じ方が
かえってほんものらしくって好感が持てる作品でした。
投稿: なな | 2009年11月12日 (木) 19時51分
ななさん、こんにちは。
ホームビデオ形式の撮り方はリアルさが増していましたね。でもわたしもななさんと同じく、ちょっと退屈しちゃった場面がありました。
けれどドラマティックなシーンは目が離せませんでした。キムが姉や母親とやり合うところなんか、痛ましくて…。
キムは母親と良い関係を築くことができるのでしょうか。普通の映画だったら、罵り合って、叩き合って、それでお互いどこかすっきりしてやり直すといったパターンがあると思うのですが、それをしなかった本作はやっぱりリアルだなあ…と。
アン・ハサウェイは凄かったですね。こんな繊細な演技ができるとは思いませんでした。
投稿: リュカ | 2009年11月12日 (木) 20時52分
ななさん、おはようございます。
この作品も、「家族」をとことん深く抉り描いて印象に残り続けている作品です。
打ちのめされながらも、やはり最後には、「いつかきっと」と、再生を信じ希望を抱かずにはおれない自分がいました。
私も母親との関係が最も重く痛みを伴うものだったと思います。
「そこ」に何らかの決着をつけなければ、永遠に再生やレイチェルの心の開放は訪れない気がしました。
仰る通り、ほんと、家族って「理屈」だけでは決して語れないものなのですね。
投稿: ぺろんぱ | 2009年11月13日 (金) 08時41分
リュカさん こんばんは!
リュカさんも退屈シーンがありましたか?
わたしは,スピーチのシーンはそれなりに面白かったけど
延々とダンスをしているのを見せられるシーンは
「早く画面が変わらないかな~」といらつきました。
ドグマ形式でも,スザンネ・ビア監督が撮った作品などは
ホームビデオっぽくても無駄なシーンが無く
少しも退屈しなかったのですが
デミ監督はこういう撮り方は少し不慣れだったのでしょうか?
削ってもいいシーンもあったと思います。
しかし,家族がやり合う緊迫したシーンは
さすがに見ごたえがありました!
キムと母親の関係の完全回復は難しいですね。
実際に回復しないまま終わっちゃうことって,現実にはありそう・・・
子供を喪った母親の気持ちって自分ではどうしようもないですもんね。
安易なハッピーエンドにしなかったところがよかったです。
投稿: なな | 2009年11月15日 (日) 21時00分
ぺろんぱさん こんばんは!
こういうテーマって難しいけど
万人がどこか共感できるものを持ってますよね。
どの家族も大なり小なり問題を抱えてて
家族だから愛せる,許せる,甘えられるということもあるけど
その反面家族だから憎しみやわだかまりが深くなる・・・ということもあると思いました。
キムと母の関係は難しいですよね~
でもおっしゃるように,そこが解決しないと
二人ともずっと不幸なんだろうなぁ・・・
最後は「家族のもつ無条件の愛」に期待したいですね。
あ,それと「時が癒してくれる」というのもありかもしれませんよね。
投稿: なな | 2009年11月15日 (日) 21時07分
こんにちは~♪
この映画、心が痛くて何度も涙が出ました。
特に父親が食洗機の前で、息子の子ども用皿を見た時の表情!!
ぐわ~~~苦しい、、、心が痛い、、、切な過ぎる!!
家族の在り方のようなものを感じたり、明るいものをお感じになったり、、、のブロガーさんが多かったですが、私は根暗なせいか、「キムは尼僧にでもなるしかないかも」的な絶望感を感じました。
姉と妹の関係はちょっと明るい兆しが見えましたが、母がアレだし、キム自身もことあるごとに辛さに襲われるんじゃーないかなぁ~暗い見方でスミマセン
投稿: 由香 | 2010年1月20日 (水) 16時59分
由香さん こんばんは
決して癒される物語ではないし
明るい話でもありませんね。たしかに痛い物語です。
わたしはどこまでもリアルな物語だなぁ・・・と。
家族であることのよい面と悪い面を
こういう特殊な状況を設定して
浮き彫りにしたような作品ですよね。
実は私も期待してたほど好きな作品ではないです。
キムと母の間の確執は
修復不可能なのかもしれませんね。
投稿: なな | 2010年1月21日 (木) 20時20分